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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 地域の課題解決に向けたグリーンインフラの推進

 

1. はじめに

近年,地球温暖化による気候変動や激甚化する風水害などの自然災害,少子高齢化やインフラの維持更新など,社会を取り巻く問題に対して,さまざまな対応が求められている。また,SDGs(国連が2015年に策定した2030年までの持続可能な開発目標)など新しい概念への取り組みが進められている。
 
そうした社会のニーズに対して,グリーンインフラがこれらの社会問題を効率的に解決する手段として注目されている。2015年には第二次国土形成計画および第五次国土利用計画に盛り込まれ,2019年7月には国土交通省がグリーンインフラ推進戦略を発表している。
 
一般社団法人日本建設業連合会(以下,日建連)では,土木工事技術委員会環境技術部会において2016年度からグリーンインフラについて調査を開始。2020年3月に主に会員会社を対象とした建設業界向けの調査報告書を取りまとめ,日建連のホームページで公表した。ここでは,調査結果をもとにグリーンインフラについて概説する。
 
 
 

2. グリーンインフラとは

“グリーンインフラ”は,“グリーンインフラストラクチャー”を略した言葉で,その定義について,現時点では共通して明確に規定されているものはなく,国内外のさまざまな組織・団体・学識者・事業などにより定義付けられている。
 
ここでは,「グリーンインフラとは自然の持つ多面的な機能や仕組みを,社会資本整備や土地利用等に賢く活用することで,地域の課題解決に貢献し,社会・経済・環境の側面から利益を提供する持続可能な国土・地域づくりの手法」とする(図−1)。
 
グリーンインフラは,従来のコンクリート構造物をはじめとするグレーインフラと対比されることが多いが,“グレーインフラ”を否定する概念ではなく,むしろグリーンとグレーの機能を有機的に組み合わせて,地域の価値を向上しようとするプラスの考え方である(図−2A〜D)。ただし,グリーンとグレーの間(図−2B〜D)は“ハイブリッドインフラ”と称される場合がある。
 
グリーンインフラの例を表−1に示す。
 

図−1 グリーンインフラに期待される機能や仕組み】




図−2 グリーンインフラとグレーインフラとの関係(港湾・海岸の例)1)】




表−1 グリーンインフラの例】




わが国では,これまでにも河川,道路,森林,公園をはじめ,さまざまな分野で自然の多面的な機能や仕組みを活用した社会資本整備や土地利用が行われてきており,これらはグリーンインフラと捉えることができる。現在期待されているグリーンインフラと従来から行われているこれらのインフラ整備との違いは,図−3に示すように,従来のこれらの取り組みの後押しをするだけでなく,取り組みのハードとソフトの対策をより多様な関係者の参画により効果的に連動させ,異なる土地利用における個々の取り組みの空間的つながりを強化することで,一層大きな社会,経済的な便益の確保を目指すことにある。また,従来の公共施設だけでなく,民間施設や住宅,空地など対象が幅広いこと,自然の活用を通して,そのコアとなる自然環境の保全を加速させることが挙げられる。
 

図−3 従来の自然の機能や仕組みを活用したインフラ整備との違い】




 

3. 近年の動向

グリーンインフラは比較的最近の概念であり,SDGsやESG投資等とも適合しやすい側面があり,行政ばかりでなく,あらゆる分野の企業も注目し,街づくり,建物建設,防災対策にグリーンインフラを取り入れ,先進的な事例も増加している。

(1)中央官庁

2014年の国土強靭化基本計画に自然生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の推進が盛り込まれ,2018年の国土強靭化基本計画の変更および国土強靭化アクションプランに,グリーンインフラの推進が明記された。
 
2015年の第二次国土形成計画の基本的考え方および第五次国土利用計画にグリーンインフラの取り組みの推進が明記され,2019年7月に国土交通省からグリーンインフラ推進戦略が発表された。また,2020年3月にはグリーンインフラ官民連携プラットフォームが設立され,多様な分野の企業,団体,個人を対象に2019年12月から会員登録の募集が行われている。
 
2018年の第五次環境基本計画にグリーンインフラやEco-DRRの推進が明記され,生物多様性国家戦略2012-2020の加速化や地域循環共生圏(日本発の脱炭素化・SDGs構想)の施策にもグリーンインフラの取り組みは期待されている。また,同年の気候変動適応法および気候変動適応計画の気象・防災・生物多様性などへの適応としてグリーンインフラ,生態系を活用した適応策(EbA),Eco-DRRが明記された。

(2)地方公共団体

地球温暖化対策実行計画や緑の基本計画などの既存の施策に,グリーンインフラの推進を盛り込む自治体が増えている。また,内閣府による環境未来都市構想のモデル事業(環境未来都市,環境モデル都市,SDGs未来都市)に,グリーンインフラを盛り込む事例もみられる。不動産や交通インフラへの投資判断や国際的な都市間競争を優位にするため,グローバル社会における魅力ある都市づくりへの寄与が期待されている。

(3)海外

(3)海外
国際連合では,2015年の第3回国連防災世界会議(仙台市)で合意された2015年以降の防災・減災に関する国際的指針「仙台防災枠組2015-2030」に,Eco-DRRが盛り込まれた。また,パリ協定が採択された2016年の気候変動枠組条約第21回締約国会議では,気候変動の適応策としてグリーンインフラの推進が示された。
 
EUでは2013年に自然環境の保全・再生・活用を視野に入れた「グリーンインフラストラクチャー戦略」を策定し,加盟国に成長戦略としてグリーンインフラの推進を呼びかけている。米国では,2008年に「グリーンインフラストラクチャー行動戦略」を策定し,2011年,2013年に「グリーンインフラストラクチャー戦略アジェンダ」を発表し,連邦政府のさまざまな部署で横断的にグリーンインフラを通常の業務として位置付けている。
 
2016年のG7伊勢志摩サミットの決定文書「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」に,生態系に基づいたアプローチやグリーンインフラのさらなる推進による気候変動への強じん性,エネルギー安全保障と持続可能性,生物多様性の保全,防災が盛り込まれた。

(4)民間企業・団体

自社の施設や建築,地域開発などにグリーンインフラを取り入れ,環境性能や持続可能性を専門機関が審査する環境認証を取得し,SDGsへの貢献のアピールやESG投資の促進への活用,新たなビジネスとして取り組む民間企業が増えつつある。
 
一般社団法人日本経済団体連合会では,2018年10月に「経団連生物多様性宣言行動指針の手引き」を公表し,「自主的取り組み」「自然資本を活かした地域の創生」の基本的心構え・姿勢,留意点,アクションプラン例にグリーンインフラが明記された。
 
地方創生や地域振興において,不動産や交通インフラ投資の資金調達の収入源として,不動産価値の向上や地域の活性化の手段に,グリーンインフラを戦略的に取り入れる投資ファンドなどが増えている。
 
 
 

4. 事例①:都市再開発(二子玉川ライズ)

二子玉川ライズは,東急田園都市線二子玉川駅に隣接する約18ha(二子玉川公園の移設を含める)を再開発して誕生した。車依存社会からの転換,省エネ,節水,省資源・リサイクル,災害への抵抗性と備え,豊かな多様性の確保,QOL(生活の質)を高める知的創造性,生物多様性の保全など,都市の抱える課題の解決やサステナブル(持続可能)な街づくりを満足するよう,建物内外にグリーンインフラの要素が盛り込まれている。
 
エリアは,商業・オフィス・住宅の各エリアが快適に移動しやすくデザインされており,コンパクトシティのモデル事例でもある(写真−1)。
 
西側に多摩川,東側に国分寺崖線等の緑地に囲まれた区域に位置し,周辺に自生する在来種を植栽した街区内の緑地,ルーフガーデン(原っぱ広場,めだかの池,菜園広場など)が配置され,再開発前と比較して生物生息場としての価値も向上しており(生物多様性の保全や回復に資する取り組みを定量的に評価・認証する制度JHEPでAAAを取得),地域のエコロジカルネットワークの構築にも寄与している(写真−2)。緑被率40%以上を確保して,ヒートアイランドの緩和のほか緑による生活者の心身の健康増進(ストレス緩和,アメニティ向上,企業の生産性向上など)や治安の向上が図られている。また,雨水貯留・浸透・利用施設による集中豪雨への対応や節水対策,建物の省エネ,石材などに現場発生材やリサイクル材の活用なども行われている。これらの環境への取り組みなどにより,環境に配慮したエリア開発に関する認証制度LEED NDでゴールドを取得しており,商業施設への集客や見学者の増加,知名度の向上,イメージアップ,付加価値の向上,SDGsへの貢献など,多様な効果が得られている。
 

写真−1 二子玉川ライズの全景】(提供:エスエス企画)



原っぱ広場

めだかの池

菜園広場(都市型農園)

写真−2 二子玉川ライズのルーフガーデン】


 

5. 事例②:治山事業(渓間工,山腹工)

近年激甚化している豪雨災害は,洪水のほか,流木や土石流が下流の集落の人命や財産に多大な影響を及ぼしている。渓間工は,治山ダム工,護岸工,流路工などにより,渓流の流速を低減し,堆積した土砂が浸食や崩壊を防止することで,下流への土砂流出を抑制し,渓間の保全を図るものである。山腹工は,山腹基礎工,落石防止工,山腹緑化工などにより,荒廃した山の斜面の崩壊や浸食を防止し,植生を形成させることで防災機能の高い森林を形成するものである(写真−3)。山林の防災・減災対策や災害発生後の復旧では,自然環境に配慮し,森林の多面的な機能を期待できる工法や事例も増加しつつある(写真−4
 

写真−3 治山事業の例②】

写真−4 植生の保全に配慮した法面保護の例(ノンフレーム工法)】



 

6. 事例③:洪水防止事業(流水型ダム)

近年の豪雨災害の発生により,ダムによる洪水調整機能が見直されるようになってきた。一方,ダムは,河川の分断や平常時に貯水することによる水質悪化により,生態系への影響が懸念され,建設が困難となっている。流水型ダムは,洪水調整のみを目的とするダムで,常用洪水吐(穴)を河床部に有し,平常時には水を貯めず,ダム上流から流下してくる土砂と一緒にダム下流に流れるため,川と同様の状態を維持でき,魚類の遡上・降下を妨げないなど環境への影響を軽減できる(写真−5,図−4)。平常時に貯水しないダム上流側の広大なエリアは,自然豊かな河川環境を維持できるほか,交流広場やサッカー場などのスポーツ施設,ビオトープなどに利用されている。
 

写真−5 流水型ダムの例(益田川ダム③)】

図−4 流水型ダムの仕組み】



 

7. 事例④:多自然川づくり(上西郷川)

上西郷川は,福岡県福津市を流れる2級河川西郷川の支流で,水害常習河川であったことから,河川改修事業が実施された。河川改修では,独立行政法人都市再生機構の住宅開発に合わせ,既設のコンクリート護岸を撤去して川幅を2倍程度に拡幅し,緩傾斜堤による自然豊かな川に改修するとともに,管理主体が異なる下流の洪水調整池と一体的に整備された。拡幅のほか,巨石や間伐材を活用した水制などさまざまな自然再生のための工夫が導入され,瀬や淵が河川自身の営力で維持されている(写真−6)。実施に当たっては,河川計画案や河畔の植樹計画,整備後の維持管理体制やイベントの企画運営まで,市民・福津市・九州大学で協議し決定されている。河川改修により,洪水に対する治水安全度が3倍余りに改善され,魚類の種数が改修前の約3倍に増加するなど,生物多様性も改善している。また,川遊びをする子供や,散策する人達に頻繁に利用され,小学校の環境学習教材としても利用されている。4)
 

写真−6 上西郷川の改修状況】(提供:九州大学 林博徳准教授)




 

8. 事例⑤:緑の防潮堤(静岡モデル)

防潮堤は東日本大震災の津波被害を教訓に高くすることが求められたが,従来のコンクリート製では景観の悪化や海から陸への生態系の連続性への影響などが問題となった。静岡モデルのうち,浜松市沿岸域で整備されている防潮堤は,津波波力に対して安定な構造を確保できるCSG堤(現場で発生する砂礫などにセメントと水を混ぜて構築した堤防)を防潮堤のコアとし,その周囲を盛土または覆砂して構築する(図−5)。盛土に植林して海岸防災林を再生し,防風・飛砂防備・潮害防備などの防災機能,生物多様性の保全,市民の憩いの場を提供する区域(写真−7)や,覆砂して貴重な動植物(アカウミガメや海浜植物など)や侵食が進む砂浜の保全,景観に配慮する区域などをゾーニングし計画されている。この構造の防潮堤は,東北地方の震災復旧にも活用されている。静岡県では,このほか塩害等で松が枯損した海岸防災林を各市が嵩上げし,さらに県が治山事業として海岸防災林を再整備する「ふじのくに森の防潮堤づくり」が進められている。
 

図−5 緑の防潮堤(静岡モデル)の概要5)】

写真−7 防潮堤の全景(浜松市西区篠原町)】(提供:静岡県浜松土木事務所)



 

9. 今後の課題

グリーンインフラを推進する上で,以下のような課題が挙げられる。
 
現時点ではグリーンインフラに関する技術指針が確立されておらず,多面的な機能に関する効果の定量的な指標や評価手法についても明確でない。そのため,公共事業などで普及しにくく,特に,自然災害に対する防災効果や安全性に対する技術指針が求められている。
 
グリーンインフラに要する費用についての考え方として,欧米の事例では,例えば洪水対策を全てグレーインフラで整備する場合と比較して,多面的な効果の便益を含めると費用対効果が高いことが示されている。また,グリーンインフラは時間の経過とともに機能が向上し,永続的な利用が可能で,導入費用はかかるが,その後劣化を防ぐための維持管理費を要しても更新が不要になり低コストになることが特徴とされている。一方,グリーンインフラに要する費用負担については,グリーンインフラの長期的な多面的効果の評価と多様な受益者が適正かつ公平に負担する金融的な新しい仕組みが必要とされている。
 
人口が減少する中で,グリーンインフラの管理を適正に実施し,劣化を防ぎ,長期的に機能を維持・強化する必要がある。管理の必要な森林と不要な森林との区分けなど,省力化への配慮も重要である。
 
グリーンインフラを推進するには,産(企業)・官(国・地方公共団体)・学(教育・研究機関)・民(住民・NPO)の横断的な連携と協働作業,および合意形成が必要である。そのためには,社会的認知度を高めることと横断的な取り組みを進めるための実施体制が必要である。
 
地域の集客や観光客,再生可能エネルギーなどによる事業収益の増加と資金調達方法(環境省のグリーンボンド:企業や地方自治体等が国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券,ESG投資など)の予測・評価が必要である。
 
日建連では,グリーンインフラの主流化に向けて,一般向け小冊子6),および会員会社をはじめ建設業界向けの調査報告書7)を作成し,ホームページ※で公開している。グリーンインフラの推進に活用いただければ幸いである。
 

※ 日建連グリーンインフラのホームページ
https://www.nikkenren.com/doboku/green_infra.html

 
 


 
参考・引用文献
1) 港湾や海岸におけるグリーンインフラ:桑江朝比呂,土木学会,土木学会誌,vol.104,No.10,pp.22-23,2019.10
2) 静岡県の治山:静岡県経済産業部森林・林業局森林保全課,pp.14-15,2017.1
3) 益田川ダムパンフレット:島根県ホームページ
4) 上西郷川における川づくり:林博徳,土木研究所 自然共生研究センター,第2回水辺空間シンポジウム資料,2017.7
5) 未来につなげる浜松防潮堤 静岡方式の取組,原崎健輔・山内真太郎,令和元年度中部地方整備局管内事業研究発表会,2019.7
6) グリーンインフラって何だろう?:日建連土木工事技術委員会環境技術部会,2019.7.
7) グリーンインフラに関する調査報告書:日建連土木工事技術委員会環境技術部会,2020.3.

 
 
 
 

一般社団法人日本建設業連合会 土木工事技術委員会 環境技術部会

 
 
 
【出典】


積算資料2020年6月号



 
 
 

 

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