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独立行政法人 農研機構 農村工学研究所 資源循環工学研究領域 エネルギーシステム担当
後藤 眞宏

 

1.はじめに

わが国の水力の発電利用は、明治21年(1888年)宮城県三居沢発電所が最古と言われている。
発電電力量は1962年に火力が上回るまで、水力が中心であった。
その後、石油、LNG、石炭、そして原子力が大半を占め、水力は現在8%程度(2012年度:8.4%)1)を占めている。
 
東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの関心が増している中で、小水力発電も急速に注目されている。
平成24年7月より、再生可能エネルギー特別措置法による固定価格買取制度(FIT)が開始された。
水力の買取価格2)は、1kWhあたり200kW未満が34円+税、200~1,000kW未満が29円+税、
1,000kW~30,000kW未満が24円+税となり、従前の10円/kWh以下から大幅に高くなった。
 
ダム、用水路などの農業水利施設には、水力発電に不可欠な落差と水が賦存しており、
農業用水を利用した小水力発電は以前から行われているが、FIT導入以降、各地で急速に建設が始まっている。
本稿では、これまで建設された農業用水を利用した小水力発電の事例を紹介する。
 
 

2.水循環と農業水利システム

わが国の年間の水使用量は810億㎥3を上回る。
このうち約2/3は農業用水(他は、生活用水と工業用水)であり、その約94%は河川水(残りは地下水)である。
また農業用水の約94%は水田にかんがいされる3)
 
農業用水の利用は水の大循環の中に位置付けられる。
雨・雪として地上に降った水は、ダムやため池に蓄えられ(貯水)、河川に設けた取水堰(頭首工)で取水され、
農業用の幹線水路に送水され、途中で規模の小さな支線水路に分水され、水田に配水され、
最終的には排水路に排水され、河川へと戻っていく。
これらは、取水から配水までが動脈、水田から河川までが静脈に例えられる。
このような種々の施設の管理には土地改良区や行政が関わっており、
農業水利施設と施設を管理する組織を含めて農業水利システムと呼んでいる。
 

写真-1  福岡県朝倉市「菱野三連水車」

写真-1  福岡県朝倉市「菱野三連水車」


 
写真-1は、福岡県朝倉市で現在も稼働している揚水水車で、「菱野三連水車」と呼ばれている。
筑後川に設けられた山田堰で取水され、農業用水路「堀川」内に設置されている。
堰や水路の管理を行うことにより用水路脇の水田に揚水できる。
 
 

3.農業農村整備事業で建設された小水力発電所の特徴

農業水利施設として、ダムは1,273箇所、頭首工は1,955箇所、ため池は約210,000箇所、農業用水路は約50,000km、
水路合計で約400,000kmと報告されている4)
農業水利施設での小水力発電は、河川と異なり安定した水量が利用でき、ダムや落差工など落差が賦存し、
発電関連施設以外は新たに施設を建設する必要がない特長がある。
小水力発電施設の設置状況を図-15)に示す。
農業農村整備事業で建設された小水力発電所の特徴を施設別に述べる。
 

図-1 農業農村整備事業により設置された小水力発電所

図-1 農業農村整備事業により設置された小水力発電所


 

3-1 農業用ダムを利用した発電

貯水位と放水位の落差を利用して発電する方式である。
 
(1)かんがい用水利用
ダムに貯留された農業用水を発電用水として使用して発電する方式である。
このため、かんがい期間中には発電量が多くなる。
一方で、非かんがい期間中の発電が困難となる地区もある。
事例地区として、新潟県加治川の内の倉ダムに設置された内の倉発電所(写真-2・3)がある。
 

  • 写真-2 内の倉ダム

    写真-2 内の倉ダム

  • 写真-3 縦軸フランシス水車(内の倉発電所)

    写真-3 縦軸フランシス水車(内の倉発電所)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
かんがい用水と上水を利用して、有効落差70.5m、最大使用水量5㎥/sで、最大出力は2,900kWである。
農業用水利施設を利用した小水力発電としてわが国最大の出力である。
 
(2)河川維持用水利用
ダム下流の河川環境の維持のための放流される用水等を使用して発電する方式である。
発電量は貯水位によって変わるものの、年間を通じて流量の変化が小さい特徴がある。
畑地かんがい用水を貯水している南九州の農業用ダムで多く見られる。
事例地区として、
宮崎県大淀川の広沢ダムに建設された広沢ダム発電所や鹿児島県菱田川の輝北ダムに建設された輝北ダム発電所(写真-4・5)がある。
 

  • 写真-4 輝北ダム堤体から下流方向

    写真-4 輝北ダム堤体から下流方向
    (右端が発電所建屋)

  • 写真-5 横軸クロスフロー水車

    写真-5 横軸クロスフロー水車
    (輝北ダム発電所)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
輝北ダム発電所では、河川維持流量を利用して、有効落差28.9m、最大使用水量2㎥/s で、最大出力400kWの発電を行っている。
 

3-2 頭首工を利用した発電

頭首工の落差を利用して発電する方式である。
 
(1)かんがい用水利用
河川に連続設置された頭首工を利用し、上流の頭首工で、下流で使用するかんがい用水等を放流する際に発電する方式である。
事例地区として、岡山県吉井川の新田原井堰に設置された新田原井堰発電所(写真-6・7)がある。
 

  • 写真-6 発電所の模型

    写真-6 発電所の模型
    (新田原井堰発電所:左側が上流)

  • 写真-7 頭首工下流から(新田原井堰)

    写真-7 頭首工下流から(新田原井堰)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
下流の坂根頭首工で取水するかんがい用水等を利用して、有効落差7m、最大使用水量42㎥/sで、最大出力は2,400kWである。
 
(2)河川維持用水利用
頭首工下流の河川環境維持のために放流される用水を発電用水として使用して発電する方式である。
年間を通じて流量と頭首工上流水位の変化が小さいため、ダム式発電と比較して発電量の変化が小さい特徴がある。
事例地区として、富山県庄川の庄川合口堰堤に設置された庄川合口発電所(写真-8・9)がある。
 

  • 写真-8 庄川合口堰堤

    写真-8 庄川合口堰堤

  • 写真-9 庄川合口堰堤から見た発電所

    写真-9 庄川合口堰堤から見た発電所
    (茶色の建屋の地下に発電所)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
河川維持流量を利用して、有効落差10.69m、最大使用水量6.5㎥/sで、縦軸プロペラ水車で最大出力570kWの発電を行っている。
 

3-3 用水路を利用した発電

用水路の落差を利用して発電する方式である。
 
(1)落差工利用
農業用水路内の数mの落差地点に発電所を設置する方式で、水圧管路を長く敷設していない。
事例地区として、石川県手取川から取水している中島地区に建設された七ヶ用水発電所(写真-10・11)がある。
 

  • 写真-10 S型チューブラ水車

    写真-10 S型チューブラ水車
    (七ヶ用水発電所)

  • 写真-11 発電所上流に設けられた導水路と余水吐

    写真-11 発電所上流に設けられた導水路と余水吐
    (七ヶ用水発電所)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
かんがい用水を利用して、有効落差5.45m、 最大使用水量15.0㎥/s で、S型チューブラ水車で最大出力630kWの発電を行っている。
 
(2)連続落差利用
農業用水路内に連続して設置されている1m程度の小落差工地点において、水圧管路を敷設して落差を確保する方式である。
事例地区として、石川県手取川から取水している上郷地区に建設された上郷発電所(写真-12・13)がある。
 

  • 写真-12 上郷発電所とサージタンク

    写真-12 上郷発電所とサージタンク

  • 写真-13 サージタンク頂部から見た上流側の用水路

    写真-13 サージタンク頂部から見た上流側の用水路
    (用水路の右岸側に水圧管路を埋設)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
かんがい用水を利用して、有効落差12.5m、最大使用水量6.5㎥/s で、S型チューブラ水車で最大出力640kWの発電を行っている。
 

3-4 調整池利用

農業用水の水需給を調整するために設けられる調整池と用水路の落差を利用して発電する方式である。
事例地区として、栃木県那須塩原市の那須野ヶ原土地改良区連合管内の那須野ヶ原発電所と新青木発電所(写真-14~18)がある6)
 

  • 写真-14 横軸フランシス水車

    写真-14 横軸フランシス水車
    (那須野ヶ原発電所)

  • 写真-15 ヘッドタンク

    写真-15 ヘッドタンク
    (那須野ヶ原発電所)

  • 写真-16 戸田調整池

    写真-16 戸田調整池

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  • 写真-17 新青木発電所建屋

    写真-17 新青木発電所建屋

  • 写真-18 新青木発電所ヘッドタンクの除塵機

    写真-18 新青木発電所ヘッドタンクの除塵機

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
那須野ヶ原発電所は、戸田調整池に流入する戸田東用水路のかんがい用水を利用して、有効落差28.0m、最大使用水量1.6㎥/sで、
横軸フランシス水車で最大出力340kWの発電を行っている。
一方、新青木発電所は、戸田調整池から下流の下段幹線用水路までの44.0mの落差を利用して最大使用水量1.4㎥/sで、
横軸フランシス水車で最大出力460kWの発電を行っている。
 
 

4.農業用水路における小型水力発電施設

近年では数十kW以下の小型の水力機器が開発されている。
小型になるほど、kW当たりの費用が高くなり、建設費に占める系統連携費や除塵設備の割合が高くなる。
このため、系統につながず、独自で利用することが望ましい。
小型水力の利用に際しては、発電電力を何に使うか、ゴミや溢水の危険等の維持管理をどのように行うのか、事前の検討が重要である。
 

4.1 用水路の落差を利用した発電

農業用水路には1~3m程度の落差があり、落差地点に設置された水車を紹介する。
 
(1)百村発電所
栃木県那須塩原市の那須野ヶ原土地改良区連合管内の用水路の落差工地点に設置された水車である(写真-19)
 

写真-19 百村発電所

写真-19 百村発電所


 
有効落差2.0m、最大使用水量2.4㎥/s、縦軸カプラン水車で最大出力30kWの発電を行っている。
約550mの間に同型の水車が4台設置され、全量売電されている。
水車・発電機がユニット化されており、クレーンで吊り下げて設置できる。
また、バイパス水路を設けることなく、水車が停止した場合、ゲートを開放して用水を下流に放流できるので溢水の危険がない。
 
(2)元気くん1号7)
山梨県都留市が事業主体となって、市内を流れる家中川に設置されている。
元気くん1、2、3号の発電電力は、市役所で使用され、夜間や休日は売電されている。
 
写真-20 元気くん1号

写真-20 元気くん1号


 
元気くん1号(写真-20)は、都留市役所脇に設置され(写真-20の右側の建物)、直径2m、有効落差2.0m、
最大使用水量2.0㎥/s(常時0.77㎥/s)、下掛け水車で最大出力20kW(常時8.8kW)の発電を行っている。
 
(3)元気くん2号
 
写真-21 元気くん2号

写真-21 元気くん2号


 
元気くん2号(写真-21)は、元気くん1号の下流約300m地点、旧三の丸発電所があった落差地点に設置されている。
直径3m、有効落差3.5m、最大使用水量0.99㎥/s、上掛け水車で最大出力19kWの発電を行っている。
上掛け水車はゴミ詰まりの影響を受けにくい特徴がある。
 
(4)元気くん3号
 
写真-22 元気くん3号

写真-22 元気くん3号


 
元気くん3号(写真-22)は、元気くん1号の下流約130m地点、1号と2号の間に設置されている。
直径1.6m、 有効落差1m、 最大使用水量0.99㎥/s、らせん水車で最大出力7.3kWの発電を行っている。
らせん水車はゴミ詰まりの影響を受けにくく、流量減少による効率低下が少ない特徴がある。
 

4-2 緩勾配の用水路における発電

毎秒数十トンの水が流れる農業用水路がある。
この流れる水から電力を取り出す試みを紹介する。
 
(1)並進翼水車8)
有限会社シーエスシーラボ、独立行政法人農研機構農村工学研究所らが開発した並進翼水車がある(写真-23)
 

写真-23 並進翼水車

写真-23 並進翼水車


 
横幅3m、縦幅0.9m、高さ1mで、羽根19枚が流れ方向に対して直角方向に移動して、発電機を回転させる(図-2)
 
図-2 並進翼水車設置の概要図

図-2 並進翼水車設置の概要図


 
実証試験結果は、勾配1/1,500、流量約5㎥/s、流速約1m/sの条件で、最大出力1.5kW、水車上下流水位差15cm、
総合効率52%である(図-3)
 
図-3 実証試験における水車設置状況

図-3 実証試験における水車設置状況


 
(2)開放クロスフロー水車9)
独立行政法人農研機構農村工学研究所と株式会社北陸精機が開発した開放クロスフロー水車がある(写真-24)
 
写真-24 下流川から見た水車

写真-24 下流川から見た水車


 
直径1m、幅0.9mで、勾配1/300~1/500の矩形水路に設置し、流量約0.2㎥/s、最大出力約450W、総合効率40~60%である。
水車に取り付けられた水位調節カバーによって、水車上流水位を水路余裕高の範囲で堰上げして、
上下流に水位差を作り出すことにより、緩勾配水路でも高い効率を実現している(図-4)
 
図-4 水位調節カバーと水車付近の流れ

図-4 水位調節カバーと水車付近の流れ


 
 

5.おわりに

固定価格買取制度が開始され2年が経過した。
この間の再生可能エネルギー導入量は895.4万kWで、そのうち太陽光発電が871.5万kWと圧倒的に多く、中小水力は0.6万kWである。
設備認定件は太陽光発電が約12万件、中小水力が173件である。
この差は、中小水力の場合には法手続きや計画・設計に時間を要すること、設備認定には機種選定が条件となっており、
水力の場合はメーカーが決まって詳細な設計段階にならないと機種選定できないことが挙げられる。
また、太陽光発電の申し込みが多く、審査の順番待ちも影響している。
 
農業用水を利用した小水力発電は、わが国の特長である水田農業の水利システムと一体となって整備・活用していくことが重要である。
この際に、既存の施設への発電施設の設置、新設管路や調整池との連結など施設の新設、
新たな水量の確保(非かんがい期水利権)など多様な視点での検討が望まれる。
また、人口減少や耕作放棄地の増加などへの対応として、集落や土地利用の再編、スマートビィレッジ化が検討されている。
農村生活、食料生産とあわせて、エネルギー生産も考慮に入れた水利システムの再編成、
それに伴う小水力等再生可能エネルギー関連施設の整備は今後の大きな課題である。
 

引用文献

1)電気事業連合会HPより
http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/sonota/__icsFiles/afieldfile/2013/05/17/kouseihi_2012.pdf

2)資源エネルギー庁HPより
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/kakaku.html

3)農林水産省HPより
http://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/kurasi_agwater/k_riyou/index.html

4)農林水産省HPより
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/nousin/bukai/h25_4/pdf/siryou5.pdf

5)農林水産省HPより
http://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/shousuiryoku/pdf/sho_suiryoku_seibi.pdf

6)那須野ヶ原土地改良区連合HPより
http://www.nasu-lid.or.jp

7)都留市役所HPより
http://www.city.tsuru.yamanashi.jp/forms/info/info.aspx?info_id=2681

8)農村工学研究所HPより
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nkk/2010/nkk10-33.html

9)農村工学研究所HPより
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nkk/2012/420c0_02_67.html

 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年09月号
特集「農業土木~農地の大区画化・ストックマネジメント~」
積算資料SUPPORT2014年09月号
 
 

最終更新日:2023-08-02

 

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