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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > これからの外壁改修と建築物の保全

 

はじめに

建築物の長寿命化が求められており,国土交通省においても長期優良住宅制度をはじめとして種々の方策を講じている。
建築物の長寿命化を達成する上では,新築時の設計・施工や材料・構工法だけでなく,竣工後の保全計画が重要である。
本稿では,建築物の保全の中で外壁改修について取り上げ,いくつかの課題について具体的に解説したい。

 
 

1. 長期優良住宅制度

建築物の長寿命化という観点から,まず,長期優良住宅制度を取り上げたい。
国土交通省社会資本整備審議会建築分科会に示された住宅循環システムのイメージを図-1に示す。
長期優良住宅のキャッチフレーズは「いいものをつくって,きちんと手入れして,長く大切に使う」である。
このような循環システムは住宅を対象としているが,考え方は非住宅建築物にも適用されるべきであると考える。
 
表-1に令和元年度における長期優良住宅の普及状況を示す。
新築住宅における長期優良住宅の割合は12.1%である。
詳細にみると,戸建て住宅では24.7%,共同住宅等では0.2%となっている。
すなわち,戸建て住宅に関しては約4戸に1戸は長期優良住宅となっているが,共同住宅に関しては1000戸の中の2戸が長期優良住宅という勘定になっている。
換言すると,長期優良住宅は戸建て住宅においてかなり普及しているが,共同住宅においてはほとんど普及していないといえる。
 
このような背景から,長期優良住宅促進法の改正が行われ,2021年5月28日に「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されている。
この改正は,共同住宅の長期優良住宅認定を促進することを目的の一つとしている。
今後は認定基準や認定申請手続きの合理化等が図られることとなる。

  • 住宅循環システムのイメージ
    図-1 住宅循環システムのイメージ

  • 長期優良住宅の認定実績(令和元年度)
    表-1 長期優良住宅の認定実績(令和元年度)

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    2. 長期優良住宅における維持保全

    長期優良住宅の認定基準を表-2に示す。
    認定基準においては,①住宅の構造や設備が長期使用構造等であることが基本であるが,それに加えて,④維持保全および資金計画が適切であることが求められている。
    長期優良住宅の認定基準では,新築時の長期使用構造等だけでは不十分であり,適切な維持保全計画が作成されている必要がある。
     
    長期優良住宅のキャッチフレーズは,前述したように「いいものをつくって,きちんと手入れして,長く大切に使う」であるが,「きちんと手入れして」は「いいものをつくって」と同程度に重要であることを認識する必要がある。
     
    表-1に示したように,戸建て新築住宅の24.7%は長期優良住宅となっている。
    これら戸建て住宅のオーナーには「わが家は長期優良住宅なので,資金計画を講じて維持保全を適切に実施する必要がある。
    そうすれば,住宅は長持ちする」という認識が必要である。
    「わが家は長期優良住宅なので,大丈夫。維持保全しなくても長持ちする」という認識は間違いである。
    長期優良住宅の供給者側は,減税メリットだけでなく,維持保全の重要性を強調してほしい。

  • 長期優良住宅の認定基準
    表-2 長期優良住宅の認定基準

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    3. 大規模修繕計画の長周期化

    マンション等の維持保全計画においては大規模修繕が重要である。
    具体例として,不動産デベロッパーが提案しているマンション大規模修繕周期の長期化案を図-2に示す。
    この提案では,従来12年周期で計画されていた大規模修繕を16~18年周期に延長しようとしている。
     
    図-2に示す大規模修繕周期の長期化案は,高耐久性が期待できる大規模修繕仕様を採用することにより,修繕周期を長期化させて,ライフサイクルコストの低減を図ろうとしている。
    具体的には,以下のような技術を採用するとしている。
     
    ①耐久性に優れた塗装材料やシーリング材を使用する。
    外装タイル張り仕上げについては「有機系接着剤張り工法」を採用する。
     
    ②屋上防水には,15年保証の防水を使用する。
     
    ③アルミ手すりの芯材には腐食しにくいステンレスやアルミを採用する。
     
    ④住戸内の給水給湯配管には架橋ポリエチレン管やポリブテン管を,共用部の給水配管についても高密度ポリエチレン管などの樹脂管を採用する。
     
    ⑤排水管には,継ぎ手部分も含め,軽量で耐食性・耐薬品性に優れたオール樹脂の排水管を採用する。
     
    参考として,国土交通省が平成20年度に実施したマンション総合調査に示されたマンションの計画修繕工事実施時期を図-3に示した。
    「外部塗装等」と「屋上防水」の計画修繕周期は調査年度に依存せずおおよそ11~12年となっている。
    すなわち,図-2に示す現行の大規模修繕周期に近い値である。
    このような大規模修繕周期を長期化できれば,建築物の長寿命化に貢献できると考える。
    建築物の長寿命化を達成するためには,新築時に長期使用構造であることが基本的に重要であるが,大規模修繕周期を長期化できる技術を適用することも同じ程度に重要である。
    キャッチフレーズとしたら「いいものをつくって,いい手入れをきちんとして,長く大切に使う」ということであろう。
     
    一方で,大規模修繕周期の長期化を可能とするような修繕仕様(例えば,耐久性に優れた外装仕上げ,防水仕様など)を確立することは容易ではない。
    長期優良住宅の認定基準について考えると,表-2に示された認定基準の①「住宅の構造および設備が長期使用構造等であること」については各構造種別について具体的な評価方法基準が確立している。
    しかし,④維持保全に関しては,どのような劣化現象に対して,どのような材料・工法を使用して修繕・改良を行うかという点は具体的に示されていない。
     
    建築物の保全に関しては,本誌の別稿に紹介されているように,2021年2月に日本建築学会が「建築保全標準・同解説(鉄筋コンクリート造建築物)」(「一般共通事項」,「点検標準仕様書」,「調査・診断標準仕様書」,「補修・改修設計規準」,「補修・改修工事標準仕様書」を含む)を制定した。
    また,国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書」(以下,「改修標仕」)やUR都市機構「保全工事共通仕様書」(以下,「UR仕様書」)等は建築物の改修工事や保全工事に広く適用されている。
    しかし,どの仕様を選択すると,次の修繕・改修までの期間をどの程度長期化できるかという点については情報が不十分であり,技術的合意がなされていない。
     
    まとめると,新築時の長期使用構造に関する評価方法基準ほどには,維持保全の技術内容は整備されていない現状にある。
    今後は,新築時における長期使用構造のみでなく,修繕・改修時における工事仕様の評価方法を確立することが求められる。

  • 長期優良住宅の認定基準
    図-2 長期優良住宅の認定基準

  • 長期優良住宅の認定基準
    図-3 長期優良住宅の認定基準

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    4. 外壁改修に関連する諸課題

    4-1 外壁タイルの有機系接着剤張り工法

    3節で紹介した図-2のマンションの大規模修繕周期の長期化案においては,外壁タイル張りに有機系接着剤張り工法を採用することが提案されている。
    この点について解説しておきたい。
     
    建築基準法12条に基づく定期調査(以下,「12条点検」)では,外壁タイル張り仕上げ等について表-3に示すような調査を求めている。
    すなわち,タイル張り外壁(乾式工法を除く)については,「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」を対象として,「竣工後,外壁改修後若しくは全面的なテストハンマーによる打診等を実施した後10年を超え」る場合は,「全面的にテストハンマーによる打診等により確認する」ことを求めている。
    ただし,「3年以内に外壁改修等が行われることが確実である場合を除く」としている。
     
    従って,原則10年ごとに全面打診が必要となる。
    テストハンマーによる全面打診はゴンドラやブランコ等でも可能であるが,仮設足場を設ける場合も多い。
    しかし,単に全面打診のために仮設足場を設けることは経済的ではないので,「3年以内に外壁改修等が行われることが確実である場合を除く」という規定を利用して,10年経過から3年以内,すなわち,おおよそ11~13年周期で仮設足場をかけ,全面打診とともに計画修繕,大規模修繕を実施するという維持保全計画・長期修繕計画が一般的である。
    そのことが,図-2に示した現行の大規模修繕周期が12年ごとになっていることの理由の一つと考えられる。
     
    しかし,平成30年5月23日に「建築物の定期調査報告における外壁の外装仕上げ材等の調査方法について(技術的助言)」が国土交通省住宅局建築指導課防災対策室より通知され,有機系接着剤張り工法で施工された外壁タイルについては,一定の条件を満足した上で,全面打診に替えて引張試験により調査することが可能となった(※1)。
    従って,定期報告のために原則10年ごとに仮設足場を設けて全面打診する必要はなくなった。
     
    定期調査におけるタイル張り仕上げ外壁の全面打診は,剥落事故防止という防災上の観点から規定されていると考えられる。
    建築物の長寿命化の観点と剥落事故防止の観点は同一ではない。
    しかし,実際上は,防災上の観点から要求された全面打診がタイル張り仕上げ外壁の大規模修繕周期を支配するケースも多いと考えられる。
    有機系接着剤張り工法を採用することにより,この制約からは逃れられる。
    その上で,建築物の長寿命化の観点から,適切な維持保全計画・長期修繕計画を改めて検討する必要がある。

  • 定期調査における外壁タイル張り仕上げ(乾式工法を除く)等の調査方法等
    表-3 定期調査における外壁タイル張り仕上げ(乾式工法を除く)等の調査方法等

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    4-2 標準化された外壁改修工事仕様の課題

    国土交通省は,マンション購入予定者が修繕積立金に関する理解を深め,分譲業者から提示された修繕積立金の額の水準について判断する際の参考資料として,「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(※2)を示している。
    修繕積立金の額は,将来見込まれる修繕工事の内容,おおよその時期,概算の費用等を盛り込んだ「長期修繕計画」に基づいて設定される。
     
    新築時にどのような長期使用構造を採用し,どのような周期で,どのような内容の修繕工事を設定するかによって修繕積立金は大きく左右される。
    しかし,前述したように,どのような修繕工事を実施すると次の修繕工事までの周期がどの程度になるかを具体的に検討することは非常に難しい。

    なぜならば,修繕工事の内容により,その後の修繕周期がどの程度になるかというデータの蓄積が十分ではない。また,将来の修繕工事では,技術革新等により新しい材料・工法が適用される可能性も無視できない。
     
    「長期修繕計画」は一定期間ごとに見直す必要があるが,修繕工事の内容を評価して次の修繕周期を設定することは簡単でない。
    従って,今までの建築物の実績等を参照して修繕周期を設定するのが一般的である。
     
    具体例として,タイル張り外壁の修繕計画を考えたい。
    なお,話を単純にするため,セメントモルタルによるタイル後張り工法による外壁を対象としたい。
    広く適用されている「改修標仕」に準拠すれば,タイル張り外壁の改修工事には,表-4に示す材料・工法が適用される。
    タイル張り仕上げ外壁に生じた劣化現象,劣化状態等によって表-4の中から適切な材料・工法が選択されるが,これらの改修工法を適用した場合に「次の改修工事までの期間がどの程度になるか」,また,「次にどのような改修工法が適用できるか」については情報が乏しい。
     
    さらに,表-4に示したタイル張り仕上げ外壁の改修工法は,浮き部,ひび割れ部,欠損部,および劣化した目地部に適用されるが,未劣化のタイル張り外壁部分はそのまま経過観察され,改修工事の対象とならない。
    すなわち,改修工事後は未劣化の部分と改修工法が適用された部分が共存しており,両者での劣化進行は異なると考えられる。
    浮き部改修工法を適用した部分の周辺において,改修工事後に浮きの拡大するケースも報告されている。
    このような事象を勘案すると,次回の修繕工事までの期間設定は非常に複雑である。
     
    もう一つの課題として,改修工法を適用した部分について,どのような点検を行い,劣化に対してどのような再修繕方法を計画するかということが挙げられる。
    これらの情報は,次回の修繕計画を設定するために必要である。
     
    具体的に議論するため,タイル張り外壁の浮き部分を表-4に示す注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法で修繕したとする。
    「改修標仕」によると,当該工法では,注入口付アンカーピンの本数は9本/m2であり,エポキシ樹脂注入量は25cm3/穴である。
    従って,浮き代を標準的な0.6mmと仮定した場合は,エポキシ樹脂注入範囲は図-4に示すようになり,改修工事直後であっても浮き部は約66%存在する。
     
    注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法による浮き部改修工事を行った外壁の点検においては,図-4に示す残存浮き部が存在することを認識する必要がある。
    すなわち,注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法による浮き部改修工事を実施した後の打診調査により66%の浮きが認められたとしても,改修工事後に劣化が進行したとは判断できない。
    改修工事の仕様によりこのような浮きが残存することは当然である。
    このことを認識することが,改修工事後の「12条点検」において重要である。
     
    また,図-4に示す残存浮き部を点検者に伝えるために,改修工事の記録を保存し,その記録を点検者に提供することが必要である。
    なお,想定される残存浮き率を超える浮き率,注入口付アンカーピンニング周辺のひび割れ等が認められる場合は再改修工事の検討が必要である。
    しかし,点検,調査・診断,再改修における判断基準や仕様は標準化されていない現状である。

  • タイル張り仕上げ外壁の改修工法
    表-4 タイル張り仕上げ外壁の改修工法
    (出典:「公共建築改修工事標準仕様書」)

  • 注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法の残存浮き模式図(外壁一般部分,浮き代0.6mm,浮き率66%)
    図-4 注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法の残存浮き模式図(外壁一般部分,浮き代0.6mm,浮き率66%)

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    4-3 外壁複合改修工法による外壁改修工事の長周期化

    外壁複合改修工法はピンネット工法とも呼称される改修工法である。
    工法の特長は,繊維ネットとポリマーセメント系材料により既存仕上げ層を一体化し,アンカーピンにより一体化した既存仕上げ層の剥落に対する安全性を確保する点にある(ポリマーセメント系外壁複合改修工法)。
    主として,タイル張り外壁やセメントモルタル塗り外壁の剥落防止を目的に適用されている。
     
    また,近年は透明樹脂+繊維ネット,繊維混入透明樹脂,または透明樹脂により既存タイル仕上げ層を一体化して,アンカーピンにより剥落防止を図る工法も利用されている(透明樹脂系外壁複合改修工法)。
     
    外壁複合改修工法は,「改修標仕」に採用されていないが,国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「建築改修工事監理指針」で紹介されている。
    すなわち,外壁複合改修工法は「改修標仕」の標準仕様ではなく,採用する場合は特記仕様書の作成が必要となる。
    また,外壁複合改修工法は「UR仕様書」には標準仕様として採用されている。
    さらに,再修繕工事仕様まで採用されている。なお,「UR仕様書」では改修工法ではなく補修工法と呼称している。
     
    外壁複合改修工法には,
     ①平成8年度に実施した建設技術評価で「評価書」を受けた工法
     ②建設技術審査証明事業で認証を受けた工法
     ③URの「機材及び工法の品質判定基準」に適合する工法
     ④その他の工法
    がある。
     
    2020年10月に(一社)外壁複合改修工法協議会(以下,「協議会」)が設立された(※3)。
    「協議会」の目的の一つが外壁複合改修工法の標準化であり,①~③に示されている基準等を参考にして,外壁複合改修工法に関する統一的基準の作成を進めている。
     
    「改修標仕」で標準化された改修工法が存在する中で,なぜ,外壁複合改修工法が必要かというと,外壁複合改修工法を適用した場合は,次の改修工事までの期間を長期化することが期待できるからである。
     
    4-2節で指摘したように,改修工事後に未改修部分のタイル張り仕上げの浮きが発生することが懸念される。
    経過年数が進むにつれて未改修部分の劣化が進行すると,その都度,比較的短い周期で標準化された改修工事を実施することになる。
    意を決して,既存タイルを全面除去して「タイル張替え工法」を適用すれば次の改修工事までの期間は長期化できる。
    しかし,タイルの全面除去は必ずしも容易ではない。廃棄物も排出することとなる。
    このような場合,外壁複合改修工法を適用することで改修工事の周期を長期化することが考えられる。
     
    外壁複合改修工法を適用する場合は,新しい外観も確保できる。
    さらに,例えば,庇先端部,バルコニー端部,手すり壁天端部等は剥落危険性が高い。
    既存の標準化された改修工法でもアンカーピン,ステンレス線,ステンレス製ラス等を利用して躯体に緊結し剥落に対する安全性を高めているが,外壁複合改修工法を適用することによって同等以上の効果を期待できる。
     
    すなわち,外壁複合改修工法を適用した場合,次の外壁修繕工事までの周期を長期化できると考えられる。
    外壁複合改修工法には,「改修標仕」で標準化されている外壁改修工法とは別の長所がある。

     
     

    4-4 外壁複合改修工法を適用した外壁の点検について

    修繕周期の長期化が期待できる外壁複合改修工法の課題として,「12条点検」の調査方法が挙げられる。
    「12条点検」では表-3に示すテストハンマーによる全面打診等を実施することが求められている。
     
    標準化された改修工法を適用した外壁の点検においては,図-4に示すような残存浮き部についての認識が必要であることを指摘した。
    それに加えて,外壁複合改修工法により改修したタイル張り外壁を対象にテストハンマーによる全面打診を実施することは,以下に示すような理由から不合理と考えられる。
     
    ①複合外壁改修工法で改修したタイル張り仕上げ外壁の表面には,ポリマーセメント系材料を塗付材料とした場合にはポリマーセメント層+建築用仕上塗材等が存在している。
     また,透明樹脂を塗付材料とした外壁複合改修工法であれば,透明樹脂が既存タイル面に塗付されている。
     
     従って,テストハンマーによる打診を実施しても複合改修層の下にある既存タイル張り層の浮きの判定は難しい。
     打診により判定可能であるのは,複合改修層と既存タイル面との間の浮きであり,既存タイル張り仕上げ層とその下地間の浮きの判定は困難である。
     
     
    ②外壁複合改修工法では既存タイル張り仕上げ層が部分的に浮いていることは許容されている。
     図-4に示すように標準化された改修工法でも同様である。従って,表-3に示される判定基準(外壁タイル等に著しい浮き等があること)をどのように解釈するかが問題となる。
     
     
    ③外壁複合改修工法で改修された外壁の表面材は建築用仕上塗材等や透明樹脂である。
     従って,テストハンマーによる打診を実施するとタイル張り仕上げ層とその下地間の浮きが判別できないだけでなく,建築用仕上塗材や透明樹脂が損傷を受ける。
     建築用仕上塗材の場合は剥離を助長し,透明樹脂の場合は透明性が部分的に低下する。
     調査方法として合理的でない。
     
    以上述べたような不都合を避けるため,さらに,複合改修工法の特性を理解した上で全面打診に代わる合理的な調査方法や判定基準を設定する必要がある。
    図-5に外壁複合改修工法で改修した外壁に対する定期調査のフロー案を示す。
     
    図-5は,平成27~28年度に実施された建築基準整備促進事業「湿式外壁等の定期調査方法の合理化の検討」(事業主体:全国タイル工業組合)で提案された。
    図-5では,原則10年目のテストハンマーによる全面打診等に代わる評価として,引張接着試験法により複合改修層と既存タイル仕上げ層との接着強度を評価することを提案している。
    接着強度が低下している場合は既存タイル仕上げ層の一体化が不十分である可能性が高く,剥落防止のために是正措置を講じる必要があると考えられる。
     
    接着強度が十分であると確認されれば,外観目視法による調査を行う。
    劣化がなければ健全であると評価し,建築用仕上塗材等の表面仕上げ材に劣化が認められる場合(ポリマーセメント系外壁複合改修工法)は,直ちに剥落の危険性はないが美観性や複合改修層の劣化防止のために表面仕上げ材の改修を実施することが推奨される。
     
    また,外観目視法により複合改修層に剥落,欠損,浮き上がり,ひび割れ,補強繊維破断,補強繊維露出が認められる場合,およびアンカーピンの浮き上がりや周囲のひび割れが認められる場合には当該箇所の改修が必要になる。
     
    以上のような考えに基づき図-5は提案されたが,残念ながら現実の「12条点検」の調査方法には反映されていない。
    今後は外壁複合改修工法を適用したタイル張り仕上げ外壁やセメントモルタル塗り仕上げ外壁に対する「12条点検」における合理的な調査方法および判定基準を整備する必要がある。

  • 外壁複合改修工法により改修した外壁の定期調査(10年ごと)フロー案
    図-5 外壁複合改修工法により改修した外壁の定期調査(10年ごと)フロー案

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    おわりに

    建築物の長寿命化のためには新築技術だけでなく,保全技術の整備が重要であるという観点から,外壁改修技術について具体例を挙げて解説した。
     
    建築物の保全は,新築の技術と比較した場合は地味な分野であるが,建築物の長寿命化を図る上で重要である。
    建築物の価値を保持あるいは向上させるための技術開発の重要性は新築技術のそれに優るとも劣らない。
    本文では外壁の改修技術を解説したが,他の分野も同様に重要である。
    このような認識が高まり,建築物の保全技術の標準化が進むことを期待する。
     
     
     

    【参考文献】
    (※1) 国土交通省住宅局建築指導課建築物防災対策室「建築物の定期調査報告における外壁の外装仕上げ材等の調査方法に係る技術的助言-有機系接着張り工法による外壁タイルの調査方法について-」建築防災 No.486p.9-p.14(2018)
     
    (※2) 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」平成23年4月
    https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf
     
    (※3) 本橋健司「外壁複合改修工法の標準化に向けて」防水ジャーナル No.589p.21-p.26(2020)

     
     
     

    芝浦工業大学名誉教授
    本橋 健司

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年11月号
    積算資料公表価格版

     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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