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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > DX > 熱海市伊豆山土石流災害における点群データ活用

はじめに

静岡県では、2019年度から現実空間をレーザースキャナーなどで広範囲に測量し、バーチャル空間に点群データで仮想県土を創る「VIRTUALSHIZUOKA」構想を推進しています(図-1)。
 
本稿では、2021年7月3日(土)に発生した静岡県熱海市伊豆山地区の土石流災害において、本県がオープンデータとして公開していた点群データを活用し、産学官の有志による「静岡点群サポートチーム」が、短時間で崩壊の原因となった盛土の存在確認や崩壊土砂量の算定など、速やかな初期対応を実現できた背景を紹介します。

VIRTUAL SHIZUOKA構想

図-1 VIRTUAL SHIZUOKA構想



 

点群データの蓄積とオープンデータ化

本県では、南海トラフ巨大地震など、「明日起こるかもしれない災害への備え」として、被災前の点群データを取得・蓄積しております。
 
点群データは三次元の位置情報(x,y,z)を持った点の集まりで、さらに色情報(RGB)や反射強度、クラスコード(建物or地面)が一点一点に含まれています。
色情報を含む点群を使えば立体的景観が再現でき、地表面データからは精密な地形図を作成することができます。
 
蓄積した点群データは、G空間情報センターなどでオープンデータとして公開されており、クリエイティブコモンズライセンス(CC-BY4.0)のもと、誰もが自由に二次利用できることから、3Dハザードマップや自動運転用の地図、観光やゲームなどにも活用されています。

 
 

災害対応における点群データ活用

土砂災害が発生すると、被災関連の各種の情報を集約するとともに地図上に被災場所や発災原因となった事象の特定が行われます。
発災時は救助活動が最優先される一方で、二次災害を防ぐ視点から救助隊員や測量作業員の安全確保も重要な課題です。
 
2019年に面的なデータを取得したことにより、2020年度に発生した災害においては、被災後にドローン等による計測を行うことで、被災前後のデータの重ね合わせが可能となりました。
被災対応として災害査定や復旧工事に必要となる測量作業に点群データを活用することにより、従来の現地計測と比較して、作業時間の短縮や安全性の向上などの効果が得られました(図-2)。

災害対応におけるデータ活用効果

図-2 災害対応におけるデータ活用効果



 

熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害の概要

梅雨前線による大雨に伴い、2021年7月3日(土)の10時30分頃に静岡県熱海市伊豆山の逢初川(あいぞめがわ)で土石流が発生しました。
この土石流は逢初川源頭部の標高400m付近で発生した崩壊土砂が、伊豆山港付近の海まで、約2km逢初川を流下し、死者26名、行方不明者1名(2021年11月19日時点)、被害建物数128棟(135世帯)の甚大な被害をもたらしました。

 
 

静岡点群サポートチームとその活動

発災後、直ちに有志で「静岡点群サポートチーム」を結成して、土石流の流下経路や崩壊箇所の特定などの分析を独自に始めました。
チームのメンバーは、多種多様な知見と技術を持った産学官の16名の集まりですが、以前から本県と一緒に、点群データの可能性や利活用手法を検討してきた同志であり、普段からコミュニケーションを取っていたメンバーです。
チーム内の情報交換はSNSのグループチャットやオンラインで行い、「命懸けで救援・救助活動を行う救助隊員の二次災害を防ぐため、点群データを活用して災害の全体像を把握する」ことをチームの共通認識として取り組みました。
 
ここからは、「VIRTUAL SHIZUOKA」の点群データ(図-3)を用いた地形の分析内容を紹介します。

G空間情報センター:静岡県富士山南東部・伊豆全域点群データ

図-3 G空間情報センター:静岡県富士山南東部・伊豆全域点群データ


(1)地形判読に用いた点群データ

災害の全体像を把握するために、以下に示す3時期の点群を用いています。
 
①2009年データ:国土交通省(沼津河川国 道事務所)による航空レーザー計測データ
航空レーザー計測で作成した1mメッシュの標高データで、時期的に盛土前の地形データに相当します。

 

②2019年データ:静岡県による富士山南東部・伊豆全域航空レーザー計測データ
点群データはG空間情報センターで公開しています。
地形差分解析のため、点群から不整三角網(TIN:Triangulated Irregular Network)内挿により10cm解像度のメッシュデータを作成しました。

 

③災害後のデータ:UAVレーザーによる計測データ
災害後に、(株)ウインディーネットワークの自主計測による7月5~6日のUAVレーザー測深データ(UAVALB点群)と、静岡県との災害協定による(株)東日の7月6日のUAVレーザーデータ(UAVLP点群)が取得されました。
両データとも7月7日にG空間情報センターからオープンデータとして公開しています。
地形解析では逢初川源頭部から中流域はUAV LP点群、中流域から下流域は濡れた地表面も計測されているUAV ALB点群を用いて、TIN内挿により10cm解像度のメッシュデータを作成しています。

(2)点群データを活用した地形診断

①2009年データと2019年データを用いた盛土範囲の抽出と盛土量算出
発災当日の22時30分頃までに、報道による逢初川源頭部の崩壊地の空撮が行われ、SNSでは特定された崩壊発生場所の過去の空中写真などから人工改変(谷埋め盛土)地での崩壊の可能性が指摘されていました。
そこで、盛土範囲の抽出と盛土量を算出するため、2009年と2019年の地形差分図(図-4)を作成しました。
解析作業は発災から約11時間後の23時22分に完了し、結果はチーム内で共有・検証された後に、現地対応中の県の幹部職員に共有しました。
翌日の早朝から行われた現地踏査では、この解析結果を踏まえて、盛土の崩壊という視点から現地確認されています。
 
その後、さらに検証を進め、詳細な差分図(図-5)から逢初川源頭部付近の谷部には高さ10mを越えるプラスの地形変化と整地された階段状の地形が確認され、この部分が2009年から2019年までの間に盛土された地形と判断されました。
盛土の体積をメッシュ法で算出し、その土量が約54,000m³と判明したのは災害発生翌日の7月4日(日)の9時22分でした。

地形差分図(2009年と2019年の地形差分による地形変化)

図-4 地形差分図(2009年と2019年の地形差分による地形変化)


地形差分図(2009年と2019年の地形差分による盛土厚の計測)

図-5 地形差分図(2009年と2019年の地形差分による盛土厚の計測)


 

②2019年データと災害後のデータを用いた地形変化の抽出と崩壊規模の算出
月7日に公開された災害後のUAV計測と2019年地形データとの差分を行いました(図-6)。
 
源頭部崩壊地と砂防堰堤付近での土砂の変化量(図-7)をメッシュ法で算出した結果、約55,500³が崩壊し、約7,500³が流下途中で砂防堰堤に捕捉され、その残りが下流の市街地に流出したと推定され、この結果は、7月8日の9時頃にチーム内での検証を経て、県の担当部局に共有され即日公表されました。

地形差分図(被災前の2019年と被災後の2021年の地形差分)

図-6 地形差分図(被災前の2019年と被災後の2021年の地形差分)


崩壊前後の地形差分により、崩壊土砂量を約55,000m3と算出

崩壊前後の地形差分により、
崩壊土砂量を約55,000m3と算出

崩壊前後の地形差分により、堰堤に捕捉された土砂量を約7,500m3と算出

崩壊前後の地形差分により、
堰堤に捕捉された土砂量を約7,500m3と算出



図-7 地形差分図(左)逢初川源頭部付近、(右)逢初川中流砂防堰堤付近
 

③未崩壊盛土の抽出と対応
点群データによる地形差分結果や現地写真から、源頭部の右岸側には未崩壊の盛土が残存していることが判明しました。
この土量(図-8の領域A+領域B)は約20,000³で、特に多くの亀裂が認められる不安定な領域Aの土量は約9,400³でした。
これらの情報もチームの検証を経て県の担当部局に共有され、7月13日に公表されています。
一方、二次災害を防ぐ観点から、国土交通省により速やかに現地に伸縮計などが設置され、エリアメールやサイレン・回転灯などを組み合わせた監視警戒態勢が構築されました。

崩壊後に残存している盛土の抽出(背景図は2019年地形)

図-8 崩壊後に残存している盛土の抽出(背景図は2019年地形)


(3)まとめ

今回の災害では、点群データを活用し、崩壊の原因となった盛土の存在や、崩壊した土砂量や流下経路の砂防堰堤で捕捉された土砂量の算定などを行い、災害の全体像に関わる情報を迅速に提供することができましたが、これを可能にした背景には次のような要因があると考えています。
 
① 発災前から、点群データの蓄積とオープンデータ化を進めていた
② 発災前から、点群データを活用する取り組みが行われていた
③ 発災後、直ちに有志による「静岡点群サポートチーム」が機能した
④ チームによる多面的分析がオンラインで実施され、情報共有と検証が迅速に実施された
⑤ チームの情報が県の担当者に迅速に共有される環境が整っていた

 
 

おわりに

今回は、被災前の点群データがオープンデータとして公開されていたからこそ、多くの方々の支援を受けて迅速に被害状況を把握することができましたが、大容量のデータに自由かつ迅速にアクセスできる「G空間情報センター」のクラウド環境やSNS、Web会議システムなどのオンライン環境がなかったら、このような対応は不可能であったと思われます。
 
いつ、どこで発生するか分からない災害に備え、速やかな初動対応を実現するためには、国土の基礎データとして全国規模で高精細な地形データが整備され、オープンデータとして自由に活用できる環境の整備が必要であると考えます。
 
点群データの収集・利活用の取り組みはさまざまな検討が行われているところですが、いまだ発展途上であり、標準化に向けては、多くの方々のお力添えが必要であると考えています。
このため、本県ではこれまでに取り組みを実施している産学官の連携に加えて、今後も多業種の民間企業の参画を促進するとともに、国土交通省や国土地理院などのご指導、ご支援をいただきながら、「VIRTUAL JAPAN」構築につながるよう、積極的に取り組みの拡大を図って参ります。

 
 

●VIRTUALSHIZUOKAイメージ動画(3次元点群データでめぐる伊豆半島)
https://youtu.be/dbRRwQje9Fo 
●G空間情報センター(富士山南東部・伊豆全域)
https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/shizuoka-19-20-pointcloud 

 

 

静岡県 交通基盤部 政策管理局 建設政策課+静岡点群サポートチーム

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 

最終更新日:2023-07-14

 

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