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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > 長野県における信州BIM/CIM推進協議会の取り組みについて

はじめに

BIM/CIMとは、「測量・調査・設計」、「施工(着手前)」、「施工(完成時)」、「維持・管理」の各段階で3次元モデルを導入し、各段階における情報を充実させ、活用を図るとともに、3次元化することで情報共有を容易にし、品質確保と業務の効率化・高度化を目指すものです。
国が示す令和5年の原則適用に向け、建設業界だけでなく地方自治体においても、知識の習得や機器の配備、体制の構築など対応が求められているところであります。
 
今回は、長野県建設部と各建設業界団体、学校関係者などで構成される「信州 BIM/CIM推進協議会」について、ご紹介する機会をいただきましたので、協議会のこれまでの取り組みと令和4年度(11月時点)の活動などについて、寄稿させていただきます。
 
 

信州BIM/CIM推進協議会とは

「信州BIM/CIM推進協議会」は、「民・学・官」の各組織が協力してBIM/CIMについて学び、知識を共有し、技術力の向上を目指すとともに、若手技術者の育成を図ることで、県内建設産業の持続的な発展に資することを目的としております。
 
本協議会は令和元年に発足し、令和3年度までは主に建設コンサルタントを中心として、年数回程度BIM/CIMに関する講習会や研修を開催し、業界全体のスキルアップおよび若手業界関係者の育成に取り組んできました。
 
令和3年度末に参加団体が追加加入してからは、長野県内の建設業に関わる主だった業界団体が揃ったことから、協議会内に各テーマ別の部会を設置し、基準についての勉強や、事例の共有など取り組みを増やし、活動を活発化させております(表-1)。

表-1 BIM/CIM推進協議会体制図
表-1 BIM/CIM推進協議会体制図

 
 

令和3年度までの取り組みについて

令和元年度(設立)

令和元年の発足当初は、外部から講師を招いてBIM/CIMに関する講演を行っていただいたり、6日間に及ぶハンズオン研修会(官・民参加)を開催して、若手技術者の3DCADの操作習熟を図りました。
 

令和2年度

令和2年度からは、国の基準に準じた「BIM/CIM活用業務実施要領(案)(長野県建設部:令和2年4月1日適用)」を発出し、長野県発注業務において、モデル事業として取り組みを開始しました。
 
年度末には、協議会として「成果発表会」を開催し、各建設コンサルタント会社が実際に取り組んだ事例の共有と、実務担当者同士の意見交換を行いました。
この取り組みが盛況であったことから、協議会の中に若手部会(実務者会議)を組織し、実務者同士が交流できる体制を作ることとなりました。

また、このほかにも発注者側で納品成果のチェックなどに対応可能な機器や環境の整備に取り組み、「自治体ネットワークの三層分離」に基づく行政環境の見直しを踏まえ、各部署に個別のインターネット回線を新設し、スタンドアロンで用いる高性能パソコンを配備するなど、発注者側での体制構築を行いました。
 

令和3年度

令和3年度は、令和2年度に引き続き発注者側での体制整備を進めるとともに、県のBIM/CIMモデル事業を強く推進し、見込みを含む取組数が約100 件に上りました(表-2)。

表-2 R03_BIM/CIM取り組み数
表-2 R03_BIM/CIM取り組み数

 
また、協議会の組織改正に先立ち、実務者会議(若手部会)を開催しました。
 
広く参加者を募集した第2回実務者会 議( Web)では、各参加者が感じるBIM/ CIMに関する課題や疑問点について事前アンケート形式で収集し、県の担当が答えられる範囲で個別に回答するほか、会議の中で取り組み事例の紹介を行ったところ、100名を超える多くの方が参加し、好評価をいただくことができました(写真-1)。

写真-1 R03_第2回実務者会議
写真-1 R03_第2回実務者会議

 

令和4年度の取り組み

令和4年度からは、「各部会の活動」が増えたほか、定期的にBIM/CIMや推進協議会に関する話題の共有や話し合いを行 う「信州BIM/CIMトークライブ」、「第3回実務者会議」、「BIM/CIM活用現場見学会」、「県職員向け3DCAD操作研修」など、これまでと比べて多くのイベントを企画・実施しておりますので、各取り組みの具体的な様子について、ご紹介いたします。
 

信州BIM/CIMトークライブ

信州BIM/CIMトークライブは、2週間に1度開催するWeb会議形式の打合せを兼ねた意見交換の場です。
 
当初は、開催頻度が少なく規模の大きい実務者会議や部会に代わり、県と協議会の担当者数名が、次のイベントや協議会の活動についてWeb上で打合せを行うものでしたが、BIM/CIMに関して実用的な意見交換や情報共有が行われていたことから、「どうせならもっといろんな人にも参加してもらって、話題を共有しませんか」との参加者のアイデアで、協議会の参加者に広く案内を送付し開催するようになりました。
 
開催スタイルは「できるだけ参加者と主催者の負担を少なく、希望者の都合がつくときに参加できる緩い感じで」を基本とし、事前の出欠を取らない会議形式としております。
 
メインMCは筆者が務めており、後述する部会や推進委員のメンバーとの意見交換を中心に、既に開催回数が4月から14 回を数えております( R4.11月末時点)(写真-2、表-3)。

写真-2 R04_第5回トークライブ
写真-2 R04_第5回トークライブ
表-3 信州BIM/CIM推進協議会_活動履歴
表-3 信州BIM/CIM推進協議会_活動履歴

 
開催時間はおおむね90 分程度であり、毎回内容をレコーディングの上、議事録と合わせて協議会関係者に共有しております。
 
長野県においては、令和4年7月から NDW(ながのデジタルワークプレイス)として業務体制の改革が行われ、職員の業務データを全てクラウド環境に移し、全職員にMicrosoft 365が適用されました。
これにより「TeamsによるWeb 会議の開催」や「チャット機能による協議会関係者とのグループでのやりとり」、「Outlookのスケジュール機能によるトークライブリンクや資料の共有」など、DXによる各種作業の簡略化が図られ、コロナ禍においても活発に協議会の活動を進める一助となっております。
 
9月からは、協議会で情報共有システム「basepage(川田テクノシステム(株)」を利用しており、クラウド上でトークライブや実務者会議、各部会などの動画や資料の共有を行っております。
「basepage 」は、BIM/CIMに対応したクラウドサービスであるため、今後、実際に作成した BIM/CIM 3次元モデルの事例共有に活用することを検討しております。
 

各部会とBIM/CIM推進委員

前述のとおり、信州BIM/CIM推進協議会では、「測量・設計部会」、「地質部会」、「建設部会」、「データ活用部会」の4つの部会を組織し、各部会において、それぞれのテーマに関する事例の共有や課題の検証を行うこととしております。
 
具体的には、「測量・設計部会」はBIM/CIMに関する取り組みの上流に位置付けられる「測量」や「設計」について、事例や課題の収集・共有を目的とし、「地質部会」は地質調査に伴う3次元モデルの作成などについて、事例や課題の収集・共有を行っております。
 
「建設部会」は、まだBIM/CIMを活用した工事の実施事例がほとんどないため、国の工事や県のICT施工工事からBIM/CIMに関連性の高い取り組みを共有し、BIM/ CIM工事の実施に向けた基準の周知・学習など、実際の工事発注に備えて情報の共有を行っています。
 
「データ活用部会」については、県を主体としたBIM/CIM関連データの取り扱いに関する話題を担当しており、各部会などから共有される事例や課題を基に、県事業における3次元モデルデータの仕様や成果データの取り扱いについて、検討することを目的としております。
 
各部会の構成員については、協議会の各参加団体から横断的に人選しておりますが、それぞれはBIM/CIMに関して詳しいというわけではなく、知識や経験に大きなばらつきがあります。
そのため、部会のみでは活動が停滞してしまう可能性を考慮し、各部会の活動や部会同士の連携をサポートする立場として、「BIM/CIM推進委員」を設けております。
 
BIM/CIM推進委員についても、各参加団体の協会員で構成されていることには変わりませんが、各協会の中でもBIM/CIMに率先して取り組んでいる若い実務者を中心に人材を集めており、協議会のイベント企画や、国や外部でのBIM/CIMに関する話題の共有など、協議会活動に積極的に協力いただける人たちで構成されております。
 
現在の信州BIM/CIM推進協議会の活動は、主にBIM/CIM推進委員のアイデアや協力により成り立っており、今後の協議会においても欠かせない存在となっております(図-1)。

図-1 BIM/CIM推進委員・実務者会議イメージ
図-1 BIM/CIM推進委員・実務者会議イメージ

 
また、協議会におけるBIM/CIM推進委員のほかに、県建設部においても「BIM/ CIM推進員」を設置しております。
 
県BIM/CIM推進員は、県庁と建設部の各現地機関に勤務している技術系職員で構成され、BIM/CIM関連の情報の窓口として定めているものです。
各現地機関におけるBIM/CIMの取り組みの先駆者となるほか、事務所内におけるBIM/CIM関連情報の指導を行える立場となることを期待し、各職員の任意で担っていただいております。
 
現状では、まだ職員や現地機関ごとの温度差が大きく、県職員の知識の習得や技術力向上が課題となっておりますが、今後、県BIM/CIM推進員を軸として、職員全体へBIM/CIMに関する理解が進むよう取り組んでいく予定です。
 

第3回実務者会議

令和4年7月14日に、全体として3回目になる実務者会議を開催しました。
第3回の実務者会議は、全てWeb 参加の会議形式とし、下記のとおり4つの内容を軸として開催しました。
①国や県の状況の共有(図-2)
②県内事例の紹介
③テーマ別意見交換
④事前アンケートと回答の共有

図-2 R04_BIM/CIM取り組み数
図-2 R04_BIM/CIM取り組み数

 
前回の実務者会議の教訓として、「参加者が多くなり、1会場での意見交換では、話題も発言者も限定的になる」ということを踏まえ、会議の途中でWeb 上の会議室を、テーマ別に「施工CIM」、「地質CIM」、「設計、基準関係」の3つに分散させるよう工夫しました(図-3)。

図-3 R04_第3回実務者会議の流れ
図-3 R04_第3回実務者会議の流れ

 
結果、全体として120名以上の参加に対し、30~50人ごとに分散して意見交換を行うことができました。
 
また、Web 会議の各部屋の様子についてもレコーディングし、後から全体と合わせて各部屋の会議状況を見返すことができるようにして、関係者に共有しました。
 

BIM/CIM活用現場見学会

令和4年11月15日に、国土交通省関東地方整備局長野国道事務所協力のもと、 BIM/CIM活用工事現場の見学会を実施いたしました。
 
関東地方整備局長野国道事務所は国土交通省が定めるi-Constructionサポート事務所に位置付けられており、信州BIM/ CIM推進協議会の見学会要望についても、快く引き受けていただきました。
 
長野県では、まだBIM/CIMデータ作成から工事活用に至った現場がなく、今回、上田市内の「国道18 号上田バイパス神川橋上部工事(施工:清水建設(株))」の現場について、BIM/CIM活用を試行する現場として見学いたしました(写真-3)。

写真-3 R04_BIM CIM現場見学会
写真-3 R04_BIM CIM現場見学会

 
見学させていただいた感想として、県発注工事とは規模が桁違いだったこともあり、県としてすぐに同様の取り組みを普及させることは難しいように思えましたが、具体的な取り組み事例としてとても参考になりました。
 

BIM/CIM関連ソフト使用状況アンケート

各部会の活動を開始し、建設業界を横 断的に意見交換するようになって出てきた業者意見の一つに「どんなソフトウエアを使えばよいのか分からない」というものがありました。
 
従来の2次元のCAD利用では、最終的に共通拡張子である「SXFファイル形 式(P21、SFC)」に変換するため、利用ソフトによる差はありませんでしたが、 3DCADソフトでは「地形、線形、土工形状モデル」の共通データ形式「J-landxml」に、作成ソフトによる互換性の課題があり、また、「その他のモデル」については、各3DCADソフトの「オリジナルデータ形式」もしくは、Excel・PDFなど「CAD以外のデータ形式」となってしまうことから、業者間で利用している3DCADソフトに互換性がないと、業者が切り替わる際に既存のデータが活用できなくなってしまう恐れがあります。
 
このような3DCADソフトの互換性に関する問題は、新技術普及の過渡期に起こりうることですが、信州BIM/CIM推進協議会においても、これからBIM/CIMに取り組む業者としては「どんなソフトを導入すべきか」判断材料として関心が高く、県としても建設部で運用している3DCADソフトと他社ソフトとの互換性について認識している必要があり、傾向を把握したい内容でした。
 
そこで、協議会の活動として業界向けに 3DCADなどのBIM/CIM関連ソフトについて、利用状況のアンケートを実施することといたしました。
 
対象者が多いため、回答は任意としておりますが、Webのアンケートフォームを作成し現在回答を収集しております(R4.11月末現在)(図-4)。

図-4 R04_関連ソフト使用状況アンケート
図-4 R04_関連ソフト使用状況アンケート

 
アンケート結果は、協議会の中で共有し、今後各部会のデータ互換に関する検証や、 3DCADソフトの導入を検討している業者の判断材料の一つとして活用を図る予定です。
 

県職員向け3DCAD操作研修

県のBIM/CIMモデル事業が増えていることに伴い、協議会の中で「県担当者によってBIM/CIMに関する知識レベルに大きな差があり、対応に苦慮している」という意見が目立つようになってきました。
 
実務者会議や信州BIM/CIMトークライブによる情報発信は、業者からは好評いただいておりますが、県職員側では「業務多忙」や「3Dに対する職員の苦手意識」が障害となってなかなか浸透していない状況です。
 
これを踏まえ、まずは実務で関わる 3DCADソフトについて、職員自ら3Dデータに触れられるだけのスキルを身に付けることを目標とし、3DCADソフト操作研修を計画しました。
 
研修ソフトは、県の契約している 3DCADソフト「V-nasClair」とし、対面式の実地研修を基本としつつ、昨今の新型コロナウイルス感染症対策などを踏まえ、Web受講併用としました。
また、 Web受講の内容については録画し、アーカイブとして職員に共有する予定です。
 
開催は12月を予定しておりますが、申し込み時点で合計160 名近い職員の受講を予定しております。
 

今後の課題

これまでは、BIM/CIMに関して県内の各業界団体と「①情報を共有」し、「②意見を交換」し、「③課題を整理」できる「④体制づくり」のため、取り組んでまいりました。
 
協議会の体制が構築できた今、実際に 協議会の枠組みを「⑤課題解決に活かす」ことと「⑥継続させる」ことが大きな課題だと考えております。
 
これまでご紹介した取り組みのほとんどは、行政的な企画以上に、協議会に参加している業者の方々の熱意とご協力により成り立っている部分が大きく、筆者を含めた担当者の異動などにより、一気に取り組みが減速してしまうことがないよう、対策を講じる必要があります。
 
 

おわりに

信州BIM/CIM推進協議会は、もうすぐ令和元年の発足から5年を迎えようとしております。
 
国土交通省が令和2年(2020 年)に「令和5年(2023年)のBIM/CIM原則適用」を打ち出してから、いよいよ原則適用の年を迎えようとしておりますが、国の方針に対して地方自治体としてどこまで建設業界の BIM/CIM推進に寄与できるか、協議会のさらなる取り組みについて試行錯誤を続けてまいりたいと思います。
 
最後に、信州BIM/CIM推進協議会の活動にご尽力いただいた全て方々に感謝の意を表するとともに、引き続き県建設業界の発展に向けて取り組んでいきたいと思います。
 
 

長野県 建設部 建設政策課 技術管理室 基準指導班 主任
黒岩 楠央

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-08-28

 

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