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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > 維持管理分野からのBIM/CIM

はじめに

弊社は東京都江戸川区に事務所を置く社員20 名の小さな会社です。
2005 年に会社設立以来、設計コンサル様や建設会社様より仕事を頂き、橋梁を中心にコンクリートおよび鋼構造物の調査・診断、補修・補強設計などの維持管理関連の仕事を行っております。
そのなかで、三次元処理技術を活用し従来のワークフローの改善に努めております。
本稿では会社紹介と弊社の中での3D 技術の生い立ちについて紹介させていただきます。
 
 

会社紹介

会社設立

会社設立以前、私はショーボンド建設に在籍し、約20 年、諸先輩方から橋の維持管理について指導を頂きました。
独立時はこれからは地場の建設業の皆さまが地元の土木構造物の維持管理を担う時代になると信じ、少しでも役に立てることができればと会社を設立しました。
しかし初めての会社経営であり、経営的センスは全く持ち合わせていなく、社員が徐々に増えるに従い、人を雇用する責任、会社運営方法など回りの方々に助けられながら経営してまいりました。
 
そのような中、中小企業ならではの問題(人材確保、高齢化など)と直面し、藁をもつかむ思いで、技術を探し、試し、判断、運用を繰り返してきました。
その結果が表-1です。
決して時代を先取りしようとするものでなく、目の前に見えている問題に対して、対処してきたという状況です。
このような対処方法も前職での経験があったからこそと今も感謝しております。

表-1
表-1

 
 

会社の基本原則

弊社の特徴は現場第一主義です。
理由は弊社が橋梁の調査、補修・補強設計業務を中心としており、補修・補強設計を行うには、設計の知識もさることながら、現場状況の把握や工事の流れや品質管理などを理解していないと質の良い設計ができないからです。
 
損傷調査では鉄筋探査、はつりやコア採取、断面修復、現場試験、工事現場の調査では、設計照査、墨出し、実寸計測、製作図まで、一貫して自分たちでできることは全て自社で行っています。
当然人によって向き不向きはありますが、まずはさまざまな作業を自分の五感で感じとることが維持管理では重要と考えています。
 
 

維持管理におけるBIM/CIM

新設と維持管理の違い

新設は計画から始まり構造物を造るまでであり、維持管理はその後のお世話かと思います。
お世話というのは非常に息の長い付き合いであり、単なる仕事ではなく、そのものへの愛着がないと適切なお世話はできません。
常に知識と知恵を習得しながら、何度も何度も直接会い相手を理解しながら自分も勉強をする。
これを繰り返すうちに自然と愛着が生まれ、お世話、診断ができるようになります。
 
維持管理では、専門知識も非常に重要ですが、それだけではままならず、日常の点検方法から始まり、定期点検方法、診断、緊急処置の判断、対処方法、施工方法、工事、その後の運用まで、全般にわたる知識やネットワークが必要となってきます。
いくら新設の知識があったとしても、すぐにできるものでもありません。
 
既設橋梁を見たときに、その橋の履歴書をイメージできると面白くなってきます。
また、古い橋梁であればその橋の設計者がどこを大事に設計したかを見抜けるようになると、なお良い設計が行えるようになるかと思います。
 

企画・改善の方針

維持管理業務のなかで、特にソフトウエアなどを開発する場合、私が特に注意することは、最初から全自動を目指さないことです。
前述の新設と維持管理の違いにも含まれますが、新設の場合であれば、当然全自動ソフトを目指します。
維持管理の場合は、橋により条件は全て異なります。
 
いくつかのサンプル橋梁に合わせて全自動を作るとそれらの橋でしか使用できません。
半自動くらいで融通が利くようにしておけば、利用できる橋梁は格段に増えます。
その半自動の部分に今まで人力だけに頼っていた部分や人ではできなかった部分などを自動化し、まずは大変な部分を取り除き、確実に利用でき効果が実感として現れるようにします。
それがワークフローの改善につながります。
いくら新技術と言っても使える対象や人が少なく実務とかけ離れていては、多額の費用を費やした割には利用者がいないなど、全くの採算割れになり生産性向上どころか、継続すら難しいものになります。
私共のような小さな会社では社内での利用価値が上がれば生産性は向上し、開発・改善の効果は顕著に表れます。

表-2
表-2

 

企画・改善の着眼点

維持管理業務の中では、企画・改善項目を見つけ出すことは容易なことです。
維持管理業務の中では今もなお手作業が多くあります。
これは決して怠慢なわけではなく、調査などの仕事をする環境、対象物が千差万別であり、しかも過酷な条件のなかで行わなければなりません。
このような状況の中で、機械化やソフト等による自動化はパターンが多くかなり難しいものとなります。
しかし手作業が多いのは事実であり、その部分を洗い出せば課題は簡単に抽出できます。
また、その際にスーパーマンを目指すのではなく作業者の相棒的存在になるようにしています。

 

維持管理分野だからこそBIM/CIM

先にも申しましたが、既設構造物を扱うのが維持管理です。
既設構造物の3Dデータを取得できれば調査の手間を大幅に削減するだけでなく、後の維持管理にも有効利用でき、将来にわたってのコスト削減が期待できます。
また、維持管理には現状での構造寸法や損傷度合の把握が重要であり、従来はそれらを把握するために全て手作業で調査を行ってきました。
世界のBIMの技術の中には現況を3Dで再現する技術は年々進歩しており、非常に簡単に利用できるまでになっています。
将来、現場では現況のデータ取りに専念し、現場をパソコン上で超リアルに再現し3Dデータ上で点検を行うようになる日は近いものと思います。
維持管理ほど3D 技術の活用範囲が広いものはありません。

 

BIMとCIM

BIMとCIMは一般的に日本では建築と土木での使い分けかと思いますが、両者を比べるとBIMは伸び伸びと自由に活用され確実に進歩、普及しているように見えます。

 

維持管理分野からのBIM/CIM

 
建築では昔から意匠を重視する文化があり、そこに3D 技術がうまくマッチし、仕事の流れの中でも合意形成手段としてや生産性を上げるツールとして有効利用されています。
それは3Dの特徴や利点を自然に理解でき、民間同士の中でメリットさえあれば自由に伸びていく土壌があることが考えられます。
 
CIMはBIMのような土壌がない中で、生産性を向上する手段として選択しました。
この点が両者に差が生じる原因とも思われますが、業界に関わる全ての方が3Dの特徴、利点をよく理解し、従来のワークフローの中に組み入れることにより、生産性向上を目指す必要があるかと思います。
 
 

CIMへの取り組み

きっかけ

2007年より画像処理技術に取り組んできました。
きっかけは、耐震補強工事でのアンカーボルトを定着するためのコンクリートコア削孔を行った位置を計測する業務です。
計測方法としては、コア削孔したコンクリート面の前面に透明のマイラー紙を貼り付け、マジックで削孔穴をマイラーに書き込み、事務所に戻ってからそのマイラー紙を差し金で計測するというものでした。
 
精度も良くなく、新入社員当時から20年も経つのに同じ計測方法に疑問を持ち、良い方法はないか必死に探しました。
そこで出会ったのがNikonの「GS -1画像診断支援ソフト」でした。
写真上でひび割れをプロットして延長が算出できるのなら、ひび割れの代わりに削孔穴をプロットすれば位置を特定できるのではと導入したのが始まりでした。
 
それ以来、Nikonの小出氏とのお付き合いが始まり、画像、赤外線とご指導を頂き、弊社の一番の特徴である画像処理の礎となりました。
 
その後、小出氏にはNikon退職のおり、ご自身の判断でたった10名の弊社を選んでいただき、社会人としてのマナーから始まり、何事にもチャレンジしていく社風にまで成長させていただきました。
 

3Dレーザースキャナーの活用
図-1 点群データ
図-1 点群データ

2012年より3Dレーザースキャナーを運用開始しました。
きっかけは損傷調査を行う際に、まず現地を計測して現況一般図と構造図を復元します。
この作業は経験と知識が必要となる作業であり、弊社の中の経験不足のカバーと効率化が目的で導入しました。
この当時、「レーザースキャナーでデータを 取ってください」という依頼は皆無であり、お客様にも全く興味を持っていただけませんでした。
それでも弊社が関わる案件では必ずスキャンを実施し、点群上で計測し図面を作成しました。
理由としては経験不足による計り忘れを防ぎ、図面を書く際にも非常に便利であり、社内での価値が生み出せたからです。
また、「点群は非常に維持管理には有効なデータ」だと確信し、依頼がなくとも点群としてデータを残していました。
現在では600橋近い点群データを蓄積しています。
 
その後、運用を続けていくうちに、従来の2Dの図面を書く手段として点群を利用することに大きな矛盾を感じ、3Dデータをそのまま3D成果として活用できる方法を模索し始めました。
そこで4D汎用マネジメントソフト(Arena4D)と出会います。
 

4D汎用マネジメントソフト( Arena4D)
図-2 Arena4D画面
図-2 Arena4D画面

2015 年より導入しました。
しかしながら当初3年間は有効利用できませんでした。
Arena4Dは、もともとイギリスのソフトで、マニュアルからソフトまで全て英語であり、後に日本語のマニュアルもでましたが、機能のほんの一部しか理解できない状態でした。
 
そんな状態の中、フィリピンの外注委託先より一人、就労ビザを取得し弊社に迎え入れることができました。
これを機にArena4Dのさまざまな機能を把握し、業務の中での活用が可能となりました。
また、今ある機能だけでは足りず、干渉チェックや差分解析の機能の部分開発に参画しました。
 
Arena4Dは、点群をベースデータとして、その上にさまざまなデータを重ね合わせができるソフトです。
過去に作成した2D-CADデータや撮影したjpegデータなど有効活用ができる上に、時間軸を設定できるため、維持管理においては有効な活用が期待できます。
また、3Dの特性を十分に発揮し、将来を見据えた3D-成果を自由に創作できます。
 

UAVの試行

最初の導入は2011年でした。
その当時UAVは市販されていなく、マニアの方が外国から部品を取り寄せ組み立てており、それを購入しました。
 
きっかけは、橋梁調査を行う際、事前に下見を行います。
山間部の橋梁では橋面は踏査できるのですが、橋下は急峻な斜面であるため降りていくには危険が伴います。
その当時、親綱に一眼レフを縛り付け橋面から宙づりにし、橋下の状況を確認していました。
これもほかに何か良い方法はないか探しUAVに着目しました。
 
しかしながら、最初に飛行を試した際、わずか3秒で墜落してしまいました。
操縦の難しさと安全に関わる知識がないと事故につながると深く反省し断念しました。
 
2018年、UAVが市販され始め、性能も向上したことから、私を筆頭にUAVスクールへ通い操縦資格(民間)を取得しました。
現在では調査員20~60代まで10名が取得しています。
これは全員が操縦するわけではなく、UAV調査時の安全を確保するために、直接、操縦しない者も安全知識を習得するためです。
 
翌年より、UAVに一眼レフ相当のカメラが上向きに搭載できる機種が販売されたのを機に橋梁への適応を始めました。
具体的には床版の詳細調査を行う際に、従来は点検車上から床版を一眼レフで取得した画像から画像診断をしておりました。
この点検車上の作業を軽減および効率化するのが狙いでした。
しかし、UAVが大型機であり一般的な橋梁では飛行空間が狭く危険であることや画質が一眼レフより劣ることから、なかなか活用が進みませんでした。
 

UAVの活用

UAVを本格運用し始めたのは、2021年よりSkydio-J2の運用がきっかけでした。
水を得た魚のように、次々と今までの調査での作業をUAVに置き換えできるようになりました。
これはSkydio-J2が小型であるのと同時に障害物回避機能(ビジュアルスラム)を有し最小離隔50cmでの撮影が可能であり、橋梁点検での狭隘部で損傷確認するための進入性や近接性能に優れるためです。
画角は小さくなるものの画質は一眼レフと同等の画質が確保できることにより、活用範囲は大幅に拡大しました。
 
UAVでは搭載されたカメラで写真もしくは動画を撮るのが簡単な使用方法です。
しかし、写真を撮るだけでは活用範囲が限られます。
その取得した画像をいかに活用するかでUAVの価値が変わります。
SfMなどの技術を組み合わせれば、自在に既設構造物を高繊細画質で3D化が可能となります。
 
例えば、UAVで撮影した画像をSfMソフトにて3D化します。
このデータは点群にも容易に変換できます。
そうすれば用途としては、現橋を高鮮明な3Dデータとしてパソコン上で損傷を把握することが可能となります。
また、点群に変換することにより、構造寸法も用意に計測ができるようになります。
3Dレーザースキャナーと組み合わせれば、3Dレーザースキャナーではデータを取得しにくい箇所をUAVで画像を撮影し3Dデータとし、両者を重ね合わることで、欠損のない3Dデータを作成できます。
 
このように自在に3Dデータを作成することが可能となります。
 

UAV活用の未来を求めて

今年度よりKDDIスマートドローン株式会社様と橋梁分野での業務提携を結びました。
と同時にSkydio2+を提供していただき運用しています。
 
橋梁分野でのさらなる活用や将来へのコスト縮減を目指した提案など、この業界に携わる方々へ分かりやすくかつ利用しやすい環境を整えつつUAV活用を広めていきたいと考えています。
弊社は微力ではありますが、KDDIスマートドローン様よりUAVに関する指導を受けながら努力してまいります。

写真-2 Skydio 2+
写真-2 Skydio 2+

 
 

おわりに

弊社では画像処理に始まり、UAVまでさまざまな技術に取り組んでまいりました。
土木技術者の中にはこれは技術ではなく手段だと思われる方も数多くみえると思います。
私もまったく同様に思います。
ただ、土木の専門知識だけでは成り立たなくなっているのも事実であり、専門外のつながりがないとなかなか本業を全うできなくなってきています。

写真-3 KDDI小山データセンターにて
写真-3 KDDI小山データセンターにて

 
弊社の場合は、新技術を行うことが目的ではなく、会社の本業をいかに精度よく、年齢構成などに関係なく将来にむけて継続させるかの一点でその手段を探してきました。
国の施策には全くと言っていいほど無頓着でした。
補助金なども一度だけ申請したことはありますが、その後は申請したことはありません。
ほぼ自力で行ってきています。
そのような中、専門外の方々と接する機会が増え、業界に固まっていた時と比べ、非常に楽しく仕事ができるようになりました。
 
ただ、私自身は土木出身ですので、いつまでも本業を全うできる技術をこれからも模索していきたいと思います。
また、中小企業間でCIMの活用が推進するよう7年前よりM-CIM研究会を発足し、情報交換や勉強会を行い、弊社が利用している技術も皆が共有できるよう活動をしています。
興味のある方は是非、声をかけていただければと思います。
 
最後に全国の維持管理に携わる方々に少しでも参考になればと切望するとともに、常日頃、ご指導、お世話になっている方々に感謝申し上げます。
 
 
 

株式会社補修技術設計 代表取締役社長
中馬 勝己

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-09-04

 

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