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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM > 官庁営繕事業におけるBIM試行-長野第1地方合同庁舎設計業務における活用と施工段階に向けて-

はじめに

官庁営繕事業では、平成22年度よりBIMを導入したプロジェクトの試行を実施することにより、設計業務および工事におけるBIM導入の効果や課題について検証してきた。
 
その結果も踏まえ、国土交通省官庁営繕部において、「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成および利用に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が平成26年3月に策定・公表された。
 
その後も設計業務や工事においてBIMの試行を継続しており、令和2年度からは、関東地方整備局営繕部発注の長野第1地方合同庁舎の設計業務において、工事受注者への引き継ぎを視野に入れたBIMデータの作成、BIMデータからの設計図面(一部)の作成などの試行を行っている。
さらに令和3年度からは、中部地方整備局発注のPFI事業において、施工段階に加え、維持管理段階における活用を前提としたBIMデータの作成などの試行に着手している。
 
これらの試行と並行して、国土交通省官庁営繕部において、設計・施工分離を前提としたBIM活用のワークフローとBIMに関する発注仕様書となるEIR(発注者情報要件)の試案が作成・公表された。
また、ガイドラインにおいてEIRの作成に関する事項を拡充する改定が令和4年3月に行われた。
 
本稿では、上記の長野第1地方合同庁舎設計業務の取り組みについて紹介するとともに、令和4年度に工事発注予定の長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)の建築工事における施工EIRについて紹介する。
 
 

長野第1地方合同庁舎の設計段階におけるBIM試行の内容

長野第1地方合同庁舎 事業概要

本事業は、一団地の官公庁施設として整備された施設群の建替計画であり、設計業務の主の業務内容は、3棟の新築庁舎の基本計画、うち2棟の設計・積算、仮庁舎等の設計・積算、2棟の現庁舎の取り壊しなどである。
 
本事業の概要を以下に示す。
 
【設計業務】

  • 履行期間 R2.9~R5.3(予定)

【敷地】

  • 工事場所 長野県長野市
  • 敷地面積 約15,000m²

【新築庁舎】
A棟(仮称)※R4 年度工事発注予定

  • 計画面積 約5,200m²
  • 構造規模 RC造地上6階
  • 入居官署数 2官署

B棟(仮称)※基本計画のみ

  • 計画面積 約6,300m²
  • 構造規模 RC造地上6階
  • 入居官署数 7官署 K棟(仮称)
  • 計画面積 約5,100m²
  • 構造規模 RC造地上4階
  • 入居官署数 1官署
図-1 長野第1地方合同庁舎(仮称)
図-1 長野第1地方合同庁舎(仮称)
3棟整備後のイメージパース
(左奥:A棟、右奥:B棟、
左手前:K棟)

 

本業務におけるBIM試行の目的

本業務では、別途発注される工事受注者にデータを引き継ぐことを前提とした設計BIMの実施を試行し、設計BIMにおいて属性情報の入力および活用ならびに設計BIMデータの納品を行うことの効果・課題などを検証することを目的としている。

 

本業務における主な試行実施内容

本業務では、業務発注時に発注者から「BIMを用いた設計図書の作成および納品に関する特記仕様書(試行)」を示し、契約締結後に、業務受注者と合意したBIM実行計画書(以下、BEP)の提出を受けている。
 
BEPに記載された主なBIM試行項目の目標およびこれまでの実施内容を以下で紹介する。
 
①法令上の諸条件の調査、設計条件などの整理
【目標】
建築可能範囲をマスモデルとして可視化する。
部屋ごとに属性情報の入力、壁に区画条件の入力を可視化する。
 
空間オブジェクト(部屋)に必要な属性情報を入力し、集計表・色塗り図などで整理・確認する。
 
【実施内容】
基本計画段階での検討に際し、法規上の集団規定などを鳥かご上に表現し可視化した(図-2)。
これにより、設計事務所の作成した設計案が建築可能範囲を逸脱していないことを確認した。

図-2 建築可能範囲のマスモデルでの可視化
図-2 建築可能範囲のマスモデルでの可視化

 
部屋ごとの性能については、基本設計段階で入居官署にヒアリングを行い調整・作成した各室性能表(各室に対する諸条件)の情報をExcelデータで整理し(図-3)、その情報をBIMの部屋オブジェクトに属性情報として読み込み、色塗り図などを出力できるようにした(図-4)。

図-3 各室性能表のイメージ(一部)
図-3 各室性能表のイメージ(一部)
図-4 ある属性情報に関する色分け図
図-4 ある属性情報に関する色分け図

 
②解析シミュレーションの実施・連携
【目標】
構造解析との連携、環境シミュレーションを行う。
 
【実施内容】
構造解析ソフトとの連携を行うとともに、配置計画検討時に環境シミュレーションを行い、各配置案の比較検討に活用した。

図-5 風環境シミュレーション
図-5 風環境シミュレーション

 
③上下水道、ガス、電力、通信などの供給状況の調査
【目標】
所定の供給位置から建物までの配管オブジェクトを配置し、引き込み状況を可視化する(各オブジェクトにはインフラ種別の属性情報を入力)。
 
【実施内容】
既存図面などから読み取れる情報を基に既設のインフラの情報をBIMモデルに入力し、立体的に可視化した。
 
建物の配置計画検討やその後の設計検討に活用している。

図-6 インフラ情報の可視化
図-6 インフラ情報の可視化

 
④設計方針の策定
【目標】
整備施設外観、当該敷地形状、周辺の建物が確認できるBIMモデルを作成し比較検討する。
 
【実施内容】
庁舎の外観の検討に当たりBIMモデルで作成したパースでの見え方の比較を行い景観計画検討に活用した(図-7)。
 
また、敷地のボーリング情報を元に、地質コンサルの協力を得て敷地形状だけでなく地盤情報まで3Dで可視化し(図
-8)、基礎計画や地盤改良の設計などに活用した。

図-4 ある属性情報に関する色分け図
図-4 ある属性情報に関する色分け図
図-8 地盤情報の可視化
図-8 地盤情報の可視化

 
⑤設計図書の作成
【目標】
BIMモデルから図面を切り出し、設計図書として活用する。
 
【実施内容】
平面図、立面図、断面図、建具表、天井伏図、柱梁リスト図などにおいてBIMモデルから図面を作成している。
 
図面作成に当たっては、BIMモデルとの連携を考慮し、できる限り2D加筆しない表現を取り入れた。
例えば、柱リスト図であれば、従来は柱ごとの断面図を記載していたが、本業務では凡例用の断面のみを示し、他は表形式で情報を表現することとした(図-9)。

図-9 柱リスト図のイメージ 上
図-9 柱リスト図のイメージ 下
図-9 柱リスト図のイメージ
(上:従来の表現、下:BIM連携考慮の表現)
 
⑥発注者へのBIMを用いた設計内容の説明など
【目標】
打合せ時の3Dモデル活用、クラウドシェアリングによるモデルの共有・指摘事項の確認を行う。
 
【実施内容】
基本計画段階では、各棟の配置検討に当たって、VRを用いた確認を行い、見え方を確認した。
 
基本設計、実施設計段階の受発注者の打合せなどでは、BIMモデルから作成したパースなどで設計内容を確認した。
入居官署に対しても、合意形成の円滑化のため、BIMモデルや動画を併用し、基本設計内容、実施設計内容の説明を行った。
 
また、本業務では受注者から提案のあった有償ビューア(クラウド)を用いている。
これにより、受注者がクラウド上にアップロードしたBIMモデルを発注者が自席のPCから確認できる環境が構築されている。
このビューアには「指摘事項」という機能があり、クラウド上のモデルに対して受発注者間で設計内容の確認などを行うことができる。

図-11 VRによる確認の様子
図-11 VRによる確認の様子
図-12 有償ビューアにおける指摘事項画面のイメージ
図-12 有償ビューアにおける指摘事項画面のイメージ

 

効果・課題などについて

以下に今回の試行による効果・課題などについて、実務担当者としての個人的見解、感想を記載する。
 
・[効果]BIMモデル3Dビューの活用による効率化
審査用図面を発注者が確認する際に、従来は2次元図面から想像力を働かせて読み取る必要があった3次元形状について、3DビューでBIMモデルを確認することで空間の理解が早まり、効率的に審査できると考える。
 
例えば、外構の高低差が大きい敷地の場合、外構からの建物の見え方について、従来の2次元図面では配置図、外構図などの図面の外構地盤高さを基に外からの執務室の見え方を想像し、外からの視線を気にする室であれば外部建具のガラスの仕様を建具表などで確認するなどしている。
これがBIMであれば、図-13のように、外構からの見え方は3Dビューで一目瞭然であり、ガラスの仕様も右クリックで属性情報を確認することで速やかに確認できる。

図-13 傾斜のある外構と建物の関係の確認(外構からの執務室の見え方)
図-13 傾斜のある外構と建物の関係の確認(外構からの執務室の見え方)

 
・[課題]設計・確認方法がある程度マニュアル化される内容の確認
設計・確認方法がある程度マニュアル化される内容で、かつBIMの機能を用いることで確認が効率化される場合があると考えられる。
また、ドライエリアなどの落下の危険性がある部分の確認の場合、2次元図面に比べて、図-14のような3Dビューの方が直感的に「危険」と感じやすいと考えられる。
BIMモデルを活用することで、経験がなくても直感的に空間を把握しやすくなり、効率的に図面の確認ができると考えられる。

図-14 傾斜のある外構と建物の関係の確認(ドライエリアの安全性)
図-14 傾斜のある外構と建物の関係の確認(ドライエリアの安全性)

 
例えば、地下ピットの防水範囲の確認に当たって、BIMモデル上で、ピットなどの空間オブジェクトに対して「止水性」という属性情報を付与する。
また、ピットなどの壁オブジェクトに対しても「防水」という属性情報を付与する。
これらの属性情報の有無を色塗り図などで可視化できるようにすることで、空間オブジェクトと壁のそれぞれの属性情報で止水性【有】・防水【有】の色塗り図を出力すれば防水範囲が正しいかの確認が可能と考える。

図-15 遮音区間の確認のためのビューイメージ 上
図-15 遮音区間の確認のためのビューイメージ 下
図-15 遮音区間の確認のためのビューイメージ

 
・[課題]複数図面にまたがる情報の確認
複数図面にまたがる情報の確認は、BIMモデルの作り方やビューの切り方をあらかじめ指定しておくことで、効率的な確認が可能と考えられる。
 
例えば、遮音が求められる室の建具にガラリやフロートガラスが入っていないか確認する場合、従来は平面図、建具表などを見比べ確認する必要がある。
もしBIMモデルを3Dビューで見る時に建具オブジェクトの窓・ガラリの有無と部屋オブジェクトの遮音区画の有無を確認できるようにあらかじめ指定しておけば、一目で確認が可能になると考える。
 

・[課題]設計プラン決定経緯などの確認への活用
「指摘事項」機能は有償ビューア特有のものであるが、設計プラン決定経緯などの確認に活用できる可能性があると考える。
営繕部の設計業務では、入居官署へのヒアリング内容を基本的には一つのExcelデータで管理しており、実施設計段階での審査用図面の確認の際に、Excelと図面を見比べながらヒアリング内容を満たしているか確認している。
 
例えば、このExcelデータのヒアリング内容を設計受注者がモデルに指摘事項として登録する。
発注者は作成された指摘事項をクリックすることで、ヒアリング内容とモデルを一目で確認ができる。
ヒアリング内容が反映されていれば「完了」(指摘事項を承認して終了)を押すことで記録として残る。
 
これにより、従来Excelと図面を行ったり来たりしながら確認していた行為が、モデル上で指摘事項のボタンクリックだけとなり確認作業が効率化されると考えられる。
一度確認した内容は記録として残るため、いつでも確認することが可能となる。
Excelデータの内容を最初にモデルに入力する作業は増えるが、業務全体としては効率化する可能性があると考えられる。
 
 

施工段階におけるBIM活用検討

長野第1地方合同庁舎のA棟(仮称)は、令和4年11月現在、工事発注手続き期間中である。
工事の発注に当たって、建築工事では、発注者情報要件として「長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)建築工事にかかるEIR(発注者情報要件)」(以下、長野施工EIR)を現場説明書に添付している。
 
以下、長野施工EIRの概要について紹介する。

 

長野施工EIRの構成

長野施工EIRは、長野第1地方合同庁舎A棟(仮称)建築工事の施工に係るBIM活用に関して発注者として求める要件を示すものである。
 
長野施工EIRの構成は以下のとおり。
 
1. 目的
2. 基本的事項
2.1 BEP(BIM実行計画書)の提出
2.2 BIMデータの作成
2.3 BIMデータ等の提出
3. BIM活用の対象項目とその目的など
4. データの共有
5. 参考
5.1 発注者のBIMデータ閲覧等環境
5.2 参照資料
 
長野施工EIR におけるBIM 活用の対象項目
本工事においてEIRに記載している BIM活用の対象項目、目的などを以下に示す。
 
なお、BIM活用の対象項目は、工事受注者による自主的な取り組みを【推奨】する項目としている。
【推奨】項目についてもBEPに何らかの記載(「対応しない」「対応予定」「対応未定」「○○の方針で実施」など)を求めることとしているが、記載することによる履行の義務は生じないものとしている。
 

①施工計画、施工手順などの検討【推奨】
施工計画、施工手順などの検討を行い、施工に関わる者の理解を促進するなどし、事業の円滑化を図ることを想定している。
 
②干渉チェック【推奨】
干渉チェックを行い、施工の手戻りを防止するなどし、事業の円滑化を図ることを想定している。
 
③デジタルモックアップ【推奨】
内外装についてBIMモデルを用いて、監督職員への承諾に先立ち、事前に確認を行い、合意形成の円滑化を図ることを想定している。
 
④3次元による建物内観、外観(一部)の提示・調整【推奨】
スイッチ・コンセントなどの位置や外観の色調について、監督職員への承諾、現地での色決めに先立ち、事前に発注者・入居官署にビューアで説明し、合意形成の円滑化を図ることを想定している。
 
⑤中間ファイルの活用【推奨】
設計者から提供する図面情報について、設計BIMモデルから書き出した2Dデータを専門工事業者への情報伝達に活用し、事業の円滑化を図ることを想定している。
 

設計BIMの施工段階への引き継ぎ

工事受注者への引き継ぎについては本業務において現在検討途中である。
 
建築BIM推進会議の成果などを取り入れることも視野に検討している。
例えば、建築BIM推進会議の部会2「BIMモデルの形状と属性情報の標準化検討会」の成果物として「BLCJ構造標準」(構造設計業務で必要な属性項目と、その際に使いやすい属性項目名称を整理したもの)が公表されている。
このBLCJ構造標ac準と設計BIMモデルの属性情報との対応表
(マッピングテーブル)を作成することで工事受注者にとってBIMモデルが活用しやすくなると考えている。
 
 

おわりに

本稿では、長野第1地方合同庁舎の設計業務におけるBIM試行の実施内容、効果・課題など、施工段階における活用検討について紹介した。
 
長野第1地方合同庁舎の設計業務におけるBIM活用による効果・課題等や設計BIMの施工段階への引き継ぎについては、建築BIM推進会議の動向も注視しながら、引き続き検討してまいりたい。
 
 

参考 官庁営繕部HP(官庁営繕事業におけるBIMの活用)
m官庁営繕部Hm
https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk6_000094.html

 

 
 
 

国土交通省 関東地方整備局 営繕部 整備課 営繕技術専門官
福田 隼登

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-09-28

 

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