長谷工版BIMモデルの活用
長谷工では、BIMに取り組み始めた当初から“BIMはCADの代替えではない”という方針で、BIMデータを設計・施工・サプライチェーンで活用することをテーマに取り組んできた。
設計施工比率が高いこともあり、設計施工一貫のASEPL統合モデルで推進してきている。
長谷工版BIMのデータ活用例としては、数量や大きさ・形状・位置情報などをBIMモデルからCSVデータで出力しサプライチェーンと共有することで、今まで図面や紙資料で共有していた情報がデジタル化され、チェック業務の削減など業務フロー改革につながっている。
また、紙などの情報は印刷した段階から情報の劣化が始まるがデジタルデータでの共有は常に最新情報を共有することが可能となる。
このようなデータ活用ができているのは、設計段階でのBIMモデル作成時に施工段階でどのようにデータ活用するのかを明確にすることで、施工情報をフロントローディングしてBIMモデルを作成しているからである。
どのようなことにデータを活用するかによって、設計段階でのBIMモデルの作成方法が変わる。
設計段階からデータの活用方法を決め、ファミリやBIMモデルの作成に反映することで、施工段階でのデータ活用が可能となることが、設計施工一貫モデルの利点である。
設計図書を作成するためのBIMモデルデータの場合、施工段階では活用できる範囲が限られる。
施工情報の入ったBIMモデル
設計段階から施工段階で活用できる精度の高いBIMモデルを作成することで、着工前にDynamoによるコンクリート数量拾いが可能となった。
今回のコンクリート数量拾いの場合、作業所から“範囲を指定して数量を拾えないか”との依頼を受けて開発に着手した経緯がある。
想定されるのは、施工計画・打設計画策定時やコンクリートの発注時での活用である。
発注で活用する場合、数量拾いと実施数量との差の精度を求められるので、従来の施工図からの数量拾いと同等以上の精度が必須となる。
同時に計画変更などの情報もリアルタイムにBIMモデルに反映する必要がある。
そこで従来行っていたCADでの変更作業を止め、全てBIMモデル上で変更作業を行うことで、リアルタイムの情報をBIMモデルに反映した。
PCaやフカシ・スリーブなどの情報も入力されているため、実際にコンクリートを打設する部位だけの数量の算出が可能となった。
Dynamoを活用した積算
長谷工版BIMモデルからコンクリート数量拾いに必要な情報だけを表示したBIMモデルビューを作成し、Dynamoで平面図上の範囲の指定と高さを入力するだけで、数十秒後には計算結果が表示され数量拾いが完了する。
作業所所員が施工図から数量を算出していたときには約2時間かかっていた作業が、Dynamoを活用することによりわずか数十秒で完了でき、BIMモデルからコンクリート数量拾いに必要な情報を抽出する作業時間を足しても約30分と、作業時間が75%削減された。
実施数量との比較
実際に発注シーンで活用するためには、作業所で実際に使用される数量との差異をいかに少なくできるかが重要となる。
Dynamoを活用したこのシステムは、施工情報(変更やフカシ・スリーブなど)の入力されたBIMモデルからコンクリートを打設する部位のみの詳細な数量を算出するため、実際の施工で使用したコンクリート数量との誤差1%未満を実現している。
変更された情報が正確に反映されているBIMモデルデータを活用できていることも誤差1%未満の実現に大きく寄与している。
また、変更などが入力される前の設計段階でのBIMモデルから集計した数量も、従来の設計図面から積算した結果との誤差1%未満を実現している。
活用状況
施工計画の際や、作業所でのそれぞれの実務に合わせ、打ち継ぎ位置や高さ方向の範囲を指定して数量拾いを活用している。
活用を始めた頃はBIMモデルから抽出した数値の信頼度が低く、従来どおり施工図から数量を算出していた作業所もあったが、実際に使用される数量との差異が従来のやり方と変わらない、もしくは向上していることを実感できたことで活用するようになっている。
また、精度が高いことで計画どおりに施工ができ品質向上にもつながっているほか、抽出範囲を自由に指定できることで、建物全体の数量やフロアごとの数量など作業に合った数量が短時間で取得できることも、発注などへの活用促進を後押ししている。
また、BIMモデルからデジタルで数量を拾うことで集計ミスなどのヒューマンエラーがないことから、作業精度の向上とともに、コンクリート廃棄量・CO2の削減にも寄与している。
まとめ
今回の長谷工版BIMモデルを用いたコンクリート数量拾いが活用できている一番の要因は、BIMモデル自体の精度が高いことが挙げられる。
Dynamoを活用し作業時間の短縮とヒューマンエラーの削減に効果が出てはいるが、何よりも重要なのは施工情報の入った正確なBIMモデルがあり、正確な数量拾いが可能となっている点である。
今後の展開
設計図書や施工図を出力している長谷工版BIMモデルには、設計や施工に関わるさまざまな情報が入力されている。
ただ図面を出力するツールではなく入力データを効率的に活用することで、コンクリート以外の数量拾いやDynamoなどを活用した単純作業のシステム化・自動化などにより、業務フローを改革していく。
また、長谷工版BIMを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、建設作業所における生産性向上と働き方改革を実現していきたい。
【出典】
建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM

最終更新日:2023-09-07