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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM > 大規模スタジアム現場のBIM活用

はじめに

コロナの影響で長らくBIMによる成果の発信がWEB等のデジタル空間での事例説明に限って行われてきた。
2022年11月末都内で開催されたBIMイベントで発信された内容をトピックでお知らせしたいと思う。
BIMを実施することの効果や実現場で行われたBIMマネジメントで工夫した事例が建設会社、設備専門会社で発表された。
今まで当たり前であった対面での発表に際して、実際に携わった人の顔を見て、生の声を聞く機会の大切さを感じた。
CDEによる建設プロセスに起こり得る課題解決、コミュニケーション、承認が元請建設会社のリードにより実施された内容である。
嬉しいことにその場で発信したメンバーの一人として参加させていただいた説明の抜粋をWEB等で公開されているものを集約して報告する。
 
 

全体BIMの体制

全体BIMの体制は、合意形成のためにモデリングをした建築モデル、構造モデル、Revitモデルを基に実施設計モデルを行い、確認申請や現場発行時に主要な設計図をモデルから切り出した。
また、各範囲の複数ファイルをRevitリンクで一つの統合モデルとした。
CDE環境はISO19650に基づき大林組BIM360環境下を利用し、発注者様を含めた多方面関係者間で統合モデルを共有、全体に関わる課題解決、合意形成を行った。

全体 BIM 体制
全体 BIM 体制

 
 

全体工事の把握

スタジアムの工事は、屋根スライド工法の採用やガーダー架構の早期構築など全体工程として複雑に組み合わされている一方、調整工事が場内の至るところで絶えず行われているため、工事動線や重機配置など場内計画と合わせた全体の計画を厳密に調整する必要があった。
そこでRevitの機能により作成した工事のSTEPモデルとArchicadで作成した工事造成地盤モデル、仮設モデルをIFC変換してRevit上で合体、関係者へ共有することで全体の理解と施設ごとの工事検討利用へつなげた。

全体工事 STEP図
全体工事 STEP図
工区割りモデル
工区割りモデル
大規模スタジアム外観パース
大規模スタジアム外観パース

 
 

躯体数量積算

Revitの集計機能を利用し、現場打ちのコンクリートとなるエリアにおいては、設計モデルから工区別のパーツモデルを作成し、工区割の妥当性を検討した。
 
ガーダー架構は、巨大な躯体の短期間施工を実現するために、柱の外殻や梁底を分割PC化し、現場打ちコンクリートと組み合わせた施工計画となっている。
これらのPCをRevit上でパーツ化し、各パーツにPC設置日やコンクリート打設日のパラメータを追加し、管理することで進捗状況の見える化や打設数量の検討に活用した。

基礎版工区別数量
基礎版工区別数量
ガーダー躯体 工事進捗把握
ガーダー躯体 工事進捗把握

 
 

ビジュアル工程管理システム(プロミエ)

固定屋根と可動屋根の鉄骨工事を対象とし、現場施工管理者が出来高を管理するのに、大林組開発システムをプラットフォームとして、情報を共有し、連携管理を試行した。
このシステムは、名前のとおり、計画工程や実際の進捗状況を色別にビジュアル化し確認ができ、タイムライン表示も行うことができる。
これにより、誰でも工程の前倒しや遅延状況の把握が容易になった。
また、実績登録日と製品重量情報から、全体の出来高をグラフ化して表示させる機能があり、システム内で自動表示、出力した情報を詳細グラフ化し活用した。

現場内で使用
現場内で使用
【進捗管理】建方表示
【進捗管理】建方表示
出来高算出機能
出来高算出機能

 
 

システム連携実例

ドローン、点群活用

土木班の土量管理と全体工事状況確認を目的に導入し、生成された現況の地盤点群データをRevit上で計画モデルと重ね合わせ、計画・現況の比較や仮設工事の計画に利用した。
 
実際には、点群の誤差が数cm程度あるため正確な精度管理を求められる検討には向いていなかった。
しかし、広範囲の敷地とモデルの関係を早く把握する手法としては十分な利用価値があり、測量の手軽さと短時間でデータを取得・利用できる点を考えると、タイムリーな検討には、十分生産性の向上ができた。

点群と BIM 重ね合わせ
点群と BIM 重ね合わせ

 
 

4D管理システム

実証実験の取り組みとして、4D施工管理支援システムにBIMを活用した。
BIMを基にした建築物の施工状況に、ドローンの点群データを重ね合わせることで現場の現地盤を再現した。
そのデジタル空間をプラットフォームとし、IoT化した重機の位置や稼働状況、監視カメラの映像、作業員の出面情報など、現場管理に必要な情報を連携させることで、リアルタイムに現場の状況を反映させるものである。
 
デジタル空間上で一元的に管理することで、従来そこに行かなければ分からなかった情報を遠隔から確認でき、施工管理の効率を向上させようと取り組んだ。

リアルタイムに現場稼働状況を反映
リアルタイムに現場稼働状況を反映

 
 

関係各社に関わる課題解決

施工確定には、施工が実現可能な詳細度の作成が必要で、なおかつ、同時並行の限られた時間内で関係各社との課題解決を求められる。
また、当たり前とされた紙資料で確認、改善提案、決定方針の共有は人間の受け止め方による齟齬が発生する。
関係者と関わっていく、モノ決めをCDE活用のBIM360内で解決を試行した。
 
以下に実例を挙げる。

 

意匠と設備

意匠とダクトの納まり確認では、電光掲示版と後ろに設置の設備ダクトをそれぞれに組み込まれている情報を連携しBIM360で確認をした。

 

揚重機検討・搬入計画

Revit建築モデルをCDE・BIM360へリアルタイムで共有していただくことで、信憑性のある建築データを基に、搬入時の揚重機検討、搬入機設置、ルート選定計画が可能となった。
クレーンのパラメータ情報が信憑性のあるデータとなり、確実なものとして荷重計算の課題を解決することで、関係者間で円滑に搬入を計画することが可能であった。

建築データを基に搬入計画
建築データを基に搬入計画

 

お客様と合意形成

テクスチャーというパラメータを用いて、お客様に見せる努力、ISO19650で必要不可欠な承認行為へ活用し、設置をした。
これは、工事関係者のみならず、お客様に十分に理解を得て、モノ決めをする流れもCDE活用だから円滑に行うことが可能であった。

 

海外設計事務所・他拠点との意思伝達

海外の設計事務所や他拠点の意思決定者へBIM360のCDE内でデータを届け、見える化以上の意思決定の活用をした。
BIM360上で差出人や宛先の明確な指摘事項などを用いて、信憑性のあるモデルに対して、リアルタイムで意思伝達をすることで訴求力のある意思決定の促しを実施することが可能となった。

大型機器の外観確認
大型機器の外観確認

 
 

ダクトファブリケーション

新菱冷熱工業㈱は、BIMモデルから部材を抽出し、製造製作・加工データとして工場に渡すファブリケーションに取り組んだ。
工場新設の際、Revitデータをそのまま製作につなげるという仕組みをもたらしたダクト専門工事会社との連携により、現場内で加工・切断をしているダクト業者さんの多くの作業を事前に解決することを可能とした。
 
Revitデータには、高精度の製造情報がデータとして内包され、今まで製造データに手を加えるのに、ダクト1ピース当たり20分程度入力していた労力が一瞬のうちに、加工機までつなげることができる。
協力会社の後工程の作業を解決することで、省力化・省資源化を図り、働き方の転換にもつながった。
また、工場制作率を高めることにより品質の安定化とともに廃棄物抑制にも貢献できた。

ファブリケーションのフロー
ファブリケーションのフロー

 
 

ステータス管理システム

現場施工管理者が管理していく上で、オブジェクトの状態を把握することが大切である。
Revitで作成したBIMモデルに、発注から検査までのステータスにパラメータ付与し、新菱冷熱工業(株)が開発したクラウド上のステータス管理ツールと連携した。
現場施工管理者が直接ステータスを変更したり、進捗写真を遠隔操作担当者へ送ることで、現場内の部材管理を行うことを可能とし、全体の進捗をエリア選択し集計をすることで出来高のパーセンテージを表示し、現場進捗状況の可視化も可能である。
 
形のみならずと、いつ頃までに搬入がされていないといけないのかという、資材フェーズ情報とクラウド上のステータス管理システムを連携し、みんなで把握・管理することで、施工管理作業の利便性を試行することができた。

ステータス管理システム
ステータス管理システム

 
 

風量測定・制気口リスト

モデル内に設置している制気口を利用し、現場内検査として必要不可欠な風量測定の利便性向上を試行した。
設置済みの制気口のファミリに対し、サイズや有効面積、設計風量といった風量測定の指定書式に必要なパラメータを準備し、制気口の集計表を出力。
そのデータを指定書式と連携することで、一つ一つ手作業で行っていた作業を自動化することを行った。
また、この書式を、測定風速の結果として出てきた数値と連携させることで、手入力の手間を省き、人為的ミスも削減することが可能であった。

風量測定のフロー
風量測定のフロー

 
 

課題と対策

今回の大規模スタジアム建設のBIM活用から生まれた今後の課題と対策について述べる。
 
BIM人材確保の課題として、マネジメント、モデリング、利用者ともに不足していると感じられる。
この課題には、各々のスキルアップと、プロジェクトごとに適切な要因配置をしていく必要がある。
 
次に、大規模データの扱いの課題としては、ハンドリングの悪さや共有しづらい面が多くの場面で生じ、対処できるよう工夫を迫られた。
今後は、データの軽量化、ハードソフトの整備が強化される
ことを期待しつつ、最適なデータを組み合わせて運用する手法を初期段階でにらむ工夫が必要であると感じる。
 
最後に、システム一元化としては、利用する側がどう利用して生産性向上につなげられるか具体的なビジョンをさらに明確にする必要があり、利用者意見を反映したシステムDXの開発推進がさらに求められると思われる。
 
 

今後への期待

全体に関わる課題をCDE活用し解決することに関して、ISO19650もしくはEIRに準ずるBIMデータ利用環境により、課題解決を軌道に乗せていきたいと期待する。
 
次に、ファブリケーション、プレファブ、オフサイト施工を通して現場作業を減らす動きがある中、どのように行うのか。
情報の正確さ、信憑性を高める管理手法体制を整備していくことで現場の生産性向上へつながることに期待する。
 
最後に、ステータス・出来高管理をBIM情報で行うことに関して、正確なステータス情報の共有があることで、遅れや不具合が大きな課題につながることを未然に防ぎ、関係者間の影響低減につながると期待を込めている。

課題と対策

 
 

おわりに

元請建設会社である(株)大林組が準備したCDEの環境が全体最適をもたらし、関係者間で利用をしていこうと提案し、活用していった。
このことが今回の大規模スタジアム建設におけるBIM運用のポイントであり、重要であったと感じる。
 
現場はリアルな空間での出来事である。
リアルな事例説明に接して、使い分けバランスが大切であることを再確認した。
 
 
参考文献:施工BIMのインパクト2022
 
 
 

BIMチーム 
谷内 秀敬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-09-05

 

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