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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM > BIMによる設計と積算の連携へ組織横断的なチームで挑む!

株式会社アーキテクト・ディベロッパー(architect developer,Inc.)

創業2008年10月1日。
アパート・マンションなど集合住宅の企画・立案から設計、施工、その後の運営、物件管理、コンサルティングまで賃貸用集合住宅に関わる全機能を備えた総合力で成長を続ける。
売上高は450億8,300万円(2022年3月期)。
また、2022年3月末時点で管理戸数3,436棟・41,565戸の管理実績を誇り、管理物件における入居率は99.2%で実に10年連続99%以上という驚異的な割合を維持している。
 
 

全社的なBIMを視野に

これは、BIM導入と同時に積算との連携をワンモデルで成功させた、ある会社の挑戦の物語だ。
 
その会社の名は、株式会社アーキテクト・ディベロッパー。
同社がチーム編成など約3カ月の準備期間を経てBIM導入のための検証プロジェクトをスタートさせたのは2022年1月。
ただ、これは単に設計にBIMを導入するという話ではなかった。
 
賃貸用集合住宅に関わる全領域を手掛ける同社は、最終目標を“設計と積算の連携”をワンモデルで実現した上で、全部門を一気通貫させたBIMプロセスの確立に置いたのだった。
具体的に検証プロジェクトに挑むチームの編成にも、目標を全うする強い意志が現れていた。
本プロジェクトを現場で指揮した建築本部設計開発部設計システム課の課長・石井宗弘氏は次のように語った。
 
「最終目標を見据えて、組織横断的に各部門の代表を入れて編成しました。もちろん、当初は設計と原価(積算)の2部門がメインになるため、その他の部門はオブザーバー的な参加になりましたが、全社的な活用に向けてBIM知識の浸透と理解を全部門に広げる目的があったからです。社員が同じ方向を向くことが重要でした」
 
このプロジェクトには、BIMソフト「Archicad 」上で動くアドオンソフト「BI For ArchiCAD」が重要な役割を担ったが、本ソフトウエアを擁してBIMの活用スタイルを提案する株式会社U’sFactory(ユーズファクトリ)もメンバーの一員として参画した。
通常、コンサルタントとして指導する側にある同社を各部門の代表と同列にしたチーム編成に、アーキテクト・ディベロッパー自身の、並々ならぬ変革への意志が感じられた(図-1)。

図-1 BIM検証プロジェクトチーム
図-1 BIM検証プロジェクトチーム

 
 

ワンモデルでの積算

検証プロジェクトの第一関門は3月の役員プレゼンだった。
プロジェクトを本格的に始動させるためには、その大前提であったワンモデルでの“設計と積算の連動”が、BIMで可能なことを役員に納得してもらうことが第一だった。
同社ではこれまで原価計算にExcelを使っていたが、役員たちが見守る中、設計モデルのデータは、Excelの積算フォーマットに見事に出力された。
ここに本プロジェクトは、実用化に向けた本格的な検証段階に入ったのである(図-2)。
 
一般的にBIMによる設計と積算の連携は、BIMツールによる設計モデルを作成した後で別の積算ソフトを使って行われるが、これでは真の意味の連携とは言えない。
なぜなら積算担当者による代用入力が必須な上、手拾いでの入力、単価入力などの作業が避けられず、非効率なだけでなく誤入力や重複入力など人為的ミスが発生しやすく手戻りも多いからだ。
 
従って、積算精度は担当者の力量に左右されてしまう。
同社の場合、設計と積算のズレは、利益率低下に直結する。
石井氏は、同社にとっての設計と積算の連携の意味をこう語る。
 
「弊社は、一棟の単価が約1.0億~1.2億円の物件が多く、適正な利益を得るためには、積算額の誤差を最小限に抑える努力が欠かせません。従って、積算の精度向上は社内でも以前から課題となっていました」
そうした社内の意識を、BIMの導入とともに一気に次に進める契機となったのは、一人の新入社員の「BIMというソフトがありますよ」という一言だった。
この声を受けた設計部は、すぐに部内プレゼンを行いBIMの大いなる可能性を感じた。
そして設計部発による全社的なプロジェクトが始まったのだった(図-3)。

図-2 BIM導入スケジュール
図-2 BIM導入スケジュール
図-3 ワンモデルの構築とBIMプロセスの確立
図-3 ワンモデルの構築とBIMプロセスの確立

 
 

設計データの情報不足

BIM導入のための検証プロジェクトは、第1から第3までの3フェーズで行われた。
第1フェーズでは、敢えて設計部門と原価(積算)部門それぞれに別々のモデルを作成した。
文字通りゼロからのBIM導入で当たったため、一般的に行われている状況を再現するプロセスとなったが、設計部門が一つのデータであったのに対し、原価部門は躯体・内部部屋・外面仕上げの3データとなった(図-4)。

図-4 設計/原価 各部門による検証
図-4 設計/原価 各部門による検証

当然ながらデータ不整合、入力手間、部材重複登録などが生じ、むしろこれまでより人工がかかるという事態になった。
このとき設計部門が検証用に選んだのは、同社の鉄骨造(パネル工法)のブランド「逸鉄/ITTETSU」の既存物件だ。
決して容易ではないタイプを選んだ効果を石井氏はこう振り返る。
 
「構造が複雑な鉄骨造でしかも60分準耐火という3階建の集合住宅です。設計面では手間がかかりましたが、むしろこの構造でBIM導入をスタートできたことで、結果的にはその後の自信につながりました」
 
6月には第2フェーズに入った。
ここでは設計モデルのみでどこまで積算できるかをテストした。
結果は発注項目数184に対し積算出力できた項目がわずか11、全体の6%に過ぎなかった(図-5)。
 
「クロスや長尺シートなど、この11項目はたまたま偶然出た、という感じです。実は『Archicad』を入れてモデルを作りさえすれば積算できると思っていたのですが、できなくて当然でしたね。積算に必要な情報が図面に書かれていなかったのです。もっと細かな箇所まで作り込んでいく必要があったと痛感しました」
石井氏は、目標を見据えた実質的なスタートである第2フェーズの展開をこう省みた。
そして、まさにこの言葉に、ワンモデルでの“設計と積算の連携”成功のキーがあったのだ。

図-5 設計/原価検証結果図
図-5 設計/原価検証結果図

 
 

積算を考えた設計モデル

アーキテクト・ディベロッパーのBIM導入プロジェクトは、積算精度の結果を受けて第3フェーズに入っていった。
ここでの目標は、石井氏の発言とも結び付く“積算を考慮した設計モデル”の作成だった。
こうしてワンモデルでの積算精度を上げていくチャレンジが、繰り返されていった。
しかし、設計と積算の連動はなかなかスムーズに進まなかった。
 
「『Archicad』で複雑な断面形状を作成してオブジェクト配置しても、図面表現は満足できるクオリティなのですが、積算と連動できない。そんなケースが数多く発生しました。その都度、ユーズファクトリさんに相談し、積算用の専用オブジェを作成してもらいました。例えば一つ配置するだけで矩計図の表現が可能になる折板屋根やサイディングなどです。
内部で言えば、積算を考えなければ表現する必要のない巾木や壁紙のオブジェクトなども作成されました。これらによってパーツを一つひとつ描く必要がなくなり、手間も削減されました」
 
石井氏がこう語る専用オブジェクトとは、例えば設計者が床の形を描きさえすれば、必要に応じて積算に必要な部材がセットされたオブジェクトが自動発生するイメージだ。
第3フェーズでは、積算との連携をスムーズにするため、こうした専用オブジェクトが次々に作られていった(図-6)。
 
そのための意見交換を円滑にするために、プロジェクトチームの定例会議は月2回、不定期の個別打合せは半年で15回というペースで実施され、設計部側からの要望に対する検討が行われた。
ユーズファクトリには施工マニュアルも手渡された。
このほかExcel上で質疑応答が行える「質疑相談シート」をCloudを用いてメンバーで共有し、出来上がったオブジェクトの不具合にはすぐに修正依頼が寄せられた。
そうした要望の数は週50件にも上り、ユーズファクトリ側の対応状況は定例会議で改めて共有された。
トライ&エラーの繰り返しは、BIMのみで積算できる割合を徐々に上げていった(図-7)。

図-6 一枚の屋根を配置すれば積算に必要な情報を持つオブジェクトが自動発生する
図-6 一枚の屋根を配置すれば積算に必要な
情報を持つオブジェクトが自動発生する
図-7 トライアンドエラーにより改良されたオブジェクト等
図-7 トライアンドエラーにより改良されたオブジェクト等

 
 

縦割り体制が変わる

第2フェーズで全体の6%に過ぎなかった積算出力項目数は、10月の時点で184の発注項目数に対し積算出力項目
137と全体の74.5%に上昇、実用化への目処が立ちつつあった(図-8)。
こうして本プロジェクトが当初の目標に手が届く位置になった背景には、第3フェーズで述べたような各担当者の努力の積み重ねがあった。
しかし、それ以前に根本的な成功要因を挙げるとすれば、最終ゴールに「全部門を一気通貫させたBIMプロセスの確立」を置いて部門間の垣根を壊すことを試みたプロジェクトの精神だったと言えよう。
同社には「UP(アップ)」という誰でも提案できる公募制度がある。
これに象徴されるオープンな社風が本プロジェクトを押し進めたのは間違いない。
 
BIMを導入しても、なかなか社内に浸透しない、という声をよく聞く。
それは、言葉を変えれば縦割り体制が邪魔して組織を挙げてのムーブメントにつながりづらいからだ。
アーキテクト・ディベロッパーでは、組織横断的なプロジェクトの精神を理解することで現場スタッフの考え方も変わっていった。
設計図書の作成が仕事だと思っていた設計システム課の担当者も「積算に配慮した図面を書けば、原価に直結する」ことを意識し始めた。
また、2次元上で自分が描いた線が実際の建築でどう納まるかを、BIMの3Dモデルを通し自らの目で確かめることで積算への理解はさらに進んだ。
全部門を一気通貫させるという最終ゴールに向けても、社内の関心は徐々に高まっている(図-9)。
 
「営業部門から『BIMx』を使ってプレゼンテーションしたいという要望が寄せられています。また、“Webでの内覧など物件を借りたい人向けに家具が置かれた状態を3Dで見せられたら”というアイデアも出ていますね。積算との連携は実用化まであと一歩ですが、来年度にはBIMによるワンモデルでの意匠設計と積算の本格稼働や、弊社の他の工法での検証も進めたいと思っています」
 
石井氏はプロジェクトの進行に自信をのぞかせながら、実用化の先にある組織のさらなる活性化も視野に入れているように見えた。

図-8 設計/原価検証結果
図-8 設計/原価検証結果
図-9 積算を考えた設計モデル
図-9 積算を考えた設計モデル

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-09-05

 

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