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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 「建築基準法の一部を改正する法律 (平成30年法律第67号)」について

 

1 はじめに

建築物をめぐっては,建築技術の進歩,大規模な災害の発生,市街地環境の変化等,建築物を取り巻く社会経済情勢のさまざまな変化に対応するため,建築規制制度の合理化・実効性の向上を図ってきたところであるが,近年,新たな課題が生じている。
 
例えば,古民家の商業的利用や,空き家等のグループホーム・保育所としての活用といった新たなニーズに対応するため,既存建築物の用途を円滑に変更するための建築規制の合理化をはじめ,建築規制制度の一層の合理化の要請が高まっている。
 
また,これまで木造によることの少なかった建築物等の木造・木質化を推進するため,木造建築物に係る建築規制制度の合理化が求められている。
 
その一方で,糸魚川市大規模火災(平成28年12月)や埼玉県三芳町倉庫火災(平成29年2月)等の大規模火災による甚大な被害の発生を踏まえ,建築物の適切な維持保全・改修等による安全性の確保や,老朽化した木造建築物の建替え等による市街地の安全性の向上を図るための施策を講ずることが急務となっている。
 
こうした背景を踏まえ,建築規制制度の一層の合理化を推進するため,
・木造建築物の耐火性能に係る制限の合理化
・耐火建築物等としなければならない特殊建築物の対象の合理化
・防火地域及び準防火地域内の建築物に関する規制の合理化

・建築物の用途を変更して一時的に他の用途の建築物として使用する場合の制限の緩和等の措置を講ずることとした。
 
また,建築物の安全性の確保や市街地の安全性の向上を推進するため,
・維持保全に関する計画等を作成すべき建築物の範囲の拡大
・準防火地域内等における延焼防止性能を有する建築物の建蔽(けんぺい)率制限の緩和等の措置を講ずることとした(図-1)。
 

【図-1 防火関連規制見直しの考え方】




 

2 改正の概要

(1)建築物・市街地の安全性の確保

①維持保全計画の作成等が求められる建築物の範囲の拡大(法第8条第2項)
従来,法第12条第1項に基づき定期報告が義務付けられる対象建築物は,避難上の安全性を確保する観点から定められていることから,その所有者または管理者は,建築物の敷地,構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するため,必要に応じ,建築物の維持保全に関する準則または計画を作成し,その他適切な措置を講じなければならないこととしてきた。
 
一方で,大規模な倉庫火災を踏まえた延焼防止の観点から必要な防火シャッターの点検や,後述する小規模な特殊建築物における確実な避難を実現するための警報設備の点検など,定期的な点検よりも日常的な点検の必要性が高い建築物を想定し,今般,維持保全に関する計画等を作成すべき建築物の範囲を定期報告の範囲と異なるものとして設定することとした。具体的には,
 
1) 特殊建築物で安全上,防火上または衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの
2) 1)以外の特殊建築物その他政令で定める建築物で,特定行政庁が指定するもの
 
に改めることとした(図-2)。
 

【図-2 維持保全計画の作成が必要となる建築物等の範囲の拡大】



②既存不適格建築物の所有者等に対する特定行政庁による指導及び助言の創設(法第9条の4)
従来,法第10条第1項により,
 
・別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物(延べ面積100㎡超のもの)
・事務所等の用途に供する建築物(5階以上かつ延べ面積1,000㎡超のもの)
 
であって,単体規定についての既存不適格建築物について,損傷,腐食その他の劣化が進み,そのまま放置すれば著しく保安上危険となり,または著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合には,当該建築物の所有者等に対し,必要な是正措置をとることを特定行政庁が勧告できることとしてきた。
 
また,同条第2項では,正当な理由なくその勧告に従わなかった場合において,当該所有者等に対し,その勧告に係る措置をとることを特定行政庁が命令できることとしてきた。
 
今般,特定行政庁は,既存不適格建築物について,損傷,腐食その他の劣化が生じ,そのまま放置すれば保安上危険となり,または衛生上有害となるおそれがあると認めるときは,当該建築物の所有者等に対し,修繕,防腐措置その他当該建築物の維持保全に関し必要な指導及び助言をすることができることとした(図-3)。
 

【図-3 既存不適格建築物に係る指導・助言の仕組みの導入】



③準防火地域内等における延焼防止性能を有する建築物の建蔽率の緩和(法第53条第3項第1号)
従来,防火地域内の耐火建築物については,都市計画で定められた建蔽率に10%を加えた数値を上限とすることを可能としてきた。
今般,上記に加え,
 
・防火地域内:耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物
・準防火地域内:耐火建築物,準耐火建築物及びこれらの建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物
 
についても,都市計画で定められた建蔽率に10%を加えた数値を上限とすることを新たに可能とした(図-4)。
 

【図-4 延焼防止性能の高い建築物に係る建蔽率の緩和】



④壁面線等に沿って建替えをする場合の建蔽率の緩和(法第53条第5項)
従来,連続した開放空間を確保し,市街地の安全性の向上を図るため,法第46条第1項に基づき,特定行政庁は前面道路の境界線から後退した壁面線の指定等をすることを可能としてきた。
 
今般,街区における避難上及び消火上必要な機能の確保を図る観点から,特定行政庁が前面道路の境界線から後退した壁面線の指定をした場合等(一定の都市計画や地区計画等に関する条例において,壁面の位置の制限が定められた場合も同様)で,特定行政庁が安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めて許可した範囲内においては,建築物の建蔽率を緩和できることとした。
 
 
⑤条例による接道規制の強化が可能な建築物の対象拡大(法第43条第3項第5号)
従来,特殊建築物や3階以上の建築物等,用途または規模の特性を有する建築物については,地方公共団体が条例で接道規制を強化することができることとされてきた。
 
今般,上記に加え,敷地が袋路状道路にのみ接する建築物で,延べ面積が150㎡を超えるもの(一戸建ての住宅を除く。)についても,地方公共団体が条例で接道規制を強化することができることとした。
 
 

(2)既存建築ストックの活用

①用途変更に伴って建築確認が必要となる規模の見直し(建築確認を要しない特殊建築物の範囲の拡大)(法第6条第1項第1号)
従来,主に防火・避難上の観点から,別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物のうち,その用途に供する部分の床面積の合計が100㎡超のものについては,法第6条第1項第1号に掲げる建築物として,建築確認の対象とされてきた。
 
今般,当該範囲を200㎡超に改め,これに伴い,特殊建築物へ用途変更する場合に必要となる建築確認の範囲についても,200㎡超とした。なお,200㎡以下で新築等の場合,法第6条第1項第2〜4号に掲げる建築物に該当するものは,引き続き建築確認の対象となる。
 
 
②3階建の戸建住宅等を他用途に転用する場合の規制の合理化(耐火建築物としなければならない特殊建築物の対象の合理化)(法第27条第1項)
従来,3階建以上の旅館や物販店舗等の特殊建築物には,火災時の在館者の避難安全性を確保するため,床面積にかかわらず,耐火構造等の特定避難時間の火熱によって損傷しない構造とすることが義務付けられてきた。
 
一方で,戸建住宅程度の床面積の規模が小さな建築物の場合,避難距離が短く,避難に要する時間も短いことから,今般,法第27条第1項において,3階建で延べ面積200㎡未満の特殊建築物の場合,耐火構造等としなくてもよいこととした。なお,この場合,就寝用途については避難開始が遅れるおそれがあることに配慮し,警報設備を設置する措置及び階段の安全措置を求めた(図-5)。
 

【図-5 戸建住宅等の転用円滑化に向けた規制合理化】



③用途変更に係る全体計画認定制度の導入(法第87条の2)
従来,防火避難関係の規定に関し既存不適格となっている建築物の用途を変更する際には,既存不適格部分を現行基準に適合させることとしてきた。
 
今般,法第87条の2において,用途変更に伴う遡及適用対応に関し,最終的に不適合状態が解消されることを前提に,段階的・計画的な改修による対応を認める制度として,用途変更に係る全体計画認定制度を導入することとした。本制度では,建築主が用途変更に伴う遡及適用への対応に必要な改修工事について,各改修工事の実施時期等を定めた計画を作成し,当該計画について,特定行政庁の認定を受けることとなる(図-6)。
 

【図-6 用途変更に係る全体計画認定制度の導入】



④一時的に他の用途に転用する場合の制限の緩和(法第87条の3)
従来,仮設建築物は新築等が前提となっており,既存建築物の一時的な転用に対応する規定がなかった。
 
今般,法第87条の3において,既存建築物の用途を変更して一時的に他の用途の建築物として使用する場合について,仮設建築物を建築する場合と同様に,法の全部または一部の適用除外を認めることとした。
 
 

(3)木造建築の推進

①延焼のおそれのある部分の見直し(法第2条第6号)
隣地境界線等から3m(1階)または5m(2階以上)以下の距離にある建築物の部分のうち,建築物の外壁面と隣地境界線等との角度に応じて,当該建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのないものとして国土交通大臣が定める部分については,「延焼のおそれのある部分」には該当しないものとした。
 
 

②木造建築物等の耐火性能に係る制限の合理化(法第21条第1項)
従来,高さ13mまたは軒高9mを超える木造建築物については,耐火構造とすることが義務付けられてきたが,今般,1)規制対象となる規模等と2)規制対象となった場合の措置について,それぞれ,次のとおり改めた。
 
1)本項の規定の主旨が火災時における周囲への加害防止であることに鑑み,従来の基準における最大の発熱量等を有する高さ13mの倉庫・自動車車庫を基準として,これらの用途を除く建築物については,規制対象となる規模を高さ16m超または階数4以上とした。また,周囲に空地を確保できる場合は規制の対象外とした。
2)通常の火災に対する通常の消火の措置を想定した火災の終了時間について,当該時間の火熱によって損傷しない構造とすることを義務付けた。これにより,耐火構造だけでなく,性能の高い準耐火構造も可能となった(図-7)。
 

【図-7 中層建築物に係る防火関連規制の合理化】



③木造の特殊建築物の外壁等の規制の見直し(削除(法第24条))
法第24条が現在と同様の規定内容となった当時と比べ,消防力は格段に向上しており,法第23条に規定する20分間の非損傷性・遮熱性を有すれば,延焼の抑制という法第24条の目的は達成されることから,今般,法第24条を削除した。
 

④木造の大規模建築物の区画に関する規制の合理化(法第26条及び法第36条)
従来,延べ面積が1,000㎡を超える建築物について,耐火建築物や準耐火建築物である場合等を除き,防火上有効な構造の防火壁によって有効に区画し,かつ,各区画の床面積の合計をそれぞれ1,000㎡以内としなければならないこととしてきた。
 
今般,法第26条,法第36条の改正により,垂直方向の区画を形成する防火壁だけでなく,水平方向の区画を形成する防火上有効な構造の防火床による措置も可能とした。
 
 

⑤防火地域及び準防火地域内の建築物に関する規制の合理化(法第61条)
従来,防火地域・準防火地域に立地する建築物や門・塀を対象として,その規模に応じて,建築物については耐火構造,準耐火構造等とすること,門・塀については不燃材料とすることが義務付けられてきた。
 
防火地域・準防火地域における規制の目的が,隣棟延焼が連続することによる市街地火災の発生の防止であることに鑑み,従来のように外壁・間仕切壁・柱・はりなどをすべて耐火構造とする耐火建築物等による設計法に加えて,外壁や窓の性能を強化する代わりに内部構造において部分的に木材を使用した建築物についても,同等以上の延焼防止が実現できることが検証できた場合には,当該建築物を建築可能とする設計法を位置付けた。さらに,防火地域・準防火地域における2m超の門・塀についても,周囲への延焼を助長しない構造の場合は,不燃材料としなくともよいこととした(図-8)。
 

【図-8 防火・準防火地域内の建築物に関する規制合理化】



⑥特定防災街区整備地区内の建築物に関する規制の合理化(法第67条第1項)
従来,特定防災街区整備地区内の建築物は,耐火建築物または準耐火建築物としなければならないこととしてきた。
 
今般,防火地域及び準防火地域内の建築物に関する基準の見直しと同様の見直しを,密集法に基づく特定防災街区整備地区内の建築物についても行い,特定防災街区整備地区内に建築可能な建築物として,耐火建築物または準耐火建築物に加え,
 
・耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物
・準耐火建築物と同等以上の延焼防止性能を有する建築物
 
を追加することとした。
 
 

3 おわりに

改正法は令和元年6月25日に全面施行された。これらの建築基準の合理化が,さらなる建築活動の円滑化に資することが期待される。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 企画専門官 高木 直人

 
 
 
【出典】


建築施工単価2019秋号



 

最終更新日:2020-01-14

 

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