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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 今なぜ 『建築BIM推進会議』なのか 国と民間が一体で進めるデジタル生産革新

 

はじめに

(1)Society5.0の社会へ
デジタル技術がもたらす社会像として「Society 5.0」があります。「Society 5.0」は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿として平成28年に提唱されたものです。これまでの狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。
 
これまでの情報社会(Society 4.0)では、社会での情報共有が不十分であったが、Society 5.0で実現する社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」とあり、AI 、IoT化といったデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性について提唱されています。
 
一方、内閣府の新しい経済政策パッケージ(平成29年12月8日 閣議決定)では、Society 5.0の社会実装を進めるため、建設分野の制度改革として、3次元データの活用などが位置付けられており、BIMの活用および進展が将来、Society 5.0の実現に向けた一つの契機になるものと期待されています。
 
 

(2)Society5.0の実現に向けた取組
わが国は、現在、人口減少社会を迎えており、潜在的な成長力を高めるとともに、働き手の減少を上回る生産性の向上が求められています。また、産業の中長期的な担い手の確保・育成等に向けて、働き方改革を進めることも重要であり、この点からも生産性の向上が求められています。
 
こうした観点から、国土交通省では、平成28年を「生産性革命元年」と位置付け、社会全体の生産性向上につながるストック効果の高い社会資本の整備・活用や、関連産業の生産性向上、新市場の開拓を支える取り組みを加速化し、生産性革命プロジェクトを実施してきました。この生産性革命プロジェクトの中にICTの活用等により調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて抜本的な生産性向上を目指すi-Constructionの取り組みがあります。
 
内閣府の「未来投資戦略2018」の(平成30年6月15日 閣議決定)では、2025年度までに建設現場の生産性の2割向上を目指すことが掲げられ、そのための具体的施策として、2019年度までに、建設プロセスにICTの全面的な活用等を推進するi-Constructionに向け、対象を建築分野に拡大することとされています。
 
 

また、民間発注を含めた建築工事全体でのBIM普及に向けて、民間事業者等と連携し、建築物の設計・施工・管理の各段階におけるBIM活用の手順や共有するモデルの属性情報の整理等について課題抽出を行うとともに、BIMの有効性等の普及啓発方策を検討し実施するものとされています。
 
さらに、「成長戦略フォローアップ」(令和元年6月21日 閣議決定)においても、i-Constructionの貫徹やBIMを国・地方公共団体が発注する建築工事で横展開し、民間発注工事へ波及拡大させていくこと、BIMによる建築確認申請の普及に向けた検討、国・地方公共団体、建設業者、設計者、建物所有者などの広範な関係者による協議の場を設置し、直面する課題とその対策や官民の役割分担、工程表等を2019年度中に取りまとめることが盛り込まれています。
 
このような状況を踏まえ、平成30年度にi-Constructionのエンジンとして、先行して土木分野で重要な役割を担ってきた、BIM/CIM推進委員会では、令和元年度から建築分野のBIMについて拡充を図るため、BIM/CIM推進委員会の下にWGとして、建築BIM推進会議が新しく設置され、建築BIM活用に向けた市場環境の整備について具体的な検討が進められています(図-1)。
 

図-1 建築BIMの推進に係る取り組み:官民一体の推進体制の構築




 

BIMの活用状況および課題

現在、諸外国では土木分野だけでなく、建築分野においてもBIMの活用が進んでいますが、わが国での建築分野におけるBIMの活用については、設計、施工の各分野がそれぞれ個別に活用するにとどまっており、BIMの特徴である情報の一貫性が確保できていない状況にあります。この結果、維持管理段階のBIMの活用は低調となるなど、建築物のライフサイクルを通じたBIMの活用につながっておらず、またBIMの活用効果も限定的となっております。
 
また、国土交通省が平成29年12月~平成30年2月の期間で、設計や施工の関係団体に対して調査したところ、設計分野でBIMの導入実績がある建築設計事務所は3割程度でとどまるものの、半数以上の事務所がBIMの導入に関心をあることが示されています。また、建設分野でBIMを導入した大手ゼネコン等の7割以上がBIMの導入実績があり、高い関心も示されています。一方で、設備設計事務所や中小建設会社でのBIMの活用はかなり限定的で、ほとんど使われていない状況にあります。
 
 

建築BIM推進会議の設置

国土交通省では、建築の設計、施工、維持管理に至る建築物の生産・維持管理プロセスで一貫してBIMを活用することによって、業務効率化や生産性向上を図り、最適な建物のライフサイクルの実現を目指すとともに、建築BIM(図-2)や新技術がもたらす理想的な社会像を創造する取り組みを図るため、官民が一体となって「建築BIM推進会議(以下、「推進会議」という)」を設置(令和元年6月)しました。
 
推進会議では、今後の建築BIMの活用・推進について官民のさまざまな観点で幅広く議論し、わが国にBIMが根付くために何をしたらよいか、建築業界全体が一丸となって対応方策を検討し、とりまとめていくラウンドテーブルとなり、次の①~④の検討を進めています。
 
①建築物の生産・維持管理プロセスに係る各分野におけるBIMの活用・推進に係る検討状況の共有
②BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の将来像の検討・策定
③BIMの活用促進、将来像の実現に係るロードマップ(官民の役割分担、工程表等)の検討・策定
④その他BIMの活用を図るための個別課題の抽出、対応方策の検討
 
具体的には、各分野で進んでいる検討状況の共有やBIMを活用した建築物の生産・維持管理プロセスやBIMのもたらす周辺環境の将来像を議論するとともに、将来像に向けた官民の役割分担・工程表(ロードマップ)を議論し、令和元年度中にとりまとめます。
 
なお、推進会議は、松村秀一東京大学大学院工学系研究科特任教授を委員長とし、学識者の他、建築分野の設計、施工、維持管理、発注者、調査研究、情報システム・国際標準の関係団体により構成されています。国土交通省においても、オブザーバーに加えて、住宅局建築指導課、土地・建設産業局建設業課、大臣官房官庁営繕部整備課の3課で事務局を努めています(図-3)。
 

  • 図-2 建築BIMとは

  • 図-3 建築BIM推進会議の検討体制



 

BIM活用による将来像の策定

令和元年6月13日に第1回推進会議が開催され、国および関係団体等におけるBIMの活用・推進に係る検討状況等の報告・確認が行われた後、BIMの活用による建築物の生産・維持管理プロセスや将来像の検討、将来像の実現に係るロードマップ(官民の役割分担、工程表)の検討等が開始されました。その後、7月に第2回、9月に第3回の推進会議が開催され、将来像・工程表が概ね了承されました。
 
建築物の生産・維持管理プロセスの将来像は「いいものが」つくれ(高品質・高精度な建築生産・維持管理の実現)、「無駄なく、速く」作業でき(高効率なライフサイクルの実現)、「建物にも、データにも価値が」付与される(社会資産としての建築物の価値の拡大)の3つの視点で整理されるとともに、その将来像を実現するための建築業界に必要な取り組みが、次の①~⑦の7項(必要に応じて随時追加)に集約、整理されました。
 
①BIMを用いた建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
②BIMモデルの形状と属性情報の標準化
③BIMを用いた建築確認検査の実施
④BIMによる積算の標準化
⑤BIMの情報共有基盤の整備
⑥人材育成、中小事業者の活用促進
⑦ビックデータ化、インフラプラットフォームとの連携
 
必要な取り組みの7項目については、それぞれ連携して具体的に検討していく必要がありますが、当面、⑥と⑦を念頭に置きながら、①~⑤の取り組みを先行して行うこととなっています(図-4)。
 

図-4 建築BIMの活用による将来像と実現に向けた必要な取り組み(ロードマップ)




具体的な検討作業については、推進会議の下にそれぞれの項目に対して検討部会で行うこととし、①のワークフローの整備に関しては、建築生産・維持管理プロセスで一貫したBIMの活用を可能とするための環境整備に向け、建築生産・維持管理プロセスに関わる全ての関係者間の調整を要することから、国土交通省が中心となる部会(建築BIM環境整備部会)を設置しました。また②~⑤については、既に民間の関係団体等において検討が進められていることから、それらの各団体の活動を部会と位置付け、個別課題に対する検討等が進められています(図-5)。
 
今後、これら部会においてさらに官民が一体となってBIMに関する議論が深まることが期待されます。
 

図-5 建築BIM推進に係る各部会の取組 官民一体の推進体制の構築




 

建築BIM環境整備部会の設置

建築BIM環境整備部会では、BIMを用いた建築生産・維持管理に係るワークフローの整備、企画・設計・施工・維持管理等の各段階で必要となるBIMモデルの形状と属性情報の程度等(標準フォーマット)の検討等を進め、標準的なBIMの活用方法を示したBIM標準ガイドライン(以下、「ガイドライン」という)の策定、BIM実行計画書(BEP※1)およびBIM発注者情報要件(EIR※2)の標準ひな型の策定等を行うことになっています(図-6)。
 

図-6 建築BIM環境整備部会での検討事項




令和元年10月4日に志手一哉芝浦工業大学建築学部建築学科教授を部会長とする第1回建築BIM環境整備部会が開催され、事務局側から提示したガイドラインの構成の素案とともに、業務区分の考え方と役割分担、維持管理段階へ引き継ぐべき情報の考え方等について議論され、令和元年度内に3回部会を開催し、ガイドラインの原案を策定・とりまとめることが確認されました。
 
ガイドラインの策定は、建築物の生産プロセスや維持管理を含めた建築物のライフサイクルにおいて、異なる幅広い主体がBIMを利活用した効率的な手順等を共有でき、BIMを通じ情報が一貫して利活用される仕組みの構築を目指しています。
 
 

今後の展開と展望

令和元年度末に開催予定の第4回推進会議において、各部会における検討結果の報告、関係団体の活動状況の確認等を行った上、BIM標準ガイドラインが策定される予定です。その後はさらに、本ガイドラインにおいてはBEP・EIRの策定、竣工モデルの定義、部品メーカーとのかかわり方の整理、BIMの契約・業務報酬のあり方、著作権等の整理を盛り込むべく検討を行うとともに、関係団体の検討・取り組みとも連携し、官民一体となってさらに検討を行っていく予定です。
 
こうした継続的な取り組みにより、市場のさまざまな事業でBIMが広く活用されることで、関係団体の検証も進み、将来的にはさまざまな人材の育成や幅広い事業者への普及、さらにはビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携等に広がっていくことが期待されています。
 
 
建築BIM推進会議、建築BIM環境
整備部会の詳細については、国土交通省ホームページの「建築BIM推進会議」のページ
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/kenchikuBIMsuishinkaigi.html)をご覧ください。
 
〈用語の解説〉
※1 BEP:BIM Execution Planの略。BIM実行計画書。特定のプロジェクトにおいてBIMを利用するために必要な設計情報に関する取り決め、業務契約書の一部。BIMを活用する目的、目標、実施事項とその優先度、詳細度(LOD)と各段階の精度、情報共有、管理手法、業務体制、関係者の役割、システム要件等を定めて文書化したもの。プロジェクトの関係者間で事前に協議の上、合意し、要件書として作成します。
 
※2 EIR:Employer’s InformationRequirementsの略。BIM発注者情報要件。発注者によって、社内チームとプロジェクト開発のサプライヤーと完成後施設の運用者から要求される情報。発注者からの情報要件の関連概要は、アドバイザー、コンサル、請負者等の調達文書に含まれます。
 
 
 

国土交通省 住宅局 建築指導課 課長補佐 飯田 和哉 / 課長補佐 田伏 翔一

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 

最終更新日:2020-08-17

 

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