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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM > BIM教育の新たな潮流-イチから学ばなければダメなのか?-

概要

実務設計におけるBIMの効果と可能性は非常に大きい。
ただし、4年間Vectorworksを使ったBIM導入支援を行ってきて分かったのは、専門部署が作れないような中小規模の設計事務所での自力導入は、非常に難しいということです。
そこには技術的な問題だけでなく意識の問題も大きく横たわっており、それゆえに普及しない状況になっています(図-1)。

図-1
図-1

 
この状況をどうやってひっくり返し新たなBIMの潮流を生み出すのか。
その鍵は「教育」であると確信しています。
それも「簡単」でなくてはなりません。
誰もが忙しい現代において複雑なこと難しいことが、多くの人に普及するとは思えません。
 
そこで、ここでは実務者に向けた新たなBIM教育について弊社の方法と戦略をお話しできればと思います(図-2)。

図-2
図-2

 
 

実務者へBIM教育

実務での課題

BIM設計はこれまでの設計の仕方とは大きく異なります。
例えば2本線を引けば壁が書けたのが、BIMになると壁の属性情報を与え、立体情報を与え、その情報を引き出すさまざまな仕掛けを用意し、図面はBIMモデルから切り出して作る、と図面化までのプロセスが複雑になります。
 

効率の低下が経営損失を産む

そのため設計効率が一時的に低下。
結果、設計に時間がかかることで仕事が遅れ、結果、経営損失が発生し、経営に重くのしかかってきます。
損失以上のメリットが見込まれる確証が持てればよいですが、持てなければ、耐えきれず多くの設計事務所が導入を断念しているというのが現状です(図-3)。

図-3

図-3
 

BIMを求められていない

BIMに移行しなくても仕事ができる状況がある場合、無理して移行する必要がありません。
2Dで十分効率化が進んでいる場合、わざわざBIM設計に移行するというのは、よほどのメリットがあると計算できた場合以外難しいでしょう。

 

2Dを超える効率化は可能

ただし、BIM設計でも準備が事前にできていれば、まるで線を引くかのように壁を書くだけで、属性情報も立体情報も全て含んだ状態で配置されるので、設計が非常に効率化されます。
多くのリソースが設定済みであれば2Dを超える効率化後は可能です。

 

意識を変えられない

もう一つ、設計の仕方が変わることへの意識的な抵抗です。
誰しも長く慣れてきた手法を変えるのには抵抗があります。
図面は2次元で書くことが当たり前だったこれまでのやり方を、3次元のデータを元に2次元の図面を切り出すという流れがどうしても受け入れ難い。
2次元の経験が長ければ長いほど抵抗感が強い場合があります。
これは結構厄介な問題で、何かきっかけがないと人の意識は変わりにくいです。

 

結局は教育

正しいBIM設計の方法習得による経営損失の圧縮、BIMによる効果・メリットの周知しBIMを求められる環境にする、そして設計者自身の意識の改革、これらを可能にするのは、結局のところ実務者、経営者、そしてクライアント等含め教育しかありません。

 

失敗から始まる

ここで私たちの失敗についてお話しします。
私たちはこの課題に取り組むため、まずはBIM機能から教え始めました。
ところがこの方法では、なかなか実務でBIM設計が始められないことが分かってきます。
この方法は失敗でした。

 

BIM設計は総合的な設計手法

分かったのは、BIM設計は総合的な設計手法で、断片的な機能習得ではその効果をわずかしか発揮できないということです。
つまり、さまざまな機能が正しく連携して始めて、効率的で効果的なBIM設計が可能になるということです。
BIM設計は想像以上に大掛かりなものでした。

 

3つの疑問に立ち返る

ではどこから教えたらよいのか、そこでもう一度自分たちがBIM導入時に思ったことを思い出してみました。
 
「どう始めればよいの?」
「何が正解なの?」
「誰か助けてくれないの?」
ほとんどの人がこの三つを思ったのではないでしょうか。
であれば、あとはこれに答えを出せばよい。
非常にシンプルです(図-4)。

図-4
図-4

 
 

どう始めればよいの?

自由はハードルを上げる

私たちがこの事業を始める前はVectorworksの世界では「それぞれが自由にやる」という風潮がありました。
そうなると「どう始めればよいの?」と問われ
て「自由に始めてください」となってしまいます。
これではこの難しいBIM設計を始めるにはあまりにもハードルが上がりすぎます。

 

簡単さが必要

ハードルが上がっている、ここに課題があると気付きました。
ならハードルを下げればいいと。
そこで「まずはこう始めてください。
とても簡単ですよ」と言うための方法を模索しました。

 

VectorworksBIMスターターパックの誕生

そして、開発したのがVectorworksBIMスターターパックです。
VectorworksBIMスターターパックは令和3年度、国土交通省の支援を受け、7カ月で開発されました。
その特徴を一言で言うのなら
「誰でも簡単にBIM設計を始められる」です。
設定などで難しく大変なことは全て設定済みにして、設計者はそれらを意識せず設計に集中できるようになっています(図-5)。

図-5
図-5

 

予想以上の高い評価を受ける

完成後、このVectorworksBIMスターターパックを実際に触ってもらい、その可
能性についてアンケートをとったところ、115人の回答の中で、非常に期待できるが45人、期待できるが61人、合わせて92%の人が期待できると言う結果になりました。
これは想像以上でした(図-6)。

図-6
図-6

 
 

何が正解なの?

基準がない状態で答えは出ない

VectorworksBIMスターターパックを開発した時、困ったのが、これ正解なの?と、何をやるにつけても問いが出てくることです。
すぐに、それらの問いに答えることができないことが分かってきます。
当時、どこにもこう言う方法が正しいという基準がなく、さまざまな可能性だけがあるような状況で、何が正しいかなど答えは出せませんでした。
これは泥沼にハマったような状態です。

 

エレガントな連携状態

そのような状況の中、以前、数学では「エレガント」という考えがあるというのを聞いたのを思い出しました。
ここで言うエレガントとは「それ以上何も引くことができない完全な状態」です。
 
さまざまな可能性に答えを見つけるのは難しいですが、全てが網羅され自由度があるにも関わらず、無駄がなく何も引くことができないシンプルな状態。
これを一つの答えにするのは分かりやすいのではないか。

 

行き着いたのはプラットフォーム

この考えがブレークスルーとなっていきます。
この何も引くことができないシンプルな状態とは何か?この状態になれば全てが網羅され自由度がある。
つまりさまざまな形を生み出す設計において、全ての根底に流れる共通基盤となるもの。
それはまさにプラットフォームで、全ての複雑さをシームレスにつないでくれます(図-7)。

図-7

 
図-7

Vectorworks BIMプラットフォーム構想の有効性

それは生物の生き残り戦略と似ています。
全てが全く異なるよりも、ある程度同じ構造の上に変異性を確保する方が、生き残り戦略として多様性を維持でき有効です。
これだけ多様な設計が存在する現状の中で、多様性を担保できる共通プラットフォームがあれば間違いなく有効であると確信しました。

 

一つの正しさ

そのような多様性を担保できる共通基盤=プラットフォームがあるのなら、まずはそこにある基準を使うことが正解となります。
共通基盤を使うということは基本部分での負荷が低減されるので、設計者にとってのもメリットはさらに大きくなります。
 
 

誰か助けてくれないの?

これまでのやり方ではうまくいかない

私自身の話ですが、BIM設計を始めようとした時、解説本を読んだり、ネットで調べたりしたのですが、実際の仕事でうまくいきませんでした。
この手のことは得意と自負していたのですが、どうしてもうまくいかない。
効率が上がるどころか半分ほどまでに落ち込む始末。
 

何が問題かが分からない

まずはなぜうまくいかないのか、ソフトのせいなのか、操作のせいなのか問題が切り分けられず、ただ無駄に時間を浪費していく。
メーカーのサポートに電話しても分かるのは機能的なことのみ。
痛感したのは、実務上の問題を解決できる相談先はないということです。
つまり誰も助けてくれないという現実でした。
 

共通言語が存在しない

なぜ存在しないのか。
中小規模の設計事務所では設計手法が個々に依存しており、そのため全く異なる方法を使った設計となっていることが多いです。
これは全く体系が異なる言語を使っているのと近い。
しかも翻訳方法が体系化されていない。
これでは話をするのも不可能です。

 

単なる技術教育は失敗する

そうなると、共通するのはどうしてもソフトに依存する機能だけということになります。
これならだれもが話すことができますが、ここに落とし穴があります。
前述のようにBIM設計は総合的なもので部分的な技術習得はBIM設計を効果的に行う上で十分ではありません。

 

高度なことは覚えてくれない

また、高度なBIM機能をいきなり教えようとしても、高度なことができるのは、時間があり、高いスキルを持った人だけです。
現実は相当少ない。
やさしくないと結局のところ負荷がかかり過ぎ習得が難しくなります。

 

自己流はリスクを大きくする

自己流ではこの複雑なBIMを俯瞰し切れることは難しく、どうしても抜けが出てしまい効率や効果を上げ切れません。
時間もかかり、負荷も大きい。
もう一つ問題なのは、本当はもっと良い方法があるのに気が付かず、その状態を続けてしまうのと、問題が発生した時に自力解決しなくてはならないという大きなリスクを抱えることになる(図-8)。

図-8
図-8

 

自力で習得時代の終焉

これは自力で克服する時代の終焉を意味しています。
助けを借りて準備された優しい状況からスタートを切る。
そして設計に集中する。
そういう時代に早く切り替える必要があります。
 

Vectorworks BIMスターターパックとVectorworks BIMプラットフォームが変える実務者教育

Vectorworks BIMスターターパックとVectorworks BIMプラットフォームがもたらすのは、BIMを簡単に始められる方法と安心してBIM設計を行える共通基盤です。
実務者向けの教育もそこを土台にして組み立てられれば、より効率的で効果が高く、将来的にも保証されたものになると考えられます。
そのような意味でも、このふたつがあることの意義は大きいと思います(図-9)。

図-9
図-9

 

基礎から応用まで実効性の高い教育を提供

まず、基礎段階では、詳しい機能などに触れることなく、簡単かつ効率的にBIM設計を教えることが可能になります。
これは教える側にも利点があります。
共通の方法を使うため、多くのフィードバックを得られやすく、教育方法改善のスピードが速くなります。
結果利用者により多くのメリットをもたらします。
 
応用段階では、それが基礎レベルの内容とも、多種多様な分野を横断した内容でも、シームレスにつながる実効性の高い実務者教育が可能になります。
これは実務の上で結果やリソースの再利用につながり、無駄をなくし、より質の高い設計へとつなげていくことができます(図
-10)。

図-10
図-10

 

教育は技術や方法のその先へ導く

この考え方では、例えば高度なシミュレーション技術があったとしても基礎レベルの利用者はその内部構造を知らなくてもいいということになります。
内部構造が分からないとその結果が正しいかどうかが判断できないという意見もあると思いますが、それはプラットフォーム上で検証されればいい。
結果だけ知ればいいのであれば、時間ある限りシミュレーションに集中し、より質の高い結果へと導けると考えられます。
 

資産を継承しボトムアップする

これが意味するのはBIM設計においてさまざまな成果がこれまでとは比較にならないほど簡単に再利用可能になるということです。
これを教育に使わない手はありません。
つまり過去の資産が参考データとすればスタート地点が変わってしまう。
それがプラットフォームをベースにした教育のメリット一つと考えられます。
これは間違いなくボトムアップを可能にします(図-11)。

図-11
図-11

 

実務教育は効率性から創造性へ

このようにしていけば設計者は難しいことを覚えることなく、BIMで何を作りたいか、それだけに集中できます。
共通基盤に情報が増えてくると、それを容易く利用することができ、発想の幅が広がり、さまざまなアイデアの活用がしやすくなります。
例えば良いデザインの空間を作ろうとしたとき、まずは条件が似たような世界中のいいデザインをすぐに参照して始められればボトムアップだけではなく、より質の高い新しいデザインが生み出される可能性を高めます。
つまりBIM導入で求めるものは効率性の次に、上質な教育と教育を取り巻く環境の整備によってもたらされる、新たな創造性ではと考えます。
 
 
 

フローワークス合同会社 代表
横関 浩

 
 
【出典】


建設ITガイド 2023
特集2 建築BIM
建設ITガイド2023


 

最終更新日:2023-09-14

 

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