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ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > 河川の連携 地域をつなぐ明日への水 ~思川開発事業~

 

はじめに

思川(おもいがわ)開発事業は,独立行政法人水資源機構が栃木県鹿沼市で実施中の事業です(図-1)。
 
令和元年11月に事業の柱の一つである導水路工事に着手し,同年12月に送水路工事,その後,令和2年12月には南摩(なんま)ダム本体建設工事に着手し,現在,令和6年度完成に向けて,鋭意それら施設の建設工事を進めているところです。
 
事業の実施に当たり,大切な土地をご提供いただきました移転者をはじめ地権者の皆さま方,事業にご協力いただいている地元自治体,地元地域の皆さま方,また,事業関係者の皆さま方に心より感謝申し上げます。

  • 思川開発事業位置図
    図-1 思川開発事業位置図】

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    2. 事業の概要

    思川開発事業の概要は,以下のとおりです(図-2~5)。
     
    ●利根川水系思川支川の南摩川に多目的の南摩ダム(堤高86.5m,堤頂長359m,堤体積240万m3)を建設し,その貯水容量の一部を利用して洪水調節を行うことで,南摩川,思川,利根川の洪水被害を軽減します。
     
    ●南摩ダムと思川支川の黒川,大芦川との間を導水施設で結び,南摩ダム貯水池の利水容量を活用した水融通を図ることで,南摩川,黒川,大芦川等の既得取水の安定化および河川環境保全等のための河川流量を確保するとともに,新規水道用水の供給を確保します。
    また,利根川水系の異常渇水時における緊急水の補給も行います。

  • 思川開発事業施設位置図
    図-2 思川開発事業施設位置図】

  • 南摩ダム完成イメージ
    図-3 南摩ダム完成イメージ】

  • 南摩ダム貯水池容量配分図
    図-4 南摩ダム貯水池容量配分図】

  • 導水施設概要図
    図-5 導水施設概要図】

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    3. 事業の特徴

    思川開発事業の特徴として,以下の①②が挙げられます。

    ①複数の流域間を導水施設で結ぶ水融通

    導水施設は,南摩ダムの間接流域となる黒川,大芦川と南摩ダムを結ぶ「導水路トンネル」と「送水路トンネル」および「南摩揚水機場(ポンプ施設)」からなります(図-6)。
    これらを運用し,黒川,大芦川において下流の水利用や環境に配慮して,かんがい期,非かんがい期ごとに取水制限流量を設定し,各河川の流量がこれを上回る豊水時に限り取水を行い,導水路を通じて南摩ダム貯水池へ導水し,貯留します。
    一方,黒川,大芦川の流量が少ない渇水のときは,既得取水の安定化と河川環境の保全等のため,送水路・導水路を通じて南摩ダム貯水池から貯留水を供給(送水)します。

  • 複数の流域間での水融通模式図
    図-6 複数の流域間での水融通模式図】

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    ②南摩ダムのダム型式

    南摩ダムは,当初,ダム型式を中央土質遮水壁型ロックフィルダムとして計画していましたが,「堤体積の縮小」「堤体盛立工期短縮と,それによるコスト縮減」「地形改変抑制による環境負荷低減」を考慮し,コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダム(CFRD:Concrete Face Rockfill Dam)とすることとしました。
    CFRDはロックフィルダムの一型式であり,堤体のほとんどの部分をロック材で盛り立て,上流側(貯水池側)表面をコンクリートのフェイススラブで被覆することにより遮水性を持たせる構造のダムです(図-7)。
    大型重機を使用した近代的な施工方法によるCFRDをダム本体として採用するのは,南摩ダムがわが国で初となります。
    これに先立ち,堤体材料の締固め技術の向上を背景として,国内でCFRDが採用された岐阜県の徳山ダム(水資源機構)建設時の上流二次仮締切堤や,岡山県の苫田(とまた)ダム(中国地方整備局)の鞍部(あんぶ)ダムにおいて実施工を通じた技術開発がなされています。
    なお,CFRDは海外においては近年採用される例が多いダム型式です。

  • 南摩ダム上下流断面模式図
    図-7 南摩ダム上下流断面模式図】

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    4. 工事の状況

    令和3年7月時点での各工事の状況は,以下のとおりです。

    ①ダム本体建設工事

    ダムサイトにおいて左右岸のダム基礎掘削,取水設備(取水塔)基礎掘削,仮設備設置工事を進めています(写真-1)。
    これらの施工に当たっては,ダムサイトの下流に居住地区が近接していることから,工事に伴う騒音,振動,濁水等に十分注意しながら進めています。

  • 南摩ダム本体建設工事の状況(令和3年6月撮影)
    写真-1 南摩ダム本体建設工事の状況(令和3年6月撮影)】

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    ②導水路工事

    取水導水施設の地上施設(取水堰,取水路,魚道など)と導水路掘削のためのシールドマシン発進基地ともなる立坑の構築(写真-2),シールドマシンの工場製作等を進めています。
    なお,導水路工事は,トンネル掘削時および施設供用後の導水路周辺地域の地下水や沢水への影響に配慮し,岩盤対応型の泥水式シールド工法で,トンネル内は全区間水密構造としています。

  • 黒川取水放流工(令和3年6月撮影)
    写真-2 黒川取水放流工(令和3年6月撮影)】

  • ③送水路工事

    ダムサイト下流側からの送水路トンネル掘削と,トンネルとサージタンクを結ぶ立坑の掘削を進めています。
    送水路トンネルのほとんどの区間がTBM(トンネルボーリングマシン,写真-3)による施工であり,すでにマシンによる掘削を行っています。

  • トンネル工事箇所へのTBM運び込み(令和3年5月撮影)
    写真-3 トンネル工事箇所へのTBM運び込み(令和3年5月撮影)】

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    ④その他の工事

    南摩ダムの取水放流設備工事,揚水機場ポンプ設備工事については,現地での準備工事,機材の工場製作を進めています。
    また,南摩ダムの湛水によって水没する県道や林道の付替工事も順次進めています(写真-4)。

  • 付替県道の工事状況(令和3年6月撮影)
    写真-4 付替県道の工事状況(令和3年6月撮影)】

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    5. 工事に係るさまざまな取り組み

    ①DXの取り組み

    思川開発事業に係る工事において,DXを積極的に取り入れることで効率化,生産性向上に取り組んでいるものがあります。
    ここでは,工事請負者における取り組みの一つを紹介します。
     
    南摩ダム本体建設工事において,自動運転ができる個の機械や装置を「組織的に制御する統合システム」を導入予定です。
    これは,各自動建機にGNSSと自動運転プログラムを搭載し,設定された作業シナリオを自動実行するとともに,システムが位置情報と作業進捗を監視しながら建機の動きを指示し,協調運転を実施するものです。
    これにより,省人化が図られるとともに,工事現場において人と重機が混在することがなくなり,安全性が高まる効果が期待できます。

  • 自動制御型重機による無人化施工の模式図(「ロック」「トランジション」「ブランケット」は堤体のゾーニング区分)
    図-8 自動制御型重機による無人化施工の模式図(「ロック」「トランジション」「ブランケット」は堤体のゾーニング区分)】

  • ②労働安全への取り組み

    思川開発事業では,大小さまざまな工事を多数実施中であり,現場で工事に携わる労働者の方々が全工事で約450名にもなります。
    このような中で事故なく安全に工事を進めるための取り組みとして,建設所職員による工事現場の安全パトロールと,工事受注者も参加する安全協議会を毎月開催し,労働安全への活動を継続しています。
    また,労働安全コンサルタントによる現場安全パトロールと講習会も行っており,労働安全に対するプロの視点を学び,安全確保につなげる努力も続けています(写真-5)。

  • 労働安全コンサルタントによる現場安全パトロール
    写真-5 労働安全コンサルタントによる現場安全パトロール】

  • ③地域貢献活動

    工事の進捗により工事用車両の増加などに対してご協力をいただいている工事区域近隣の地元の皆さま方への貢献活動の一環として,工事で発生した立木の根株を細断した木質チップをマルチング材として地元小学校への運搬と敷均しを行いました(写真-6)。
    なお,木質チップについては,適宜一般無料配布を行っています。
    思川開発建設所のホームページをご覧いただき,お気軽にお問い合わせください。

  • 地元小学校へのマルチング材の運搬と敷均し
    写真-6 付地元小学校へのマルチング材の運搬と敷均し】

  • ④広報活動

    南摩ダム左岸の展望広場を一般開放し,設置した説明パネルを通じて事業についてご紹介するとともに,ダム建設現場の雰囲気を身近に感じていただけるようにしています。
    開放は,年末年始を除く毎日午前9時~午後4時30分です(工事都合等による閉鎖,季節による開放時刻の変更があります。
    詳しくはホームページでご確認ください)。
     
    また,工事現場の見学を建設所ホームページで随時受け付けています。
    見学では主にこのダムサイト展望広場にご案内し,事業概要や工事状況の説明を行っています。
     
    また,建設所ホームページでの工事現場のリアルタイム映像発信(図-9),TwitterやYouTubeでの工事現場や建設機械の組み立て等の動画配信といった即時性の情報発信にも努めています。
    中でも,64t級リッパ付きブルドーザによるダム本体基礎掘削工の動画は,普段あまり目にすることのない映像であるためか,再生回数も多く,特に好評です(図-10)。

  • 思川開発工事のライブ映像と配信のQRコード
    図-9 思川開発工事のライブ映像と配信のQRコード】
  • 思川開発工事のライブ映像と配信のQRコード

  • 工事状況を紹介したTwitter
    図-10 工事状況を紹介したTwitter】

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    6. 地元鹿沼市の紹介

    鹿沼市は,栃木県の県央西部に位置する人口約10万人の都市であり,国内有数のさつきの産地で,鹿沼土は全国に出荷されています。
    また「木工品」の産地としても知られています。
    このほか,「鹿沼そば」をはじめとした農産物や伝統工芸品
    など数多くの「鹿沼ブランド」があり,中でも,いちごの生産・販促に力を入れ,平成28年11月には「いちご市宣言」をするなど,「いちごのまち」としてのシティプロモーションを展開しています。
     
    また,江戸時代から続く地元を代表する祭りであり,ユネスコ無形文化遺産に登録されている「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」(写真-7)や,日光街道宿場町の雰囲気を感じる町並みが残るなど,伝統と文化の街でもあります。
     
    なお,その鹿沼の街中にある「まちの駅 新・鹿沼宿」にて南摩ダムのダムカードの配布を行っていただいています。
    ダムカードの入手に当たっては,ダムサイト展望広場などからデジカメやスマートフォンなどで撮影したダム建設予定地の写真を提示していただく必要がありますので,ご注意ください(詳しくは建設所ホームページにてご確認ください)。
     
    思川開発建設所は,地元鹿沼市の「魅力発信特派員」「いちご市KANUMAサポーターズ」として,微力ながら鹿沼市のPR活動をお手伝いしています。

  • 鹿沼今宮神社祭の屋台行事(鹿沼市HPより)
    写真-7 鹿沼今宮神社祭の屋台行事(鹿沼市HPより)】
  • 鹿沼市観光協会サイトのQRコード
    図-11 鹿沼市観光協会サイトのQRコード】


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    7. おわりに

    思川開発建設所では,引き続き施設の建設工事を安全に,コスト縮減を図りつつ,また,周辺の自然環境や地元の皆さま方へ十分配慮しながら進めていく所存です。
    また,地元協議会や栃木県,鹿沼市をはじめとする関係自治体,ならびに関係機関と綿密に連携を継続していく所存です。
     
    この記事を目にしていただいた方々におかれましては,機会がありましたら,思川開発事業の建設工事現場がある鹿沼市にぜひ足を運んでいただければと思います。

     
     
     

    独立行政法人 水資源機構 思川開発建設所

     
     
     
    【出典】


    土木施工単価2021秋号



     
     

    最終更新日:2022-02-07

     

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