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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > UR都市機構における団地再生事業の取り組み

1.はじめに

UR都市機構(以下,UR)は,前身である日本住宅公団が昭和30年に設立されてから,その翌年に建設した金岡団地(大阪府堺市)を始めとして,大都市圏を中心に60年以上にわたって時代の要請に対応した賃貸住宅の供給・管理を行ってきました。
 
現在,約1,500団地・約71万戸のUR賃貸住宅を管理・経営するとともに,住宅セーフティネットとしての役割の充実を図るなど政策的役割を果たすため,URが保有する賃貸住宅等の資源を有効に活用しながら,「多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まち」(ミクストコミュニティ)の実現を目指して,新しい価値の創造を図っています。

 
 

2.団地再生事業(建替え等)の背景・目的

URが昭和30年代に大量供給した団地は,交通などの利便性の高い立地にありながら,その敷地を有効利用されてないものが多く,住宅の規模や間取り,設備などがニーズに対応できなくなりつつあったことから,原則として昭和30年代に管理開始した団地については,敷地の有効利用と居住水準の向上を図るため,昭和61年から小杉御殿(神奈川県川崎市),臨港第二(大阪府大阪市)を皮切りに,建替えを実施してきました。
 
平成19年12月には,平成30年度までのUR賃貸住宅ストックの再生・再編の方向性を定める「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」を策定し,社会環境の変化への対応や経営の健全性確保に努め,建替えやリノベーション等により間取り改善,設備水準の向上等,社会のニーズに沿った住宅の提供を行い,ストック量の適正化を進めました。
 
その後,少子高齢化と人口減少が急速に進展する社会環境の中,UR賃貸住宅ストックを将来にわたって国民共有の貴重な地域資源として生かし続けるため,平成30年に令和15年度までのUR賃貸住宅ストックの多様な活用の方向性を定める「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」を策定しました。
既存の建物を生かしながら地域および団地ごとの特性に応じた多様な活用を行う団地を「ストック活用」,多様な活用を行うために再生の必要がある高経年団地(主に平成31年4月時点で管理開始から40年が経過する団地)を「ストック再生」,土地や建物の所有者の方との協議が整った場合に譲渡,返還等を行う団地を「土地所有者等への譲渡・返還等」の3つに団地を類型化しました。
 
そのうちの「ストック再生」類型団地(約45万戸)については,お住まいの皆さまの居住の安定を確保しつつ,地域および団地ごとの特性に応じた多様な活用を行うこととし,地方公共団体,民間事業者等のご協力を得ながら4つの手法(建替え,集約,用途転換,改善)を複合的・選択的に実施することでストック再生を進めております。

 
 

3.千里ニュータウンにおける団地再生事業

千里ニュータウン(大阪府豊中市・吹田市)は,1,160haにも及ぶエリアに「近隣住区論」(注)に基づいて計画された,日本で初めての大規模なニュータウンです。
起伏のある千里丘陵の地形を生かしながら,約21%もの面積の公園や緑地を確保。
まちびらきから約60年が経過し,豊かなコミュニティと緑あふれる街へと成長してきた千里ニュータウンでは,駅前の再整備や住宅の更新などが進んでいます。
UR賃貸住宅でも高経年化や社会環境の変化に対応すべく4団地(千里竹見台,新千里東町,千里高野台,千里津雲台)で団地再生事業(建替え)に着手しました。
 
そのうちの千里竹見台団地では従前の建物位置や形状をほとんど変えることなく(写真-1,2),また,新千里東町団地では従前の囲み型配置を意識したことにより,緑や広場,駐車場など団地全体の資産を生かしながら,これまで培われてきた屋外空間や景観,お住まいの方のコミュニティや生活環境を著しく変えることなく建替えを進めています。

建設当時の千里竹見台

写真-1 建設当時の千里竹見台】


建替え後の千里グリーンヒルズ竹見台(写真中央)と千里竹見台団地

写真-2 建替え後の千里グリーンヒルズ竹見台(写真中央)と千里竹見台団地】


①コミュニティの醸成と新たな交流の創出

長い年月を経て育まれてきたコミュニティがさらに活性化するよう,また,新たに入居される方々を含めお住まいの皆さまが楽しく住み続けられるよう,共用部分の設計ではお住まいの方からのご意見も参考にしています。
例えば,一体利用できる広い空間のある集会所には,集って料理が楽しめるキッチンや可動式間仕切りを設置することで,交流イベントやさまざまなサークル活動の利用が想定されます。
また,キッチンカーなども止められる広いスペースやデッキ型のベンチが設置された屋外空間では,地域の方との交流の場としての活用も期待されます。

②豊かな緑と屋外空間の継承

これまで親しまれてきた団地の豊かな緑は,千里ニュータウンの歴史とともに成長してきました。
この豊かな緑や屋外空間は,UR賃貸住宅の魅力であり,地域に親しまれてきた場でもあります。
千里ニュータウンでの団地再生事業では新たに創り出すものと大切に受け継ぐものとを組み合わせ,そこに暮らす人々が心地良さを感じられる屋外環境づくりを目指し,地形や地域とのつながりを意識した建物配置や樹木の一部保存に取り組んでいます。

③快適で安全・安心な暮らしを提供

建物竣工から50年以上が経過し,建物の高経年化や住宅設備の更新への対応の検討が必要となります。
多様化するライフスタイルやニーズに応えられるよう,建替え後の賃貸住宅ではさまざまな間取りを用意しています。
住宅内は段差をできるだけ解消し,手すりや防犯性の高い建具の使用,高効率給湯暖房機や浴室暖房乾燥機,3口のガスコンロなど快適さをさらに高める機能を設置。
また,建物の入り口にはオートドアロックシステムを採用し,住宅内のカラーモニター付住宅情報盤により,室内での来訪者の確認や非常時・火災時には警報音などで知らせるなど,快適で安全・安心に暮らせる住宅にしています。

 
 

4.浜見平団地における持続可能なまちづくりの取り組み

昭和39年に管理を開始した浜見平団地(神奈川県茅ヶ崎市)は,当時,総戸数約3,400戸の大規模団地で,都心へのアクセスも良く,マリンスポーツが盛んな茅ヶ崎海岸まで徒歩約10分の距離に位置し,子育て世帯にも人気のベッドタウンとして,地域の皆さまとともに歩んできました。
 
40年を経て,平成17年より団地の建替えに着手しています(写真-3〜5)。
建替えを契機に,URと茅ヶ崎市は,浜見平地区を茅ヶ崎市南西部の生活・防災拠点,景観拠点と位置付け,地域特性を踏まえたコンパクトで持続可能な地域社会・地域活動が実現されることを目指し,ハード整備に加えて地域活動を支えるソフト施策も含め,連携してまちづくりを進めています。

建設当時の浜見平団地

写真-3 建設当時の浜見平団地1】

建設当時の浜見平団地

写真-4 建設当時の浜見平団地2】


建替え後のコンフォール茅ヶ崎浜見平

写真-5 建替え後のコンフォール茅ヶ崎浜見平】


①公園の整備

まちづくりにおいては,団地の建替えに加え,団地の中央に「しろやま公園」を整備し,普段は親子連れからお年寄りまで幅広い世帯にご利用いただいています。
また,災害時用に,飲料水兼用耐震性貯水槽,防災トイレ,かまどベンチ(災害時にかまどとして使用),防災倉庫,井戸などの防災機能を整備しました。

②施設の整備

建替えによって生じた敷地を利用して,市役所出張所や図書館,体育室,地域包括支援センターなどが入る茅ヶ崎市南西部複合施設「ハマミーナ」,スーパーマーケットや飲食店等が入る商業施設棟「ブランチ茅ヶ崎」,「ブランチ茅ヶ崎2」,「ブランチ茅ヶ崎3」(写真-6)が民間事業者により整備されたことにより,地域の利便性が向上し新たな賑わいが生まれました。

また,運営する民間事業者による提案によって,ブランチ茅ヶ崎を拠点としてNPO法人「まちづくりスポット茅ヶ崎」が組織され,地域の人が集まれるコミュニティカフェや,地元の生産者やお店と住民の交流の場となるマルシェなど住民の自発的な活動の支援が行われています。

2021年10月にオープンしたブランチ茅ヶ崎

写真-6 2021年10月にオープンしたブランチ茅ヶ崎】


③今後の展開

令和3年12月には今後のさらなる公民連携と,多様な世代が交流し支え合いながら持続可能なコミュニティを育むことができるまちづくりを目指して,UR,茅ヶ崎市,民間事業者およびNPO法人まちづくりスポット茅ヶ崎の4者による「浜見平地区におけるエリアマネジメントの推進に関する連携協定」を締結しました。
これからも公民が連携し,地域が主体となるさまざまな活動が展開できるよう取り組んでいきます。

 
 


(注)
田園都市構想とともに20世紀のニュータウン建設を支えた理念の一つ。
幹線道路で区切られた小学校区を一つのコミュニティとして捉え,商店やレクリエーション施設を計画的に配置するもの

 
 
 

独立行政法人都市再生機構 ストック事業推進部

 
 
 
【出典】


建築施工単価2022年春号
建築施工単価2022年春号


 

最終更新日:2022-10-31

 

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