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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > 橋梁維持管理における複合的3次元計測

はじめに

ここ数年来、構造物維持管理において3次元点群データや3次元モデルはその活用についてめざましい発展を遂げている。
とりわけ橋梁維持管理においては、損傷などが多様にわたり従来の2次元データでは実現できないような劣化状況を表現することができる。
3次元データを取得する場合さまざまな計測機器および技術が市場に提供されており、本稿においては地上型レーザースキャナー、ハンディースキャナー、およびSfMを活用した橋梁損傷部の3次元計測について報告する。
また本計測では名古屋大学内橋梁長寿命化推進室教育施設N2U-BRIDGEを計測対象とした。

 
 

橋梁維持管理における課題

橋梁定期点検は基本的に近接目視にて行い、損傷図や損傷写真、部材ごとの健全度を評価し調書として記録することとなっているが、現状では以下の課題がある。
 
・点検調書の損傷図は部材の形状や損傷を正確に表現したものではないことから、定量的に活用することは難しく、その後の追跡調査や工事に活用しにくい
・損傷の進展を確認するには、点検調書の限られた写真と現状の目視によるピンポイントの比較となるため、損傷の全体像や経年変化を把握することが難しい
・架橋条件によっては、交通規制を伴う橋梁点検車や高所作業車が必要であるため、近接目視作業が非効率なものとなり、点検に多くの日数や費用が必要となる
 
以上の課題を解決するため、現地作業の効率化、既設構造物形状や損傷情報の定量的な把握、および損傷の全体像や進展性の確認が可能な方法として、損傷を含めた橋梁全体の3次元データ取得を行うこととした。

 
 

計測対象(国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学 橋梁長寿命化推進室N2U-BRIDGE)

N2U-BRIDGE(ニュー・ブリッジ)は国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、中日本高速道路株式会社、中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社が共同管理する施設であり、さまざまな劣化・損傷が生じ撤去された橋梁の部材を全国から集めた実橋モデルである。
名古屋大学橋梁長寿命化推進室(室長 名古屋大学大学院 中村光教授)は、N2U-BRIDGEを活用し臨床型の橋梁維持管理技術者の養成・研修などの事業を行っている。
今後急速に増加していく供用後50年以上となる老朽化した橋梁の点検・診断には、3次元データの効率的な活用が期待されることから、名古屋大学橋梁長寿命化推進室の協力を得てN2U-BRIDGEの3次元計測によるデータ取得を実施した(写真-1)。

N2U-BRIDGE全景

写真-1 N2U-BRIDGE全景


計測方法1 地上型レーザースキャナー

橋梁の形状計測において、地上型レーザースキャナーは既設形状の3次元データ取得をする上で欠かせないツールである。
完成図が存在しない橋梁や、また完成図にはない添架物の追加や改修による補修補強部材の設置など、供用のうちに形状が変化していることがあるため、既存図面では得られない構造物の最新状況を把握することが可能となる。
さらに周辺状況も3次元データ化されるため、将来の補修補強工事の際の仮設計画や施工計画の立案も容易となる。
また計測対象物に近接せずに離れた位置からの計測が可能なため、危険箇所などに立ち入ることなく安全な場所からの計測作業(データ取得)が可能となる(写真-2)。

地上型レーザースキャン状況

写真-2 地上型レーザースキャン状況


計測方法2 ハンディースキャナー

地上型レーザースキャナーは広範囲の3次元形状の把握に適しているものの、小型構造物や狭隘な部位など、死角となりやすい形状を有する場合はデータに欠落を生じることがある。
この点はハンディースキャナーを用いてデータを補完することができる。
対象物をスキャンしながらリアルタイムで計測中の3次元モデルを確認ができ、撮り残しがあれば追加でスキャンを行えばよい。
また3次元カラーカメラを搭載しているため、3次元モデルに写真データを元にしたテクスチャを貼り付けることで、形状だけでなく色調も正確にモデル化される。
 
ハンディースキャナーは機械製品や人体などの医療分野、文化財など幅広い分野で利用されており、橋梁においては支承や鋼橋の部材単位での形状計測においても有効なツールとなる。
なお今回の計測ではパソコンレス仕様のハンディースキャナーを使用した。
現場にパソコンを持ち運ぶ必要がないため、従来モデルに比べ操作性、利便性が飛躍的に向上している(写真-3)。

ハンディスキャン状況

写真-3 ハンディスキャン状況


計測方法3 UAVの活用

高所にある橋梁や、広範囲の径間・部材を有する橋梁の場合、損傷部位へのアクセスや作業効率が悪いため、調査時には多大な労力を必要とする。
UAV(Unmanned Aerial Vehicle)は人が移動することなく動画や写真による情報収集が可能なことから、損傷調査作業の効率化が期待できるものの、鋼橋などの複雑な構造を有する構造物に適用する場合、UAVの特性を理解した上での機種選定が必要となる。
 
通常のUAVは橋梁下面など非GPS下となる電波の届かない場所では手動の操縦となるため、機体が障害物に接触して墜落する恐れがある。
一方、今回使用したUAVは機体上下にある計6個の魚眼レンズによる「VisualSLAM」技術を搭載しているため、全方位の3次元地図を作成し自機と障害物との全方位の距離を把握できる。
さらに機体のAIが周囲の形状を認識して自動で障害物を回避するため、非GPS下においても安定した飛行が可能となる。
このように熟練の操作技術や経験を必要としないことは、橋梁の維持管理におけるUAV調査手法の普及を促進する点において大きな利点といえる(写真-4)。

UAV調査状況

写真-4 UAV調査状況


計測方法4 SfMの活用

SfM(Structure from Motion)とは大量に撮影された写真から特徴点を抽出し、撮影時のカメラの位置および向きを推定することで撮影対象の3次元形状を復元する技術である。
SfMにより作成された3次元モデルからメッシュデータ(objなど)、点群データ(lasなど)、オルソ画像(jpgなど)の出力が可能なため、近年では簡易地形測量や概略土量計算など、土木分野においても活用事例を増やしつつある。
 
N2U-BRIDGEにおいては、舗装や小部材は一眼レフによる静止画撮影(写真5-1)、高所にある床版下面や下部工はUAVによる動画撮影(写真5-2)を行った。
これらのデータをSfM処理して橋梁の部材ごとに3次元モデル化を行い、各出力データを作成した。
これにより損傷した部材はパソコン上で再現ができ、かつ3次元モデル上で計測が行える。
また床版下面などのコンクリート面は格間単位で1枚のjpgデータにて作成できるため、画像処理機能を持つひび割れトレースソフトを活用することで、ひび割れなどの損傷をリアルに再現(写真5-3)した状態で広範囲の損傷記録として保存が可能となる。

一眼レフ写真撮影状況(舗装面)

写真-5-1 一眼レフ写真撮影状況(舗装面)

UAV動画撮影状況(床版下面)

写真-5-2 UAV動画撮影状況(床版下面)



 

床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録

写真-5-3 床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録



 

橋梁維持管理マネジメントシステム

橋梁の維持管理は、点検結果のほか、対象物の諸元や補修履歴などの多くの情報集約を必要とする。
現在これらは橋梁台帳、点検調書、補修補強設計図などとして紙ベースで管理されているものの、複数の書類が年度別に存在し、情報の一元管理が難しい。
この点は点群データ上に2次元、3次元のさまざまなデータを展開できるソフトウエア「Arena4D DataStudio-J」(以下、Arena4D-J)を活用することで解決できる。
これにより橋梁全体の維持管理情報の一元化ができ、次の点検や補修工事に役立てることが可能となる。
N2U-BRIDGEの3次元データ取得においても、これまで紹介した計測手法のデータを点群上に集約するためArena4D-Jを活用した。
なおデータの配布方法としては、紹介動画作成のほか成果物をデータパッケージ化することで、事前にソフトをインストールしていない場合でも閲覧可能な無償ビューワーを提供できる(写真-6)。

床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録

写真-6 床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録



 

複合的3次元計測の効果

今回の計測ではN2U-BRIDGEの全ての部材の3次元データ化を行うことで、従来の2次元の成果に対し、より現実的な3次元のアウトプットで表現することができた。
また複数の3次元技術を活用することで効率的な調査が可能となり、予定より早く調査を終えることができた。
N2U-BRIDGEのような鋼・コンクリート橋、また大小の部材で構成された施設を3次元データ化するには、複数の技術についてそれぞれの技術の長所を生かし適材適所で活用することが重要と考える。
 
なお今回の3次元データ取得は調査員4人が1日半で行い、3次元データ処理はひび割れの画像処理を含め1カ月であった。
本計測結果として3次元データイメージを約5分にて閲覧できる動画を作成している写真7はその動画タイトルである(写真-7)。

床版下面のオルソ画像にひび割れなどの損傷を記録

写真-7 3次元データイメージ動画タイトル



 

今後の課題とまとめ

今回のN2U-BRIDGEでの3次元計測を通じ、現地作業の効率化、既設構造物形状や損傷情報の定量的な把握、および損傷の全体像や進展性の確認という現状の課題を解決し得る成果が得られた。
現場作業の効率化が見込める点においては特に有効と考えている。
以下の課題を挙げたい。
 
1.3次元データは容量が大きく処理時間を要するため、高性能なパソコンは必須である。
2.3次元による損傷の表現の仕方が見えてきたことから、次の段階として損傷判定の適切な表現方法を考えていく必要がある。
 
 

今回使用機材、ソフトウエア
・地上型レーザースキャナー:FARO Focus3D S120
・ハンディースキャナー:Artec Leo
・UAV:Skydio J2
・一眼レフカメラ:Nikon D7500
・SfMソフト:Context Capture
・3次元データ総合マネジメントソフト:Arena4D DataStudio-J
・コンクリート構造物劣化調査支援ソフト:Crack Imager

 
 

あとがき

株式会社補修技術設計が主導するM-CIM研究会では構造物調査において3次元技術を活用し調査技術の新たな展開を図る賛同者を会員として募っている。
また技術研修会では会員中心に3次元データの取得および活用での技術情報ミーティングを実施している。
本趣旨に関心を持つ方は法人および個人を問わず本部事務局へ問い合わせいただきたくお願いします。
 
M-CIM研究会事務局(株式会社補修技術設計内)
〒134-0088
東京都江戸川区西葛西6-24-8尚伸ビル5F
e-mail ire@ire-c.com
電話 03-3877-4642
 
最後になりますが、本稿執筆に当たり3次元データ取得のため施設を提供していただいた、名古屋大学長寿命化推進室中村光教授ならびに橋梁長寿命化推進室関係各位に心より御礼申し上げます。

 

 

株式会社補修技術設計 兼M-CIM研究会
小出 博/斎藤 雅信

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 

最終更新日:2023-07-14

 

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