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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 環境と共生する技術 > 国土交通省におけるカーボンニュートラルに向けた取組み

はじめに

近年,気候変動の影響により,自然災害が激甚化・頻発化するなど,地球温暖化対策は喫緊の課題となっている。
令和2年10月に菅内閣総理大臣(当時)が所信表明演説で宣言した2050年カーボンニュートラル,令和3年4月に設定した2030年度の温室効果ガス46%削減目標の実現に向け,政府一丸となって取り組む必要がある。
 
地域のくらしや経済を支える幅広い分野を所管する国土交通省としても,カーボンニュートラルの実現に向け,省内各部局にとどまらず関係省庁と連携をし,取組みを進めてきた。本稿では,その取組みについて概要を紹介する。
 
 

1. 環境政策を巡る動向

(1)グリーン成長戦略について

地球温暖化への対応を,経済成長の制約やコストとする時代は終わり,国際的にも,成長の機会と捉える時代に突入している。
こうした発想から,地球温暖化対策を積極的に行うことが,産業構造や社会経済の変革をもたらし,次なる大きな成長につながっていく。
この「経済と環境の好循環」を確立する産業政策として,グリーン成長戦略が求められる。
 
令和3年6月に関係省庁で連携し「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をとりまとめ,革新的イノベーションに関わる14の重点分野の実行計画として,開発・導入フェーズに応じて,2050年までの時間軸をもった工程表
を策定した。
このうち,国土交通分野に関わる産業分野として,国土交通省が中心的な役割を担う住宅・建築物産業,物流・人流・土木インフラ産業,船舶産業をはじめとした12の分野について,関係省庁と連携しつつ,イノベーションや社会実装の促進を図ることとしている。
 

(2)国土交通グリーンチャレンジについて

また,国土交通省においても,カーボンニュートラルを目指したグリーン社会の実現のため,わが国のCO2排出量の約5割を占める運輸,家庭・業務部門の脱炭素化等に向けた地球温暖化緩和策,気候変動適応策等,国土交通省で戦略的に取
り組む環境分野でのグリーン技術を含めた施策・プロジェクトをとりまとめることとした。
 
この調査審議のため,社会資本整備審議会,交通政策審議会の技術部会,環境部会の下に合同会議として「グリーン社会ワーキンググループ」を設置し,令和3年3月から6月にかけ計5回の議論を行い,令和3年7月6日に「国土交通グリーンチャレンジ(以下,「グリーンチャレンジ」という)」として施策・プロジェクトをとりまとめ,公表した。
グリーンチャレンジに掲げられた施策等の着実な推進のため,国土交通大臣を本部長とする「国土交通省グリーン社会実現推進本部」を令和3年7月に立ち上げている。
 

(3)地球温暖化対策計画,エネルギー基本計画,パリ協定長期戦略について

令和3年10月に,2050年カーボンニュートラルの実現,2030年度の温室効果ガス46%減の目標に向けた政府の計画として,「地球温暖化対策計画」,「エネルギー基本計画」,「パリ協定長期戦略」等が改定された。
 
地球温暖化対策計画においては,2030 年度の新たな中期目標の達成に向けて,部門別の削減目標の設定や各種対策の強化が図られた。エネルギー基本計画においては,エネルギー起源のCO2排出がわが国の温室効果ガス排出量の8割以上を占めることから,カーボンニュートラルの実現を目指したエネルギー政策として,産業,民生,運輸部門等における徹底した省エネルギー(以下,「省エネ」という)の更なる追求を図ることとさ
れている。
 
また,カーボンニュートラルに向けては,電源の脱炭素化が不可欠であることから,新たな2030年エネルギーミックス(電源構成)の野心的な目標として,再生可能エネルギー(以下,「再エネ」という)36~38%,原子力22~20%,火力41%,水素・アンモニア1%を目指すこととされた。
この中で,再エネについては,主力電源化を徹底することとし,最優先の原則で最大限の導入に取り組むこととされている。
 
パリ協定長期戦略においては,2050 年の温室効果ガス排出削減の長期目標として,従前の80%削減から実質ゼロを目指すこととし,2050年カーボンニュートラルに向けた基本的考え方や分野別ビジョン等が改定されている。
 
 

2. 環境行動計画の改定

国土交通省の環境行動計画は,環境基本法に基づく「環境基本計画」を踏まえ,国土交通省が取り組む環境関連施策体系的にとりまとめることとされており,今般,前述した環境政策を巡る動向を踏まえ,令和3年12月に全面的に改定された。
新たな環境行動計画においては「国土交通グリーンチャレンジ」を重点プロジェクトとして位置付けるとともに,国土交通省における環境関連施策の充実・強化を図り,2050年までを見据えつつ2030年度までを計画期間として,計画的・効果的な実施を推進することとしている。
 
国土交通分野に関わるCO2を始めとする温室効果ガスの排出削減に向けては,地球温暖化対策計画等において,国土交通省が所管する各部門における新たな排出削減目標や省エネのさらなる徹底等を図ることが求められている。
 
特に,国土・都市・地域空間とそこで展開されるさまざまな社会経済活動を支えるインフラや,住宅・建築物,自動車等の輸送機関等の膨大なストックについて,2050年カーボンニュートラルを実現するための基盤となるよう,各般の施策に脱炭素化の観点を取り込み,長期的な視点を持って,革新的技術開発やその社会実装,さらには国民や企業の意識・行動の変容を促進する環境整備を含め,社会システムのイノベーションを図っていく必要がある。
 
このため,脱炭素社会の実現に向け,国土交通グリーンチャレンジを着実に実行に移すべく,国土交通省グリーン社会実現推進本部等を通じて,省を挙げて取り組んで行くとともに,施策の充実・強化を図っていく必要がある。
 
次に,国土交通省環境行動計画に盛り込まれているグリーンチャレンジのうち,建設関係における主な取組みの概要を紹介する。
なお,国土交通省環境行動計画については国土交通省HP(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000101.html)に掲載しているので参照されたい。
 

(1)省エネ・再エネ拡大等につながるスマートで強靱なくらしとまちづくり
①インフラ等を活用した地域再エネの導入・利用の拡大

● 公的賃貸住宅,官庁施設や,道路,空港,港湾,鉄道・軌道施設,公園,ダム,下水道等のインフラ空間等を活用した太陽光発電について,施設等の本来の機能を損なわないよう,また,周辺環境への負荷軽減にも配慮しつつ,可能な限りの導入拡大を図る。
その他,立地適性等に応じ,風力発電やバイオマス発電等の地域再エネの導入を促進する。
また,所有者不明土地を活用した再エネの地産地消等に資する施設の整備を可能とする仕組みの充実等を図る。
 
● 下水汚泥バイオマス等の利用推進に向けた革新的技術の導入を促進するとともに,地域で発生する生ごみ,食品廃棄物,家畜排せつ物等のバイオマスを下水処理場に集約し,廃棄物処理施設との熱融通など地域全体での連携を推進しつつ, 広域的・効率的な汚泥利用とともにメタン発酵や乾燥・炭化処理によるエネルギー化を進める地域のエネルギー拠点化を推進し,「下水道エネルギー拠点化コンシェルジュ事業」の充実等により,地方公共団体における案件形成の促進を図る。
また,管路等から下水が保有する熱エネルギーを回収し,融雪や空調・給湯の熱源として下水熱利用を推進するため,下水熱利用マニュアルの改訂等を通じ,導入事例の横展開を図り,官民連携による下水熱利用の案件形成を促進するとともに,既存システムのコスト低減を図る。
さらに,下水道由来水素に関する技術開発の加速化と導入促進を図る。
併せて,建築物等における地中熱の利用促進を図る。
 
● 河道内樹木の伐採木等をバイオマス発電燃料等に利用する再エネの促進と維持管理効率化の実現可能性の現場実証の推進など,河川や公園等のインフラ事業の剪定や伐採木等で発生した木質材を活用し,バイオマス発電燃料等の資源として有効利用する取組みを促進する。
また,出水で発生し,砂防堰堤等により捕捉された流木をバイオマス発電燃料等として効率的に処理するためのガイドラインの策定を進める。
 
● 小水力発電について,登録制による従属発電の導入を促進し,地方整備局等に設置した相談窓口を通じたプロジェクト形成の支援を図るとともに,改正地球温暖化対策推進法により新たに創設された地域脱炭素化促進事業の認定に基づく手続のワンストップ化等により,地域再エネ利用の円滑な推進を図る。
また,治水の観点だけでなく,発電増強の観点も十分踏まえて,ダムの嵩上げ等のダム再生事業を推進する。
 
● 水力エネルギーの有効活用を更に促進するため,多目的ダムに貯まった洪水を次の台風等に備えて水位低下させる際に,最新の気象予測情報の活用により,洪水対応に支障のない範囲でできるだけ発電に活用しながら放流するなど,ダムの運用改善の実現可能性を検証し,実行可能なものから順次,適用する。
 

 

(2)自動車の脱炭素化に対応した交通・物流・インフラシステムの構築
①次世代自動車の普及促進,自動車の燃費性能の向上

● 電動車取得に合わせて高速道路利用時のインセンティブを付与することにより,一般道路から高速道路への交通転換による排出ガスの削減や電動車の普及促進を図る。
 

②自動車の脱炭素化に対応した都市・道路インフラの社会実装の推進

● 電気自動車等の普及促進に向け,EV充電施設が少ない地域の幹線道路等において充電施設案内サインの整備の推進や,EV充電器の公道設置社会実験を行うとともに,走行中給電システム技術については,2020年代半ばの実証実験の開始を目指した給電システムを埋め込む道路構造の開発を含めた研究開発支援を推進する。
 

 

(3)デジタルとグリーンによる持続可能な交通・物流サービスの展開
①ソフト・ハード両面からの道路交通流対策

● 双方向での大量の情報の送受信や経路情報把握が可能なETC2.0を活用したビッグデータ等の科学的な分析に基づく渋滞ボトルネック箇所へのピンポイント対策等の取組みを推進する。
 
● ICT・AI等を活用した交通需要調整のための料金施策を含めた面的な渋滞対策の導入の検討を進める。
 
● 三大都市圏環状道路を重点的に整備するなど,生産性を高める道路交通ネットワークの構築を図るとともに,都市内道路の負荷を軽減し,人に優しい道路空間への再編等を図る。

 

②公共交通,自転車の利用促進

● 自転車活用推進法による自転車活用推進計画に基づき,駐輪場の整備,シェアサイクルの活用・普及等の自転車利用環境の整備と,自転車の活用促進のための自転車通行空間のさらなる整備を推進する。
 

(4)インフラのライフサイクル全体でのカーボンニュートラル,循環型社会の実現
①持続可能性を考慮した計画策定,インフラ長寿命化による省CO2の推進

● 脱炭素化や気候変動適応,自然共生等の観点から持続可能性を考慮した社会資本整備を推進するため,「社会資本整備重点計画」(令和3年5月28日閣議決定)に示されている計画の実効性を確保する方策を踏まえつつ,社会面,経済面,持続可能性を考慮した環境面等の様々な観点から行う総合的な検討の下,計画を合理的に策定する取組を積極的に実施する。
 
● インフラ分野におけるライフサイクル全体の観点からのCO2排出状況の把握手法に関する調査検討を進める。
 

②省CO2に資する材料等の活用促進および技術開発等

● CO2吸収型コンクリートなど,新技術に関する品質・コスト面等の評価を行いつつ,公共調達による低炭素材料や工法の活用促進を図る。
 
● 直轄工事において企業のカーボンニュートラルに向けた取組みを評価するモデル工事等を行い,さらなる取組みの推進を図る。
 
● インフラ・建設分野での環境負荷低減に係る技術・研究開発等を推進する。
 

③建設施工分野における省エネ化・技術革新

● 短期的には,燃費性能の優れた建設機械の普及を図り,長期的には,動力源を抜本的に見直した革新的建設機械(電気,水素,バイオマス等)の認定制度を創設し,導入・普及を促進する。
 
● 地方公共団体の工事を施工している中小建設業へのICT 施工の普及など,i-Constructionの推進等により,技能労働者の減少等への対応に資する施工と維持管理のさらなる効率化や省人化・省力化を進めるとともに,建設機械の普及等によるコスト縮減を含めた建設現場の生産性向上の取組みを進める。
 

④インフラサービスにおける省エネ化の推進

● 道路インフラの省エネ化等のため,道路照明灯のLED化の推進,新たな道路照明技術の開発促進・技術検証等を通じた道路照明施設の高度化を図るとともに,道路管理に必要な電力の再エネ導入を推進する。
 
● ダム管理における省エネ化に向け,施設管理用の消費電力を賄うための小水力発電等の再エネ設備等の導入・改修を推進する。
 
● 砂防施設整備における省CO2 化に向け,CO2排出量がより少ないような構造・材料・工法による砂防施設の整備・改築を推進する。
 
● 下水道の脱炭素化に向け,施設の更新や集約・再編等の計画も踏まえつつ,省エネ設備の導入や再エネ電源の導入,水処理の省エネ化等の省エネ技術の普及を推進するほか,下水道施設管理の高度化・効率化を目指し,データ利活用の基盤となる共通プラットフォーム構築に向けた実証等を行うとともに,ICT・AIによる広域管理・運転支援技術の確立に向けた実証を行う。
 

⑤質を重視する建設リサイクルの推進

● 廃プラスチックの分別・リサイクルの促進等の建設混合廃棄物等再資源化のための取組み,建設発生土の有効利用および適正な取扱みの促進など,建設副産物の高い再資源化率の維持を図る。
 
● リサイクル原則化ルールの改定等の社会情勢の変化を踏まえた排出抑制に向けた取組み等を推進する。
 
● 建設副産物のモニタリングの強化,建設発生土の適正処理促進のためのトレーサビリティシステム等の活用等の取組みを推進する。
 

 
 

おわりに

グリーン社会の実現の鍵は,「連携」である。国土交通省における「環境行動計画」や「国土交通グリーンチャレンジ」の実行・実施に当たっては,政府一体となって取り組むグリーン成長戦略や地域脱炭素ロードマップ等と軌を一にし,経済
産業省や環境省等の関係省庁との連携により,縦割りを打破し,最大限の効果を発揮できるよう取り組んでまいりたい。
 
また,地方公共団体や地域の各種団体,そして,国土交通分野に関わる多種多様な民間事業者や公的機関等との連携に加え,国民・企業等による主体的な取組みとも相まって,国土交通省に期待される大きな役割と責任を果たせるよう,カーボンニュートラルや気候危機に対応した社会システムの変革に挑戦し,持続可能で強靱なグリーン社会を将来世代に引き継いでいけるよう,総力を挙げて取り組んでいく。
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐
吉田 真人

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年8月号
積算資料公表価格版2022年8月号

最終更新日:2023-07-07

 

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