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総論

タイル張りは、高級感にあふれる外装を表現できる反面、基本に則って正しい施工を行わなければ剥離、剥落するリスクがある。
タイル剥落による第三者への被害を未然に防ぐ趣旨で、建築基準法により、竣工後10年経過した建築物は、全面打診による定期報告が義務づけられている。
 

タイル剥離のメカニズム

タイル張りは、コンクリートの打上り面を下地モルタルや下地調整材で調整した上で、張付けモルタルで張る工法が一般的である。
 
ここで問題となるのは、コンクリート・下地調整材・下地モルタル・張付けモルタルはそれぞれ収縮率が異なるということだ(図-1)。
その収縮差が大きいほど、接着界面での「せん断力」が大きくなり、このせん断力がタイルの接着力を超えると、剥離が生じてしまう。
したがって、タイルの剥離を未然に防ぐためには、①接着界面の接着力を高める、②接着層に作用するせん断力を小さくする、の2点が必要となる。
 
タイルの剥離は、①タイルと張付けモルタル、②張付けモルタルと下地モルタル、③下地モルタルと躯体の各界面で生じ得る。
このうち①については、タイル裏足の形状を工夫するなどして減少してきているが、②③については施工管理上の課題が残されている。
 
日本建築学会標準仕様書JASS 9「タイル張り工事」やJASS 15「左官工事」に則り、接着界面がせん断力を吸収できるよう、塗厚や吸水量などを適切に管理することが大切である。

図-1  タイル張り層に生じる各層のひずみ(ディファレンシャルムーブメント)
図-1  タイル張り層に生じる各層のひずみ(ディファレンシャルムーブメント)
出典: 外装タイル張り仕上げ材の経年劣化による剥離・剥落発生のメカニズム
  : 国立研究開発法人建築研究所建築生産グループ

 

剥離が生じやすいケース

最近、下地モルタルを省略し、躯体に下地調整材を塗布した上で直接、張付けモルタルを塗布する、直張り仕様が増えている。
コンクリートの打上り面がツルツルで、コンクリートの収縮が治まる前にタイルを張ってしまう、型枠剥離剤が残留している、吸水調整剤を使用していない、張付けモルタルにポリマー入りセメントモルタルを使用していない、などの要因が重なると、張付けモルタルがコンクリート下地から剥離するリスクが高まる。
 
コンクリート下地を超高圧水などで目荒らしする、張付けモルタルには下地への追従性に優れた既調合ポリマーセメントモルタルを使用するなどの対策が有効となる。
 
また下地調整材で不陸調整をする場合、塗厚が薄いと下地調整材の硬化不良(ドライアウト)が生じやすく、剥離に直結することから避けなければならない。
 

タイル剥落防止工法(新築)

タイル剥離を未然に防ぐ上で有効な工法として、有機接着剤張りがある。
ひび割れ発生率がモルタル張りの1/40程度のため、コンクリート躯体への変形追従性に優れる上に、白華が生じない、深目地や目地詰めなしの意匠も可能などの利点があり、東日本大震災でも被害は報告されていない。
 
また、躯体面に金属製レールを取り付け、タイルを機械的に取り付ける乾式工法も、剥落防止に有効な工法として普及している。
 

タイル剥落防止工法(補修)
① アンカーピンニング全面・部分エポキシ樹脂注入工法

モルタル面の浮き部をアンカーピンとエポキシ樹脂で固定し、かつ、残存浮き部分の全面/部分にエポキシ樹脂を注入し、浮き部分のモルタルとコンクリートを接着させて一体化を図る工法。
 

② 注入口付アンカーピンニン グエポキシ樹脂タイル固定工法

タイル表面に直接穴をあけて注入口付アンカーピンを挿入し、エポキシ樹脂を注入して固定し、タイルの剥落を防止する工法。
 

③ 樹脂系塗膜防水・保護工法

短繊維を配合し、耐久性に優れた透明な塗膜(特殊アクリル系など)を塗布し、タイル張りの外観を損なわずに剥落を防ぐ工法。
 

④ ピンネット工法

ピンでモルタル面をコンクリートに固定し、浮いたタイル層は接着で固定するのではなく、外側からネット層で押えて補強することで剥落を防止する工法。
 
なお、躯体面に生じたひび割れや欠損が原因でタイルが剥離している場合は、ひび割れ部に手動/自動でエポキシ樹脂を注入する工法、欠損部充填工法等が有効。
 
 

タイル剥落防止 注目製品

剥落防止工法(新築)
① 界面のひずみを低減する工法

タイル剥離・剥落の多くは下地モルタル、張付けモルタル、躯体の界面で生じるため、接着界面に生じるひずみを低減する工法が開発されている。
 

② 有機接着剤張り

有機接着剤を用いてタイルを張る工法。
(一社)全国タイル業協会は、接着剤張りの施工品質を確保するため、外装タイルと有機系接着剤の組合せ品質認定制度(Q-CAT)を運用しており、採用に際してはタイルも接着剤も認定品を使用し、定められた組合せで使用する。
 

③ 乾式工法

躯体面に固定した金属製レールにタイルを機械的に取り付ける工法。
 
不二窯業(株)の「クリップロックオン工法」とは、タイル乾式工法専用レール(クリップ付き縦型レール)を使った完全乾式タイル張りができる新しい工法である。
特別なレール金物とクリップ金物でタイルを固定しており、クリップにタイルをはめるだけなので作業性や耐震性に優れている。
既存の吹き付け仕上げやタイル仕上げにも施工可能で、改修工事にも対応している。

詳細▶特集57ページ
 
不二窯業(株)の「タイルクリップ工法」は、タイルの裏面にタイルクリップ(落下防止金物:ステンレス製)を取り付け、PC製作時にコンクリートと一緒に打ち込む工法である。
タイルクリップがスペーサーとなりコンクリートの被り厚を適正に確保し、剥離防止に寄与する。

詳細▶特集57ページ
 

剥落防止工法(改修)
① 樹脂等注入工法

樹脂注入工法は、樹脂の注入不良や共浮きによる剥離などが生じないよう、適切な施工技術が不可欠となる。
 
FSテクニカル(株)の「FST工法」は、振動ドリルの欠点を改善した低騒音・低振動の湿式二軸低騒音ドリル「T-2ドリル」を使用することで、従来の樹脂注入工法で生じがちな樹脂の注入不良や共浮きによる剥離などの不具合を解決した新工法。
 
さらに、多層空隙注入ノズル「FSノズル」を使用することで、躯体部および何層にも及ぶ剥離層であっても確実に樹脂を注入でき、共浮き防止機能を備えている。

(NETIS 登録:(旧)KT-150123-VR)。
 
FSテクニカル(株)の「FSコラム工法」は、建物の躯体から剥離した石張壁を撤去することなく、壁面と躯体の空隙部に樹脂柱を形成して固定する改修技術である。
従来は仕上げ材と躯体との空隙が 10~70㎜空いている石張外壁は、樹脂注入での固定は不可能とされていたが、独自開発の可動式注入ノズルと固定芯により確実に連結することができる。
壁面と石張外壁の置かれた環境に応じて、以下の固定方法から選択し、適切な固定を行うことができる。
 
・単一空間固定法
・多層空間固定法
・貫通固定法
・多層空間貫通固定法
・空間ブリッジ固定法

詳細▶特集48ページ
 
FSテクニカル(株)の「FSセメントスラリー工法」は、外壁の剥離部にセメントスラリーを注入する改修工法。
一般的なビル外壁補修に用いられる樹脂注入工法は、壁面に穴を開け、剥離部に可燃物であるエポキシ樹脂を注入し、全ねじピンを刺し込んで固定する技術であるが、火災等で樹脂注入部が290℃の温度まで上昇すると壁面の固定力がゼロとなってしまう大きな問題がある。
 
同工法は、ポリマー類を一切含まない純粋なセメントスラリーを特殊注入器により剥離部に注入するため、壁面温度が 800℃の高温下になった場合でも、固定力が保持でき、壁面の落下を防ぎつつ、完全不燃化を可能にした技術である。

詳細 特集49ページ
 

② ピンネット工法

既存外壁をネットとフィラーで一体化しアンカーピンで躯体に固定。
タイルやモルタルの剥落を防止する工法。
 
アイワテック(株)の「アドグラピンネット工法」は、ピンネット工法で全面的なタイル落下防止、ならびに下地を整形、保護層を作成した上で、天然石調仕上材アドグラで仕上げる工法。
下地・仕上げとも10年保証付きで、東日本大震災でも被害はなかった。

詳細▶特集46ページ
 
全国ビルリフォーム工事業協同組合の「GNSピンネット工法」は、建物の壁全面に繊維ネットを張り付けた後、ステンレス製アンカーで固定、その上から仕上げ塗材やタイルを施工して一体化させる建物全面の外壁落下防止工法である。
既存タイルやモルタルの上から仕上げを行うため意匠性の低下が起きず、建物の価値を損なわない。

詳細▶特集45ページ
 

③ 塗布型ライニング工法

アイワテック(株)の「アドグラ・クリアガード」は、高弾性で、耐久性と防水性に優れた透明度の高い塗料を、5層に塗り重ねて、タイルの落下を予防し、全面的な防水性の向上と目地部の劣化を防いで、長期間、外壁の安全性と美観性を保ち続ける工法。
損傷が比較的少ない時期に施工することで、コストパフォーマンスに優れる。
 
シーカ・ジャパン(株)の「ノンネットガードU工法」は、剥落防止層と仕上げ層が一体となった、新発想の外壁剥落防止工法。
特殊専用アンカーにて外壁仕上げ層を躯体に固定し、塗膜強度が高く耐久性に優れた1成分形特殊ウレタン樹脂で外壁面を被膜することで、ネットを用いずに外壁仕上げ層の剥落を防止する。
従来の部分改修とは異なり、全面改修により建物の安全性を長期間保つ「予防保全」を目指した工法である。

詳細▶特集52ページ
 
シーカ・ジャパン(株)の「エバーガードSG工法」は、特殊専用アンカーにてタイル・張付けモルタル層を躯体に固定し、塗膜強度が高く耐久性に優れた、透明度の高い特殊1成分形ウレタン樹脂にてタイル面を被膜することで、意匠性を保持し剥落を防止する工法である。

詳細▶特集53ページ
 
コニシ(株)の「ボンド アクアバインド工法」は、既存タイルの意匠を生かしながら外壁仕上材の剥落を防止する工法。
壁面全体をタイル中央部から施工されたステンレスアンカーピンでコンクリート躯体に固定し、1液型水性ウレタン樹脂で一体化することにより、長期的に外壁タイルの剥落を防ぐことができる。

詳細▶特集50ページ
 
コニシ(株)の「ボンドソルバインド工法」は、既存のタイルの意匠を生かしながら外壁仕上材の剥落を防止する工法。
溶剤形材料を使用するため硬化性に優れ、降雨などの環境要因による硬化不良リスクを抑制する。
中塗り材の塗布回数が2回のため、各施工段階の間隔が短く、工期短縮に貢献する。

 
コニシ(株)の「ボンド カーボピンネット工法」は、繊維ネットとカーボンファイバー含有ポリマーセメントで壁面を一体化し、さらにステンレスアンカーピンで躯体に強固に固定する工法。
新規仕上げとして各種塗装・塗材を施工するのに好適な下地を提供する。
 
なお、石綿含有建築用仕上塗材で施工された外壁の改修にも対応可能である。

詳細▶特集51ページ
 
日本樹脂施工協同組合の「JKクリアファイバーW工法」は、下塗材・中塗材・上塗材まで完全水性材料による剥落防止工法である。
特殊アンカーピンをタイル片中央部へ設置することでタイル自体に座金効果をもたらし、超高強度特殊繊維を混入した特殊ウレタン樹脂を塗布することで、タイル張り外壁を面で補強する。

詳細▶特集54ページ
 
日本樹脂施工協同組合の「JKセライダー工法」は、短繊維を混入した特殊アクリル樹脂「JKセライダー」と特殊アンカーピンで、タイル張り外壁を面で補強するタイル落下防止工法である。
皮膜は無色透明で、タイル仕上げの高級な風合いをそのまま生かし、いつまでも美しく維持することができる。

詳細▶特集55ページ
 
(株)リノテックの「モザイクアンカーピン固定工法」は、近年増加している直張りタイルの浮きに対応するタイル固定工法である。
ピンの弾性(復元力)を利用してタイルと躯体コンクリートを固定する。
 
全ネジピンとは違い、ピン自体に固定力があるため樹脂注入時の共浮きや経年による固定力の低下を防ぐ。
 
また、二段掘りが不要であるため、注入口付アンカーピンによるタイル固定工法に比べて大幅なコストダウンを実現する。

詳細▶特集58ページ
 
全国ビルリフォーム工事業協同組合の「GNSアンカー工法」は、アンカーピンで外壁タイルを固定することで外壁タイルの落下を防止する工法である。
専用のステンレス製アンカーピンで既存タイル中央部を全面均等に留めることにより、外壁全体の落下を防止する。
既存タイルを留めるため陶片浮きタイルや下地浮きタイルの張替え、外壁タイルの部分張替えをする必要がほぼなく、また色合い等の
意匠性の低下を起こさず、建物の価値を損なわない。

詳細▶特集44ページ
 
(株)ヒロ コーポレーションの「ヒロ結合工法」は、内・外装のタイルや石材を安全に張るために開発された独自の工法。
専用タイルを必要としないため、改修工事時に既存の内・外装を撤去する必要がない。
超大形タイル張り工法をはじめ、多数の工法がある。
 
また、同社の乾式外断熱工法である「HT外断熱工法」は、通気層乾式工法を採用し、自重や外力に強く、安全性が確認された工法で、多種多様な外装材を選択でき、剥落も防止する。

詳細▶特集56ページ
 
(株)グッドの「テクノテスター」は、外壁タイルの付着力・接着力やアンカーピン・ネジの引張強度、外壁仕上げ材の劣化調査や施工品質の確認等に対応する簡易型引張試験器。
小型・軽量設計で、操作手順もボタン上に数字で印字されているため、誰でも手軽に正確な引張試験を行うことができる。
LEDバックライト付きデジタル表示で暗所でも正確な測定が可能。
ピークホールド機能により最大荷重値が表示されるほか、単位面積(㎟)当たりの荷重値をワンタッチで計算・表示し、作業時間と負担を軽減できる。
日本建築仕上学会認定品。

詳細▶特集43ページ
 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2025年11月号


積算資料公表価格版2025年11月号

最終更新日:2025-10-29

 

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