- 2025-10-29
- 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 | 積算資料公表価格版
総論
近年、建設現場や工場をはじめとした屋外・半屋外環境において、猛暑による作業環境の悪化が深刻化している。
特に日本では気候変動の影響により、真夏日や猛暑日が増加しており、労働者の安全確保が大きな課題となっている。
厚生労働省の統計によれば、2024年の職場における熱中症による死傷者数は1,257名、うち死亡者数は31名に達し、過去10年で1番多い水準であった。
こうした背景を踏まえ、2025年6月には労働安全衛生規則が改正され、事業者に対して熱中症対策の実施が義務化された。
この義務化は建設業や製造業だけでなく、農業や運輸業など幅広い分野に影響を及ぼしている。
遮熱資材は、こうした熱中症対策において重要な役割を担う。
遮熱資材とは、太陽光に含まれる赤外線や近赤外線を反射または吸収することで、屋内外の温度上昇を抑制する建材やシート類を指す。
建設現場では仮設屋根や足場用ネット、資材置場の覆いなどに使用され、倉庫や工場では屋根材や外壁材として活用される。
遮熱性能を持つ塗料やフィルムも普及が進んでおり、用途は多岐にわたる。
遮熱効果
遮熱資材の導入効果について、例えば屋外作業場に遮熱シートを設置した場合、直射日光下と比べて作業環境温度を2~4℃程度低下させることが可能とされる。
遮熱塗料を施した屋根では、日射を反射することで屋内温度の上昇を抑制し、空調負荷を10~20%削減した事例も報告されている。
温度の低下は作業員の体温上昇を防ぎ、熱中症リスクの軽減につながるだけでなく、施工品質や作業効率の維持にも寄与する。
一方で課題も存在する。
遮熱効果は設置条件や気象条件によって変動が大きく、過信は禁物である。
また、導入コストの回収期間や資材の耐久性も検討課題となる。
短期間の仮設現場では資材の再利用やリースの仕組みを活用し、長期的な建築物ではライフサイクルコストを考慮した資材選定が求められる。
公共工事における遮熱資材の位置付け
公共工事においても、遮熱資材の導入は拡大している。
国土交通省が定める「現場環境改善費」や「熱中症対策に資する現場管理費補正」の対象として、遮光ネットや遮熱シートは位置付けられており、発注機関側からも積極的に導入が推奨されている。
特に近年は、猛暑日を考慮した工期設定が導入されたことにより、現場の稼働時間を短縮しつつ、遮熱資材によって作業環境を改善する取組みが並行して進められている。
カーボンニュートラル
2025年6月の義務化を受け、企業は法的対応としての熱中症対策だけでなく、ESG経営やカーボンニュートラルの観点からも遮熱資材の活用を進めている。
遮熱塗料や高反射率を持つ金属屋根材は、冷房使用量を減らし、省エネルギーやCO₂排出削減に寄与する。
これにより、労働安全と環境負荷低減の両立を実現できる点が評価されている。
おわりに
熱中症対策義務化によって、事業者は従来以上に計画的かつ効果的な取組みを行う必要がある。
遮熱資材はその中核を担うが、十分な効果を得るためには、飲料・休憩時間の確保やWBGT値による作業管理といったソフト面の対策と組み合わせることが不可欠である。
行政による補助制度や民間企業の研究開発も進んでおり、遮熱資材市場は今後さらに拡大することが予測される。
総じて、遮熱資材は建設業をはじめとする多くの産業において、熱中症対策と環境対策の双方に資する重要な手段となっている。
義務化を契機に、現場レベルでの普及と最適活用が進むことが期待される。
遮熱資材 注目製品
文化シヤッター(株)の「はるクール」は、屋根の内側に設置する遮熱シートであり、太陽光で熱せられた屋根から発生する輻射熱(遠赤外線)を反射し、最大で97%をカットすることで、建物内の温度上昇を抑制する。
これにより熱中症予防や空調効率の向上に寄与し、快適な作業環境の実現に貢献する。
使用されているアルミ箔シートは国土交通省の不燃材認定を取得済みで、UVや熱による劣化のない素材を採用しており、安全性と耐久性を確保している。
また、軽量かつ丈夫で建物に負担をかけず、長期間にわたって性能を維持する点も特長である。
一般的に空調設備の効率改善には断熱材を用いた工事が必要となるが、費用が大きくなることが多い。
「はるクール」は断熱材ではなくシート材による遮熱方式を採用しており、低コストで導入できる点が大きなメリットである。
さらに、室内に設置されるため紫外線による劣化や風災による破損のリスクが低く、電力などの追加コストも不要で、10年以上の耐久性を持つことからランニングコストが発生しない。
施工面においても柔軟性が高く、建物の状況に応じて、工場であらかじめ設置場所に合ったサイズに加工する方式と、現地でサイズに合わせて加工する方式を使い分けることができ、効率的かつスムーズな施工が可能となっている。
詳細▶特集61ページ
セイキ販売(株)の「サングッド」は、窓の外部に取り付けて室内への日射熱の侵入を効果的に抑える日よけシェードである。
2020年のフルリニューアルによって、操作性や静音性、デザイン性が大幅に向上し、住宅や施設に幅広く導入されてきた。
さらに近年では、従来の機能に加えて遮熱性能が高い「高遮熱生地」が採用され、室内での熱中症対策や省エネ効果が一層高まっている。
高遮熱生地は85~88%の高い日射熱カット率を実現し、夏場の室温上昇を防ぎながらエアコン効率を高め、冷房費の削減にもつながる。
カラーはサンドベージュをはじめとする4色展開で、外壁に調和しやすく飽きのこない落ち着いたデザインが特長であり、一般住宅はもちろん、高齢者施設や保育施設など多様な建物で採用可能である。
また、「サングッド」は快適性や使いやすさにも配慮されている。
スプリングによる自動巻き上げ機構を備え、さらにダブルブレーキによるソフトクローズ機能を搭載。
スクリーンが収納される直前でブレーキがかかり、ゆっくり巻き上がって静かに収納されるため、操作音やシャフトのバタつきも抑えられ、静かな動作を実現する。
使用していない時にはスクリーンやボトムバーがボックス内に完全収納されることで、外観のスマートさを維持でき、強風下でもバタつくことがなく安心して使用できる点も大きな魅力である。
詳細▶特集63ページ
福泉工業(株)の「断熱材一体型金属かわら Fukuizumiかわら」は、断熱性と耐久性を追求した屋根材である。
代表的資材である「シルキーG2」は、表面に遮熱顔料入りポリエステル系ちぢみ塗装を施し、裏面にはウレタンフォームとアルミライナー紙を組み合わせることで、高い断熱効果が期待できる。
また、専用役物が1.8mと長尺で、施工や配送がしやすく、さらに水平方向に重なり段差が出ない接合方式を採用することで、美しい仕上がりと施工ロス削減、短工期を実現している。
ハゼ掛け嵌合方式により、ビス打ち部や切断部が露出せず、雨水による漏水や強風によるバタつきのリスクも抑えられている。
実際、水密性能試験では風速30m/s、降水量240mm/hでも漏水はなく、耐風圧性能試験では風速60m/sでも破壊しない堅牢性が確認されている。
その他のラインナップとして、粘土瓦の1/8という軽量性を誇る「FSストーン」は、落雪の少ない積雪地域に適し、遮音性向上にも寄与。
さらに、硬質ウレタンフォームを採用し、冷暖房効率向上と結露対策に優れた「CRESPAルーフ(フッ素)」は、和風スタイルにも調和するデザイン性と環境配慮の両立が図られている。
また、既存瓦の上から重ね葺き可能な点も魅力である。
詳細▶特集62ページ
【出典】
積算資料公表価格版2025年11月号

最終更新日:2025-10-29
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