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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 施工者から見たCIMの問題点と対応策《その1》

 

株式会社 大林組 技術研究所
主任技師 古屋 弘

 

はじめに

日本社会は成熟期を迎え、社会インフラは建設一辺倒からメンテナンス・リニューアルに関しても考える時期となりつつある。
一方で、高齢化に伴う労働力の不足や、近年の建設投資はGDPの10%を割り込むなど、人間を含めたリソースを無駄なく有効に使わなければならない時代となりつつある。
 
このような時代背景の中で、建設工事においては、構造物を構成する材料や構造といった要素技術分野の学術的研究の進歩を背景に、設計の高度化と信頼性向上が進み、性能規定を取り入れた設計法が各分野で取り入れられつつある。
一方、施工分野でも大きく建設技術が進歩する中で、工法や施工機械の高度化のみならず、ICT(Information and Communication Technology情報通信技術)を建設施工に活用して、高い生産性と施工品質を実現する新たな施工システムの総称として使用されるようになってきた。
 
特に土木工事の分野で、現在われわれの多くが認識する「情報化施工」は、2008年7月に公表された「情報化施工推進戦略」(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/01/010221_4_.html(2012))に基づく国交省のプロジェクトにより大きく歩み出し、施工の最適化を行う計測管理を主体とした「情報化施工」から、GPSに代表される高性能な計測装置や高機能なセンサ、およびネットワーク技術の建設現場での活用により、「ICT施工」と呼ばれる新しい情報化施工管理技術へと進化し、数多くの現場に普及しつつある。
 
さらに、ICTの活用のみならず建設プロジェクトを3次元データやプロダクトデータを有効に活用しつつ統合管理しようという考えに基づき「CIM(Construction Information Modeling)」が国土交通省から提起され、2012年度から設計分野での施行が開始された。
CIMの活用は建設における業務フローを大きく変革することは必須で、建設プロジェクトの関わる全ての人々にある種の不安と期待を抱かせている。
 
今回はCIMの活用を施工者の面から考え、われわれが考える課題と対策をまとめてみたい。
 
 

情報化施工の変遷

近年では、情報化施工とICTは同義語のように認識されているが、情報化施工の概念は図-1のように分類される。
 

図-1 情報化施工の変遷

図-1 情報化施工の変遷


そもそも、建設分野における情報化施工とは、設計(未確定の条件をモデル化した予測値)と施工とのギャップを埋め、施工の合理性を追求することにより、経済的で安全な施工を行うことを目的としたもので、従来から観測施工(Construction by Information Retrieval System)とも呼ばれているものである。
この情報化施工は施工管理において、依然として重要な概念であり、施工中の計測データから得られる情報を基に、現状解析・逆解析から施工現場の当初の情報の不確実性を徐々に減少させ、予測解析を経て施工を安全に行い、結果的に合理的な施工を行うことを目的としている。
 
この情報化施工は、多くの施工現場で重要な意味を持ち実施されているが、さらに近年では「新しい情報化施工」が進展しつつある。
その代表が、屋外の測量におけるGPSに代表される高性能な計測装置や高機能なセンサの利用と、ネットワークの活用、さらにそれらを利用した施工管理システムの進化から、いわゆる「ICT施工」技術と呼ばれるようになった技術の適用である。
このICTの活用は、調査や維持管理におけるツールとしても有効に活用され、プロジェクトの合理化に寄与するとともにLCC(Life Cycle Cost)の低減にも寄与する可能性を秘めている。
(参考文献>古屋弘:近年の施工管理の中での情報化施工、地盤工学会誌Vol.58 No.1 pp24-25(2010.1))
 
さらにICTの活用は、施工の効率化・高精度化のみならず、設計データを基に施工時における受発注者間/施工業者間のデータ共有、およびCALS/ECの概念を取り入れた「建設工事の企画設計から施工管理全般に適用しようとする試み」にまで広がり、3次元モデルの活用とともに、建設のプロセスの中だけではなく、構造物の維持管理やアセットマネージメントにも活用が期待されている。
これらは、建築におけるBIM(Building Information Modeling)の活用と同様な考え方であるが、土木におけるプロダクトモデルの活用として、近年ではCIM(Construction InformationModeling)のような概念で、新たな情報化施工の方向性が示されている。
(参考文献>佐藤直良:BIMからCIMへ―建設生産システムのイノベーションに向けて―、2011年度公共調達シンポジウム(2011.11))
 
いずれの意味での情報化施工においても、計測等で得られたデータの有効活用が根底にあり、ICTは建設プロジェクトで利用したり、発生する多くの情報を合理的かつ迅速に処理するツールとして機能し、その重要性はますます高まり、活用範囲も広がりつつある。
さらに、このICTをベースにしたCIMは、建設に変革をもたらすものと期待される。
 
 

建設業就労者の動向

ICTの活用に関する技術の方向や、CIMの課題、およびそれがもたらす効果に関しては後述するが、その前に建設業の抱える課題の一端を就労者の推移という観点からここに示す。
 

図-2 建設技能労働者の過不足率

図-2 建設技能労働者の過不足率


図-2は国土交通省「建設労働需給調査結果」に2011年の月次状況、および関連する社会情勢の一部を追記したものであり、図-3は総務省「労働力調査」から他産業と建設業の就労者の年齢構成を示したものである。
建設業の活況は景気に左右される部分は他産業と同様であるが、公共投資に大きく影響を受ける点は他産業との相違点である。
図-2において、バブル崩壊後はいざなみ景気の期間を除き、建設業労働者の需給は安定からやや過剰状態であったが、2011年3月の東日本大震災以降、労働者の不足傾向が顕著になりつつある。
このような情勢の中、図-3に示すように建設業の就労者の高齢化と若年労働者の不足傾向は、他産業に比較して悪化しており、震災復興に関わる建設需要の他、今後対応を迫られる国内の社会インフラの老朽化に伴う補修やリニューアルに対しての需要に答えられなくなる懸念もある。
さらに、若年層の建設産業就労者の低下は、次世代への技術継承の観点からも憂慮すべき事態である。
 
建設投資が図-2に示すように1992年にピークの84兆円であったものが、2013年には前年並みの約44兆円(予想)となり、建設投資の対GDP比率17.4%から9.5%に低下している。
このような社会情勢の中で、少なくとも就労者問題解決には、産業構造の改革や就労環境の改善を実施するなどの抜本的解決も必要であることは間違いない。
それらに加えて、他産業に比較して生産性の悪いとされる建設業を、ICTを活用することにより効率化し、構造物の情報のみならずノウハウや「業・技」のような暗黙知を情報化し、次世代に継承することは、ICTの活用をベースにしたCIMの使命であると考える。
 
図-3 建設業就労者の年齢構成の推移

図-3 建設業就労者の年齢構成の推移


 
 
 
施工者から見たCIMの問題点と対応策《その1》
施工者から見たCIMの問題点と対応策《その2》
施工者から見たCIMの問題点と対応策《その3》
施工者から見たCIMの問題点と対応策《その4》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 

最終更新日:2014-06-11

 

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