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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 『営繕積算方式』活用マニュアルの改訂について

 

1.はじめに

『営繕積算方式』は,国の統一基準である公共建築工事積算基準とその運用にかかる各種取り組みをパッケージ化したものです。
そもそも『営繕積算方式』は,東日本大震災の復興において,地域住民の生活に重要な学校や病院等の公共建築工事で不調・不落が多く発生し,その再建の遅れが復興に支障を来しかねない状況となり,国土交通省でもこれを大きな課題と捉え,公共建築工事の円滑な施工確保を図るツールとして取りまとめられたものです。
 
公共建築工事は,各工事で敷地や建物形状等が異なり,土工事から躯体工事,仕上工事などさまざまな工種が含まれているほか,多様な仕様により構成され,いわゆる「一品受注生産」に近いものとなっています。
予定価格の基本構成となる直接工事費,共通仮設費や現場管理費などの算定方法は,土木積算と異なる部分も多くあります。
これらに適切に対応してもらうためにも,『営繕積算方式』の提案につながったものと考えられます。
 
 

2.『営繕積算方式』活用マニュアルの策定

平成24年の暮れ頃から,東日本大震災の被災地において公共建築工事がなかなか落札されない事態が見受けられるようになりました。
平成25年度に入ってからは全国各地で,特に地方公共団体発注の大型公共建築工事が落札されない事態が立て続けに発生するようになり,大きな問題となりました。
 
既述のとおり建築工事は,いわゆる「一品受注生産」であり,例えば建物規模が同じであっても同じ積算にはなりません。
このため,工事ごとに,「適切な工期設定」「設計図書に基づく適正な数量の算出」「実勢にあった単価および価格の設定」「現場の実態に合った共通費の積み上げ」等を丁寧に行い,工事費を積算する必要があります。
国土交通省では,従前より実勢価格や現場実態を的確に反映した適正な予定価格の設定,契約後の物価変動等に的確に対応できる積算方法等の改善に取り組んできました。
 
こうした各種取り組みが,被災地の不調・不落対策にも役立つのではないかと考え,業界団体の皆さまからもご意見をいただき,平成26年9月,「公共建築工事積算基準」に基づく積算方法とその運用にかかる取り組みをパッケージ化し,『営繕積算方式』として被災地の地方公共団体や建設業団体の方々に説明を行いました。
これらの説明会を踏まえて,「『営繕積算方式』活用マニュアル(被災3県版)」を取りまとめ,公表しました。
 
また,平成26年6月に改正された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」に基づく基本指針が平成27年1月に関係省庁連絡会議においてまとめられました。
その解説資料に,公共建築工事の実勢を踏まえた適正な予定価格の設定に向けて,「『営繕積算方式』活用マニュアル」の活用が記載されました。
これを受けて,「被災3県版」を全国展開できるように見直し,平成27年1月に「『営繕積算方式』活用マニュアル(普及版)」として公表しました。
さらに,平成31年3月には,近年頻発する自然災害に伴う復旧工事を含め,公共建築工事の円滑かつ着実な実施が求められていることを踏まえ,適正な予定価格の設定,適切な契約変更等,円滑な施工確保のための各種取り組みについて解説を充実させる改訂を行いました。
 
そして令和3年4月,約2年ぶりに『営繕積算方式』活用マニュアルを改訂しました。
 
 

3.『営繕積算方式』活用マニュアルの概要

「『営繕積算方式』活用マニュアル」(以下,マニュアル)は,マニュアルに記述した各種取り組みを実施していくことで,
 ● 実勢価格や現場実態を的確に反映した適正な予定価格の設定
 ● 施工条件の変更や物価変動等への適切な対応
が実現され,公共建築工事の円滑な施工確保が図られることを主眼としています。
マニュアルには,これまで国土交通省の営繕事業で取り組んできた適正な予定価格の設定や適切な契約変更等の各種取り組みについて,分かりやすく解説してします。個々の取り組みのメニューは,図-1のとおりです。

  • 公共建築工事の円滑な施工確保のための各種取り組み一覧
    図-1 公共建築工事の円滑な施工確保のための各種取り組み一覧】


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    4.改訂の概要

    今回の改訂では,前回(平成31年3月)の改訂以降に進めてきた取り組みを中心に内容の充実を図りました。
    主な改訂項目は次のとおりです。

    ① 円滑な施工確保のための対策に関する記載内容の充実
    公共建築工事の円滑かつ着実な施工に有効と考えられる工事費積算上の対応について整理し,以下の内容に関する記載を追加
     ● 単価の適切な補正(工事量が少量,僅少等の場合の単価補正等)
     ● 工事の一時中止に伴う増加費用の積算

    ② 新たな課題への対応

    新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策など,新たな課題に対する工事費積算上の対応について整理し,以下の内容に関する記載を追加
     ● 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策(積算関係)
     ● 熱中症対策に係る費用の計上
     ● 労災補償に必要な保険契約における保険料の費用他の計上
     ● 墜落制止用器具(フルハーネス型)の原則化に伴う対応
     ● 営繕工事における週休2日促進工事(積算関係)

     
     

    5.改訂の具体的な内容

    次に,改定の具体的な内容について,いくつか紹介いたします。

    (1) 単価の適切な補正(工事量が少量,僅少等の場合の単価補正等)(図-2)

    改修工事で建物内に執務者がいる場合,騒音・振動の発生する作業の時間制限,工事用資材等の搬入・搬出等のための経路や時間制限等により作業効率が低下するため,新築の場合の単価(標準単価)に一定の割増を行います。
     
    また,工事量が少量(概ね100m2以下)の場合,作業が分割されることで準備・片付け等の時間が増加し,作業効率が低下することから,さらなる
    単価割増を行います。
    今回の改訂では,具体の割増の考え方や計算例を追加しました。
    例えば,建築改修工事の内装改修において工事量が少量となる場合は,割増係数を1.3とすることとしています。
     
    また,工事量が少量で,施工場所が点在(5カ所程度以上)し,作業時間が極めて限られる等の制限,作業空間が著しく狭い等の制限によって施工効率が著しく低下することが想定され,割増係数 1.3では実状に合わないと考えられる場合には,作業日当たりの施工の実状を検討の上,割増係数1.3を超え2.0程度までの範囲で適切に設定することとしています。
     
    さらに,工事量が極めて少ない(僅少施工:概ね10m2以下)の場合には,通常の積算方法では実状に合わないことが懸念されるため,施工に最低限必要な人工数と材料費等を計上することとしています。
     
    具体的な事例については,利用者の方が計算過程を追うことができるよう,数値,計算式をできる限り詳細に記述しています。

  • 工事量が少量,僅少等の場合の単価補正等
    図-2 工事量が少量,僅少等の場合の単価補正等】

  • (2) 工事の一時中止に伴う増加費用の積算(図-3)

    実際の施工現場では,当初契約締結時には予測できない人為的事象や天災等の発生に伴う工事現場の変化等により,工事の継続が困難な状況に陥る場合があります。
    そうした場合,必要に応じて工事の一時中止を行うとともに,これに伴う増加費用(工事現場の維持等に要する費用)の適切な計上が必要となります。
     
    マニュアルでは,工事の一時中止に伴う増加費用の計上方法を示しています。
    また,増加費用として計上する費用について,「工事体制の縮小に要する費用」「工事現場の維持に関する費用」「工事の再開準備に要する費用」に分類し,具体の項目を記載しています。

  • 工事の一時中止に伴う増加費用の積算
    図-3 工事の一時中止に伴う増加費用の積算】

  • (3) 墜落制止用器具(フルハーネス型)の原則化に伴う対応

    安全衛生関係法令の改正(平成31年2月)により,墜落制止用器具には「フルハーネス型」を使用することが原則となりました。
    また,現行の安全帯(胴ベルト)の使用については,令和4年1月1日までの猶予期間が設定されています。
    これを受けて営繕工事においては,猶予期間中の導入費用を当初から計上(元請分は現場管理費,下請分は直接工事費に計上)する取り組みを行っています。
    マニュアルでは,費用計上のイメージおよび計算方法について記載しています。

    (4) 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策(積算関係)(図-4)

    国土交通省の発注工事・業務では,「工事及び業務における新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策の徹底について」(令和2年4月20日付け,国官総第12号ほか)に基づき,受注者が追加で費用を要する新型コロナウイルス感染拡大防止対策を実施する場合には,受発注者間で協議を行い,感染拡大防止のために必要と認められる対策については,発注者が適切に負担することとしています。
    今回のマニュアルにおいて,現場に配備する消毒液や体温計測器など,対象となる対策例を記載するとともに,工事費積算上の留意点等を記載しています。

  • 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策
    図-4 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策】


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    6.『営繕積算方式』の普及・促進

    マニュアルについては,公共建築工事の発注者である国の機関や都道府県・政令指定都市に参考送付しています。
     
    また,7月にはマニュアルの要点をまとめた概要版を作成し,官庁営繕部のホームページ(※注)に公表しています。
     
    今後も,各種会議や公共建築相談窓口における個別相談対応等,さまざまな機会を捉えてほかの公共発注機関に対し広く情報提供することで,普及・促進を図ってまいりたいと考えています。

     

    (※注)国土交通省大臣官房官庁営繕部ホームページ:http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000009.html

     



     
     
     

    国土交通省 大臣官房 官庁営繕部 計画課 営繕積算高度化対策官
    城澤 道正(しろさわ みちまさ)

     
     
     
    【出典】


    建築施工単価2021秋号



     
     
     

    最終更新日:2022-01-11

     

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