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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 雪寒対策資機材 > i-Constructionを活用した冬期道路管理の効率化に向けて

1.背景

秋田県は県全域が積雪寒冷地域に指定されており,国土交通省秋田河川国道事務所が管理する秋田県内の直轄国道(以下,管内道路と称する)においても,雪や路面凍結,地吹雪に係わる事象が発生するなど,冬期特有の交通課題を有している。
写真-1は,平成18年1月に一般国道7号で発生したスタック車両による渋滞の状況である。
 
こうした交通課題に対し,技術者の担い手不足等が深刻化する中,冬期における道路管理の効率化を図るため,全国的にi-Constructionを活用した取組みが進められている。
 
本稿では,積雪寒冷地域における安全で信頼性の高い冬期道路交通サービスを確保するため,i-Constructionを活用した秋田河川国道事務所の冬期道路管理の効率化に向けた取組みについて報告するものである。
 

沿岸部におけるスタック発生状況

写真-1 沿岸部におけるスタック発生状況
(平成18年1月 八郎潟町 国道7号)

2.冬期交通の現状について

管内道路における冬期交通の課題として,スタック車両による交通障害に加え,視程障害や路面凍結等による交通事故が挙げられる。
これらの発生状況を次に示す。
 

2-1 スタックの発生状況

図-1は,平成29年度から平成30年度の2年間に東北地方の直轄国道において発生したスタックの分布を示したものである。
 
スタックは一般的に縦断勾配の大きい山間部において発生しやすいが,秋田県内においては,日本海沿岸部特有の地吹雪や暴風雪によるスタックも多く発生している。
 

秋田県内のスタック発生状況(平成29~30年度)
図-1 秋田県内のスタック発生状況(平成29~30年度)
(秋田河川国道事務所調べ)

 

2-2 冬期事故の発生状況

図-2は,管内道路において過去10年間に発生した死傷事故の類型別内訳を冬期間(12~2月)と通年で比較したものである。
冬期間では,特に「正面衝突」の発生割合が11.0%と高く,通年の6.9%に比べて約1.5 倍となっている。
冬期間は,路面凍結や視界不良により,対向車線に逸脱する可能性が高くなると考えられるが,特に「正面衝突」は「追突事故」などの他の事故類型と比較しても死亡・重傷事故につながりやすく,大きな課題といえる。
 

冬期事故の事故類型別割合(平成21~30)
図-2 冬期事故の事故類型別割合(平成21~30)
(イタルダデータ(平成21~30)をもとに作成)

 
また,図-3は,過去4年間に発生した冬期事故について,気象庁秋田地方気象台のデータを用いて,冬期事故発生時の視程状況を集計したグラフである。
管内道路では,年平均の視程が17.3kmであるが,冬期事故の85%はこれを下回る視程で発生している。
このことは,地吹雪や暴風雪による視界不良が,冬期事故を誘発する要因となりうることを示唆しているといえる。
 

冬期事故発生時の視程状況(平成28~令和元)
図-3 冬期事故発生時の視程状況(平成28~令和元)
(イタルダデータ(平成28~令和元)をもとに作成)
 
2-3 急挙動の発生状況

図-4は,ETC2.0プローブデータを用いて,管内道路における急ハンドル(8.5deg/s以上または-8.5deg/s以下)の発生確率(年平均)を1km間隔で集計したものである。
交差点が集中する市街地やカーブの連続する山間部以外にも,地吹雪や暴風雪の影響を受ける沿岸部の単路区間において急ハンドルの発生確率が高い箇所が存在している。
特に冬期の凍結路面では,スリップが起こりやすく,急ハンドルが多発する区間では,正面衝突等の冬期事故を誘発する危険性が高いと推測される。
 

急ハンドル発生状況(平成31)
 
図-4 急ハンドル発生状況(平成31)
(ETC2.0プローブデータをもとに作成)

 
 

3.冬期道路管理の課題について

図-5は,管内道路に設置しているCCTVカメラの位置を示したものである。
秋田河川国道事務所では,これまでも道路状況を監視するためにCCTV カメラを設置しているが,山間部のトンネル,橋梁,法面,急カーブ区間等の道路構造上の危険箇所や沿岸部の主要な地点に点在して配置しているため,管内の全道路を把握することは困難な状況である。
 

主なCCTVカメラの設置状況

図-5 主なCCTVカメラの設置状況
(秋田河川国道事務所HPより)

 
交通事故やスタックは,長時間にわたる交通障害につながるため,それらの事象を発生させないよう未然防止に努めることが重要であり,そのためには,道路状況をタイムリーに監視し,交通障害が発生する前に除雪等の対策を行うことが必要となる。
しかしながら,前述の通り,現状のCCTVカメラは管内の全区間をカバーしていないため,パトロールカーや市民からの通報による
情報の取得,もしくは職員や経常維持業者の経験値に基づく定性的な判断により,除雪等の出動判断を行っている。
そのため,交通障害等の発生から対応までに時間を要するケースも起きているのが実状である。
 
こうしたことから大規模な交通障害や交通事故を抑制するためには,リアルタイムの交通状況の把握や発生リスクの予測精度の向上を図ることが課題となっている。
 
 

4.冬期道路管理の効率化に向けて

4-1 効率化に向けた取組み

前章で整理した課題を踏まえて,秋田河川国道事務所では管内重点監視箇所管理用補助的カメラとしてWEBカメラを設置し,管内の道路を網羅的にリアルタイムで確認できるような取組みを行っている。
 
図-6は,WEBカメラの構成を示したものである。
WEBカメラから取得された録画データは,インターネット回線を通じて暗号化技術によって保護されたクラウド上に保存され,特定の職員のパソコンやスマートフォンから容易に閲覧することが可能となっている。
これにより,時間や場所を問わずに現地状況を把握することが可能となり,迅速な現地状況の把握や省人化が期待されている。
 
また,ポータブルバッテリー等から電源が確保できるため,可搬性が高く通常期や雨季には冠水の可能性の高い箇所に重点的に配置する等の柔軟な運用も可能となっている。

WEBカメラの構成
 
図-6 WEBカメラの構成
 

図-7はWEBカメラの設置位置を示したものであり,CCTV カメラでカバーできなかった沿岸部,山間部のリアルタイム観測が必要な危険性の高い区間についてもカバーできるようになっている。
 

WEBカメラの設置箇所
図-7 WEBカメラの設置箇所
4-2 さらなる効率化に向けた今後の取組み

WEBカメラの導入に加え,冬期道路管理のさらなる効率化,高度化に向けて,今後,秋田河川国道事務所管内において検討すべき取組み課題を示す。
 

(1)既設システムを活用した除雪体制の構築

現在,雪氷予測システムを用いて,天候,気温,降雪量だけでなく,路面凍結や吹雪視程メッシュ予測情報など,きめ細かな気象データを収集し道路管理に活用している。
今後は,CCTV カメラや前述のWEBカメラから得られるリアルタイム情報と合わせて,スタックの発生しやすい区間を特定し,巡回型除雪を行うことで,交通障害の発生リスクを軽減することを目指している。
 

(2)除雪車の走行履歴データの分析

現在,除雪車両にはGPSが搭載されており,これを用いて運行状況等を記録している。
図-8は,除雪車へのGPS搭載イメージを示したものである。
今後は,除雪車両の運行履歴データの蓄積を図り,気象観測データやスタック発生履歴,ETC2.0プローブデータから得られる降雪時の走行データ等と組み合わせて分析を行い,最適な除雪頻度や除雪ルートを抽出することで,より効率的な除雪車の運行管理を目指している。
 

除雪車へのGPS搭載イメージ

図-8 除雪車へのGPS搭載イメージ

 

(3)アラートシステムの構築および情報提供の充実

大規模な交通障害を未然に防止するためには,さまざまなデータを活用してスタック等の発生リスクを予測し,異常が発生した際には速やかに道路利用者へアラートを発信するシステムを構築することが望ましい。
図-9は,アラートシステムの構築イメージを示したものである。気象や交通データ,CCTV やWEB カメラの映像,SNS 等の情報を収集し,リアルタイム処理を行い,これらの情報から統計解析によりスタック等の発生確率を算出し,アラートを発信する。
さらに,これらをデータ通信や道路情報板を用いて道路利用者へ情報提供するものである。
統計解析やデータ処理にあたっては,AI技術により学習させることにより,データの蓄積とともに精度向上を図り,より効果的な情報提供を目指している。
 

アラートシステムの構築イメージ

図-9 アラートシステムの構築イメージ

 

(4)Twitter等のSNSを活用した情報収集

現在,秋田河川国道事務所ではTwitterを開設し,地域住民や道路利用者への情報提供や情報収集を行っている。
こうしたSNSから得られる情報は,リアルタイム性に優れ,CCTVやWEBカメラ映像ではカバーできないエリアの補完にもなるため,道路管理の効率化にも寄与するものである。
 
現在では「SAFETY MAP」のように,Hondaインターナビのフローティングカーデータや一般ユーザーからの投稿情報を活用したソーシャルマップが運用されている。
閲覧は,パソコンや携帯端末でも可能であり,一般ユーザーは交通事故の危険スポットなどを確認することができるようになっている。
 
このように,道路管理者と一般ユーザーが相互に有益な情報を得られる仕組みを構築し,道路管理へ活用することを目指している。
また,SNSから得られる情報は,前述のアラートシステムへの反映や統計解析による交通障害等の発生リスクの分析等への活用も目指している。

 

(5)サーマルカメラの導入

前述の通り,管内では沿岸部を中心に地吹雪等による視程不良が頻繁に発生しており,そうした状況下においては,現在使用している可視光カメラでは,現地状況を的確に把握することが困難となっている。
そこで,対象物の遠赤外線エネルギーを可視化し,映像モニター上に表示する「サーマルカメラ」の導入が期待される。
図-10は可視光カメラとサーマルカメラの映像の違いを示した一例である。
サーマルカメラを用いることにより,濃霧や吹雪等の悪天候時における交通状況の把握,さらにはトンネル内等の閉塞空間での監視機能の向上を目指している。
 

可視光カメラとサーマルカメラの映像例

図-10 可視光カメラとサーマルカメラの映像例
(上:霧発生時 中:吹雪発生時 下:煙幕時)

(6)AIの導入による交通状況のリアルタイム分析

前述のサーマルカメラの導入に加えて,AI技術を用いた画像解析を融合することにより,地吹雪等の気象条件下における交通影響をタイムリーかつ定量的に把握することが可能となる。
 
図-11,図- 12はAIを用いた交通状況の動画読取イメージを示したものである。
AI技術を用いることにより,交通流率や走行速度の変化をリアルタイムに把握し,通常時の交通状況との差異から交通障害の発生リスクを検知する予測技術への活用を目指している。
同様に,凍結路面や視界不良時の車両の走行位置(走行軌跡)を画像解析することにより,車線を逸脱して走行する車両の発
生状況等から事故リスクを判断し,除雪車の運行管理への活用,さらには前述のアラートシステムへの活用を目指している。
 

AI動画読取イメージ(交通量,走行速度)

図-11 AI動画読取イメージ(交通量,走行速度)

AI動画読取イメージ(車両走行軌跡)

図-12 AI動画読取イメージ(車両走行軌跡)

 
 

5.おわりに

本稿では,管内のスタックや冬期事故の現状を整理した上で,冬期道路管理の課題,今後の道路管理の方向性について報告した。
今後,i-Constructionの活用を推進し,より効率的,効果的な道路管理に向けて検討を進めていきたい。
 
 
 

国土交通省 東北地方整備局 秋田河川国道事務所 道路管理第二課
田仲 拓也

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年7月号
積算資料公表価格版2022年7月号2022年7月号

 

最終更新日:2023-06-28

 

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