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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 『建物の仕組みと維持管理〜建物管理の参考書〜』発行と全国ビルメンテナンス協会の施設保全への取り組み

■ はじめに

全国ビルメンテナンス協会は「建築物の快適な環境の確保」という社会的要請に応える公益団体として,内閣府より認定された公益社団法人です。
昭和41年に設立して以来,50年以上にわたり,社会がビルメンテナンス業をどのように必要としているのか,社会が期待するビルメンテナンス業とはどのような姿なのか,時代の要求に即しながら業界の社会的使命を追求しています。
 
全国に所在する約2,800のビルメンテナンス事業者を会員とし,47都道府県ビルメンテナンス協会と連携して事業活動を行っています。
事業分野は,調査研究事業,建築物衛生法関連事業,普及啓発事業,キャンペーン事業,教育・資格事業,伝達媒体運営事業,会員支援事業と多岐にわたります。
 
この普及啓発事業のうち,「建築物の安全確保に関する普及啓発」として発行した書籍『建物の仕組みと維持管理~建物管理の参考書~』についてご紹介するとともに,本書の発行に至った背景,当協会の建築物の安全確保に向けた取り組みなどをご紹介します。

 
 

■ 本書発行の経緯

私が委員長を務める保全委員会は「ビルオーナーやビル利用者の目線で,求められる建築物の保全のあり方を追求する」ことを使命とする委員会です。
 
「保全」とは,辞書によると「保護して安全にすること」とされています。
すなわち建物保全とは「建物の所有者・管理者が,建物を適切に保護して運用し,建物の利用者や居住者が安全であるようにすること」と解釈できます。
建物のロングライフ化が当たり前となった現在では,その建物が一生を終えるまでの長期的な計画のもとに建物を保護し,利用者の安全を確保し続けなければなりません。
 
そのためには,建物の所有者・管理者と,保全の実務を担うビルメンテナンス事業者が,知識や情報を正しく共有し,同じ目線,同じ言語で,保全に対する使命を全うすることが必要不可欠です。
 
本書は,その一助とするために制作したものです。
平成14年に北海道札幌市都市局建築部が発行した『札幌市施設保全マニュアル』をベースに,最新の情報を盛り込んでリニューアルを行いました。
一つの項目を見開き2ページで完結させ,文章は簡潔にすることを心がけるとともに,写真やイラストを併記して,誰にでも分かりやすいものとすることに主眼を置いて制作しました。
 
それでは,本書の内容について簡単にご紹介します。

『建物の仕組みと維持管理~建物管理の参考書~』



 

■ 『建物の仕組みと維持管理〜建物管理の参考書〜』

本書は「建築編」「機械編」「電気編」の3編に分かれています。
「建築編」では主に建物の躯体に関する項目を,「機械編」では建物内環境を整備する空調や衛生設備に関する項目を,「電気編」では受変電設備や照明,セキュリティに関する項目をまとめています。
 
それぞれ設備の解説,点検と保守の内容とタイミング,劣化や故障が発生した場合の対処方法,そのほか法令や注意事項などを解説しています。

『建物の仕組みと維持管理~建物管理の参考書~』

『建物の仕組みと維持管理~建物管理の参考書~』


① 建築編

「建築編」では,屋上や外壁をはじめとする建物の外側と,内壁や床,階段,廊下,窓,ドア等の建物の内側の設備について解説しています。
 
例えば屋上防水は,十分な性能を維持するためには専門業者による定期的な改修が必要になりますが,誰でもできることとしてドレンの清掃や雑草の除去などを紹介しています。
また外壁は「タイル張り」「塗装仕上げ」「サイディング張り」の種類ごとに,それぞれの特徴と点検方法など事例等を交えながら紹介しています。
 
さらに参考資料として,重大な健康被害を引き起こす恐れがあるとして規制されているアスベスト(石綿)についての注意喚起や,もし劣化したアスベストが発見された場合の適切な対処方法なども解説しています。

② 機械編

「機械編」は,本書の中でも一番ボリュームが多い項目です。
屋内外の配管,給排水設備から便器,給湯器,エアコン,さらに消火設備まで幅広く解説しています。
 
例えば配管の項では,主な配管の種類と用途を紹介するとともに,診断方法として,配管の一部を取り出して検査する破壊検査などに比べて安価で高精度に配管の寿命が判定できる「X線寿命診断」など,最新の情報も紹介しています。
また建物の利用者にも身近な便器については,さまざまな方式の説明と,トラブルが生じた場合の対処用法などを紹介しています。
 
近年,痛ましい事故が続発してしまった二酸化炭素消火設備については,適切な点検と故障対応の方法に加え,重大な事故を起こさないためのポイントを記載しています。

③ 電気編

「電気編」では,照明設備や受変電設備,通信設備,放送設備,電源設備などについて解説しています。
 
照明設備では,白熱灯,蛍光灯,LED灯といった一般照明から,災害や停電時に点灯する非常用照明,人々の安全を確保するための誘導灯,また水銀灯などが使われる外灯までを網羅し,それぞれに適切な点検保守,故障対応を紹介しています。
 
また放送設備の項では,豆知識として「防災無線の音楽はなぜ行うのか?」といったユニークな情報も掲載。
夕方になると,なぜ町中に「夕焼け小焼け」などの音楽が流れるのか?そのルールなどを紹介しています。

④ 設備の改修・更新の考え方

最後に「建築部位,設備の改修・更新の考え方」を紹介しています。
 
本書は,日々の点検や保守管理を通じて少しでも長く,快適な建物環境を維持するための施設保全について解説していますが,それでもいつかは建物も設備も寿命を迎え,大規模な改修や更新が必要になります。
 
当然ながら,大規模な改修や更新には多大なコストがかかります。
従って建築部位,機械設備,電気設備それぞれの寿命(更新年)を把握するとともに,いつまで建物を使い続けるのかを含めた,改修や更新を慎重に計画する必要があります。
 
こうした計画を立案する際にも,本書を活用いただけると考えています。

 
 

■ 本書の活用,入手方法

建物を適切に保全していくためには,建築,機械設備,電気設備の幅広い知識がどうしても必要になりますが,施設保全に関わる方の中でも,あまり浸透していないのが現状です。
 
今はインターネットでなんでも簡単に調べられるようになりましたが,実際に建物利用者から不具合などの報告を受けた場合,建物や設備の基本的な構造や技術用語(テクニカルターム)などを知識として持っていないと対応に時間がかかってしまい,被害が拡大する危険性が高まるとともに,利用者に迷惑をかけてしまいます。
 
本書は,こうした事態を招かないために,施設保全に携わっている建物の所有者・管理者の方,保全の実務を担うビルメンテナンス事業者の方,誰でも実践できる,すぐ役立てられるものとして制作しました。
施設保全に携わる初任者の教本としても活用できるものとなっています。
 
本書は,全国ビルメンテナンス協会のウェブサイト「ビルメンWEB(https://www.j-bma.or.jp)」にて電子版を無料でご提供しています。
また書籍版は有償になりますが,同じく「ビルメンWEB」から購入をお申込みいただけますので,ご利用いただければ幸いです。

 
 

■ 全国協会のこれからの取り組み

施設を構成する建材や設備機器の進化は日進月歩で,日々,目覚ましく高機能化や多機能化を続けており,建物の利用者の快適・安全を支えています。
これに呼応するように,施設保全もその方法やポイントは変化しており,今後も変化していくものと考えられます。
 
建物の設備についてはそれぞれの分野ごとに,これを取り扱う多様な資格が存在しています。その一つ,厚生労働省指定試験機関として全国ビルメンテナンス協会が実施する「ビル設備管理技能検定」は,建物設備の構造や機能に関する知識と管理に関わる技能の習得を証明する国家検定で,2021年度までに1級1,233名,2級2,222名の「ビル設備管理技能士」を輩出しています。
 
技能士が,持てる知識・技術をいかんなく発揮して施設を最適に保ち続けていくこと,そして常に変化する建物所有者や利用者のニーズに応えていくこと,こうした活動を支えていくことが全国ビルメンテナンス協会の役割だと考えています。
 
保全委員会では,ビルメンテナンスの立場だけでなく建物所有者の立場,学術者の立場の方が委員となっており,この3者の視点で「これからの施設保全のあり方」の検討を始めています。
もちろん一朝一夕で答えが出るテーマではありませんが,冒頭で申し上げたとおり,建物の所有者とビルメンテナンス事業者が知識や情報を正しく共有し,同じ目線,同じ言語で,変化する建物利用者のニーズに応えていくことができるよう,検討を進めていくこととしています。
 
最後に,発行にあたり『札幌市施設保全マニュアル』のリニューアルをご快諾いただきました北海道札幌市都市局建築部に,この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。

 
 
 

公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会 保全委員会 委員長
加藤 憲司(かとう けんじ)

 
 
 
【出典】


建築施工単価2022年秋号
建築施工単価2022年秋号


 

最終更新日:2023-02-20

 

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