建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 土木施工単価 > 土木技術者が語る震災への思い 〜土木技術の伝承への取り組み〜

 

1 はじめに

東日本大震災からまもなく10年が経過しようとしています。
 
震災発生直後から現在に至るまで,全国をはじめ世界から多くの支援をいただき,復興道路・復興支援道路,河川堤防,港湾防波堤など被災地の社会資本の復旧は復興・創生期間の2020年度内におおむね完成する予定です。
 
これまでの支援に感謝し,そして応えていくために,被災各地でさまざまな取り組みが行われています。
一般社団法人東北地域づくり協会(以下,当協会)においても「震災伝承活動」と「災害支援活動」を通して社会に貢献していくこととし,この2つを公益活動の重要な柱と位置付け,積極的に取り組んでいます。
 
 

2 震災伝承活動について

東日本大震災の経験と得られた教訓の伝承を目的として,産学官民が結集した震災伝承推進の拠点組織が不可欠であるとの認識のもと,2019年8月,当協会と一般社団法人東北経済連合会が共同で,「一般財団法人3.11伝承ロード推進機構」を設立しました。
 
同機構は,被災地の追悼施設,震災遺構,伝承施設のネットワーク化により,効果的・効率的な震災伝承の機会を提供することで,国境を越えた多くの人々との交流を促進させるとともに,災害に強い社会の形成と地域の活性化に貢献していくことを目指しています。
 
また,当協会独自の取り組みの1つとして,震災復興の過程で得られた土木技術者の経験・教訓を語り継ぎ,今後の防災への備えとすることを目的として「土木技術者リレートーク」および「土木技術者アンケート」を実施しました。
 
 

3 土木技術者リレートークの概要

①目 的

被災直後の道路啓開から緊急復旧そして現在の復興に至る過程において,土木技術者は1日も早い復興のために迅速な対応を求められる状況下で,それまで経験したことのない多くの課題に直面し,さまざまな工夫や調整を行いながら復興事業を進めてきました。
 
当協会では,復興の最前線で取り組んできた土木技術者に,震災復興事業の経験をもとに,近い将来起こるとされる大災害に備えて伝えたい土木技術,経験,教訓などについてインタビューし,その「声」を映像として残し,震災における土木の役割を広く伝えたい(リレーしたい)と考えリレートークを実施しました。

②インタビューの対象者

青森県から福島県の広範囲にわたる東日本大震災からの復興は,土木の各分野の技術者が初動から本格復旧に至る各段階で,その役割を果たすことにより成し遂げられました。
 
インタビューの対象者は,東北建設業協会連合会をはじめとする建設関係団体等に推薦を依頼し,土木の各分野で復興事業に直接関わった技術者11人(表−1)に依頼することとしました。
 
復興事業の経験と知見は復興の過程を反映したものでした。
地域建設業は災害協定に基づき,自らが被災しながらも発災直後から行政と連携し,道路啓開や応急復旧,がれき処理から河川・海岸の本格復旧を実施し,建設コンサルタントも初動の被災状況調査や緊急的な設計から本格的な復興計画・設計を行いました。
大手建設業は,まちの復興計画や発注体制が整うのに伴い,大規模造成,まちづくり,防潮堤整備などの本格的復旧を実施することで,広範囲にわたる被災地の復興を進めてきました。
 
また,地震・津波の研究者は,津波痕跡調査から津波被害,避難方法の検討解析などを実施し,世界の防災関係者との情報共有を図ってきました。
 
リレートークの実施と公開に当たり,ご協力いただきました建設関係団体・機関,そしてインタビューに参加いただきました土木技術者の方々に深く感謝する次第です。
 

  • ご協力いただいた建設関係団体・機関
    表−1 ご協力いただいた建設関係団体・機関】

  • ③インタビューの内容(質問事項)

    ●震災発生時の思い,震災に関わった時の思い
    ●復旧復興の過程での自身の業務,業務実施上の工夫,苦悩など
    ●発生が想定される大災害に備えて伝えたい技術,教訓,土木への視点など

    ④土木技術者からのメッセージ

    震災復旧・復興事業に携わり得られた貴重な経験・知見のほか,復興を成し遂げるという技術者としての使命感,建設業に誇りを持つことの重要性など,国土の安全・安心を担う全ての土木技術者に対する強いメッセージを収録できました。

    ⑤映像の公開など

    リレートークの映像は,2020年12月16日から当協会ホームページで公開しており,建設専門紙で概要を紹介しました。
    今後,工業高校,工学系大学など土木を学ぶ若い方々への広報も実施する予定です。
     


    一般社団法人東北地域づくり協会ホームページ
    URL:https://www.tohokuck.jp/
     
     

    土木技術者からのメッセージ
  • 東日本大震災復興10年土木技術者リレートーク

  • 山内 義一 氏
    山内 義一 氏
    (うちやま よしかず)
    清水建設株式会社 東北支店
    震災復興まちづくり建設所 建設所長
  •  

    復興工事は「和と輪」で地元の方々と一体となって進めています

     
    〈工事〉岩手県陸前高田市震災復興事業の工事施工に関する一体的業務に,現場代理人として施工全体を統括
     
    ●CM方式の復興まちづくりモデル事業として復興のスピードアップを図るため,設計・調査の決定したものから施工する,ファストトラック方式を採用。周辺の山を削り,旧市街地を10mかさ上げするため,500万m3の盛土工事を総延長約3kmのベルトコンベア方式で施工。
    ●災害復旧は建設業の重要な使命であり,多くの人手が必要となる復興工事ではマネジメントも重要と考えています。



  • 西川 幸一 氏
    西川 幸一 氏
    (にしかわ こういち)
    鹿島建設株式会社 東北支店
    土木部 土木工事部長
  •  

    次世代の技術者へ伝えたい4つのポイント
    ①自分の体を大切に ②品質第一 ③安全第一 ④地元とのコミュニケーション

     
    〈工事〉復興支援道路宮古盛岡横断道路 新区界トンネル(岩手県宮古市)JV工 事事務所長として当初から5年半従事
     
    ● 全長約5.0kmの大ロットトンネルの早期完成を目指し,起点と終点から本坑,避難坑の4つの切羽で施工。
     長孔発破のため,最新鋭のドリルジャンボを輸入し,施工の効率化を実現した。
    ● 標高700mの寒さが厳しい環境で,施工管理と作業員の健康管理に苦労。
    ● 復興支援道路に地元の多大な協力を得て,工事を進めることができました。


  • 青木 健一 氏
    青木 健一 氏
    (あおき けんいち)
    株式会社青紀土木
    代表取締役社長
  •  

    我々の仕事は尊いもの
    インフラが壊れて気づきました

     
    〈工事〉震災直後,道路啓開(岩手県釜石市)に従事
     
    ●道路啓開では,燃料と機械不足が最大の課題で,岩手県建設業協会に給油係を設け,日々機械の位置を確認し給油した。
    ●応急復旧工事は土嚢積みや土工など,比較的簡単な工種だが,自衛隊や消防の救援の道を開く工事であり,非常時の対応を評価する仕組みを作っていただきたい。
    ●各地で災害が多発し,地域の安全・安心を支える地域建設業の重要度は増しているので,さらに頑張っていきたいと思います。


  • 佐藤 功 氏
    佐藤 功 氏
    (さとう いさお)
    株式会社武山興業
    常務取締役 統括土木部長
  •  

    建設業は地域にとって大切なもの
    誇りを持って働いて欲しい

     
    〈工事〉北上川下流月浜橋浦地区緊急復旧工事(宮城県石巻市)に監理技術者として従事
     
    ●震災直後,翌日から自主的に地元の建設会社と協力し,避難所への道路啓開に当たり,3日目からは事務所指示により,決壊した兼用堤(国道398号)の復旧に当たった。
    ●「コンクリートから人へ」の言葉で,建設業に自信を失いかけていたが,震災時に地域の生命・財産を守る建設業の必要性を実感し,誇りを取り戻した。
    建設業は誇りを持てる仕事だが,工事では迷惑をかけることもあるので住民への配慮を忘れないでほしいと思います。


  • 緑川 春美 氏
    緑川 春美 氏
    (みどりかわ はるみ)
    石川建設工業株式会社
    土木部次長
  •  

    堤防はただのコンクリートではない
    そこには人々の想いが詰まっている

     
    〈工事〉蒲庭地区海岸災害復旧工事(福島県相馬市)に現場代理人として従事
     
    ●家族を亡くした中で,自分ができることは何かと考え,建設業従事者として,復旧こそが自分の役割と考え頑張ってきました。
    ●5年の歳月をかけ,多くの職人が作り上げた堤防は,かけがえのない子供のようであり,ものづくりをしてきて良かったと思えた現場でした。
    ●建設業は災害対応が大変ですが,地域に感謝されることが励みです。



  • 渡邊 英誉 氏
    渡邊 英誉 氏
    (わたなべ ひでたか)
    堀江工業株式会社
    土木部課長補佐
  •  

    災害復旧工事の技術は特殊
    だからこそ知識を磨き続けよう

     
    〈工事〉四ツ倉港の緑地造成工事,海岸築造工事(福島県いわき市)に現場代理人として従事
     
    ●震災で津波に対する危機意識が高まった。津波や河川氾濫時の対応について訓練を実践することが重要。
    ●原発事故の影響として,砕石や砂等の資材の放射線量の測定や,原発工事による人手不足があった。
    ●災害対応での新しいまちづくりは困難で,災害に対応可能なまちに再構築することが土木の役割と考えており,土木技術者としてインフラ老朽化の長寿命化への対処と災害復旧工事の知識習得が大事だと思います。



  • 向田 昇 氏
    向田 昇 氏
    (むかいだ のぼる)
    大日本コンサルタント株式会社
    執行役員 東北支社長
  •  

    被災後,素早く復旧できる仕掛けを,
    計画・設計の段階から仕込むのが大切

     
    (業務)牡鹿半島部復興道路事業監理業務,広野小高線CM業務に監理技術者として従事
     
    ●震災の橋梁の被災状況は,津波による流失12橋,橋脚の剪断破壊による落橋はなく,兵庫県南部地震以降の耐震補強に一定の効果があった。
    ●復興道路は事業促進PPPにより進められ,早期開通が実現している。
    ●大規模自然災害の被害をできるだけ少なくするため,災害リスクを想定しハードとソフトをどのように備えていくかを考えて,社会的なコンセンサスを形成していくことが重要です。



  • 佐藤 真吾 氏
    佐藤 真吾 氏
    (さとう しんご)
    株式会社復建技術コンサルタント
    国土保全事業本部
    調査防災部 技師長
     
  •  

    いかに自社以外の組織を動かし,
    英知を集め,課題を克服するか

     
    (業務)仙台市の宅地災害復旧に従事
     
    ●仙台市の5,700カ所の造成宅地の被害は,歴史上最大の造成宅地の地震被害となり,被害メカニズムの解明,公費による宅地災害復旧事業化の支援,復旧対策工の検討と実施設計を担当。
    ●被害メカニズムの解明には,震災以前から研究していた切土盛土図と谷埋め盛土造成図の耐震性評価技術が役立った。
     成果は学会活動を通じ最先端の学識者や専門家の知識を借り,その後の熊本地震や北海道胆振東部地震で生かされている。
    ●今後の災害対応に当たる技術者には,専門家としてのプライドを持って業務を遂行し,後世に新たな知見や技術を引き継いでほしいと思います。



  • 佐藤 伸吾 氏
    佐藤 伸吾 氏
    (さとう しんご)
    国土交通省東北地方整備局
    北上川下流河川事務所 事務所長
  •  

    復興事業に携わる事は崇高な使命である

     
    (事業)北上川復旧工事,旧北上川まちづくりを執行
     
    ●4度目の事務所勤務,所長として復興事業の仕上げに携わる。
    ●発災時は北上川の堤防(道路との兼用堤)が約1,000m決壊し,行方不明者捜索,応急復旧,長期間の排水を実施。堤防の本格復旧は6年後に終了。
    ●かわまちづくりをテーマとして旧北上川の堤防15kmを整備中で,無堤地区のため住民説明により合意形成を図った。
    ●大規模災害では復興ができるかと不安もあるが,未来の子供たちのため,人々に将来に希望を持ってもらうため,土木技術者は災害対応,復興に立ち向かっていただきたい。



  • 佐藤 友希 氏
    佐藤 友希 氏
    (さとう ともき)
    宮城県女川町
    復興推進課土地区画整理係 係長
  •  

    東日本大震災クラスの災害復興は
    全国の方々の力が必要です

     
    (事業)まちづくり全般,防災集団移転,区画整理などを約10年間担当
     
    ●町は約14.8mの津波に襲われ,庁舎は浸水し行政機能は停止。
    ●女川町復興連絡協議会(FRK)のまちづくりの議論を経て,被災自治体で初めてUR都市機構とパートナーシップ協定を締結し,2015年春にまちびらき,2019年に宅地造成を完了。
    ●自治体の備えとしては災害時の他自治体からの応援職員の受け入れ態勢の整備が重要であり,皆さまに助けていただいたので,女川町の知識,経験,ノウハウなどを提供し何かのお役に立ちたいと思います。



  • サッパシー・アナワット 氏
    サッパシー・アナワット 氏
    Anawat Suppasri
    東北大学 災害科学国際研究所
    災害リスク研究部門 津波工学研究分野
    准教授
  •  

    体験を生かし津波被害を世界に発信

     
    (研究)工学的な観点からハザード・リスク評価,防災対策,防災啓発を実践
     
    ●2007年今村教授の下で津波工学研究のため,タイから来日。
    ●津波の外力と建物被害の解析を研究テーマとし,成果は海外でも活用されている。
    ●2015年の国連防災世界会議から,津波研究がより活発になっている。
    ●UNDP(国連開発計画)をサポートし,今後も津波・防災・地震の総合的な技術提供や,助言などの国際貢献を目指しています。


    4.土木技術者アンケートについて

    建設関係団体のご協力により,305人の回答をいただきました。
     
    次の項目について,アンケートを実施しました
     
    ●属性:本拠地の住所,所属団体,携わった工事種別,施工場所,立場,施工年度
    ●質問:業務上,特に苦労した点・工夫した点
        大規模災害に対応する土木技術者に伝えたい技術や現場対応の留意点
        東日本大震災に果たした土木の役割と今後の土木の役割について
     
    なお,現在,アンケート結果を取りまとめ中で,結果は当協会ホームページで公表いたします。
     
     

    5.おわりに

    一般社団法人東北地域づくり協会は,災害に強い社会の形成のため,東日本大震災の経験と得られた教訓を伝えるための「震災伝承活動」に引き続き積極的に取り組んでいきます。
     
    今回取り組んだ「土木技術者リレートーク」および「土木技術者アンケート」が,今後,防災対応に携わる多くの土木技術者の一助となれば幸いです。
     
     



     
     
     

    一般社団法人 東北地域づくり協会

     
     
     
    【出典】


    土木施工単価2021春号



     

     

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