- 2023-07-28
- 特集 公園・緑化・体育施設 | 積算資料公表価格版
はじめに
令和4年7月、国営明石海峡公園淡路地区に都市公園法に基づくPark-PFI制度を活用した新たな公園施設「アクアイグニス淡路島」がオープンしました。
本稿では、当該施設に関する情報を中心に本公園の現状をご紹介します。
1.公園の概要
国営明石海峡公園は、明石海峡大橋を挟んだ関西圏の広域的なレクリエーションニーズに対応するため、兵庫県淡路市の「淡路地区」と、神戸市北区・西区の「神戸地区」の2地区とで、国が整備・管理を行う都市公園です。(図-1)
2.淡路地区
(1)淡路地区概要
淡路地区(通称:淡路島国営明石海峡公園)では、関西国際空港等の建設に使用された大規模な土取り跡地を自然再生して「海辺の園遊空間」を創出し、国際的な観光交流の拠点となる公園づくりを進めています。
平成12 年開催の国際園芸・造園博「ジャパンフローラ2000」の会場として使用後、平成14 年に第一期開園し、令和4年3月で開園20周年を迎えました。
近年の年間入園者数は約50 万人で、累計入園者数は800 万人を超えています。
新型コロナウイルスの感染拡大で入園者数は減少しましたが、回復傾向にあります。
(2) アクアイグニス淡路島
①事業着手
淡路地区は「文化交流ゾーン」「海岸ゾーン」「展望ゾーン」の3 ゾーンからなっており(図- 2)、各ゾーンの特色を生かした整備・管理を行うこととしています。
「海岸ゾーン」は、大阪湾を間近に一望できる開放的な空間が特色です。
園路広場や駐車場など一部区域を供用しているものの、集客力の高い施設はなく利用者が少ない状況でした。
一方で、公園の位置する淡路島の観光入込客数は明石海峡大橋の開通以降、増加傾向にありました。
これらの社会情勢の変化や時代のニーズを踏まえ、平成29 年6 月に「海岸ゾーン」で官民連携により魅力的な公園施設を導入することとし、今回のPark- PFI事業エリアを「民間活力の導入により、海の眺望をテーマとしたレストラン・カフェ、物販や体験型サービスを提供する施設を集めるエリアとする」ことを本公園の基本計画に位置付けました。
その後、都市公園法に基づく公募などの手続きを行い、選定された民間事業者による整備が進められ、令和4 年7 月に当該施設がオープンしました(表- 1・図- 3)。
アクアイグニス淡路島は、「食と健康」をテーマとした複合温浴施設です(表- 2)。
地下1,000mの深度から湧出する温泉を使用する屋外プールは、プール水面と大阪湾の海面に境がなく一体的に眺望できる、いわゆるインフィニティプール(図- 4)となっており、併せて室内の温浴施設や
スパのサービスも提供されています。
また、カフェ・レストラン棟では、和食・すし、イタリア料理、バーベキューなど、「御食国(みけつくに)」と呼ばれる淡路島の豊かな地域食材を生かした多様なメニューが提供されています。
近年、「アワイチ」と呼ばれる淡路島の海岸を周遊するサイクリングが盛んになっています。
こうした状況も追い風に、レンタサイクル棟では、電動アシスト付きのE- BIKEなど70 台以上のスポーツサイクルをレンタルでき、駐輪場も併設することで、新たなサイクリング拠点となっています。
Park- PFI事業の特徴である事業者の公共貢献として整備された「特定公園施設」である施設周辺の園路広場や植栽は、建物と一体的にデザインされており、また、公園管理者が整備したプロムナードや展望デッキもPark- PFI施設とできる限り一体感のある仕上げとすることで、官民連携による高品質な景観の創出に取り組みました(図-5)。
アクアイグニス淡路島には、オープン以来9 ヵ月の間に10 万人を超える利用者があり、本公園の利用促進だけでなく、地域の観光活性化にも寄与しています。
Park- PFI事業者はサウナイベントなど新たな取り組みを積極的に企画・実施しており、公園管理者としては公共性と安全性の確保に留意しながら、民間提案を尊重した柔軟な管理運営に努めています。
(3) さらなる民間事業者との連携
令和4 年8 月には、淡路地区海岸ゾーンの別エリアを対象に官民対話調査結果を公表しています。
事前説明会・現地見学会には19 社、個別対話には16 社の参加があり、内、約9 割から本調査対象地のポテンシャルは高いとの意見が寄せられ、バーベキュー場、キャンプ場、飲食物販施設、スポーツ施設(スケートボード、ボルダリング等)など、海辺のオープンスペースを生かした事業アイデアをいただきました。
これらのご意見を参考に、現在、地区の特性に応じた事業スキームや公募条件の検討を進めています。
(4) 管理運営における新たな取組み
「文化交流ゾーン」を中心とする既供用エリアにおいても、コロナ禍の3 密の中でも、公園利用者の方々に楽しんでもらうため、屋外でのイベントの一環として「れいんぼーあんぶれら(図- 6)」を展開するなどしています。
さらに、本年度が都市公園制度制定150 周年にあたることを踏まえ、園内には、記念の芝生地上絵「夢の樹公園」を描きました(図- 8)。
また、本年度は、ゴールデンウイークの繁忙期に、妊婦の方やこども連れの方を優先する取組みである「こどもファスト・トラック」の設置を行うなど、幅広い層が利用しやすい工夫をしているところです(図- 7)。
3. 神戸地区
(1) 神戸地区概要
神戸地区(通称:あいな里山公園)は、「里地里山文化公園」をコンセプトにした整備を進め、大都市近郊に残された里地里山の環境・景観の保全再生を進め、平成28 年5 月に第一期開園をしています(図- 9)。
農作業体験、自然観察、伝統行事の再現など多様な里山体験プログラムを展開し、特に小中学校などの環境学習の場として活用されるとともに、開園前から市民協働による公園づくりに取り組み、現在、14 の市民活動団体から公園の管理運営に参画いただいています。
年始の「とんど焼き」のような特徴的なイベントも市民団体との協力の下、開催しています(図- 10)。
(2) 森のゾーンをはじめとする今後の整備
①官民対話調査
令和4 年8 月に神戸地区「森のゾーン」について、官民対話調査結果を公表しています。
事前説明会・現地見学会には11 社、個別対話には8 社の参加がありました。
神戸の都心近郊にはまとまった里山が残されており、高速道路でのアクセスが良いことから、身近に触れ合える自然環境としての魅力は高く、そのポテンシャルを評価するご意見をいただきました。
しかし一方では、高速道路以外でのアクセスがあまり良くなく、目立たない場所にあるため、イベントなど特定の目的がある利用者以外は訪れにくいといった厳しいご意見もありました。
これらのご意見を参考に、現在、地区の特性に応じた事業スキームや公募条件の検討を進めています。
②基本計画改定委員会
平成28 年の一部供用後、本公園は「里地里山文化」の継承に寄与しています。
しかし昨今の厳しい予算状況の中で、未供用の「森のゾーン」などの整備による公園の魅力向上・利用促進や、「自然保全ゾーン」などにおける里地里山の持続可能な保全活用に取り組むことが求められており、事業の進捗状況や開園後の利用状況なども踏まえた計画の見直しのため、令和5 年3 月に「基本計画改定委員会」(以下、委員会)を発足しました。
今後、基本理念等の継承をしっかりと行いつつ、事前の官民対話調査を踏まえた民間事業者との連携による未供用エリアの整備、さらには多様な主体との協働により持続可能な里山管理を志向すべく、委員会の議論を深めていただくことができるよう、取り組んでまいります。
4. おわりに
海沿いの立地を生かし、新たな魅力の提供を開始した淡路地区、今後、一層森の魅力をPRする必要のある神戸地区、異なる両地区を明石海峡大橋でつなぐ形で、当公園は成り立っています。
それぞれの地区の有する特性を生かし、多様な方々との連携により、より一層多くの方々の利用満足度が上がるよう、引き続き、整備管理を進めてまいります。
三井 雄一郎
【出典】
積算資料公表価格版2023年8月号

最終更新日:2023-07-28
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