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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 再生建築─名建築を原形そのままに 現代に蘇らせた事例〜米子市公会堂〜

 

はじめに

「米子市公会堂」は総合文化の象徴として公会堂の建設を望む市民の声のもと,建築家・村野藤吾の設計により1958年に開館した。建設当初の工事費確保においては市民の「1円募金活動」が展開され,当時の金額で約5,000万円もの募金が集まった逸話が残っている。その後1980年には増築を含む大規模改修の後,公共建築100選にも選ばれ,市民の文化芸術活動の拠点として親しまれてきた。
 

写真−1 改修後(東側全景)




 
 
2009年に行われた耐震診断の結果,Is値=0.15という状況が判明したことと,建物の老朽化が進んでいることから,米子市においても建物存続か建替えかの二者択一の議論が展開されたが,公会堂を愛する市民の声に押される形で建物存続が決定され,今回の耐震補強および大規模改修に至った。
 
改修計画に当たっては以下の点に配慮し,いずれにおいても村野藤吾の設計思想を尊重することを第一に考えこのプロジェクトに取り組んだ。
 
①耐震補強において既存0.15という低Is値を0.675以上とする補強を行う。
②村野藤吾氏の設計思想を尊重し,村野デザインを保全・継承する。
③建物のライフサイクルの視点から建築・設備の劣化度調査を行い,適切な改修を実施する。
④ホール音響・遮音性能を維持・向上させる。
 

図−1 構造補強概念図




 
 

1. 耐震改修−村野藤吾の意匠を妨げる補強部材を一切表に現すことのない構造補強

耐震診断の結果を受けて,本建物の耐震上の問題点を下記のように結論づけたうえで課題解決を行い,補強後のIs値は最小で0.70,補強後の目標であるIs=0.675以上とすることができた。壁の新設や増厚については,村野藤吾氏の意匠を尊重し内外装に影響のない位置を選定した。

1-1 課題1 とその解決

ホール屋根の接合部強度が十分でなく,屋根を介して一体の箱となっていないため,ホール屋根は全体的に撤去し,形状を継承しつつ軽量な材料で新設,大梁も取り替えることで屋根面としての剛性・耐力を確保した。
 
 

1-2 課題2 とその解決

客席部分が切り上がった特徴的な外観により,客席背面の壁が地面に接地しないため,客席背面の壁に連続する段床を,地震力を地面へと伝える耐震要素とみなし,床の一部増し打ちとホール・ホワイエ間の耐震壁化,大規模な基礎フーチングの増設により客席背面から地面への地震力伝達ルートを新設した。
 
 

1-3 課題3 とその解決

舞台背面の壁の面外方向への強度が十分でない。また,楽屋棟は片側にのみ耐震壁が配置され,耐震要素のバランスを欠いていた。これらについてはエキスパンションジョイントで区切られた楽屋棟をあえて公会堂部分に接続し,舞台背面壁の面外方向強度を高めるとともに,楽屋棟の耐震要素のバランスの問題を解決した。
  

写真−2 屋根構造の撤去と再構築

 


 
 

図−2 断面図




 
 

2. ホール内装改修−現代の技術による村野意匠の忠実な再現とホール性能の向上

2-1 ホール内装の改修

ホール天井の形状は3次曲面で構成されており,たとえ新築であったとしても全体把握が難しい形状といえる。また残存の竣工図と実際の天井形状が異なっており,解体前の現状把握が天井形状を再現するうえで大きな課題となった。当初は着工後に棚足場をホール全体に設置した上で形状・寸法をアナログで実測することを考えていたが,結果が正確性に欠けることなどが予測されたため,3 次元スキャナーによる計測を設計仕様に盛り込むこととした。この計測方法により得られた3次元座標データをもとに工事段階における各種施工図を作成し,効率的かつ正確な天井形状の再現を行うことが可能となった。
 

写真−3 改修前ホール内観

 

写真−4 3Dスキャナによる計測データ




 
また,ホール内装に関しては村野氏の設計意図が伺える当時のものを生かすことも設計に取り入れ,劇場扉の押し引手や優美な曲線で構成される壁見切り,木製手すりなどを工事中保管・養生し,新たな内装部分と調和するよう配慮した。
 
ホール天井については,吊長さを均一化するため複雑な天井形状にあわせた下地鉄骨を入れ,吊部分については告示の上限を上回る水平震度2.5Gへの対応を行った。
 

写真−5 改修後 ホール内観




 

写真−6 改修後 ホール内観

 

写真−7 客席上部オリジナル手摺

 

写真−8 遮音扉オリジナル取手




 
 

2-2 ホールの音響設計について

改修前の音響調査では,残響時間はやや短めであったが,周波数ごとの値から得られる特性は,一般的傾向から見て自然なカーブを描いており,生音楽から集会用途まで多目的利用のホールにふさわしいバランスの取れた音響空間となっていた。静けさについては,屋外からの道路交通騒音がかすかに聞こえていたため改善が求められた。これらの調査結果を参考として,音響設計の基本方針としては,特に改善が要望された静粛性に関する性能向上を優先することとした。
 
客席扉は更新によって遮音性能が1〜2ランク(+5〜10dB)程度改善した。また,屋外に通じている換気口を塞ぐことで,改修前は小さく聞こえていた屋外騒音はほぼ聞こえない程度まで低減した。空調騒音も機器更新によって改修前以上の静けさが得られている。
 
響きの面については,市民に親しまれた音響特性を維持・向上できるよう,全体の形状は継承しつつ,反射面として重要な天井の下地面の仕様変更により重量を増し,剛性を高めることで,反射音が客席全体により多く届くよう配慮した。また,椅子の更新による響きの変化を調整するため,客席部の床仕上を改修前のカーペットおよびビニル床シートからコルクタイルに変更した。その結果,残響時間は改修前に比べて中・高音域の値が長くなり,低音域から高音域にかけて以前よりもさらに滑らかな周波数特性が実現した(反射板設置時における500Hzの空席時残響時間:約1.9秒)。クラシック音楽のコンサートなど,豊かでくせのない響きが好まれる催し物に対して,より好ましい音響空間となっている。
 

写真−9 改修後 南側外観 オリジナルタイルと新規焼成タイルの完全な調和を実現




 
 

3. 外装改修−機能の再生と村野藤吾氏の設計思想を尊重

外装は1980年の大改修以降,経年劣化が大変進んでいた。特に外壁のコンクリート面およびタイル面の劣化は顕著であった。
 

写真−10 改修前 東側全景

 

写真−11 改修前 躯体劣化状況




 
各所防水改修の他,爆裂が目立つコンクリート面は劣化進行を抑止する改修を行った。外装タイルについては村野藤吾の意匠を尊重し,極力新築時のタイルを残す方針としたが,増築時に風合いの違うものが張られていた部分や劣化の著しい部分は撤去・張替えとした。新規タイルは新築時のメーカーが既に存在しなかったため,現存する石州瓦の老舗窯元を急遽,製作者に選定し製作にあたった。残置するオリジナルタイルには浮きの生じていない部分にまで全面的に特殊ピンニングを施し,将来の剥落のリスクに備えた。新旧タイルが混在するため,それぞれが違和感なく,調和が取れるよう最大限配慮した。短工期の中,焼成温度等にこだわり試験焼きを繰り返した。計9回ものモックアップによる試行錯誤の結果,新旧タイルの完全なる調和を実現できた。
 

写真−12 モックアップ検討状況

 

図−3 新規タイル張替え範囲




 
 

村野藤吾のモダニズム建築の転機となった名作

「米子市公会堂」は,村野66歳の時の作品である。同時期の作品には,大阪新歌舞伎座,八幡市民会館などがある。米子市公会堂は,公会堂建築にとって必要不可欠なもののみを抽出し構成する機能性,合理性重視のモダニズム建築の面と,一方では屋根や側壁に見られるカーブの連なり,赤瓦をタイル形に焼成したタイルの使用などモダニズム建築とは一線を画した面が同居する建物となっている。この後,村野の作品は1960年代,70年代へとモダニズム建築から距離を置き,独自の展開を示すようになる。1980年にフライタワー,楽屋棟の増築が行われている。
 

1958年竣工当時の米子市公会堂

 

改修後の米子市公会堂




 
 

市民の熱意で建物存続が決定するまでのプロセス

2006年4月20日付けの地方紙に「米子市公会堂“維持か閉鎖か”」というセンセーショナルなタイトルの記事が掲載され,改修問題が浮上した。これを受けて市民からは存続を求める声があがり,同年9月には公会堂の存続と充実発展を目的とした「米子市公会堂の充実を求める会」が発足。市民による存続活動がスタートした。
 
その後2009年度に市が行った耐震診断の結果,大ホール・楽屋棟が大地震で倒壊する危険性が高いとされたため,市は,2010年3月に「米子市公会堂耐震問題等対策本部」を設置し,今後の対応等について検討を行うとともに,利用者の安全安心を確保する観点から大ホールとリハーサル室の使用申込みの受付を中止,同年9月末をもって使用停止とした。
 
こうした状況の中で充実を求める会は,「米子市公会堂の早期改修と存続を求める市民会議」に改組し,存続に向けての署名活動を行うなどより広範な市民を巻き込んだ運動へと発展した。市民の関心も高まり市議会でも白熱した議論が交わされる中,耐震問題等対策本部は,利用団体や周辺商店等への聞き取り,市民3,000人へのアンケートなどを実施し,様々な角度からの調査,検討結果を「米子市公会堂のあり方検討報告書」にまとめた。
 
これらの結果を踏まえ市長が総合的に判断し,2010年11月25日の米子市議会全員協議会において,存続の意向を表明するに至ったものである。
 
                                           (米子市教育委員会文化課/岡 雄一)
 
 

結語

一時は建物廃止の議論にまでなった米子市公会堂であったが,本改修で甦生され市民へと返された。
施設利用率も好調で,名実ともにかつての賑わいを取り戻したと言える。
昭和の名建築が建替えの決断を迫られている昨今,村野建築を維持・再生させたことは大変意義深いことと考えており,今後の名建築保存改修のモデルとなることを期待している。
 



 
 

著者

株式会社日建設計 デザインフェロー         江副 敏史
日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社  石坪 章
 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年11月号



 

 

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