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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 防衛省市ヶ谷庁舎に見る建築外装の長寿命化事例 〜竣工15年を迎えて〜

 

1. 防衛省の施設概要

防衛省は東京・市ヶ谷に位置し,敷地は約24ヘクタールと広大で,約1万人以上の職員が勤務している。古くから「市ヶ谷台」と呼ばれる海抜31.4mの台地の上に位置しており,東京都で最も標高が高い場所だという。この地に防衛省が位置するのは,1874年(明治7年),市ヶ谷台に陸軍士官学校が開校されたのが端緒である。防衛省市ヶ谷地区または防衛省市ヶ谷庁舎と呼ばれ,陸上自衛隊においては市ヶ谷駐屯地,海上自衛隊においては市ヶ谷地区,航空自衛隊においては市ヶ谷基地と呼称されている。防衛省本省(内部部局)のみならず陸上・海上・航空の3幕僚監部,そしてこれらを更に統べる統合幕僚監部も所在する日本国防衛の中枢である。
 
正門を入ると,目の前には古代ローマ時代の円形劇場を彷彿とさせる開放的な空間が広がる。敷地内には高低差を生かす形で,正面右から左に向かって庁舎E 棟,D 棟,A 棟,C 棟,B 棟,奥にF棟が配置されている。庁舎A棟は,自衛隊の指揮命令中枢である中央指揮所が設置され,大臣をはじめ内部部局,統合幕僚監部,陸・海・空各幕僚監部等の防衛の中枢機関が使用しており,都内最大規模のヘリポートを持つ。庁舎B棟は,陸・海・空各自衛隊の通信関係部隊が使用する通信局舎であり,庁舎B棟から伸びる防衛省市ヶ谷無線鉄塔(通信鉄塔)は,建物部分を含め220mの高さがある。庁舎C棟は情報本部などの情報関係機関・部隊など,庁舎D 棟は防衛装備庁や防衛監察本部など,庁舎E棟は各自衛隊支援部隊など,庁舎F 棟は防衛研究所が使用している。
 
敷地内には,1950年の警察予備隊創設以後に殉職した警察予備隊・保安隊・自衛官を慰霊する「市ヶ谷記念館メモリアルゾーン」,1937年に陸軍士官学校本部として建設され,極東国際軍事裁判の法廷としても使用された旧1号館を移築した「市ヶ谷記念館」もある。
 

防衛省市ヶ谷庁舎群周辺の航空写真( 写真提供:アマナイメージズ 撮影:2007年11月23日)




 
 

2. 市ヶ谷庁舎群のデザインと設計

2-1 平等院鳳凰堂,迎賓館赤坂離宮をイメージした庁舎デザイン

(1)配置
 
市ヶ谷庁舎群の配置は,日本古来の伝統形式である『伽藍建築』をイメージに盛り込み,大型の回廊等の採用により『平等院鳳凰堂』に類似する形状を想定して計画された。迎賓館赤坂離宮に対して,市ヶ谷庁舎群があたかも翼を広げるように対峙する配置計画により,「現代の伽藍」を表現したものである。後述する儀仗広場は,平等院鳳凰堂の池の代わりと位置づけられている。また,B棟の鉄塔は,五重塔の相輪をイメージしたものである。
 

防衛省市ヶ谷庁舎群の配置図




 
(2)外装デザイン
 
迎賓館赤坂離宮は,1909年(明治42年),鹿鳴館などを設計したお雇い外国人建築家ジョサイア・コンドルの弟子にあたる宮廷建築家片山東熊により,東宮御所として設計され,天皇家の離宮として使用されていたが,現在は国の迎賓施設として使用されている。華美なネオ・バロック様式の外観が印象的で,その外壁は御影石積み,屋根は緑青銅板葺きである。
 
市ヶ谷庁舎群の外装デザインは,地域環境との調和を図るため,それらの表現手法をイメージした設計となっている。
 



 

2-2 儀仗広場のデザイン

こうした独自の表現手法は,「儀仗広場」に凝縮されている。
 
自衛隊には,儀礼・警備のために天皇陛下をはじめとした皇族の方々や高官,あるいは外国の賓客などにつけられる儀仗を行う部隊があるが,「儀仗広場」とは,皇族や国賓などが防衛省を公式に訪問または視察する場合,その途上を警衛し,敬意を表するための「儀仗」が行われる場所である。
 
この儀仗広場は,平等院鳳凰堂における池の代わりとしてイメージされる。庁舎A 棟の前に位置し,天然石が整然と敷き詰められ,開放的で広々とした空間である。
 

高層棟(A棟)ならびに儀仗広場




 
庁舎A棟・B棟では,この儀仗広場に面して,隣接する庁舎をつなぐように柱廊が配置されている。円柱が左右に連続する柱廊は,迎賓館赤坂離宮と同様,御影石積みの外装や緑青銅板葺きの屋根にシンクロするデザインであり,床に敷き詰められた御影石と相まって,落ち着いた雰囲気を醸し出している。
 

2-3 防衛省庁舎としての特殊性

市ヶ谷庁舎は,A・B・C・D・E棟のすべてが(株)日建設計(以下,日建設計)により設計された。日建設計によれば, 国防を預かる防衛省庁舎は,まさに日本国防衛の象徴たる施設であり,その特殊性から,防衛省の考え方を十分に理解している建築設計事務所が求められたようである。
 
すなわち,中央部に吹抜を設けるなどして開放的な平面にしつつ,四隅はコアで固めて,がっしりした安定的な構造にし,間違ってもガラス張りのような建築にはできない。さらには,24時間緊張が続く過酷な環境で執務する職員を考慮して,『できるだけ職員が過ごしやすく,働きやすい環境にしてほしい』との要望もあり,それらに応えた設計となっている。
 
 

3. 市ヶ谷庁舎群の外装デザインの考え方

各棟とも,外壁はPCaカーテンウォール(低層部は御影石打込み,高層部はタイル打込み),屋根(目隠しパネル)は緑青塗装鋼板張りとしている。また,和風建築の深い軒を意識して,バルコニーの陰影を強調するデザインとしている。
 

3-1 外壁デザイン

防衛省の施設を御影石張りにしたのは,防衛省を設計する少し前に,法務省庁舎(中央合同庁舎第6号館)が総石張りで設計されたため,これも参考事例とした。市ヶ谷庁舎は,B・C棟→A棟→D棟→E棟の順で発注され,最初のB・C棟の際に外装の仕様を本格的に検討し,その後のA棟以降は,B・C棟の仕様が受け継がれた。
 
低層部の石材は,冷たいイメージは好ましくないということから,暖色系の御影石とし,A棟からE棟まで,すべて北米カナダ産の同一産地の御影石が使われた。
 
外装を御影石張りにする理由として,質実剛健である,力強い,まとまりがある,100年建築に対応できる,強くて丈夫である,自然素材としての落ち着いた肌触り,飽きが来ない色調,風味,など多くの要因があげられるが,特に防衛省として御影石張りを外装の標準としているわけではなく,あくまで総合的なバランスを勘案した結果,御影石張りが最適であると考えている。
 
ただし,技術上の理由などで御影石張りにできない箇所は,石張りに似せた意匠を実現する代替工法を用いる場合もある。
 
具体的には,納まりが複雑に入り組んでいる箇所,曲率の大きい曲面などは,天然石張りは現実的ではない。中でも,儀仗広場では,曲率の大きい柱廊の外装が,当初から課題となっていた。天然石張りは,石を板状に薄く加工し,コンクリート下地に張る(打ち込む)工法であるが,柱廊の場合,石をアール状に薄くスライスしなければならない。大変な手間がかかり,加工が困難で歩留まりも低く,コストがかさむ。また,割れる心配もあり,これでは,まさに材料への冒涜であろう。大判で曲面にも成形できる大形タイル張りも,テクスチャーやコストの面で見合わない。
 
そのため,設計当初から天然石のテクスチャーを感じられるコーティング系の材料を採用する考え方があり,初期の図面には「吹付タイル」と書かれていた。その後,材料の耐久性,防水性,コンクリート躯体の保護性能,変退色性,防火性,汚れにくさなどを総合的に判断した結果,石張り調仕上げ工法が採用された。
 

儀仗広場の回廊




 

3-2 屋根(目隠しパネル)デザイン

市ヶ谷庁舎群では,各庁舎の屋上の目隠しパネルならびに儀仗広場の屋根において,基本構想の段階から,迎賓館と対になるデザインを出そうと,緑青銅板の検討が重ねられた。
 
銅は酸化すると緑青皮膜が生成して不動態となり,内部の腐食を防ぐ効果を発揮するとともに,意匠的な効果も大きい。ただ,天然緑青は生成に長い年月がかかるネックがある。塩基性炭酸銅の水溶液を銅板の表面に塗布または吹き付けて発色させ,経年後には天然緑青に転換する「人工緑青銅板」もあるが, 検討した結果,天然緑青にしても人工緑青にしても,発色の仕方が面によりバラツキが大きく,周辺環境に悪影響を及ぼすリスクもあることがわかった。
 
その結果,緑青銅板ではなく,緑青の意匠を実現する特殊な塗料をステンレス鋼板に塗装することとした。塗料に顔料として緑青粉末を添加したものではなく,見た目が緑青銅板に見えるように調合された塗料である。
 
 

4. 市ヶ谷庁舎群の維持管理とその検証

施設に維持管理はつきものである。竣工から約15年を経過した市ヶ谷庁舎群も例外ではなく,本格的なメンテナンスの時期を迎えようとしている。特に自然環境から建築を守る外壁・屋根は,その機能低下は大きな問題であり,設計時における材料の選定,ならびに定期的なメンテナンスは重要である。
 
防衛省では,施設・設備メンテナンスは,年1回の定期点検を基本として運用し,特にメンテナンスサイクルを定めて数年単位で必ず補修を行うということはなく,状況に応じて柔軟に対応するスタンスで臨んでいるという。
 
外装の場合,経年劣化の1つとして,汚れがある。漏水などの異常がなくても,見た目に大きく影響する。日建設計の当時の担当者は,「全体としてくすんでくるのは経年劣化上,仕方がないが,部分的に汚れが目立つことはあってはならない」との考え方で設計に臨んだという。同様の例として,沖縄では外装や外構に琉球石灰岩が使用されることが多いが,吸水性が高いためカビによる汚れが激しく,それが部分的に目立ってしまうという。こうした極端に目立つ汚れは,材料の本来のあり方ではないとの考え方に基づき,汚れが生じにくい設計を考慮している。
 
では,外壁・屋根で使用された材料は,15年経過して,どのような状態を呈しているのだろうか。儀仗広場に関しては,この15年間,ほとんどメンテナンスらしいメンテナンスはしていないにもかかわらず,良好な状態を保っている(外壁・屋根それぞれの材料の詳細については,特集12ページも参照いただきたい)。
 
 

5. 防衛省における施設管理の取り組み

防衛省では,平成20年に「防衛施設整備コスト構造改善プログラム」を,また平成27年には「インフラ長寿命化基本計画」を踏まえ,「防衛省インフラ長寿命化計画(行動計画)」を制定し,施設整備のコスト縮減ならびに施設の長寿命化を進めている。
 
施設設計においては,耐久性に優れ,維持管理の負荷が少ない材料,イニシャルコストとランニングコストを勘案して総合的にコストパフォーマンスのよい材料を選ぶことを基本としており,費用対効果も含め,総合的に考慮して材料・工法を選択している。既存建物については耐震改修による施設寿命の延命化を進める方針である。
 
一方,設備については,「事後保全」ではなく「予防保全」の考え方を取り入れ,危機管理官庁として災害発生時でも施設が24時間運用できるよう万全の態勢を敷いている。
 
防衛省では,今後も国防を担う基幹官庁として,日々の業務を支える施設整備・管理運営を盤石な体制で行うことで,国民の負託に応えていく。
 
最後に誌面を借りまして,このたびの取材にご協力いただきました防衛省大臣官房広報課,株式会社日建設計の皆様,ならびに関係各位に厚く御礼申し上げます。
 
 
 


 
【儀仗広場の外壁】
 
儀仗広場の円柱には,天然石張りの代替工法として,天然石を細かく砕いて骨材とし,樹脂を接着剤として混練りして吹き付け,コテで仕上げる「天然石調仕上げ」工法が採用された。この工法は,JIS A 6909(外壁用仕上塗材)で品質が規定される仕上塗材の一種で,塗料メーカーを中心にさまざまなブランドが発売されている。
 
ただし,本工法で天然石張りと同じレベルに仕上げることは簡単ではない。表面のテクスチャーの再現はもとより,目地も石張りの場合と同様に切らなければならず,隅角部も石らしいシャープな仕上がりが必要。表面は,機械で切断した石の表面と同じように均一でなければならず,コテ塗りにより表面に微妙な凹凸があってはならない。特に柱廊では人がアイレベルで近接して歩くため,仕上りの水準はより一層高まることになる。
 
こうした高度な仕上がりを実現するため,アイワテック(株)の「アドグラ御影」が採用された。主材は無機質骨材(細石粒)とアクリルエマルション,色模様材(特許取得)で構成され,アクリルシリコンクリヤー(水性)で仕上げる工法である。儀仗広場の円柱は,天然石張りと遜色のない精度で仕上げられている。
 
竣工して約15年がたつが,特にひび割れ,ふくれ,はがれなど仕上塗材に生じがちな劣化も生じていない。東日本大震災でも,躯体の変位によるひび割れなどは発生しなかった。雨水がはね返る上げ裏などに,うっすらとした汚れが目立つ程度で,自然なエイジングを重ねている。
 



 
 
【目隠しパネル・儀仗広場の屋根】
 
高層部の目隠しパネルならびに儀仗広場の屋根は,緑青の意匠を実現する塗料をステンレス鋼板に塗装している。緑青のように見えるよう調合された特殊塗料で,超耐候性のフッ素樹脂塗料を焼付け塗装する仕様である。ステンレス鋼板の製作ならびに塗装は,当時の(株)田島順三製作所(現:三和タジマ(株))が担当した(A・B・C棟)。
 
緑青の意匠を実現するには,単に緑青色の塗装にするのみならず,緑青特有のテクスチャーを再現する必要があった。試行錯誤の結果,緑青色の塗装の上に「黒い斑点」を重ねるように点在させ,遠くから見て天然の緑青に見えるように工夫した。
 
黒い斑点の大きさや数,分布などがどうすれば最適になるか,繰り返し検討を行った。職人の勘で,吹付けガンのノズル形状をいろいろ変更し,最も良いと思われる形状を探ったり,モックアップをいくつも製作し,数10m離れた地点からどのように見えるかを何度も検証したりして,試行錯誤を重ねた。
 
パネルの仕様は,A・B・C棟とも共通で,A棟だけで約80枚のパネルを製作している。幅3.8m×高10mの大きいサイズで,パネルと下地鉄骨を一体化してユニット化した。同社毛呂山工場からの搬送には困難を極め,輸送会社の専用トレーラーと契約し,時に橋の交通を封鎖するなどして約1 か月かけて32往復して搬送した。
 
竣工から15年近く経過したが,塗替などのメンテナンスは行っていない。今後,どこまで天然緑青のように変化が熟成していくか楽しみである。
 



 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年11月号



 

 

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