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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 環境と共生する技術 > 地域生態系の保全に配慮した法面緑化工の普及に向けて

 

はじめに

開発事業に伴って出現する法面は,これまで外来植物を主体とした緑化が行われてきたが,法面外に一部の外来植物が逸出して繁茂することにより地域の生態系に悪影響を及ぼすことが課題となっている。また,良好な自然環境が存在する地域においては,地域性系統(遺伝子にある程度の共通性を有する植物集団)である在来植物を利用することにより,地域生態系への影響を軽減することが求められている。
 
本稿は,地域生態系に配慮した法面緑化工を実施する際の技術解説書としてとりまとめた「地域生態系の保全に配慮したのり面緑化工の手引き」から,緑化目標の設定方法や施工方法等の概要について紹介するものである。
 
 

1. 地域生態系の保全に配慮すべき地域

国立公園や島嶼部等の良好な自然環境が存在する地域においては,出現した法面の安定を確実に確保した上で,その地域の生態系の保全に配慮した緑化により,周辺の生態系にも配慮することが重要である。地域生態系の保全に配慮した法面緑化工を導入する必要性については,工事予定地の地域特性(自然度・土地利用等)や事業特性等を踏まえて,「地域生態系の保全の必要性」を,高・中・低の3段階にランク分けすることで判断することができる(図- 1)。
 

図-1 「地域生態系の保全に配慮した法面緑化工」の必要性に関する判断フロー




 
 

2. 法面緑化工の種類と概要

地域生態系の保全に配慮した法面緑化工には,「表土利用工」,「自然侵入促進工」,「地域性種苗利用工」の3工法がある(図- 2)。
 

図-2 「地域の在来植物を利用した法面緑化工」の施工事例




 
 
いずれの工法も,造成地域の表土に含まれる埋土種子や造成地域に生育する在来植物の種子・苗木などを活用して,緑化目標に適した植生を成立させる緑化工法である。
 

2-1 表土利用工

表土に含まれる埋土種子を活用した緑化工法で,法面を早期に緑化する必要がある場合に適している。緑化目標となる植生の埋土種子を含む表土が法面周辺に存在していることが条件となる。具体的には,表土を事前に採取・保管し,法面造成後に表土を植生基材と混合して植生基材吹付工で施工する方法などがある。
 

2-2 自然侵入促進工

周辺の自然植生から風散布,鳥散布などにより侵入する種子を捕捉し,種子が植生基盤上で発芽・定着することで植生回復を図る工法で,緑化までに多少の時間がかかることを許容できる場合に適している。緑化目標となる植生が隣接していることが条件となる。具体的には,侵入する種子を捕捉しやすくするために,植生マットを設置する方法などがある。
 

2-3 地域性種苗利用工

周辺の自然植生から採取した種子や,その種子から育てた苗木を活用する工法で,早期に確実な緑化が必要となる場合に適している。緑化目標となる植生の種子や苗木を確保できることが条件となる。具体的には,採取した種子を植生基材吹付工で施工する方法や苗木の植栽工,両者をあわせた苗木設置吹付工などがある。
 
 

3. 調査・計画・施工

3-1 調査

調査は,地域生態系の保全を適切に行うために,①地域特性および土地利用状況・周辺植生,②気象条件,③緑化材料(表土,既存樹林,地域性種苗),④法面造成時点における法面条件(土質等)を把握する。
 

3-2 計画

計画は,「緑化目標」として法面に将来的に成立させる植物群落の完成形(図- 3)を表すとともに,その植物群落の形成を達成するために最適な緑化工法を選定する(図- 4)。
 

図-3 緑化目標別の施工事例(表土利用工の例)




 
 

図-4 【地域生態系への保全レベル:高】における工法選定フローの例




 
工法の選定では,地域生態系の保全レベルに応じて,経済性や工事工程等にも配慮した緑化速度を考慮することが必要である。また,植物の発芽・生育は,気象や地質・地形,法面勾配,周辺樹林等の様々な条件により大きく異なるため,植生の成立までに長い時間を必要とする場合があることを理解しておかなければならない。
 

3-3 準備工

準備工は,計画された緑化工に必要となる使用材料等の準備を行うものである。
 
①表土利用工:使用する表土の事前採取および保管,埋土種子の発芽実験
②自然侵入促進工:施工予定地における飛来種子調査
③地域性種苗利用工:使用する種子採取および保管,種子からの育苗
 

3-4 施工

施工は,計画された時期と工程・品質・安全管理に従うとともに,作業時に新たに判明した湧水や異常気象の発生等にも留意しながら実施する。
 

3-5 成績判定

施工後の成績判定は,表土利用工では3ヶ月後,自然侵入促進工では6ヶ月後,地域性種苗利用工の播種工では3ヶ月後,苗木植栽の場合では竣工検査時を目安にして,各工法に求められる植生の状態を確認する(表- 1)。
 

表-1 成績判定の目安(表土利用工の例)




 
 
なお,植生状態が不良の場合には,原因追及の上で再施工や工法変更等を行うこととなるが,法面の安定性が確保できている場合で早期緑化が求められていない場合は,その後の在来種の発芽・侵入状況の様子を見ながら対策を検討することも可能である。
 
 

4. 植生管理

植生管理は,法面の安定を確保するとともに在来種による植生成立の促進を目的として,
● 施工直後から発芽(成績判定)までの「初期管理」
● 発芽から緑化目標達成までの「育成管理」
● 緑化目標達成以降における「維持管理」
を行うものである。
 
具体的には,法面の安定性を確認するための「点検」,埋土種子や飛来種子と侵略的外来種等の発芽・生育状況を観察する「生育調査」,植生遷移を把握するための「植生モニタリング調査」,法面隣接地での利用者に対する快適性・安全性を確認するための「健全度調査」から構成され,これらの調査結果に基づき適切な対応を実施するものである(表- 2)。
 

表-2 植生管理の項目と内容




 
 
実施にあたっては,植物の成長を十分に理解した上で成長段階に適した管理内容となるよう留意する。また,管理状況は植生管理カルテに記録して施工後の経年変化が明確に理解できるようにとりまとめることが望ましい。
 
 

おわりに

以上,良好な自然環境を保全することを目的とした地域性系統の在来種を利用した法面緑化工について概要を示した。詳細については,国土技術政策総合研究所HPに掲載の「地域生態系に配慮したのり面緑化工の手引き」(国土技術政策総合研究所資料第722号)を参照していただきたい。
 
本手引きには,施工事例や施工後の法面に侵入することが多い植物種についても写真で紹介を加えることにより,法面緑化に精通していない管理者にもわかりやすくまとめている。
 
本手引きが,法面の安定確保とともに地域生態系の保全に寄与できれば幸いである。
 
【引用文献】
(1) 地域生態系の保全に配慮したのり面緑化工の手引き,国土技術政策総合研究所資料第722号,平成25年1月,
 (http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0722.htm
(2) 道路土工 切土工・斜面安定工指針(平成21年度版),(社)日本道路協会,平成21年6月
 
 

国土交通省 国土技術政策総合研究所 緑化生態研究室
飯塚 康雄

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年08月号


 

 

最終更新日:2023-07-10

 

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