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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 法面緑化の現状と課題〜生物多様性保全等法面緑化の目的に対応した地域区分設定,市場単価構成の見直しについて〜

 

はじめに

「外来生物法(平成17年6月)」の施行の際,環境省がホームページ上に「要注意外来生物リスト」を公表し,法面緑化植物として長らく用いられてきた「外来牧草」の多くがリストアップされた1)。法的に拘束力を持つものではなく,「緑化に用いられる外来植物は,災害防止のための法面緑化などに用いられるものであるから,環境省,農林水産省,国土交通省,林野庁の4省庁が連携し総合的な取組について検討をすすめる」とした。これを受け,平成17,18年度に,4省庁による「緑化植物取扱方針検討調査」などが開催された。しかし,その検討結果が十分に生かされることなく,「外来牧草」は「要注意」=「悪者」というイメージが植え込まれ,その使用の自粛が求められる一方,その代替として「(外国産)在来種」を多用する方向となり現在に至っている。これにより様々な問題が発生した。
 
現在は「要注意外来生物リスト」は廃止され,「生態系被害防止外来種リスト(平成27年3月)」が作成・公表されている。「要注意外来生物リスト」に掲載された「外来牧草」は,「産業又は公益的な役割が重要で代替性のないもの」とされ「産業管理外来種」として位置づけされている。このような動きを受け,環境省は同年10月「自然公園法面緑化指針,同解説2)」を作成し,問題の解決に向けての方向を示した。筆者は,これらの委員会に参加し意見を述べてきた。
 
本稿は,これらの動きを踏まえ「要注意外来生物リスト」公表以降に発生した,法面緑化植物の使用に関する諸問題と課題について整理し,「自然公園法面緑化指針」では網羅することのできない自然公園外,すなわち「一般地法面」において生物多様性保全を含む適正な法面緑化を行うための方策について提案するものである。
 
 

1. 法面緑化の目的と市場単価・生物多様性保全

法面緑化の目的は侵食防止を行うことにより法面保護を行う,併せて周辺景観との調和(修景)を図るものである。外来生物法の施行などにより生物多様性保全が緑化の目的に加えられたのは近年,この10年のことである。法面緑化を行う場合,当該法面に対する緑化の目的(求められる機能),植生回復目標(初期・長期の群落型)を明確にした上で取り組む必要がある(表−1)。
 

表−1 法面緑化の目的・機能と目標(中野)




 

表−2 法面緑化における生物多様性保全と移入問題(中野)




 
法面緑化は市場単価方式に基づき設計・積算されるが,これは侵食防止・修景を法面緑化の目的としていた20年ほど前に制定されたものである。外来牧草を用いた緑化は,盛夏期を除く幅広い時期の施工が可能で,土木的な取り扱いにも耐え,特段の技術を必要としない工種と判断したため市場単価とされたものである。生物多様性保全に配慮した緑化が,法面緑化の目的として追加された後も法面緑化における市場単価は見直されることなく現在に至っている。生物多様性に配慮した緑化は,従来緑化と異なる植物材料の使用,より高度な技術が要求されるにもかかわらず市場単価を適用し進められてきたことが,様々な問題を発生させる原因となっている。
 
新たに法面緑化の目的として加えられた生物多様性保全とは,外来牧草など外来種(移入種)により,①地域に自生する植物が被圧され消滅してしまう,②(外国産)在来種と地域に自生する同種の在来種との間に雑種ができてしまう,という生態学,生物・遺伝学的な問題に対する取り組みである。従来の法面緑化の目的(機能)である,物理的に被覆する(侵食防止),見た目を改善する(修景)とは次元を異にする取り組みといえる。しかも,法面緑化における生物多様性保全は,①、②の異なった二つのレベルが混在しているため,理解しにくいものとなっている。
 
現状の法面緑化は,緑化の目的(機能),目標(群落型)を明確とする事なく,また,生物多様性の二つのレベルについて意識することなく,これらすべてを同時に満足させようとしてきたといえる。
 
 

2. 自然公園法面緑化指針

2-1 指針の目的

市場単価に組み込まれる緑化植物(主体種子)は,外来牧草類,及び在来種(郷土種)としてヨモギ等の草本類,ヤマハギなどの木本類がある。主体種子に組み込まれている外来牧草の大部分が「要注意外来生物」とされため,牧草の使用を自粛し,在来種を多用する方向へと進められた。しかし,主体種子とされた在来種の採取地は中国など外国であるにもかかわらず,②の遺伝子レベルの交雑,より本質的な問題への配慮を行わなかったのである。
 
この点について,筆者は4省庁による「緑化植物取扱方針検討調査(平成17年度)」などにおいて,外来牧草を悪者扱いし,その使用の自粛を強制するならば,(外国産)在来種を多用する方向へと進み,生物多様性保全に関しては,より本質的な遺伝子レベルの問題,交雑の問題を発生させると指摘し続けてきた。しかし,外来牧草の使用①を問題とするのみで,(外国産)在来植物による交雑②の問題は先送りとされた。それから10年を経た平成27年10月に,(外国産)在来種の使用による交雑の問題などに対応するために環境省は「自然公園法面緑化指針」を作成し公表した。
 
 

2-2 自然公園法面緑化指針の特徴と外来牧草使用特例

本指針の適用地は自然公園内であるが,その特徴は表−3に示す事項を明記したことである。留意すべきことは「(外国産)在来種は使用しない」という箇所であり,交雑を防ぐために,同種の植物を海外・遠隔地からの持ち込みを禁じたのである。さらに本指針により難い場合,すなわち自然公園内において外来牧草を使用する場合の事例を示した(表−4)。自然公園内であっても必要な場合,箇所に対しては外来牧草を用いることができることを明示したことにより,外来牧草は「悪者」であるという考え方を廃したのである。
 

表−3 自然公園法面緑化指針の特徴




 

表−4 自然公園における外来牧草使用特例




 

3. 法面緑化に係わる諸問題

3-1 各県に対するアンケートの取まとめ結果〜技術力の低下〜

法面緑化における生物多様性保全の取り組みの現状を把握するために各県の技術管理課(建設・農林)に相当する部署に対し,「一般地法面」における生物多様性保全に配慮した緑化に関するアンケート調査を平成29年10月に実施した(表−5)。回収率は50%であった。担当の皆様に誌上お借り感謝申し上げる。
 

表−5 各県技術管理課に対するアンケート結果3)(中野)




 
生物多様性保全に配慮した法面緑化は,遺伝子レベルにまで配慮する必要があり,地域に自生する野生種(地域性種苗)を用いることが基本となる。このため,地域性に配慮した指針・マニュアル類の有無を確認し,法面緑化の目的についてたずねた。独自指針を持つという回答は31%,内,生物多様性保全を緑化目的とするものが10%であり,生物多様性保全に対する取り組みの姿勢は低い状態であった。しかしその一方,一般地法面においても生物多様性保全への配慮が必要という回答が53%となり,現実と理念との乖離が認められた。この傾向は,生物多様性保全を図る上で重要な植物材料,技術的な問題に対する認識が低いことからもうかがうことができる。生物多様性保全に配慮した緑化は,発芽がまばら,生長が遅い野生種を用いるため,お天気次第・不確実性の高い取り組みとなる。このため,地域性種苗の入手,耐侵食性の優れた植物生育基盤の造成,施工後のモニタリング・植生管理が必須となるが,この点に関する認識は低い。多くが,市場単価主体種子より外来牧草を抜き,在来種を多用することが生物多様性保全に配慮した緑化,すなわち外来牧草を使用しない,①のみの対応を行えば良いという認識での取り組みを行っている。法面緑化に市場単価を適用し,技術不在の取り組みを続けたことによる弊害は,アンケート結果の種子配合,成績判定,植生管理の必要性など,地域に即した実績・経験により判断をしなければならない課題までも基準書に従って判断する,という回答になって現れている。緑化工が市場単価,すなわち技術力を要しない工種と位置づけられてから20年余りが経過するが,緑化工技術は劣化の一途を辿ったといえる。
 
 

3-2 意図せぬ移入種の問題

(外国産)在来種のススキ種子に不純物として混入したと考えられるヨシススキの定着が指摘されている。これによりススキの使用が自粛されるに至っている(写真−1)。(外国産)在来種を多用するという方向に進んだことによる結果といえる。大規模農場で工業的に生産・精選された外来牧草と異なり,(外国産)在来種は中国などに野生の状態で自生するものを手刈りし,日干し乾燥の後,選別するものである。当然,不純物の混入は免れ得ないものとなる。生物多様性保全を前提とする緑化は,外来牧草を廃し,(外国産)在来種を多用する方向へ進められたため,相対的に不純物も増し,意図しない移入種が定着する機会が増すこととなった。
 

写真−1 ヨシススキ(吉原)




 

3-3 侵食防止の問題

(外国産)在来植物を多用することによる問題は,交雑,意図しない移入種の定着という生物多様性保全にかかわる問題のみならず,法面緑化の品質の低下,すなわち侵食防止という法面緑化本来の機能の低下を引き起こしていることにある。(外国産)在来種を多用することで生物多様性保全に配慮したつもりでいるが,交雑や移入種の定着など生物多様性保全に対して逆行する行為となっており,なおかつ,法面の侵食防止,法面保護をも満足させることができないという皮肉な結果を招いている。
 
元来,在来種は発芽・生長がまばらで遅く,かつ,冬期落葉するために法面の被覆力は弱く,法面の侵食防止に用いることができないため,法面緑化には発芽・生長の速い外来牧草を用いてきたという経緯がある。外来牧草を用いて急速緑化を行い侵食防止,すなわち土壌の保全を図るならば,時間は要するが法面には自然植生が回復され生物多様性保全が担保されたのである。この経緯からしても,在来種を多用しても法面の侵食防止を行うことは困難ということが理解できる。
 
在来種を用いた場合,夏場は緑の法面となるが,冬場は落葉し地山に造成した植物生育基盤がむき出しとなり,外気に直接晒され,湿潤乾燥,凍結融解繰り返しにより,次第に風化・劣化し滑落し,地山が裸出することとなる。立地条件の厳しい硬質急勾配法面ほどこのような傾向は強く現れるが,問題が発生するのは瑕疵担保期間が過ぎてからのこととなるため厄介である。法面緑化において,市場単価が適用されて20年余りで植物生育基盤の品質が大幅に低下し,生物多様性保全の取り組みにより(外国産)在来種が多用されて10年余り,これらが相まって全国で緑化成績不良な法面が多出しているように見受けられる(写真−2)。
 
 

写真−2 在来種を用いた法面の植生衰退状況




 

4. 今後の法面緑化の方向性

4-1 地域区分(ゾーニング)

現状の法面緑化における生物多様性保全の取り組みは,地域性,法面の立地条件を考慮することなく全国一律に行われている。しかも,その方法は(外国産)在来種を多用するというものであり,生物多様性保全の本質から逸脱した取り組みがなされている。このような取り組みを正すために「一般地法面」において生物多様性保全に配慮した取り組みを行う際も「自然公園法面緑化指針」を準用することが適当と考えられる。しかしそうなると,植物材料(地域性種苗)の入手から,モニタリング・植生管理に至るまで多年度にわたる予算の確保と作業が必要となり,現実とはそぐわないものとなってしまう。したがって,あらかじめ地域性,緑化水準に合った地域区分(ゾーニング)を行い,地域性に即した適正な法面緑化の取り組みが行えるようにしておくことが望ましい。アンケート結果においてもこのような方向が支持されている。
 
「一般地法面」においてもホットスポットなどと称される自然度の高い箇所が存在することから,このような箇所に対しては「自然公園法面緑化指針」に基づき,多年度にわたる予算を確保し生物多様性保全に配慮した緑化を計画的に進める。その他の「一般地法面」に対しては,当初の緑化目的を侵食防止とし,中長期的な緑化目的を自然回復・生物多様性保全とするのである。経費を投じ,急ぎ,無理矢理生物多様性を図るのではなく,市場単価を用い,発芽が斉一で急速に緑化被覆する外来牧草による「緑の絆創膏」によって侵食防止・傷口の拡大を押さえ,その後は自然の回復力である植生遷移に委ねるのである。すなわち,生物多様性保全に配慮した緑化を早急に行わなければならない場所と,それ以外の法面保護,侵食防止を法面緑化の目的とする場所に区分けするのである。これによって,事前の予算取りが容易となり,地域の現実に即した事業の推進が可能となる。また,時間は多少要することとなるが,いずれも最終的には自然が回復され生物多様性保全が図られるのである(表−6)
 
 

表−6 現実的な地域区分(ゾーニング)と緑化植物の使い分け(中野)




 

4-2 市場単価構成の見直し

アンケート結果が示すように,現在は(外国産)在来種を多用することにより侵食防止・修景と生物多様性保全を同時に行えるとする風潮が強い。しかし,このことは様々な問題を発生させる原因となっていることは前述した。地域特性に合わせた緑化や生物多様性保全に配慮した緑化を適正に行うためには,野生種(地域性種苗),在来種,低草高外来牧草(改良品種)など様々な植物材料を用いる必要がある。また,生物多様性保全に配慮する場合は,発芽にバラツキを持ち,生長の遅い植物を用いる必要があり,長期間植物生育基盤を保持するため厚層金網張工など多様な緑化基礎工を用いることのできる仕組みが必要である。従って表−7に示すように市場単価の構成の見直すことについても考慮する必要がある。
 

表−7 斜面・法面緑化工の市場単価見直し(案) 例:植生基材吹付工 (中野)




 

おわりに

法面緑化に市場単価が適応され技術力の必要ない工種とされてから,技術力の低下は著しい。一方では野生種を用いるなど生物多様性保全に配慮した高度な緑化が求められている。この二つの矛盾する動きの中で法面緑化は翻弄されてきた。結果,(外国産)在来種を多用するという方向へと進み,肝心要の法面の侵食防止という機能までも減衰させてしまうという皮肉な結果を招来した。社会の変化に対する対症療法的な取り組みが招いた結果といえる。今後は,地域区分(ゾーニング)などを含む地域性に配慮した設計を可能とし,多様な資材の活用が可能となるように市場単価構成の見直しなどに取り組むことが必要である。これらにより法面緑化の本質である侵食防止による法面保護を確実なものとしつつ,より高度な緑化を行えるよう技術力を高め,品質の確保を可能とすることが喫緊の課題となる。


 


参考・引用文献
1) 環境省「日本の外来種対策」https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/caution.html
2) 環境省(2015)「自然公園における法面緑化指針」の策定について(おしらせ), http://www.env.go.jp/press/101554.html
3) 中野裕司(2018)生物多様性保全・地域区分と市場単価の問題に関するアンケート結果報告,緑化工技術―第39集―,特定非営利活動法人日本緑化工協会
 
 
 

特定非営利活動法人日本緑化工協会 理事長 中野 裕司

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年06月号



 

 

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