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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 雪寒対策資機材 > 遠赤外線融雪装置による融雪について

 

はじめに

東日本高速道路株式会社 新潟支社 湯沢管理事務所の管理路線である関越自動車道 小千谷IC~水上IC間は豪雪地帯である魚沼・南魚沼市域を通過しており,降雪量は他高速道路管理事務所管内と比べて随一である。年間累計降雪量は20mを超える地点もあり,除雪作業は過酷を極めるものとなっている。また,当該区間は関東地方と北陸地方を結ぶ物流の要であり,冬期間において除雪作業や凍結防止剤散布作業による交通の確保は重要な責務である。
 
平成28年度に雪崩防護擁壁背面に堆雪エリアを確保することを目的に遠赤外線融雪装置を設置し,融雪試験を実施した。その応用として平成29年度は人力除雪作業の削減を目的に,条件が異なる4箇所で遠赤外線融雪装置を増設し融雪試験を実施した。本報告はその中の堆雪槽と非常電話に設置した箇所での融雪試験を実施した結果について報告するものである。
 
 

1. 試験箇所の課題点

1-1 堆雪槽

関越自動車道 下り線 湯沢IC~塩沢石打IC間167.5KP~167.7KPには町営公園が隣接し,法面への投雪は禁止となっている。そのため高速道路本線路肩に幅2m×高さ1.5mの堆雪槽が設置されており,雪を堆雪することができる構造となっている。しかし,降雪が続くと短時間で満杯となり,厳冬期には投雪ができない状態となる。その対策として,除雪はロータリー車で雪を前送りに投雪していくか車線規制や降雪が続けば除雪梯団による先頭固定規制を実施し,写真-1のように運搬排雪を行っている。この区間は約700mの投雪禁止区間の終点側になっており,前送りに投雪していくには限界がある。また,運搬排雪は人力による除雪作業や規制による渋滞の発生が課題となっている。
 

写真-1 投雪禁止箇所の路肩雪堤運搬排雪




 

1-2 非常電話

高速道路本線路肩には緊急時に使用できるように非常電話が設置されているが,除雪時に形成される雪壁により使用ができなくなるため,写真-2のように人力除雪作業が実施されている。冬期は特に事故が多く,非常電話を利用される頻度が高いため拡幅作業は急務である。しかし,冬期の高速道路本線上での作業は危険が伴い,人力除雪作業の削減が課題となっている。
 

写真-2 非常電話の人力除雪作業の様子




 

2. 遠赤外線融雪装置の概要

遠赤外線放射体から放射された遠赤外線は雪に当たり吸収されることにより水分子や結晶を振動させて熱エネルギーに変換され融雪をもたらす。可視光線や近赤外線は雪や氷に吸収されにくく,表面で反射されるが遠赤外線は吸収率の高い波長帯域のため,雪面よりも深く浸透する特徴を持っている。また,本装置は上から面で照射するため雪が積もった後からでも融雪効果が高い。さらに,設置間隔を狭めて重ね照射することにより遠赤外線量を増加させ融雪能力を高める事が可能である。今回設置した装置を写真-3に仕様を表-1に1台当たりの新雪の融雪能力範囲を図-1に示す。
 
 

写真-3 遠赤外線融雪装置(UFW-4000)




 

表-1 遠赤外線融雪装置の仕様

図-1 融雪能力範囲(左:垂直 右:水平)




 

3. 試験箇所の検証方法

3-1 堆雪槽

既設の堆雪槽を利用し,投雪した雪を常に堆雪できることを目的に遠赤外線融雪装置を舗装路面から2250mmの高さで20台設置した。設置方法としては図-2のように2mピッチで10台設置し重ね照射を行った区間と4mピッチで10台設置した区間で実施した。装置の稼働方法としては積雪センサー制御によって,舗装路面と同じ高さの堆雪槽に1.5m堆雪した場合に装置を稼働するように設置した。なお,低圧電気供給による契約電力量に上限があり,同時稼働台数が10台となるため,センサー制御にて同時稼働が必要な場合は,10台ごとに3時間切り替えの交互運転を実施した。
 



図-2 堆雪槽への照射シミュレーション
 

3-2 非常電話

非常電話部だけを融雪するのではなく,緊急時でも使用できるように人が進入できるスペースも確保することを目的に舗装路面から3500mmの高さに図-3のように1台設置した。装置の稼働方法としては積雪センサー制御によって,舗装路面から高さ550mm非常電話の基礎天端まで堆雪した場合に装置を稼働するように設置した。
 

図-3 非常電話への照射シミュレーション




 

3-3 観測方法

堆雪槽と非常電話それぞれに定点撮影用のカメラを設置した。夜間の融雪稼働時はカメラが遠赤外線モードをとなるため,遠赤外線融雪範囲が明るく照射される。また,データ収集として1時間に1回撮影した画像を携帯回線で送信しクラウドサーバーにて保存閲覧可能な運用を行った。
 
融雪装置の稼働状況の観測においては,制御盤内に1分間隔で稼働時のON/OFF信号を測定しており,測定データは携帯回線によりクラウドサーバーにて保存閲覧可能な運用を行った。なお,遠赤外線融雪装置の使用電力量は1台当たり4kwhの一定値であるため稼働時間に使用台数電力量を乗じる事で換算できる。
 
 

4. 融雪状況の結果

4-1 堆雪槽

2mピッチの区間は重ね照射の効果がみられ,写真-4のようにライン状に融雪され,4mピッチの区間は写真-5のように2.5m×1.5mの穴が1つずつ開いたように融雪された。また,写真-6は1月11日に装置により融雪された堆雪ポケットに投雪した前後の状況写真と1月14日から17日にかけてその雪が融雪された状況写真である。投雪の雪が締め固められていることやその後の降雪などの影響で時間はかかったものの問題なく融雪され,再び堆雪ポケットが形成されたため,車線規制や除雪梯団の先頭固定規制による運搬排雪は実施されなかった。
 

写真-4 堆雪槽の2mピッチ区間の融雪状況




 

写真-5 堆雪槽の4mピッチ区間の融雪状況

写真-6 堆雪槽の投雪後の融雪状況




 

4-2 非常電話

写真-7は2月7日の14:00〜20:00の2時間ごとの降積雪状況と稼働状況を示した状況写真である。16:00までは降雪により堆雪し,18:00以降は融雪され非常電話基礎が露出されており,短時間の融雪が確認できた。図-3のようにガードケーブルまで融雪されていることも確認でき,積雪や除雪によって雪壁が形成した際も常に人が進入できるスペースが確保されていた。それにより,人力除雪作業の実施はされなかった。
 

写真-7 非常電話の2時間ごとの融雪状況




 

4-3 融雪装置の稼働時間

表-2は各試験箇所の12月~3月の稼働時間を示したものである。堆雪槽の2mピッチ区間の合計稼働時間は335.9時間であった。1台4kwの装置が10台設置しており,1kw=15円とした場合,1台当たりの電気料金は従量料金で2万円程度となった。4mピッチ区間も同様な電気料金であった。また,非常電話の合計稼働時間は240.3時間となり,従量料金は1万4千円程度となった。
 

表-2 各試験箇所の月別稼働時間




 

5. まとめ

積雪センサーの高さ設定や降雪,除雪状況で変動するが,運用コストは安価なものであった。1回の運搬排雪に10〜20人以上の人員が必要なため,大幅なコスト削減につながり,人力除雪作業での危険な作業の減少,災害への対策に効果的と考える。また,堆雪槽では自然積雪のみでなく,投雪での締め固まった雪にも融雪が確認され効果的であった。非常電話では目的通り非常電話部だけでなく人が進入できるスペースも融雪され,動線が確保できた。
 
課題として融雪装置の故障時の対応や定期的なメンテナンスの実施があり,長期的なスパンで費用を検討しなければならないので,試験運用をマニュアル化し,最適な装置の配置計画や使用電気量の削減を目指していきたい。また,少子高齢化の影響は除雪作業に従事する作業員にも波及しており,近い将来には人材不足が懸念されることからも,人力除雪作業が減少できる融雪設備の展開が必要不可欠であると思われる。また,人力除雪作業の減少が実現できれば,その分作業員の安全の確保にもつながると考える。
 
 

株式会社ネクスコ・メンテナンス新潟 湯沢事業所 佐藤 秀平

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2018年07月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

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