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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > グリーンインフラによる 都市の雨水対策

 

1. 雨水対策は都市の緊急課題

ヒートアイランド現象で温まった空気は上空で冷やされ,雨雲を発生させて地上に降り注ぐ。その雨の降り方は近年,局地的で短時間に集中し,かつ頻度を増している。ヒートアイランド現象は都市部に特有で,その原因は①緑地の減少と舗装や建物などによる人工的被覆面の拡大,②密集した建物による風通しの阻害や天空率の低下,③建物や工場,自動車などの排熱の増加などが考えられ 1),今後も都市化の進展に伴ってこの現象は増加の一途をたどると予測されている。最近では,都市型集中豪雨を身近に実感する場面が多く,その対応策は緊急を要する課題となっている。
 
多くの都市はこれまで1時間当たりの降雨を50mmと想定して,流域ごとに下水道が整備されてきた。しかし都市化の進展で,1時間当たり100mmを超す都市型集中豪雨も珍しくなくなった。そのため,下水道の排水能力を超えて水があふれ出す内水氾濫が頻発しており,これに対する緊急対策が望まれている。
 
また多くの都市では,下水道整備が一定の耐用年数を超え更新が必要な時期に入っている。老朽化が進む大都市では,この10年から20年の間に下水道施設の大規模な取り替えが必要だが,そのスピードは都市型集中豪雨の増加速度に追いついていないのが現状だ。かつ高齢化による税収入の減少で予算確保が難しく,各自治体では解決策を模索する動きが活発化している。
 
 

2. グリーンインフラ活用の動き

グリーンインフラとは,「自然が持つ多様な機能を賢く利用することで,持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画」を指す新しい概念だ 2)。これまではコンクリート管やプラスチックなどを使った土木事業による雨水対策が主流とされてきた。例えば,東京都では環状7号線の地下50mに直径約12.5m,長さ4.5kmの巨大トンネル(地下調整池)が建設され,上流域50㎢の雨水54万㎥を一時貯留することで,近隣の浸水被害を軽減できている例もある 3)。このように自治体では多大な努力が払われているものの,今後の豪雨の増加に対応するには多くの時間と費用を要する。
 
海外でも同様の問題を抱えている都市が多い。米国ではニューヨーク市,シカゴ市,シアトル市,ポートランド市など,規模の大小に関わらず共通の課題となっている。特に都市化が始まって100年以上経過しているニューヨーク市では深刻だ。下水道のほとんどが汚水も雨水も一緒に流す合流式であるため,集中豪雨でオーバーフローした雨水は下水道に流れ込み,処理しきれないまま直接河川に放流される。その結果水質悪化を招き,市民生活に大きな影響を与えていた。
 
しかし,それらの都市は緑化技術を上手に使ったグリーンインフラで解決策を見出した。2010年に当時のニューヨーク市長ブルームバーグ氏はNYC Green Infrastructure Planを発表し,「雨が降った時にしか役に立たない雨水貯留槽や貯留用トンネルより,何十億ドルも安く目的(雨水対策)を達成できる」とし,その施策は現在も推進されている 4)。その影響もあり,多くの都市でグリーンインフラは今後の都市再生の救世主として検討されている。現在,その技術開発や効果検証が盛んに行われている。
 
 

3. 海外に学ぶ雨水対策の現状

前述のニューヨーク市の事例では,2030年までに合流式下水道エリアにおいて,不透水舗装面積の10%から流れ出る降雨量1インチ(約25mm)相当をグリーンインフラによって流出抑制する計画を打ち出している。具体的には街路や道路に加えて校庭など市の土地へのグリーンインフラ施設の設置,私有地オーナーへの助成金制度,研究開発やメンテナンスなど,降った雨を敷地外に出さずに,敷地内で処理することが基本となっている。代表的なレインガーデンを図−1に示す。その雨水処理能力は約2,200ガロン(約8.3㎥)あり,2015年時点で約2,500箇所が設置されている。
 
ポートランド市(オレゴン州)においてはGreen Street Projectとして雨水対策が行われている。その代表的なものが図−2のレインガーデン工法である。これは道路や歩道の雨水をレインガーデンに集め,その雨水を表面貯留後地中に浸透させる方法だ。ポートランド市のグリーンインフラの歴史は古く,1990年からスタートしている。初期は法的整備と並行して縦樋の分断プロジェクトが進められた。これは屋根に降った雨を縦樋を通じて直接下水道に流さないよう,縦樋を切断して地表面に流す基本的なグリーンインフラ技術だ。当時,この新たな取組みの理解を広く市民に求めるために,行政サイドの啓蒙活動はかなりの根気を要したとのことである。市民の参加を得て雨水処理を行い,安全な街づくりにつなげるという活動は,市民の理解なくしてできないことを示唆している貴重な例といえよう。
 
シカゴ市においては,Green Alley Project としてグリーンインフラが実施されている。ビルとビルとの間に位置する管理用通路や住宅街の小道をアレー(Alley)というが,その道路面に降る雨を速やかに地中に浸透させる方法だ。歩道面は透水性レンガを使用し,その路床部分に礫を使用して雨水を貯留できるよう工夫されている。これまで道路表面に滞水していた雨水も地中に浸透することから,衛生面での改善も可能になっている。
 

図−1 代表的なレインガーデンの構造
一箇所当たり約8.3㎥の雨水処理が可能



図−2 ポートランド市の代表的なレインガーデン




 

4. グリーンインフラの要素技術

グリーンインフラを推進するためには,多くの要素技術が存在する。米国では環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)が中心となって整備を推進している。EPAではマニュアルの整備と同時に要素技術11項目を示し,透水性ブロックや縁石などを工夫し,土壌と植物を活用した雨水の一時貯留,浸透,流出遅延,汚染物質の浄化,大気の冷却効果など,多くの社会的便益を供給できるように整備を進めている。日本においてはグリーンインフラを実装するための道路,公園,建築物などのスペースが米国に比べてあまりに狭く,そのままでの技術移転が難しい。そこで日本向け技術として屋上庭園,壁面緑化,芝生広場を加え,グリーンインフラの14要素として表−1に整理した。
 

表−1 グリーンインフラの14要素




 

5. 雨水貯留浸透基盤材の開発

日本版グリーンインフラを推進するには,狭いスペースにおいて雨水をいかに多く貯留浸透できる基盤を実現できるかという点がカギとなる。また,全国どこででも入手できる骨材が必要なことから,それがリサイクル材であることが望ましいという結論に至った。そこで単粒度のコンクリート再生砕石を用いて腐植をコーティングし,空隙率41%以上を有する基盤材の開発が行われた。また,この基盤材には樹木の根の伸長が可能であることが重要なポイントでもあるため,腐植がアルカリ緩衝の役割を果たすか否かの実験も同時に行われた。結果は図−3に示す通り,全く問題なく生育できることが判明した。既に雨水貯留浸透層であると同時に植栽基盤材としても活用可能な基盤技術を使用し,各地で実績が現れ始めている。
 

図−3

単粒度再生砕石によるクスノキの生育検証,定植後4年4ヶ月が経過,右区は単粒度再生砕石のみ,左区は単粒度再生砕石に腐植をコーティング


 

6. 日本におけるグリーンインフラの事例

横浜市のグランモール公園では2016年度に改修が終了し,賑わいの場として新たな公園の設えが施された。公園の一定区域(集水域)に降った雨を,ケヤキの植え込み帯下層全面に設置された雨水貯留浸透基盤材に貯留し,雨水の貯留浸透を行う方法である(図−4)。基盤材中の雨水は,樹木の蒸散作用および骨材間のしみ上がりを介してレンガから蒸発するなどの水循環の仕組みが実現されている 5)。この公園はグリーンインフラ技術を駆使することにより可能になった新しい公園の姿として,平成29年度ランドスケープコンサルタンツ協会賞(CLA賞)最優秀賞,2018年度グッドデザイン賞ならびに平成30年度第34回都市公園等コンクール国土交通大臣賞(設計部門)を受賞している。
 
降雨量と地下水位の関係は,図−5に示す通りである。具体的には2016年7月15日に110mm/日の降雨が観測され,雨水貯留浸透基盤内の水位は約30cm程度の上昇が認められたが,翌日には地下に浸透して空隙内が空になっていることが分かる。同様に7月21日にも約60mm/日の降雨があり,約20cmの水位上昇が認められるものの,翌日には全量地下に浸透していることが分かった。このように,グランモール公園内の集水域に降った雨は場外に流出することなく,ケヤキの植栽基盤内で貯留・浸透処理されていることが分かる 6)。雨水処理は降った場所で浸透させることが基本であり,雨水処理のベースカット手法として有効といえる。
 

図−4

横浜市グランモール公園の下層に雨水貯留浸透基盤材が設置されている。集水域に降った雨は浸透側溝や保水性舗装(レンガ),植栽地を通じて基盤内に流入し地中に浸透する。一部の雨水はしみ上がりレンガを冷やして水循環が実現している。

図−5

横浜市グランモール公園内の集水域に降った雨は,場外に流出することなく,ケヤキの植栽基盤内で貯留・浸透処理されている。※H.W.Lは浸透側溝の底面の高さ


 

おわりに

日本ではグリーンインフラ技術を使った都市の雨水対策は緒に就いたばかりだ。海外でも当初はグリーンインフラの効果を軽視しがちであったことは否めない事実である。しかし,これまでの調査・研究や海外での実例を通じて,既に下水道への雨水流入量を軽減できる効果は十分にあることが証明されているといえよう。もしグリーンインフラの効果に懐疑的であれば,ポートランド市の費用対効果の検討グラフを確認すべきである 7)。これはTabor to the River Projectにおいて,老朽化した下水道を従来手法でリニューアルした場合と,従来のグレーインフラにプラスグリーンインフラ手法を併用した場合の比較である。グリーンインフラ手法を併用した場合,従来工法の約60%にまで費用削減が可能であるばかりでなく,その結果緑あふれる街づくり,賑わいのある街づくりの礎にもなり得ることが理解できよう。
 
もうグリーンインフラの効果を議論する時代は過ぎたと感じる。今後はスピードを上げて,グリーンインフラの実装を通じた手法の検証や国民への理解を求めるフェーズに入っていると痛感している。
 
 

引用文献
1) 環境省:ヒートアイランド現象の原因について
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/manual_01/02_chpt1-2.pdf
 
2) グリーンインフラ研究会(2017)「グリーンインフラとは」「決定版グリーンインフラ」,日経BP社グリーンインフラ研究会他編,p.20
 
3) 環状7号線地下広域調整池について
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/03/09/documents/07_01.pdf
 
4) NYC Green Infrastructure Plan
http://www.nyc.gov/html/dep/pdf/green_infrastructure/NYCGreenInfrastructurePlan_LowRes.pdf
 
5) 植田直樹(2017)「成熟した街づくりを牽引する公園」未来につなげる公園に「グランモール公園」マルモ出版LANDSCAPEDESIGN No.113p44-45
 
6) 野島他(2017)「グリーンインフラの要素技術である雨水貯留浸透基盤材の設置による雨水貯留浸透効果及微気象改善効果」日本緑化工学会誌Vol.42 No.3 p.460-465
 
7) Dawn Uchiyama「夢から実践へ」ポートランド市におけるグリーンインフラ戦略の最前線,日本緑化工学会(2014)p18
http://www.jsrt.jp/sympo/files/20141112_DwnUchiyama.pdf

 
 
 

一般社団法人 グリーンインフラ総研 代表理事 木田 幸男

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2019年3月号 特集 防災減災・国土強靭化



 
 

 

 

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