建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 環境低負荷コンクリート解体工法 について

 

はじめに

最近,世界的な新型コロナウィルスの蔓延や地球環境問題への対応から,日本の産業だけではなく世界の産業界を取り巻く環境が厳しい状況になっている。新型コロナウィルスは,終息に向けてワクチンや治療薬の開発が進んでいるが,いまだ出口が見えない。また,地球環境問題では世界的な温暖化対策の議論が活発化し,社会的にさらなる変革が求められている。2015年12月に開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)では,2030年および2050年へ向けたCO2削減達成目標が定められた。日本は,具体的な温暖化対策としてのCO2排出量削減目標を,2030年までに26%,2050年までに80%削減となるよう世界に約束した。現在のエネルギー消費量を80%削減した社会を創造しようとした場合,これらを達成するためには大きな技術革新(イノベーション)が必要となる。革新的な省エネルギー技術の開発やCO2フリーとなる水素利用や太陽光,風力等の再生可能エネルギーの大規模導入などによるCO2を排出しないゼロエミッション社会の実現が必要となる。
 
現状では,夢のような話かもしれないが,実現へ向けた研究開発も進んでいる。
 
 
 

1. 環境低負荷解体工法としての発破解体

土木建築業界でもエネルギー消費量の大規模な削減が必要になる。コンクリート構造物の解体分野では環境低負荷解体工法による効率的な解体の実現によって,エネルギー消費量の削減に貢献できると期待されている。そのなかでも,コンクリート構造物解体分野において特殊な工法として分類される発破解体工法は,環境に与える負荷が低い工法として注目される。この工法は,火薬類の爆轟現象で発生する衝撃圧と膨張ガスでコンクリート材料を破砕する工法であり,環境負荷の少ないことで知られている。火薬類の爆轟反応で発生する衝撃圧は,爆轟速度の二乗に比例することが知られ,現在,広く利用されているエマルション爆薬では,5Gpa(約5万気圧)以上になる。実際にエマルション爆薬が爆轟している状況を図−1に示す。これだけの超高圧では,全てのコンクリート材料を破砕することが可能であるが,非常に短時間(数μ秒程度)の作用であり,破砕される領域は,爆薬近傍に限定する制御発破の研究開発も進んでいる。また,今後の課題となる高強度コンクリート構造物解体への適用も期待されている。
 
爆薬によるコンクリートの破砕とスムースブラスティングによる破砕制御のイメージを図−2に示す。爆薬周辺は,ほぼ同心円状に粉砕領域,塑性領域,弾性領域となるが,右のスムーズブラスティングによる破砕制御は,爆薬とコンクリート壁の間に空隙を置くデカプリング法等を適用することで,破砕領域を制御することが可能となる。
 

図−1 エマルション爆薬の爆轟現象(3,500m/sec以上で反応)


 

図−2 爆薬によるコンクリートの破砕(左)とスムースブラスティングによる破砕制御のイメージ(右)




 

2. 環境影響評価について

「はじめに」で述べた通り,土木建築業界でも地球環境問題について真摯に取り組むことが重要となりつつある昨今,環境影響を定量的に評価する方法の一つとして,LCA(Life Cycle Assessment,以下「LCA」)が用いられることが多くなっている。このLCAは,本来,個別の製品等が原材料の採掘から生産,消費,廃棄に至るまでのライフサイクル中に環境へ与える影響を定量的に評価する手法である。地球環境への影響を評価する場合は,排出されるCO2量を定量的に評価できることからCO2の排出量を用いて議論される。LCAの評価方法では,製造工程における原材料の生産,製品の製造,運搬時のエネルギーを考慮する必要がある。原材料が鉄である場合,鉱山で採掘した鉄鉱石を船舶で輸送し,製鉄所での精製を経て鋼材となるが,各過程で消費されるエネルギーも考慮して,CO2原単位を計算することとなる。また,原材料から製品を製造する際,さらに製品が使用・廃棄される場合も環境影響評価が必要になる。
 
このLCAの手法を用いれば土木工事におけるCO2排出量を推定することが可能であり,地球環境への影響を評価することができる。
 
 
 

3. 機械破砕と発破破砕の環境評価について

LCAによる環境影響評価は,製造から消費・廃棄までのライフサイクルで環境負荷を評価する手法であるため,土木工事では本来,建設・使用・解体まで検討する必要があるが,本稿ではトンネル掘削工事の環境負荷を検討するため,トンネル掘削時のみで比較検討した事例を示す。LCAによる評価では,消費される資材のCO2排出原単位が必要になる。トンネル掘削工事では,火薬類,電力・軽油,鉄・セメント,掘削重機・トラック等においてそれぞれのCO2排出原単位が必要になる。電力,鉄等については,既に公表されたデータがあり,これを使用することができるが,火薬類については独自にCO2排出原単位を求める必要があった。トンネル工事で使用される火薬類としては,エマルション爆薬と電気雷管として使用される素材,工場の消費エネルギー,製造装置等から算出した。電気雷管の製造では,銅・ビニールコンパウンド・白金,起爆薬等の材料,電力,水蒸気が使用される。エマルション爆薬の製造では,酸化剤・ワックス・乳化剤・GMB等の材料,包装用の段ボール,電力,水蒸気が使用される。また,製造用の機械設備があり,これは機械類の重量と耐用年数から算出した。計算結果として,電気雷管は1個当たり101.2g,エマルション爆薬は1kg当たり943.2gのCO2が排出される結果を得た。これを火薬類のCO2排出原単位として計算する。
 
評価例として,トンネル掘削時の掘削工法による比較を図−3に示す。トンネル掘削時のCO2排出量を比較するために,全長1,500m,掘削断面積約80㎡の一般国道の道路トンネルを想定した。LCA解析で使用した資材の種類および消費量は,国土交通省積算基準を基に算出した。また,岩盤の種類により積算基準が異なるため掘削区分B,CⅠ,CⅡ,DⅠ,DⅡで実施した。発破掘削では,同B,CⅠ,CⅡ,DⅠ,機械掘削では同CⅠ,CⅡ,DⅠ,DⅡで検討した。
 
発破工法は,従来型の全断面掘削法を適用している。解析結果からCO2排出量は,岩盤強度が弱いほど大きくなる傾向がある。これは,トンネルの保全のために消耗性資材類として大量のコンクリートを使用するためである。CO2排出量を機械工法と発破工法を比較するCⅠ,CⅡ,DⅠでは,ほぼ同程度になる。しかし,機械工法では,岩盤強度が大きくなるとCO2排出量が大きくなる傾向にあり,Bでは算出していないが,岩盤掘削に大量のエネルギーが必要であることからCO2排出量の差は大きくなることが予測できる。発破工法では,トンネル保持のためのコンクリート使用量が多くなり,破砕部分だけを比較すると環境影響負荷は低くなる。
 

図−3 発破工法と機械工法のCO2排出量の比較




 

4. コンクリート構造物解体時の環境影響評価について

機械工法と発破工法について,その環境負荷を検討した。その結果発破工法が比較的環境低負荷であることを示した。更に,最近の都市発破工法について検討する。

①ミニブラスティング工法

発破解体工法に対するこの様な状況の中で,近年は,従来型の大規模な発破解体より,少量の爆薬を利用する小規模発破(ミニブラスティング)工法の研究開発が進んでいる。この工法自体は,欧州では以前から工事に使用されており,特に新しい考え方ではないが,国内で都市部の解体工事へも適用できる発破工法として注目されている。ミニブラスティング工法によりコンクリート支柱を破砕する場合,通常発破では破砕予定領域を広く破砕するが,ミニブラスティング工法では,破砕予定領域を細かく破砕することが可能であり,使用する爆薬量と穿孔作業に必要なエネルギーが少ないことからCO2排出量を抑えることができる。ミニブラスティング工法では,鹿島マイクロブラスティング工法等として実用化されている事例もある。

②非火薬類による解体工法

近年では,自動車・航空機等の輸送手段の電動化や機器類の省エネ技術の進展が加速している。また,AI技術とIoTも身近な技術となってきている。産業と環境が共生する社会の実現に貢献し,安全・安心な社会の実現に向けた,未来の産業を創生する技術が開発されることが期待されている。また,再生可能エネルギー技術の大量導入やCO2フリーである水素の普及が進むものと思われる。しかし,これらの技術が社会で活用されるには,その技術の有用性や環境性を事前に評価することが重要となる。最後に,発破解体工法の利点と欠点をリスクトレードオフに関する概念図を図−4に示す。今後のコンクリート解体でも,解体重機の電動化やミニブラスティング工法の適用で,環境低負荷解体工法の実用化が進むと思われる。
 
 
 

おわりに

2015年11月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)では,低炭素社会の実現に向けたCO2削減目標を定めた。日本政府も目標値を掲げて低炭素社会の実現に向けて取り組みを進めている。また,SDGs(Sustainable Development Goals)では,持続成長可能な社会の実現に向けた国際的な目標が示されている。このような世界的な状況の中で,岩石を破砕する作業は重要であり,より低炭素で地球環境にやさしい破砕法を開発することが求められており,火薬類を用いた発破工法は有力な工法の一つと考えられる。
 

図−4 発破工法の社会受容性とリスクトレードオフの模式図




 
 

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 研究部門長 緒方 雄二

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年11月号



 

 

同じカテゴリの新着記事

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品