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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 東日本大震災から10年を迎えて ─復興の進捗と課題,今後の展開─

 

はじめに

令和3年3月11日で東日本大震災の発災から10年の節目を迎えます。
この10年間における関係者の皆様の総力を挙げた取組,とりわけ,被災地の方々の継続的なご努力と全国及び世界各地からのご支援が相まって,この未曽有の大規模災害からの復興は着実に進展しています。
その一方で,今後も対応が必要な課題が残されていることも事実です。
 
本稿においては,震災の概要と復興の枠組みを概観した上で,①被災者支援,②住まいとまちの復興,③産業・生業の再生,④原子力災害からの復興・再生の4分野について,現状と課題を整理し,今後の展開を示すことといたします。

 
 

1. 東日本大震災の概要と復興の枠組み

まずはじめに,東日本大震災の地震・津波の態様及び被害の概要ならびに政府による10年間の復興の枠組みについて確認します。
 
平成23年3月11日14時46分に三陸沖で発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」は,国内観測史上最大規模となるM9.0(モーメントマグニチュード)を記録し,宮城県北部で最大震度7,東北から関東の広い地域で6強から6弱を観測しました。
この地震により,東北地方太平洋沿岸をはじめとする広い地域で津波が観測され(※1),青森県から千葉県にかけて561km2が浸水する等,広範囲に甚大な被害を生じました(※2)。
 
これにより,13都道県で死者19,729人(震災関連死を含む),未だ6県で2,559人の方々が行方不明となっています。また,9都県で住家の全壊121,996棟,13都道県で半壊282,941棟が生じました(※3)。
 
さらに,この地震及び津波に伴い,東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し,放射性物質が放出されたことで,多くの住民が避難を余儀なくされ,さまざまな産業への打撃,広範な地域における風評被害等,未曽有の複合災害となりました。
 
同年4月,この地震・津波による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害を「東日本大震災」と呼称することが閣議了解されています。
 
この震災発生を受け,政府は速やかに緊急災害対策本部を設置し,初動対応を開始しました。
 
同年6月には,東日本大震災復興基本法(※4)が成立し,東日本大震災復興対策本部を設置(※5)しました。
翌7月,同本部は,東日本大震災からの復興のための施策に関する基本的な方針(※6)を決定し,復興期間を10年間として,復興需要が高まる当初5年間を「集中復興期間」と位置付けました。
 
翌24年2月には,復興庁設置法(※7)が成立し,内閣に復興庁が設置され,各般にわたる復興施策が推進されることとなりました。
 
集中復興期間後の平成28年度以降の5年間は「復興・創生期間」と位置付けられ,平成28年3月に同期間の基本方針(※8)が閣議決定されました。
 
平成31年3月には,同方針を見直し,残る期間における重点的な取組事項が示されています(※9)。

 
 

2. 各分野の現状と課題

次に,各分野における10年間の取組と進捗・現状及び今後の課題について整理します。

 

(1)被災者支援

東日本大震災による避難者は,発災直後の最大約47万人から4.2万人に減少しています(図-1)。
 
発災当初の膨大な避難者の発生を受け,当面の住まいの確保に向けて,災害救助法(※10)に基づく応急仮設住宅が供与されました。
最大で約31.6万人に及んだ入居者は,恒久住宅への移転が進む中で徐々に減少し,地震・津波被災地域においては,令和2年度内に仮設生活が解消できる見込みとなっています。
 
生活・住宅再建の進捗に伴う多様な課題に対応するため,相談支援のほか,生きがいづくり等の心の復興,子ども達への就学・学習支援等のきめ細かな支援策を実施しています。
特に,被災地方公共団体が直面する課題に効果的な支援を実施できるよう,被災者支援に係る基幹的事業を一括化して助成を行う「被災者支援総合交付金」を創設して,見守りや健康支援,コミュニティ形成,心のケア,県外避難者支援等の取組を一体的に行っています。
 
令和3年度以降も,各地域における住まいの再建等の状況に留意し,復興の進捗に応じた切れ目のない支援に取り組んでまいります。
 

  • 避難者数の推移
    図-1 避難者数の推移

  • (2)住まいとまちの復興

    被災地域に人が戻るためには,住民が安心して暮らせる生活環境の整備が不可欠です。
     
    恒久的な住まいの再建のため,被災者生活再建支援金(※11)による自主再建の支援に加え,災害公営住宅の整備や高台移転による宅地造成を進めてきました。
     
    これら事業の円滑な推進に向けて,平成26年度までに用地取得の迅速化,埋蔵文化財発掘調査の簡素・迅速化,発注者の負担軽減等の加速化措置が特別に講じられました(※12)。
     
    これらも活用しつつ,令和2年12月には,災害公営住宅約3万戸及び宅地造成約1.8万戸の整備が全て完了しました(図-2)。
     
    また,被災地の経済発展の基盤として,交通・物流網等インフラ整備を進めてきました。
     
    インフラの復旧については,社会資本整備総合交付金(復興枠)や復興交付金等の特例的な財政措置を活用し,避難指示区域等を除き,おおむね完了しました。
     
    三陸鉄道は,平成31年3月に,JR山田線(宮古-釜石間)が同鉄道に移管され,リアス線として全線開通しました。
    また,JR常磐線は,令和2年3月の浪江-富岡間の開通によって全線開通となり,これを以て,被災した鉄道路線2,350.9kmの全線が復旧しました。
     
    沿岸部を縦断する復興道路及び沿岸と内陸を結ぶ復興支援道路の整備も進み,令和2年度内におおむね開通する見込みとなっています。
     
    今後の課題として,防災移転促進事業による移転元地等の活用について,地域の実情に応じて着実に進めていく必要があります。

     

  • 災害公営住宅整備の進捗
    図-2 災害公営住宅整備の進捗

  • (3)産業・生業の再生

    事業の再生に向けては,仮設工場・店舗等の整備・無償貸与により,早期再開を支援しました。
    また,グループ補助金や東日本大震災事業者再生支援機構等による二重ローン対策等,過去に例のない措置により,被災企業を支援しています。
    これにより,製造品出荷額等はおおむね震災前の水準まで回復していますが,地域・業種間で回復状況に差があるのも事実です(図-3)(※13)。
     
    農林水産業については,津波被災農地,漁港施設,水産加工施設等のインフラ復旧がおおむね完了する一方で,漁業の水揚げや水産加工業の売上げの回復は今後も課題であり,販路の回復・開拓等の支援を継続してまいります。
     
    また,令和2年までに東北6県の外国人延べ宿泊者数を「150万人泊」とする目標(※14)については,東北観光復興対策交付金等の活用により,令和元年に1年前倒しで達成しました。
     
    今後は,全国的に深刻な影響が生じている新型コロナウイルス感染症対策のほか,福島県に根強く残る風評被害への対策を進める必要があります。
     
    さらに,被災地企業と支援企業との事業連携や専門家派遣等を通じて,新商品開発や販路開拓等の経営課題の解決を支援し,地域の特色に応じた産業・生業の再生等につながる事例が創出されてきています。
    今後は,これらの蓄積されたノウハウをより広く普及・展開することが重要です。
     

  • 製造品出荷額等の回復状況
    図-3 製造品出荷額等の回復状況

  • (4)原子力災害からの復興・再生

    東京電力福島第一原子力発電所については,中 長期ロードマップ(※15)に基づき,安全確保を最優先に,事故収束活動が実施されています。
     
    環境再生については,平成24年1月より土壌の除染等が開始され,同30年3月までに帰還困難区域を除く8県100市町村で,生活環境の面的除染を完了しました。
    現在,除去土壌等の中間貯蔵施設への搬入が進められています。
    令和2年3月に は,帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示が 解除され,最大で約1,150km2 であった避難指示 区域の面積は,約337km2まで減少しました(図-4)。
     
    避難指示が解除された地域においては,住民の帰還に向けて,医療・介護,教育,交通等の生活環境の整備を進めています。
    今後は,地域の復興・再生を支える新たな活力を呼び込むため,交付金による移住・定住促進事業として,地方自治体による事業の支援と移住者個人に対する支援金の取組を推進します。
     
    また,帰還困難区域については,JR常磐線の開通に合わせ,令和2年3月に双葉駅,大野駅,夜ノ森駅周辺で避難指示が先行解除されました。
    引き続き,6町村において特定復興再生拠点区域の整備を進めるとともに,拠点区域外の政策の方向性について検討を進めます。
     
    福島浜通り地域等の自立的・持続的な産業発展に向けて,「福島イノベーション・コースト構想」を推進しており,ロボットテストフィールド等の中核拠点が開所しています。
     
    この構想を加速するため,新産業の創出や若者人材育成の中核となる国際教育研究拠点の新設に向けて,令和2年12月に,政府の方針を決定しました(※16)。
    今後,組織形態等について更なる検討を進め,令和3年度に基本構想を策定します。
     
    農業については,営農再開に向け,担い手の確保と併せて大規模で労働生産性の高い農業経営を展開する必要があり,農地集積や高付加価値産地展開の支援等の取組を推進します。
     
    水産業については,依然として試験操業が続いていることから,本格的な操業再開に向けた支援を行うとともに,水産加工業の販路回復等の取組を継続することとしています。
     
    当初,54カ国・地域において輸入規制の措置が講じられていましたが,令和2年12月時点で,38カ国・地域が規制を撤廃,14カ国・地域が規制を緩和するに至っています。
    被災地全体の風評の払拭に向けて,引き続き国内外に向けた情報発信に取り組んでまいります。
     

  • 避難指示区域の見直しと現状
    図-4 避難指示区域の見直しと現状

  • 3. 今後の復興の展開

    こうした10年間における復興の状況を踏まえ,令和元年12月に,「復興・創生期間」後の基本方針が閣議決定され,復興施策の進捗・成果及び課題等を明らかにした上で,令和3年度以降の新たな期間における各分野の取組,復興を支える仕組み及び組織について方針が示されました(※17)。
     
    同基本方針においては,地震・津波被災地域は,復興の総仕上げの段階に入っており,復興・創生期間後5年間において,心のケア等の被災者支援をはじめとする残された事業に全力で取り組み,「復興事業がその役割を全うすることを目指す」という方針が示されています。
     
    原子力災害被災地域については,復興・再生が本格的に始まっていますが,復興・創生期間後も中長期的な対応が必要であり,「当面10年間,復興のステージが進むにつれて生じる新たな課題や多様なニーズにきめ細かく対応しつつ,本格的な復興・再生に向けた取組を行う」としています。
     
    この方針に基づき,令和2年6月に復興庁設置法等が改正され(※18),復興庁の設置期間が10年間延長されており,令和3年度以降も復興庁が復興の司令塔機能を担うこととされています。

     
     

    おわりに

    本稿では,東日本大震災の発災から10年の節目を迎えるに当たり,各分野の現状と課題を整理し,今後の復興の展開を示しました。
     
    冒頭に申し上げたとおり,この10年間で復興が着実に進展する一方で,原子力災害からの復興をはじめ,令和3年度以降も残された課題に取り組む必要があり,復興と再生をさらに前に進めてまいります。
     
    また,本年開催が予定される東京オリンピック・パラリンピック競技大会においては,「復興五輪」として,世界各国からの支援に対する感謝を伝えるとともに,復興の姿を世界に向けて発信してまいります。
     
     

    【参考資料】
    (※1)「気象庁技術報告第133号 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震調査報告」平成24年12月
    (※2)青森,岩手,宮城,福島,茨城,千葉の6県62市町村「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」平成23年4月18日,国土地理院
    (※3)人的被害及び住家被害は令和2年3月1日現在「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について(第160報)」令和2年3月10日,消防庁災害対策本部
    (※4)平成23年法律第76号
    (※5)平成23年6月から同24年1月までの間に計12回の会合を実施。同年2月10日の復興庁の設置に伴い廃止
    (※6)「東日本大震災からの復興の基本方針」平成23年7月29日,東日本大震災復興対策本部決定
    (※7)平成23年法律第125号
    (※8)「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」平成28年3月11日,閣議決定
    (※9)「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針の変更について」平成31年3月8日,閣議決定
    (※10)昭和22年法律第118号
    (※11)被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)
    (※12)住宅再建・復興まちづくりの加速化のためのタスクフォース「住宅再建・復興まちづくりの加速化に向けた施策パッケージ」平成25年3月7日
        「住宅再建・復興まちづくりの加速化措置」(第二弾:平成25年4月9日,第三弾:同年10月19日,第四弾:翌26年1月9日,第五弾:同年5月27日)
        「住宅再建・復興まちづくりの隘路打開のための総合対策」平成27年1月16日
    (※13)「工業統計調査」経済産業省
    (※14)「観光立国推進基本計画」平成29年3月28日,閣議決定
    (※15)「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」平成23年12月21日,政府・東京電力中長期対策会議
    (※16)「国際教育研究拠点の整備について」令和2年12月18日,復興推進会議
    (※17)「「復興・創生期間」後における東日本大震災からの復興の基本方針」令和元年12月20日,閣議決定
    (※18)令和2年法律第46号

     
     
     

    復興庁 事務次官
    由木 文彦(ゆき ふみひこ)

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年3月号


     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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