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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 日本橋梁建設協会におけるDXの紹介 ~ICTを用いた災害時の点検の効率化~

 

はじめに

わが国では,大規模な震災や近年では豪雨による洪水災害などの激甚災害が多く発生し,(一社)日本橋梁建設協会(以下,橋建協)で施工した鋼橋も被害を受けている。
2017年度より橋建協ではi-Bridge推進特別WGを組織し,設計情報,照査情報,工場製作,保全分野,協会広報活動への最新ICT技術の適用性について検討してきた。
この取組みの中で,既に施工を完了した全国にある多くの鋼橋の災害時点検の効率化を図るシステム「B-MAP」の開発に着手し,2020年度にプロトタイプのシステムが完成した。
本稿ではそのシステムの概要を紹介する。

 
 

1. 開発のきっかけ(熊本地震)

2016年(平成28年)4月14日に発生した前震を皮切りに,熊本県を中心とする大きな地震が頻発し,熊本県と大分県の家屋や土木構造物など,さまざまな構造物に大きな被害を与えた。
橋建協では熊本地震橋梁被害調査および報告書作成に携わったが,その際に震災時の調査点検業務の効率化の必要性を感じた。
その経験から,発生確率が高いといわれている東海,東南海,南海地震などを想定した対策の必要性を強く感じ,橋建協としてICT技術を利用した災害時の鋼橋点検の効率化(B-MAPによる震災対応)システムの開発を始めた。

1-1 熊本地震における橋建協の対応

地震発生後,速やかに災害対策本部を設置して震災対応の準備を行った。
橋建協は多くの自治体と災害協定を締結して災害時に調査・点検支援などを行うようにしているが,熊本地震の被災地である熊本県と大分県とは災害協定を締結しておらず,自治体(道路管理者)からの調査・点検支援
要請などはなかった。
しかし,橋建協の行動規範である五つの誓いのうちの一つ“「地域の皆さんの安全・安心」に寄与します。”のもと,橋梁メーカーという立場で鋼橋の調査・点検を自主的に行うこととした。
 
地震発生後にも大きな余震が続いていたことや,調査・点検活動が道路管理者による応急復旧作業の妨げになる可能性があることなどを考慮し,調査・点検作業は余震が比較的収まった5月9日から開始した。
約1カ月の期間をかけて478橋に対して点検を実施した。
作業班として,橋建協会員会社の人員にて38パーティー(延べ111パーティー,延べ302名)を派遣した。
調査・点検対象の橋梁は,国土交通省・地方自治体が管理する橋建協会員会社が施工した鋼橋とし,鉄道会
社・高速道路会社(NEXCO西日本)の管理橋梁およびその跨線橋・跨道橋は対象外とした。
その理由は,一般道とは異なり調査・点検に際して道路管理者の許可が必要と考えられたためである。
 
橋建協では,この成果を後世に記録として残し,広く社会で活用していただくことを目的として「熊本地震橋梁被害調査報告書」(橋建協ホームページから閲覧可能)を取りまとめた。

  • 熊本地震の概要
    表-1 熊本地震の概要

  • 損傷状況
    写真-1 損傷状況
  • 損傷状況

  • 点検状況
    写真-2 点検状況

  • 1-2 橋建協や各社の点検準備の状況

    橋建協では「災害時即応体制ガイドライン」を策定しており,それに基づいた対応を行うこととなっている。
    震災直後の4月16日~5月9日までの間に会員各社が保有している橋梁台帳等をもとに,「災害時即応体制ガイドライン」の調査・点検結果報告書や橋梁の位置を電子地図上にマッピングし,各社が点検する橋梁を地域ごとにグルーピングした。
    グルーピングによってエリアを設定することで点検の移動時間等が短縮でき,点検の効率化が図れると期待した。
    被災地域を32ブロックに分け,各社で分担し,調査要員延べ302名(延べ111パーティー)によって約1カ月間で調査を行った。
     
    しかし,点検作業着手までに協会内での準備に約1カ月近くの期間を要した。
    これは各社の台帳において,橋梁の位置情報が住所だけのものが多かったことと,市町村合併などで竣工時の住所では現住所が検索できない橋梁も多く存在したため,橋梁の正確な位置情報(緯度経度表示)をつかむことに時間を要したことが原因であった。
    また,点検する各社においても,割り当てられた橋梁の位置等を再度調査して移動ルートの設定を行うため,準備に多くの時間が必要であった(表-2)。
    現地点検後はそれぞれの点検員が野帳への記載内容やデジカメ等で撮影したものを調査・点検結果報告書のフォーマットに記入して橋建協本部へ提出し,本部がとりまとめを行った。

  • 点検調査工程表(熊本地震)
    表-2 点検調査工程表(熊本地震)

  • 1-3 熊本地震調査報告の成果

    4月の地震発生後,準備,点検,とりまとめを行い8月の中旬に九州地方整備局熊本河川国道事務所,熊本県,大分県,熊本市に報告書を提出し,受け取っていただいた。
    しかし,その際に以下のようなご意見をいただいたため,橋建協の行う点検が迅速かつ効率的に実施できるシステム開発の必要性を感じた。
     
     ● 国道事業の場合,任意で作成された資料を用いて国道業務を行うことはできない(参考資料扱い)。
     ● 国の直轄の組織としてはTEC-FORCEやリエゾンがあるが,地方自治体は震災時の応援が少なく困っている。
     ● 災害認定を受けるには橋梁の災害査定が必要であるが,発災から4カ月後に橋梁の被災状況が分かっても遅く,発災から2週間程度で行われる災害査定に使うことができない。
     ● 今後発生が予想される広範囲・大規模地震への対応に不安を抱えている。

  • 地震予想地図
    図-1 地震予想地図 今後30年間に震度6以上の揺れに見舞われる確率(出典:地震調査研究推進本部ホームページ)

  •  

    2. B-MAPの開発

    2-1 B-MAPの開発方針

    熊本地震では,点検前の準備や点検時,点検後の報告書の作成に多くの時間・労力を必要とし,橋建協本部や会員各社の負担が大きかった。
    また,従来のままでは今後発生が予想されている東海・東南海・南海地震などの大規模で広範囲の震災時に迅速かつ適切に対応することは困難であることが予想された。
    これらの状況を踏まえて,橋建協では災害時の鋼橋の点検を効率化するシステム「B-MAP」の開発を次の方針により進めることとした。
     
     ● 東海・東南海・南海地震の発生が高いとの声が聞かれる中,特に対策が手薄になることが予想される地方自治体が管理する橋梁をターゲットとする。
     ● ICTやモバイル端末などの新しい技術を用いて,素早く,効率的な災害時の橋梁点検が行える。
     ● あらかじめ日本中の橋梁の位置を電子地図上にマッピングしておき,必要な情報をインターネット経由で出し入れできる。
     ● 点検結果はリアルタイムで道路管理者と共有できる

    2-2 B-MAPのシステムの概要

    B-MAPのシステム(プロトタイプ段階)は,次の仕様となっている(図-2)。
     ① Googleマップ等の電子地図上に橋梁位置をアイコンで表示が可能。…(C)
     ② アイコンを選択するとクラウド上の必要な情報(点検シート,一般図,そのほか)が表示され,データ等の入力が可能。
     ③ 橋梁調査対策班は気象庁からの地震情報を選択するとシステムが地震情報(震源・地域ごとの震度)を入手し,行政界ごとに地図上にマッピング。…(A),(B)
     ④ 橋梁位置との複合表示が可能。…(B),(C)
     ⑤ 橋梁調査対策班は電子地図上で被災した橋梁を選択,エリア分けを行って点検する会社を決定。
     ⑥ 各担当会社は割り振られた橋梁の点検を行うため,橋梁点検実働班(2~3名/パーティ)を現地に派遣する。
     ⑦ 橋梁点検実働班はモバイル端末を用いて,損傷写真や損傷状況を対話式で入力することが可能。…(D)
     ⑧ 点検が完了すると同時にシステムから所定の書式で点検結果をアウトプットすることができる。…(E)
     ⑨ 橋梁調査対策班や災害協定を締結した道路管理者はリアルタイムで点検状況や報告書を閲覧でき,それ以降の震災対策を行う情報として活用できる。

  • B-MAPの概要
    図-2 B-MAPの概要

  • 2-3 B-MAPで期待される効果

    ICT技術を利用したB-MAPによって,表-3で示す効果が期待される。
     
    B-MAPに収集された橋梁点検情報や報告書を災害協定を締結している道路管理者にもリアルタイムで提供することにより,その情報を有効に活用してもらえるシステムの構築を目指している。

  • B-MAPで期待される効果
    表-3 B-MAPで期待される効果

  • 2-4 B-MAPの開発状況

    2020年度にはB-MAPのプロトタイプが完成した。
    B-MAPはシステムであり,橋梁台帳などのデータベースを参照することで初めて機能する(図-3)。
     
    橋建協が保有している台帳は竣工時のデータであるため,
     ① 施工時の橋梁名と供用中の橋梁名が異なる場合がある。
     ② 緯度経度情報の記入がない。市町村合併などで住所表記が現在とは違う場合がある。
     ③ 橋梁が架け替えられていたり,補強工事等で形式が変更になっている。
    などの問題があり,参照するデータベースとしては使用に堪え得るものではないため,道路管理者の台帳を利用することを想定している。
     
    現在は5年に一度の定期点検が一巡し,各自治体も橋梁台帳整備が進んでいると聞いている。
    台帳のフォーマットは異なっているが,専用の台帳として整備していく予定である。
     
    現時点では,四国地方整備局の中村河川国道事務所が橋建協の取組みに賛同していただいており,本年秋頃に管轄内の橋梁を用いて模擬的な震災点検を行い,入力方法等の操作性や通信状態の確認をしてシステムの改良を進めていく。

  • B-MAPシステム
    図-3 B-MAPシステム

  • 2-5 B-MAPの可能性

    現在のB-MAPの開発は,橋建協加盟会社の技術者が現地で点検を行うことを基本としたシステムであるが,技術者が現地に行くことができない場合も想定される。
    地元業者への点検(撮影)依頼や,将来的にはドローンによる点検(震災前と震災後を定点で撮影して比較し,AIで診断する)も視野に入れ,協会内で議論を始めたいと考えている。
     
    震災時の鋼橋の点検に特化したB-MAPではあるが,他構造物の情報をデータに入れることも技術的には可能である。
    鋼橋以外をどう取り扱うかについては,今後,B-MAPを活用する関係者で議論したいと考えている。
     
    また,構造物が一つの電子地図上でプロットされ,情報を格納できるシステムであるため,著名な橋梁の写真や技術的なトピックスを一般の方々に閲覧していただくことで鋼橋や土木の魅力を伝えるツールにもなり得ると考えている。
    このあたりについても検討していきたい。

     
     

    3. その他の橋建協のDXの紹介

    橋建協においては国土交通省のi-Construction以降の取組みとして2017年4月から橋梁事業の生産性・安全性向上に寄与することを目的としたi-Bridge推進特別WGを発足させ,活動してきた。
    そのWGでの活動としてB-MAPの開発を行っている。
     
    B-MAPの他には高所作業中の作業員をモニタリングして安全監視を行う「Safe-Tracker」を橋建協として開発し,生産性や安全性向上に努めている。
    また,2021年度より会員会社工事への「i-Bridge適用工事制度」を導入した。
    これはICT等の最新技術を一定の水準以上導入した工事を登録する制度である。
    i-Bridge工事として登録された工事では,i-Bridgeロゴ(コンセプト:人,通信,橋,3D感を表現,橋梁業界のさらなる飛躍)のヘルメットへのシール貼付や現場事務所にi-Bridgeの協会旗(図-4)を揚げるなどを行ってi-Constructionの普及をさらに推し進めたいと考えている。
     
    橋建協のi-Bridge推進特別WGは2020年度で終了したが,2021年度よりDX推進特別小委員会として,さらなる生産性向上と協会活動の変革を目指して本WG活動を承継し,取組みを進めていきたい。

  • B-MAPシステム
    図-4 i-Bridgeロゴ(協会旗)


  •  

    4. おわりに

    国土交通省のi-Construction以降の取組みとして橋建協で始めたB-MAPであるが,完全運用にはまだ数年の期間が必要である。
    今後はシステム開発と並行して道路管理者との連携を進めていくことにより,橋建協が掲げる五つの誓いの中の“「地域の皆さんの安全・安心」に寄与します”の一助となるとともに,“橋がつなぐ,みんなの未来”に寄与することが可能なシステムになると考えている。
    今後も関係者等のご意見を真摯に伺いながら開発を進めていきたい。

     
     

    最後に既往の震災で不幸にもお亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに,被災された皆様には一日も早い復興を,心よりお祈り申し上げます。

     
     
     

    一般社団法人 日本橋梁建設協会 保全委員会幹事長 兼 技術委員会DX小委員会 保全DX-WGリーダー
    本間 順

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年10月号
    積算資料公表価格版

     
     

     

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