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はじめに

道路法施行規則の一部を改正する省令が平成26年3月31日に告示され,同年7月1日より施行された。
これによ橋等の点検は近接目視により5年に1回の頻度を基本に実施されることとなった。
平成30年度に一巡目の点検が終了し,現在は2巡目の点検が実施されているところである。
国土交通省より公表された「道路メンテナンス年報(一巡目)」によると対象橋梁が約72万橋でほ
ぼ全数の橋梁の点検が完了している。
点検の結果は4段階の判定区分で整理され,最も劣化が進んでいる区分Ⅳである緊急措置段階の橋梁は0.1%,
区分Ⅲの早期措置段階が10%を占めていた。
建設経過年数が長いと劣化が進む傾向があり,2029年には50年が経過した橋梁の割合が50%を超えると言われており,適切な維持管理による老朽化対策が求められている。
 
わが国におけるプレストレスコンクリート(PC)は,1940年代後半の実用化への試行に始まり,これまでに多くの建設分野での実績を上げ,すでに70年を超えた歴史がある。
特にPC橋においては,1951年に建設された長生橋を契機として,その後研究開発や技術基準の整備,設計・施工技術の進歩・発展に伴い,規模と実績を着実に増大させながら現在に至っている。
その結果,今日では全国で十数万橋のPC橋が供用され活躍の途にある。
中でも1954年に完成した第一大戸川橋梁はわが国で初めての本格的なポストテンション方式のPC橋であり,現在においても供用されている。
この第一大戸川橋梁は,信楽高原鐵道(旧国鉄信楽線)勅使〜玉桂寺間に位置し,当時の技術の粋を集めて完成した。
その後,優れたコンクリート構造物として評され,現在も建設当時の良好な状態を良好に維持しながら,地域の交通を支えている。
そのようなことから,2008年に文部科学省分科審議会により登録有形文化財として登録された。
さらに2021年5月開催の国の文科審議会の答申を受けて,国の重要文化財に指定されることとなった。
 
ところで,PC橋は本来耐久性に優れた橋梁構造ではあるが,中には早期に劣化を生じて落橋に至った事例もある。
早期劣化の原因はさまざまであるが多くは「塩害」である。
何らかの理由でコンクリート中に浸透した塩分が鉄筋やPC鋼材の腐食を誘発・促進させ,ついにはPC鋼材の破断という重大な劣化を生じさせたものである。
そこで,PC橋を中心としたPC構造物の長寿命化を目指して一般社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会(以下,PC建協)では,PCの維持保全に貢献できるようにさまざまな取組みを行っている。
詳細は1章にて述べる。
また,PC建協の取組みの一環としてPC橋の補修事例を収集・整理・蓄積しており,その一例を2章にて紹介する。

 
 

1. PC建協の取組み

1-1 維持管理に関する書籍の発刊

PC構造物は,プレストレス力により構造物体に圧縮応力を与えることで,引張強度が小さいというコンクリートの欠点を補った構造物である。
鉄筋コンクリート(RC)梁とPC梁の荷重たわみ曲線の概念図を図−1に示す。
 
通常,PC構造物は設計荷重作用時にひび割れを生じさせないように設計されている。
PC構造物においてひび割れの発生を耐荷性能の指標とすることは構造上危険となる可能性がある。
また,PCは長支間の橋梁や大容量の容器等,RCに比べて大規模な構造物に適用されることが多く,劣化後の撤去・交換が容易には行えない。
このような特徴から,PC構造物の維持保全は予防保全を基本とし,予防的な補修・補強によって耐荷性能をできるだけ低下させないことが重要である。
そのような背景よりPC建協では,PC橋を中心に早期の対策を講じる予防保全に重きをおいた内容の技術資料を取りまとめた『PC構造物の維持保全-PC橋の更なる予防保全に向けて-2015年改定版』(図−2)の発刊を行った。
 
PC構造物は,プレストレス力の導入により構造が成立しており,この導入されたプレストレス力の維持は大変重要である。
ポストテンション方式の場合は,プレストレス力の導入後にPCグラウトの充填によりPC鋼材を腐食から保護し,コンクリート本体との一体化を図っている。
PC構造物の多くは,長期にわたり高耐久であることが実証されつつあるが,PC構造物の生命線であるPC鋼材の腐食・破断を見逃し,適切な対策を講じないまま耐荷性能が損なわれた事象もある。
わが国のポストテンション方式のPC構造物の多くは,内ケーブル方式が採用されており,目視でPCグラウトの充填状況を確認することが困難である。
PCグラウトの充填不足による損傷劣化は,橋梁ごとに状況が異なり,その補修・補強は損傷状況に応じた柔軟な現場対応が求められる。
PCグラウトの再注入に関して述べられた指針類がなく,実務者が参考とする手引きが必要と考え,PC建協では『プレストレストコンクリート構造物の補修の手引き〔PCグラウト再注入工法〕』(図−3)を2020年に発刊した。
 
本手引きは,PCグラウト充填不足の調査計画立案やPCグラウト再注入の施工計画を作成する際に手元において活用できるように必要な情報を一冊にまとめた。
また,発注者,コンサルタント,施工者等,さまざまな人が利用することを想定し,わかりやすく明瞭かつ簡素に記述するように努めた。

  • RC梁とPC梁の荷重たわみ曲線の概念図
    図−1 RC梁とPC梁の荷重たわみ曲線の概念図

  • RC梁とPC梁の荷重たわみ曲線の概念図
    図−2 PC構造物の維持保全
  • プレストレストコンクリート構造物の補修の手引き〔PCグラウト再注入工法〕
    図−3 プレストレストコンクリート構造物の補修の手引き〔PCグラウト再注入工法〕

  •  

    1-2 ホームページからの情報発信

    PC建協の活動について,ホームページ(図−4)より調査・研究業務,普及・広報,安全環境活動,
    環境に対する取組み,技術講習会等の情報を公開している。
    また,維持管理を中心とした各種機関との共同研究や技術講習会への講師派遣も行っており,PC構造物の維持保全に関する情報を継続的に発信している。
     
    技術情報の発信として,PC技術に関するQ&Aや実績情報,橋梁の新技術・新工法,補修・補強技術,PC建築,積算参考資料等のジャンルで公表している。
    補修・補強技術では,PC構造物の維持保全,PC構造物の点検,PC構造物の診断,補修技術/補強技術,リニューアル技術/参考資料,PCグラウト再注入工法について,写真や図表を用いて説明をしている。
    また,PCの利活用に関する相談窓口としてPC技術相談室が設置されており,事業主や設計者から寄せられる補修・補強に関する問い合わせに対応している。
    この相談室に寄せられる問い合わせについて類似の内容に関しては,Q&A形式で取りまとめてホームページで公開しており,随時更新を行っている。

  • PC建協ホームページ
    図−4 PC建協ホームページ
  •  

    1-3 橋梁管理データベースの整備

    PC建協では,会員各社が施工したPC橋に関して,所在住所,竣工年,構造形式,架設工法等の基本データを集約し,橋梁管理データベースを構築してきた(図−5)。
     
    2020年9月からは,PC建協のホームページ上で一般公開しており,PC橋の調査・計画・設計から維持管理に至るまでの業務に役立てていただけると考えている。
    また,維持管理業務における道路管理者へのサポートや災害時等の問い合わせへの対応の迅速化を今後も図っていく。

  • 橋梁データベース検索画面
    図−5 橋梁データベース検索画面

  •  

    2. PC橋の補修事例

    表−1は参考文献(※1)を参考にPC橋補修工事の種類(工種)と補修方法(工法)を整理したものである。
    PC橋の補修工事は,腐食対策,耐震対策,機能向上,床版劣化対策,損傷等対応,維持修繕などの目的に応じて適切な補修方法を選定して実施される。
    表中の難易度が「高い」はPC橋本体構造に影響を与えるリスクがあり,橋梁専門会社のノウハウや技術力を活用する必要がある工種を示す。
     
    以下,難易度が高く個別対応が必要であった補修工事を取り上げ,簡潔に事例紹介する。

  • PC橋補修工事の分類例
    表−1 PC橋補修工事の分類例

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    2-1 PCグラウト再注入によるPC鋼材防食(※2)

    1990年頃に供用が開始され15〜17年経過したPC3〜4径間連続箱桁橋に対し健全度調査が実施され,主鋼材にPCグラウト充填不足が確認された。
    対策としてはPCグラウト再注入工法が採用され,下記のとおりに工事が実施された。
     
    グラウト充填調査と空洞区間の推定:
    削孔調査の結果を図−6に示す。
    連続ケーブルの両端から中央径間に向かって順次削孔し,目視検査にてグラウト充填調査を実施した後,空洞量の推定を通気により確認した。
     
    PCグラウト再注入の施工:
    本橋の既設PC鋼材は比較的健全な状態であり,再注入用PCグラウトは汎用のPCグラウトを採用した。
    注入方法は,隣孔との通気が確認された場合は2孔式,そうでない場合は1孔式とし,いずれもグラウトポ
    ンプと真空ポンプを併用しPCグラウトを再注入した(写真−1)。
     
    グラウト充填確認:
    すべての注入箇所において,推定注入量と実注入量を比較した。
    また,一部のシースに対しX線透過法による検査を行い,再注入グラウトに空洞がないことを確認した。

  • 削孔調査の結果
    図−6 削孔調査の結果

  • グラウト再注入状況(2孔式)
    写真−1 グラウト再注入状況(2孔式)

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    2-2 外ケーブル工法による連続化(※3)

    本橋は1978年に建設された7径間連続PC箱桁橋であり,中央部の支間1/4点に1箇所のゲルバーヒンジを有する構造である(写真−2)。
    ゲルバーヒンジ部の伸縮装置からの水分浸入によって,アルカリシリカ反応(ASR)が進行し多数のひび割れが観察された(写真−3)。
    調査の結果,橋梁全体にASRの懸念はあるものの,ひび割れなどの劣化現象はほとんど見られず,ゲルバーヒ
    ンジ部のみに顕著な劣化現象が観察された。
    この部分には多数のPC鋼材が配置されているが,コンクリート断面の部材厚が大きいため,PC鋼材の調査や補修対策が困難であった。
     
    これらの条件を踏まえて補修方法を検討した結果,抜本的対策として,ゲルバーヒンジ部付近の主桁を切断し,コンクリートを打替え,外ケーブルにより連続化する方法が採用された。本工事の特徴を以下に記す。
     
    主桁の切断,コンクリート打替え:
    ゲルバーヒンジ部は支間1/4点に設けられているため,受桁側には鉛直下向き,吊桁側には鉛直上向きに3000kNの反力が作用している。
    この部分の主桁を撤去すると釣り合っていた反力がなくなり,構造安定性が損なわれる。
    そこで,図−7に示すように吊桁側,受桁側の主桁直下に仮支柱を設置し主桁を支えるとともに,受桁側が上方に跳ね上がらないように固定用PC鋼材で地盤と連結した。
     
    主桁の連続化:
    切断撤去したゲルバーヒンジ部を打替えて連続構造とするために,箱桁内に外ケーブル19S15.2を10本配置してプレストレスを与えた。
    外ケーブルの防錆は内部充填型エポキシ樹脂被覆とし,将来の緊張力管理用にEMセンサーを配置した。
    外ケーブルの配置は写真−4に示すように目視点検が容易にできる状況である。

  • 橋梁全景(ゲルバーヒンジ部)
    写真−2 橋梁全景(ゲルバーヒンジ部)
  • ゲルバーヒンジ部の劣化状況
    写真−3 ゲルバーヒンジ部の劣化状況

  • ゲルバーヒンジ部撤去要領
    図−7 ゲルバーヒンジ部撤去要領

  • 外ケーブル配置状況
    写真−4 外ケーブル配置状況

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    2-3 連続PC合成桁の床版取替(※4)

    本橋は1986年に供用され,約30年経過したPC3径間連続合成桁橋である。
    橋軸方向にプレストレスが導入された一次床版部の舗装に,近年になって多数のポットホールが発生し,床版下面には白色の析出物を伴ったひび割れなどの変状が顕著となった(写真−5)。
    調査の結果,床版下面に確認された変状の原因はASRと特定され,圧縮強度や静弾性係数の低下も著しいことから,一次床版については床版取替による抜本的な対策を講じることにした。
    なお,主桁と二次床版の劣化は限定的であり,橋梁全体の架け替えまでは行わない方針とした。
    本工事の特徴を以下に記す。
     
    補修設計:
    プレストレスが導入され,連続桁を構成する一次床版の更新は,新設施工時とは異なる構造系の変化を伴うことから非常に難易度が高い。
    そこで,施工段階に応じて構造系と荷重抵抗断面が異なる一次床版の撤去・再構築順序およびB活荷重への対応を考慮した設計を実施した。
    その結果,再構築する一次床版内に中空PC鋼棒を配置し,更新後の橋全体の耐荷性向上として外ケーブル補強を行うこととした(図−8)。
    また,PC鋼材配置の検討に加え,材齢差による断面力を低減するために,プレストレスの導入時期や施工順序も検討した。
     
    施工:
    対象IC間の通行止めは行わず,対面通行規制により交通を確保しながらの施工を実施した。
    主桁間の床版および張り出し床版はワイヤソーにてブロック形状に切断・撤去し(写真−6),主桁上の床版は,ずれ止め鉄筋が配置されていることからウォータージェット工法によりコンクリートをはつり取った(写真−7)。
    その後,一次床版の再構築,外ケーブル緊張(写真−8),橋面工までを3カ月の規制期間内で完了させた。
     
    補修効果の検証:
    補修前後に載荷試験を行い,載荷時のたわみ量が補修後に減少したことから,一次床版取替えによる剛性の向上効果ならびに連続桁としての挙動を確認した。

  • 橋梁下面における床版損傷
    写真−5 橋梁下面における床版損傷

  • 補強概要図
    図−8 補強概要図

  • 主桁間の床版撤去状況
    写真−6 主桁間の床版撤去状況
  • 主桁上の床版はつり状況
    写真−7 主桁上の床版はつり状況

  • 外ケーブル緊張状況
    写真−8 外ケーブル緊張状況

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    3. おわりに

    PC構造物は耐久性に優れた構造物であるが,PC構造物の生命線であるPC鋼材の腐食・破断を見逃し適切な対策を講じない場合には,急速に耐荷性が損なわれ,重大事故に至る可能性もある。
    したがって,PC構造物の維持保全計画は,PC鋼材の劣化が顕在化する前に対策を講じる予防保全を目標にすることが大事である。
     
    本稿ではPC橋の維持管理に関する最近の取組みとして,PC建協の広報活動や,難易度が高く個別対応が必要な補修工事の事例を紹介した。
    今後,PC構造物を適切に維持管理し,長期間にわたって重要な社会インフラとして機能をさせるためにこれらの情報が役に立てば幸いである。

     
     
     

    参考文献
    1)四国地方整備局:橋梁補修工事発注に際しての留意事項,2007.3
    2)佐々木一哉,下西勝,竹渕敏郎,山岸俊一,渡辺智史,渡部寛文:首都高速川口線PC高架橋の健全度調査と補修・補強,橋梁と基礎,pp.27-33,2004.7
    3)尾道良一,駒谷大三,熊谷裕司,安藤直文:PC橋のゲルバーヒンジ部補修における設計・施工−長崎自動車道鈴田橋補修工事−,プレストレストコンクリート,Vol.53,No.6,pp.51-56,2013
    4)髙久英彰,吉田敦,館山和浩,湯町浩司,植村典生:PC連続合成桁の床版更新工事―八戸自動車道楢山橋―,橋梁と基礎,pp.5-10,2019.9

     
     


     
     
     

    一般社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 保全補修部会 副部会長
    足立 伸朗
    一般社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 保全補修部会 副部会長
    北野 勇一

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年10月号
    積算資料公表価格版

     
     

     

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