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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 橋梁土木 > 社会インフラである鋼橋の塗替え塗装の変遷と現状

 

はじめに

社会インフラ構造物は,1955年以降の高度経済成長期に集中的に整備され,その後のバブル景気まで整備が継続され,1990年以降の平成不況から整備が大幅に縮減した。
この高度経済成長期以降の社会インフラの整備によって,種々のインフラ設備の高齢化,老朽化が進んでいる状況にある。
ここでは,社会インフラ構造物である鋼鉄道橋,鋼道路橋の維持管理の一翼を担っている塗替え塗装の現状について述べる。

 
 

1. 鋼道路橋の維持管理と塗替え塗装

1-1 道路橋の維持管理

笹子トンネルでの天井板の落下による死亡事故を受け,国はその翌年をインフラメンテナンス元年と位置づけて長寿命化基本計画を策定し,翌年には道路法施行規則を改正し,トンネルや橋梁を5年に一度,定期的に近接目視で点検するように義務付けた(※1)。
 
建設年度別の道路橋のストック数および管理者別の道路橋数を図-1図-2(※2)に示す。
現在,道路橋のストック数は約73万橋であり,建設後50年以上経過する橋梁数は2033年には約63%になる(図-3)(※2)。
この膨大なストック橋梁の管理者別の保有数は,市区町村が72%と最も多く,次いで都道府県,国,高速道路会社となっている。
橋梁保全に携わる土木技術者数とストック橋梁数とは負の相関であり,市区町村の土木技術者は0~数名程度(※2)しかおらず,点検,管理も手薄になっており,また維持管理費の予算も少ない状況にある。

  • 建設年度別の道路橋梁数
    図-1 建設年度別の道路橋梁数(※2)

  • 管理者別の道路橋ストック数と割合
    図-2 管理者別の道路橋ストック数と割合(※2)

  • 建設50年以上経過する道路橋の割合
    図-3 建設50年以上経過する道路橋の割合(※2)

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    1-2 鋼道路橋の塗替え塗装

    図-4(※2)に示すように,道路橋のうち鋼橋は約28万橋(38%)であり,鋼橋の補修・補強を要する原因は疲労と腐食といわれている。
    鋼道路橋は構造形式や部位によって腐食程度が大きく異なることが知られており,鈑桁橋の場合はウェブに比べ,雨水や飛来塩分が溜まりやすい桁端部や添接部,伸縮継手部等が腐食しやすいことが分かっている(写真-1)。
    この部分的な腐食劣化に対して限られた予算の中で合理的な塗替え塗装をするために『鋼道路橋の部分塗替え塗装要領(案)』が2012年に国土技術政策総合研究所から発行されている。
     
    しかし,大きな橋梁を管理する高速道路会社や直轄国道事務所は,床版補修や疲労亀裂等の補修・補強の対策工事と塗替え塗装工事を併せた大規模な工事を発注することが多くなり,塗替え塗装工事や部分塗替え工事が単独で工事発注される機会が少なくなっている。
    この機会の減少は,塗装専門業としての若年・新規入職者の技術技能低下や次世代のなり手不足に繋がりかねない状況にあり,発注機関に対しては,塗替え塗装工事単体での発注をお願いしたい。
     
    鋼道路橋の塗装に関して記述されたものは,1956年の『鋼道路橋設計示方書鋼道路橋製作示方書解説』の中で,防錆塗料下塗として鉛丹さび止め塗料を主とする鉛系さび止めペイントとフタル酸樹脂塗料中塗,上塗の塗装系であった。
    次に,鋼道路橋の新設・塗替,下塗・中塗・上塗塗料,それらの塗装系や塗装仕様等を規定した『鋼道路橋塗装便覧』(1971年)の初版が発刊された。
    その後は橋梁製作,素地調整,塗料,塗装技術等の進歩および環境保全(1966~1974年の塩化ゴム塗料に含まれるPCB(ポリ塩化ビフェニール))や安全(鉛系さび止め塗料に含まれる鉛・クロム化合物)そして維持管理等の社会状況を踏まえて,約10年から15年で随時改訂され,現在は『鋼道路橋防食便覧』(2014年3月,(公社)日本道路協会)が運用されている。
    国,都道府県,市町村および高速道路の各橋梁管理者はこれを基本として塗装設計を行い,塗替え塗装工事を発注している。
     
    鋼道路橋の新設一般外面の塗装仕様の変遷を表-1に示す。
    この塗装系の変遷から,建設から20年以上供用されている橋梁の新設塗装系は,耐久性が少し劣るA塗装系,B塗装系が多いと推察される。
    現在,維持管理の点から老朽化対策としての塗替え対象となっている供用30年以上の橋梁は,これらA塗装系,B塗装系およびこれらの塗装系の上に塗替えa塗装系やc塗装系(現在の防食便覧ではRc-Ⅲ塗装系)が一回以上塗り重ねられており,500μm以上の塗膜厚さになっているものも多くある。
     
    従って,現在進行中の鋼道路橋の塗替え工事の多くは,鉛・クロム化合物やPCB等の有害化学物質を含む橋梁が多数あり,そのため,橋梁塗膜の除去や素地調整,廃棄については,周辺環境への飛散防止や作業者の健康障害防止の観点から法令規則に従って施工する必要がある。
    橋梁管理者や建設コンサルタントは,いろいろな要素や規制を鑑み,図-5に示す流れに従って塗替え工事計画を立案している。
     
    また,近年,鋼道路橋の塗替え塗装工事において,表-2に示すように塗替え塗装工事での事故が多発している。
    事故の内訳は,鉛粉じん中毒,火災,有機溶剤中毒であり,いずれの事故も塗膜の除去作業や素地調整作業で発生し,作業者が健康障害を生じ,死亡に至っている場合もある。
    これら個々の事故については関係機関から直接的な原因がある程度明らかにされ,また注意喚起として関係機関から通達等(※3)(※4)(※5)が出されている。
     
    間接的な原因は,写真-2に示すように転落防止や周辺への飛散や騒音防止のための足場防護養生による作業足場内の閉塞化と,塗膜に含まれる有害化学物質や新材料である塗膜剥離剤等と,加えて閉塞化に対する施工業者や作業者の認識不足によると考える。
     
    作業足場内の閉塞化については,通風機等による全体換気や適切な保護具等の対策措置が取られているが,中毒や火災の原因となる有機溶剤が足場内の閉塞環境に滞留しないようにするための防護養生のさらなる改善や工夫が必要と考える。
    それは例えば,閉塞化で滞留している有機溶剤等を減少させるために,作業をしていない夜間に防護養生の一部を開放する等の工夫をすることである。
     
    施工業者や作業者の認識不足については,多くの塗替え工事現場で十分な対策措置が取られているかは疑問である。
    改善のためには,2016年6月の労働安全衛生法改正(※6)に伴う施工業者のリスクアセスメントの履行および塗装に係る全ての作業者へのSDS(安全データシート)に準じた化学物質のリスクを周知する分かりやすい安全教育が不可欠と考える。
     
    このような状況の中,首都高速道路(株)は種々の試験施工を重ねて,塗装材料の水性化や『鋼橋塗装設計施工要領』の改訂(※7)および作業者のリスク周知(※8)を推進している。
    塗装材料の水性化については,塗替え工事で使用する全ての塗料と塗膜剥離剤に水性化した材料を適用することとし,火災リスクの低減を図っている。
    要領改訂については,閉塞作業環境での塗膜剥離作業や素地調整作業で使用する設備,装置,工具,保護具等
    について具体的に示しており,その一例として塗膜剥離と素地調整の概要(一部)(※7)を表-3に示す。
    また,リスク周知については,塗替え工事現場で塗膜剥離作業,素地調整作業,塗装作業に従事する作業者全員に対して,閉塞作業環境下での種々の作業や材料の危険性について分かりやすい安全教育を実施している。
    図-6に安全教育資料(※8)の抜粋を示す。
     
    首都高速道路(株)と当協会は,これらの施策および元請業者による安全チェックシート等によって,火災発生や健康障害の防止,有害化学物質の危険性周知を図っている。
    他の発注機関もこのような作業者向けの分かりやすい安全教育を行うことによって,事故のない安全な塗替え工事が実施されると考える。
     
    今後も橋梁の塗替え工事が延々と続く中,全ての塗替え塗装工事で過不足のない設計や発注がなされ,リスクを学んだ作業者によって安全に工事が施工されることを望みたい。

  • 道路種別による橋梁数と割合
    図-4 道路種別による橋梁数と割合(※2)

  • 同一橋梁における部位による腐食,塗膜劣化の違い
    写真-1 同一橋梁における部位による腐食,塗膜劣化の違い

  • 鋼道路橋の塗装系の変遷
    表-1 鋼道路橋の塗装系の変遷

  • 塗替え塗装工事の計画の流れ
    図-5 塗替え塗装工事の計画の流れ

  • 鋼道路橋塗替え塗装工事における事故と通達等
    表-2 鋼道路橋塗替え塗装工事における事故と通達等

  • 閉塞化した足場防護の橋梁工事
    写真-2 閉塞化した足場防護の橋梁工事

  • 塗膜剥離と素地調整の概要(一部)
    表-3 塗膜剥離と素地調整の概要(一部)(※7)

  • 火災・安全教育ハンドブックの抜粋
    図-6 火災・安全教育ハンドブックの抜粋(※8)

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    2. 鋼鉄道橋の塗装変遷と塗替え塗装

    国内最初の鋼橋塗装は,1868年に塗装された長崎市のくろがね橋(人道橋)で,鋼鉄道橋の塗装としては大阪-神戸間の武庫川橋梁(1878年)といわれている。
    鉄道網の拡大に伴い1880年頃から鋼鉄道橋の塗装は,当協会会員の塗装業者が当時の工部省鉄道局(後の鉄道院,鉄道省,国鉄,JR)から直轄で塗装工事を請け負うことにより鋼橋塗装の歴史が始まり,大正頃までは塗装業者が橋守りの役目も担ったといわれている。
     
    このことから,鋼鉄道橋の建設は鋼道路橋に比べて古く,図-7に示すように鋼鉄道橋の経過年数が長くなるほど何らかの措置を必要とする橋梁数が増え,老朽化も進んでいる(※9)。
    一方で,建設後100年を超えた鋼鉄道橋もあり,適切に維持管理することによって,長く供用し続けることが可
    能であることも示している。
     
    2002年のデータを見ると表-4に示すように,鉄道橋梁数は約16万橋あり,割合は鋼橋が27%(約4万橋),コンクリート橋が46%(約7万橋)である。
    保有管理者の内訳は,JRが12万橋で全体の75%を占め,私鉄,公営,営団会社が25%(約4万橋)を保有している(※10)。
     
    鉄道橋と道路橋では,建設の歴史や設計基準,管轄官庁(旧運輸省と旧建設省)等が異なることから鋼鉄道橋の塗装に係る基準も異なっている。
    現在は『鋼構造物塗装設計施工指針』(2013年12月,(公財)鉄道総合技術研究所)を基本として,各鉄道各社が各路線の維持管理の考え方に基づいて,この指針にある種々の塗装系の中から適する塗装系を選択して運用している。
     
    この『鋼構造物塗装設計施工指針』に記されている考え方や素地調整,塗料,塗装系等の防食技術は,本四架橋の計画・建設に伴う1960年頃の鉄道技術研究所(現:(公財)鉄道総合技術研究所)と建設省土木研究所(現:(国研)土木研究所)による防食性能に優れた塗装システムの研究による成果が,橋梁調査会,本州四国連絡橋公団(当時)に引き継がれ,本四連絡橋5ルートの塗装に適用された。
    また,この研究成果は,現在の『鋼構造物塗装設計施工指針』および『鋼道路橋防食便覧』に反映されている。
     
    鋼鉄道橋と鋼道路橋では,橋梁構造形式,耐荷重性や線路,枕木の有無等々の違いから,腐食や塗膜劣化の状況が異なるため,『鋼構造物塗装設計施工指針』は,『鋼道路橋防食便覧』に比べて多様な塗装系があり,詳細な記述内容となっている。
    その一例として,枕木下の著しい腐食や塗膜劣化(写真-3)(※11)があり,その防食塗装はガラスフレーク含有エポキシ塗料やガラスフレーク含有ビニルエステル塗料が適用されている。
    また,鋼鉄道橋の塗替え塗装工事は,安全な鉄道運行を極力妨げないようにして施工されるため,足場を架けられない場合や夜間の数時間で施工する場合もあり,鋼道路橋の塗替え塗装工事とは制約が大きく異なる。

  • 経年別の鋼鉄道橋数
    図-7 経年別の鋼鉄道橋数(※9)

  • 経年別の鋼鉄道橋数
    表-4 経年別の鋼鉄道橋数(※10)

  • 枕木下の腐食状況例
    写真-3 枕木下の腐食状況例(※11)

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    3. あとがき

    本稿では,鋼道路橋,鋼鉄道橋の社会インフラ鋼構造物の塗替え塗装の変遷と現状について述べた。
    これらの構造物が老齢期を迎える状況の中,過不足のない適切な塗替え塗装工事が発注されて塗替え塗装が安全に,また適正に施工され,社会インフラ鋼構造物の維持管理が合理的に遂行されることを切望する。

     
     
     

    出典・引用資料
    (※1) 国土交通省:告示第426号,定期点検要領について,平成26年6月25日
    (※2) 国土交通省:インフラメンテナンス情報から,社会資本の老朽化の現状と将来,2019~2021年
    (※3) 厚生労働省:基安労発0530第2号,基安化発0530第2号,鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について,平成26年5月30日
    (※4) 環境省:環循規発第1903283号,環循施発第1903281号,低濃度PCB汚染物の該当性判断基準について,平成31年3月28日
    (※5) 厚生労働省:基安化発1019第1号,剥離剤を使用した塗料の剥離作業における労働災害について,令和2年10月19日
    (※6) 厚生労働省:労働安全衛生法の一部を改正する法律,平成26年法律第82号,平成26年6月25日公布
    (※7) 首都高速道路(株):『鋼橋塗装設計施工要領』,2019年7月
    (※8) 首都高速道路(株):『塗装工事における火災・安全ハンドブック』と安全教育講習会,2015年11月
    (※9) 市川篤司:鋼鉄道橋の補修・補強の概要,『橋梁と基礎』,1994.8
    (※10) (一社)日本鋼構造協会:JSSCテクニカルレポートNo.55,2002
    (※11) 杉本一郎:鋼鉄道橋における維持管理の現状と最近の取組み,StructurePainting,2009.9


     
     
     

    一般社団法人 日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会 技術主幹
    中野 正

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年10月号
    積算資料公表価格版

     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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