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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 土木インフラの維持管理 > 持続可能なインフラメンテナンスの実現に向けて ~国土交通省インフラ長寿命化行動計画の第2次計画について~

1. インフラの役割と老朽化の進展

近年,自然災害が激甚化・頻発化し,それに伴う被害も毎年発生しているところである。
自然災害発生時には,その被災状況に着目されがちであるが,一方でこれまで整備・管理してきたインフラにより,人々の生命,財産が守られている例もある。
平成30年台風21号では大阪湾の潮位が既往最大を記録したが,堤防や水門等の整備およびその後の適切な維持管理により浸水被害はゼロであり,約17兆円の被害を防止することができたと推定されている(写真-1)。
 
このようにインフラは国民の安全・安心を確保するとともに,社会経済の基盤となり,人々の生活を豊かにする役割を担うものであり,国土交通省は道路,河川,港湾など多岐に渡る数多くのインフラを所管している。
しかし,インフラが持つ機能を適切に発揮させるためには,整備した後も適切な維持管理を実施していく必要がある。
 
わが国のインフラは高度経済成長期に多数整備されたが,今後にそれら施設の老朽化が進展していく。
一定年数が経過したからといって,危険である,直ちに更新せねばならない,ということでは決してないが,人々の生活を支えるインフラであり続けるためには,常に健全な状態に保たせるための適切かつ計画的なメンテナンスを実施し続けていかなくてはならない。

高潮来襲から市街地を守る木津川水門(大阪府提供)

写真-1 高潮来襲から市街地を守る木津川水門(大阪府提供)



 

2. 国土交通省におけるインフラ長寿命化に関するこれまでの取組み

国土交通省では,平成25年を「社会資本メンテナンス元年」と位置づけ,それ以降,インフラの長寿命化,適切なメンテナンスの実施に向けたさまざまな取組みを実施してきた。それらは大まかに以下の3つに分類される。
 
(1)メンテナンスのサイクルを構築する
(2)将来の維持管理・更新費を抑制する
(3)メンテナンスの生産性を向上する
 
これらの取組みは,インフラが将来に渡ってその機能を発揮し続ける,つまり「持続可能なインフラメンテナンスの実現」に繋がるものである(図-1)。
次から,主な取組みについて紹介する。

国土交通省のインフラ長寿命化の取組みの概要

図-1 国土交通省のインフラ長寿命化の取組みの概要


2-1 メンテナンスのサイクルを構築する

インフラのメンテナンスにあたっては,施設の状態を的確に把握し,劣化・損傷が確認された場合は修繕等を行い機能回復させる,といった一連のサイクルを構築することが重要である。
そのサイクルの核としての役割を担うのが個別施設ごとの対応方針を定めた「個別施設計画」であり,国土交通省を含む政府全体の目標として,令和2年度までに個別施設計画を策定することとされている。
 
国土交通省所管分野における令和2年度末時点の個別施設計画策定率は表-1のとおりであり,7分野にて計画策定が完了した。
一方,6分野では未策定施設が残っている状況であり,これらの分野については,早期の策定完了に向け,引き続き取組みを促進していく必要がある。
 
また,各々のインフラにおいて定められた点検サイクルに基づき,施設健全度の把握を着実に実施している。
例えば橋梁,トンネルなどの道路施設は点検を5年に1度行うこととなっているが,平成26~平成30年度の5年間で全ての点検が完了した。
令和元年度から2巡目に入っているが,より効率的な点検実施のため,ドローンをはじめとする新技術の開発・普及に伴い,点検要領等の改訂を実施している。

個別施設計画の策定率(令和2年度末時点)

表-1 個別施設計画の策定率(令和2年度末時点)


2-2 将来の維持管理・更新費を抑制する

インフラの修繕・更新にあたっては,損傷が軽微なうちに修繕を行う「予防保全」と,損傷が甚大になってから大規模な修繕・更新を行う「事後保全」がある。
国土交通省では,所管する12分野における将来の維持管理・更新費を推計しており,予防保全の場合,事後保全と比較して,1年あたりの費用が30年後には約5割縮減,30年間の累計でも約3割縮減との見込みとなった(図-2)。
早期の安全・安心の確保を図るとともに,インフラを長寿命化させ,将来の維持管理・更新費を可能な限り抑制し,財政負担を軽減する観点からも,予防保全型のインフラメンテナンス手法を実施していくことが重要である。
 
一方で,例えば道路橋梁では約7万橋(全橋梁数の約1割に相当)が早期に修繕等の対応が必要な状況にあるなど,損傷により予防保全の管理水準を既に下回っている状態の施設が現時点で多数存在している(写真-2)。
これらの施設は,修繕等により機能を回復させないと予防保全型のメンテナンスサイクルに移行できないが,特に地方公共団体が管理する施設において修繕等の遅れが発生している状況である。
 
国土交通省では,地方公共団体が計画的・集中的に老朽化対策を実施できるよう,交付金による財政的支援のほかに,令和2年度に個別補助制度を創設した(道路メンテナンス事業補助制度,水門等河川管理施設の大規模更新事業)。

将来の維持管理・更新費の推計結果

図-2 将来の維持管理・更新費の推計結果


内部の鉄筋が露出した橋梁

内部の鉄筋が
露出した橋梁

陥没した港湾施設のエプロン部分

陥没した港湾施設の
エプロン部分

老朽化した海岸堤防

老朽化した
海岸堤防

クラックが生じた河川護岸

クラックが生じた
河川護岸



  写真-2 早期に対応が必要な施設が多数存在

2-3 メンテナンスの生産性を向上する

地方公共団体,特に市町村において多くのインフラを所有し管理されているものの,技術系職員などのメンテナンスに携わる人的資源が不足している状況である。
しかし,そのような状況下でもメンテナンスを的確に実施していかなくてはならず,効率的かつ効果的なインフラメンテナンスの実施が必要である。
 
国土交通省では,行政の縦割りを超えた多様な主体との連携,新技術導入・データ利活用の促進など,地方公共団体が管理する施設も含めたメンテナンスの生産性向上に向けた取組みを推進してきた。
例えば,地方整備局や直轄事務所が中心となり,地方公共団体職員も含めた研修の実施,地方公共団体等が参画し情報共有や意見交換を定期的に行うメンテナンス会議の開催,市町村のニーズを踏まえて都道府県が点検・診断業務を地域単位で一括発注する取組みなど,広域的な連携による維持管理体制の確保を促進している(写真-3)。
 
また,インフラメンテナンスの理念普及等を目的に平成28年に設立した「インフラメンテナンス国民会議」では,フォーラムや各種イベントを全国各地で開催しているが,企業の技術シーズと行政ニーズをマッチングする取組みを行っており,令和3年3月時点で8技術・延べ73件の社会実装を創出した(図-3)。

港湾メンテナンス会議 道路橋梁維持管理の研修

港湾メンテナンス会議  道路橋梁維持管理の研修
写真-3 広域的な連携による維持管理体制の確保


インフラメンテナンス国民会議を活用した新技術の導入促進

図-3 インフラメンテナンス国民会議を活用した新技術の導入促進



 

3. 国土交通省インフラ長寿命化行動計画の第2次計画(令和3年度~令和7年度)

令和3年6月,国土交通省は令和3年度からの5年間を計画期間とするインフラ長寿命化行動計画の第2次計画を策定した。
先述したこれまでの取組みの実施状況や課題を踏まえ,目指すべき姿として「持続可能なインフラメンテナンスの実現」を掲げ,計画期間内に重点的に実施すべき取組みとして,以下の3点にまとめている。
 
(1)計画的・集中的な修繕等の確実な実施による「予防保全」への本格転換
(2)新技術・官民連携手法の普及促進等によるメンテナンスの生産性向上の加速化
(3)集約・再編やパラダイムシフト型更新等のインフラストックの適正化の推進
 
上記を含め,第2次計画の主な内容について,次から紹介する。

3-1 「予防保全」への本格転換

先述したように,予防保全に基づくインフラメンテナンスへ転換していくには,現時点で予防保全の管理水準を既に下回る状態の施設に対して修繕等を実施し,機能を一旦回復させる必要がある(図-4)。
安全・安心の早期確保とともに,将来の維持管理・更新費の抑制を図っていくため,計画的・集中的な修繕等による予防保全への本格転換に向け,分野ごとに施設の修繕率をKPI(重要業績評価指標)として設定し進捗管理を行いながら,取組みを推進していく。
 
なお,令和2年12月に閣議決定した「防災・減災,国土強靱化のための5か年加速化対策」において「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策」が柱の一つとして位置付けられた。
インフラが今後一斉に老朽化していき,適切に対応しなければわが国の行政・社会経済システムが機能不全に陥ることが懸念され,政府全体としても,インフラ老朽化対策のさらなる加速化・深化を講じていくこととしている。

事後保全と予防保全のメンテナンスサイクル

図-4 事後保全と予防保全のメンテナンスサイクル


3-2 新技術等の一層の普及促進

地方公共団体等が適切かつ効率的なインフラメンテナンスを将来的にも実施していけるよう,メンテナンスの生産性向上に資する取組みを一層加速化させていく必要がある。
 
コスト縮減や省力化が見込まれる新技術等の採用を予定している事業に対して,交付金の重点配分の対象とするなど,令和3年度から財政的インセンティブの仕組みを導入している。
また,令和3年3月に作成した「インフラ維持管理における新技術導入の手引き(案)」を周知するとともに,さらなるブラッシュアップを行い,地方公共団体の新技術導入の契機,環境整備を図っていく(図-5)。
先述したインフラメンテナンス国民会議を通じた新技術のシーズとニーズのマッチング支援により,各々の現場に合った新技術の導入促進を図っていく。
 
また,より良い行政サービスの提供やメンテナンスの効率化を図るため,維持管理分野に官民連携手法を導入し,民間企業が持つ知見・ノウハウ・技術力を活用していくことも重要である。
道路・公園など複数施設や巡回・維持など複数業務をまとめて委託する「包括的民間委託」など,官民連携手法の導入を検討する地方公共団体に対する支援や知見の横展開などを進め,民間活力による効率的なインフラメンテナンスを推進していく。

インフラ維持管理における新技術導入の手引き(案)

図-5 インフラ維持管理における新技術導入の手引き(案)


3-3 インフラストック適正化の推進

予防保全に向けた取組み等により,可能な限り施設を長寿命化していくものの,いつかは更新等を行わなければならない時期が来る。
その際に,これまでと同様のものに単純に更新するだけではなく,社会情勢の変化や利用者ニーズ,将来のまちづくり計画等を踏まえて,施設の撤去や集約化,再編等を行い,インフラストックの適正化を図っていくことも重要である。
 
国土交通省では,インフラの集約・再編等に関し,事例や考え方をまとめたガイドライン等の作成,交付金等による財政的支援を実施している(写真-4)。
引き続き集約・再編等の取組みを推進していくとともに,例えば道路分野での「施設の集約・撤去,機能縮小等を検討した地方公共団体の割合」など,分野ごとに集約・再編に関する取組みをKPIとして設定のうえ進捗管理を行い,時代に合ったストック効果のさらなる向上を図っていく。
 
また,施設更新時に新技術の恩恵を享受し機能向上を付加するなど,更新時のパラダイムシフトを図っていくことも重要な視点である。
先行事例として河川機械設備を対象とし,大量生産品の導入による「マスプロダクツ型排水ポンプ」の技術研究開発を実施していく(図-6)。

集約・再編等の取組事例

写真-4 集約・再編等の取組事例


パラダイムシフト型更新の検討

図-6 パラダイムシフト型更新の検討


3-4 個別施設計画の内容の充実化

メンテナンスサイクルの核となる「個別施設計画」は,現時点で未策定の分野が残っているものの,概ね順調に進捗した,と言える状況である。
一方で計画策定後においても,メンテナンスの取組みを通じて,計画内容の更新や内容をより充実していくことが望ましい。
 
国土交通省では,各地方公共団体の個別施設計画の記載内容を一覧にとりまとめ,ホームページに公表する「見える化」の取組みを実施している。
(インフラメンテナンス情報サイト:https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/index.html
 
さらに,コスト縮減に向けた具体的な方針等の個別施設計画への記載を,インフラ老朽化対策にかかる補助金・交付金の要件化とするなど,計画内容のさらなる充実化に向けた取組みを推進していく。

 
 

4. 施策を実行していくにあたっての視点

今回紹介させていただいた第2次計画を策定したのとほぼ同時期に,中長期的な視点から社会資本整備に取り組むための道しるべである「社会資本整備重点計画」の第5次計画が閣議決定された。
「持続可能なインフラメンテナンス」を含む6つの重点目標が設定され,その目標達成に向けては『3つの総力(主体・手段・時間軸)』『インフラ経営(インフラを国民が持つ「資産」と捉え,その潜在能力を引き出すとともに新たな価値を創
造)』の視点を取り入れることとされている。
 
これらの視点に基づくメンテナンスの施策として,先述したような中長期的な財政負担軽減に向けた予防保全への本格転換,新技術活用によるメンテナンスの高度化・効率化,官民連携によるインフラ維持管理,集約・再編によるインフラ全体の最適化などが挙げられ,その実施主体はインフラ管理者にとどまらず,住民も含めたさまざまな主体が参画し,取組みを進めていくことが重要である。
 
人々の生活を支えるインフラを将来の世代に確実に引き継いでいくため,先に掲げた取組みを着実に実行していく所存である。
 

 
 
 

国土交通省 総合政策局 社会資本整備政策課 政策調査専門官
草野 真一

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年2月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-28

 

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