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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 「地質リスク調査検討業務」の手引き 〜地質・地盤の不確実性への対応〜

はじめに

建設工事においては,その品質を確保すると同時に建設コストの増額を抑えることが大きな命題であることは言うまでもない。
ところが,それを大きく阻害するような工事中の事故・トラブルが後を絶たない。
中でも,2015年に発覚した横浜の傾きマンション事件や2016年に発生した博多駅前の道路陥没事故は,社会の大きな注目を集めた事象であったが,いずれも地質・地盤の不確実性に対する理解不足や不十分な対応が本質的な原因の一つであったと言える。
 
このような状況を踏まえ,国土交通省と土木研究所は2020年3月に「土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン」1)(以下,ガイドラインと称す)を公表した。
このガイドラインは,地質や地盤が有する不確実性の影響すなわち地質・地盤リスク(以下,地質リスクと称す)による事故・トラブルの発生を最小化して安全かつ効率的に事業を進めるためのリスクマネジメントの基本的な考えを示したものである。
 
一方,国土交通省においては,地質リスクを調査し,評価・分析してリスク対応を検討する業務として,「地質リスク調査検討業務」を平成28年頃から発注し始めてきた。当初は発注者と受注者が協議や工夫を重ねながら試行的に実施していた。
また一般社団法人全国地質調査業協会連合会(以下,全地連と称す)においても発注に役立つ資料を提供してきたが,発注が本格化するにあたり『「地質リスク調査検討業務」の手引き』2)(以下,本手引きと称す)を2021年7月に発行するに至った。
 
本手引きの目的は,地質リスク調査検討業務の的確な発注と実施に資することである。
そのため,業務を行う上で必要となる基礎的な事項,業務実施の方針,業務の発注方法について説明するとともに,業務に役立つ新技術,既往の実施例などの参考資料も併せて示している。
本稿では,本手引きの概要を紹介する。
 
 

1. 「地質リスク調査検討業務」の概要

1-1 地質リスクマネジメントとの関係

地質リスクマネジメント(地質・地盤リスクマネジメントと同義)は,図- 1に示す地質リスクマネジメントのプロセスに準じたもので,基本的な流れは,リスクマネジメントの計画(②),リスクアセスメント(地質リスクの抽出・分析・評価,③),リスク対応(④)である。
同時にコミュニケーションおよび協議(①)が行われ,次ステップへ向けての継続的な改善(⑤)が行われる。
このループは,構想・計画,調査・設計,施工ならびに維持管理の各段階で行われ,一気通貫のリスクマネジメントとなることで事業全体の生産性向上やコスト縮減,ひいては品質向上に効果がある。
地質リスク調査検討業務は,各段階で行われるループにおけるリスクアセスメントを中心としたものと考えてよい。
 

地質リスクマネジメントのプロセス1)

図-1 地質リスクマネジメントのプロセス1)

 

1-2 適用範囲

地質リスク調査検討業務が対象とする事業は,土木分野の公共事業が主ではあるが,より幅広く地質・地盤に係わる事業全般であると考えている。
例えば,官民の土木事業を始め,民間の大規模プロジェクトにも有効と考えられる。
 
この業務を適用する建設段階は,構想・計画から,調査・設計,施工,維持管理に至るすべての段階が対象となるが,とりわけ構想・計画段階等の事業初期段階から地質リスク調査検討業務を適用することの効果は大きい。
すなわち,事業初期段階から地質リスクを抽出し,あらかじめ危険な箇所を回避するか,あるいは対処法を決定しておくことは,手戻りのない事業推進に大きな効果を発揮する。
また,事業進捗に応じて追加された地質リスクの情報も踏まえて,関係者間で再検討することにより適切な設計・施工が可能になり,事故やコスト増大等の事業リスクを最小限に抑えることも可能になる。
 
なお,地質リスク調査検討業務は,これまでの発注実績からみると,道路事業(特に新設)への適用が極めて多いのが実態である。
そのため,本手引きにおいては道路を主体とした記述が中心になっているが,その主旨はすべての事業に通じると考えられるので,必要に応じて読み替えて他分野に適用していただきたい。
 
ところで,地質リスクは事業の規模や種類によって事業への影響度も異なる。
そのため,すべての事業に適用するのではなく,地質リスクが経済的に大きな影響を及ぼすことが想定される表-1の事業については,初期段階から率先的に適用することが望ましい。
 

地質リスク調査検討業務を行うべき事業1),2)

表-1 地質リスク調査検討業務を行うべき事業1),2)

 

1-3 事業の流れと地質リスク調査検討業務

一般的な事業の流れにおける地質リスク調査検討業務の位置づけを図-2に示す。
 
地質リスク調査検討業務の主眼は,地質リスクに対する調査検討とそのリスクコミュニケーションを行うことにある。
 
地質リスクの検討とは,上述したように,対象事業の構想から維持管理の各段階で得られた各種情報をもとに地質リスクを抽出・分析・評価し,地質リスクへの対応方針を決定することである。
事業段階ごとに地質リスクについて新たな知見を取り入れつつリスク評価を更新し,残存リスクと対応方法に関する情報を次の段階に引き継ぐことが重要となる。
 
リスクコミュニケーションとは,事業管理者,地質技術者,設計技術者および施工業者などの事業関係者が情報を共有し,リスクへの対応方針に三者会議(合同調整会議)等を活用して次の事業段階へ引き継ぎを行うことである。
 
地質リスク予備検討業務は,構想・計画段階において文献や地形判読等の限られた情報から机上調査等により重大な地質リスクの有無を検討し,事業計画の大幅な見直しの必要性の有無や以降の事業段階で地質リスク調査検討業務の実施の必要性を判断して,必要に応じて適切な調査計画を立案するものである。
 
一方,地質リスク調査検討業務は,事業の構想・計画,調査・設計,(施工・維持管理)の各段階で実施されるものである。各段階の開始時期のほか,段階内でも地質調査等により追加情報がある程度増えた時点ごとに,前段階から引き継がれた地質リスクに対する情報に新たに実施された地質調査業務の成果を加えて,地質リスクの抽出・分析・評価の精度向上を図り,更新および次の事業段階に引き継ぎをするものである。
 
なお,別途実施される地質調査業務は,地質リスク調査検討業務で計画された後続調査計画に基づいて実施され,その結果は地質リスク調査検討業務にフィードバックされるものである。
 

 事業の流れと地質リスク調査検討業務の位置づけ2)

図-2 事業の流れと地質リスク調査検討業務の位置づけ2)

 
 

2. 地質リスク調査検討業務の実施内容

2-1 本業務の役割

地質リスクマネジメントは,事業の各段階において利用可能な情報および追加調査等によって取得される情報を基に地質リスクを評価し,最も適切なリスク対応を決定するプロセスであり,事業段階や各工程で継続的に実施することが基本である。
 
こうした地質リスクマネジメントのサイクルを継続的かつ効果的に運用するためには,事業段階に応じた地質リスク調査検討業務の実施が有効となる。
地質リスク調査検討業務をリスクマネジメントのプラットフォームとして,事業者,調査者,設計者および施工者がワンチームとなることで,事業の効率的な実施および安全性の向上の達成が可能となる。
 

2-2 調査検討内容

地質リスク調査検討業務では,図-3に示すように対象とする事業の計画諸条件の確認を行った上で,対象事業に対して影響を及ぼす恐れのある地質リスク情報の抽出を行うとともに,抽出した地質リスクの分析・評価を実施する。
さらに,事業を推進する上で課題となる地質リスクの対応方針を検討するとともに地質リスク情報の確度を高めるための後続調査計画を立案する。
 
なお,事業段階や事業熟度の変化,地質調査の進展等により条件や得られる情報が変化すると,地質リスク情報の内容や精度が異なってくるため,分析や評価レベルも変化し,対応方針にも影響を及ぼすことになる。
従って,事業段階が変化するタイミングでは,地質リスク調査検討業務を繰り返し継続的に実施することが適切である。
 
以下,図-3の②〜⑤の内容について詳述する。
 

地質リスク調査検討業務の項目とその内容

図-3 地質リスク調査検討業務の項目とその内容(参考文献2)を一部改変)

建設事業における地質リスクの発現事例とリスク要因2

表-2 建設事業における地質リスクの発現事例とリスク要因2)

 

(1)地質リスク情報の抽出

地質リスク情報の抽出は,地形解析と文献資料調査を基本とする。
なお,これらの解析調査においては事業の進捗に合わせて活用する情報量が異なるため,その都度,見直しを行うことが必要である。
地質リスク情報の抽出において,地質リスク要因の抽出に漏れや抜けがあった場合は,以降のリスクマネジメントの結果に重大な影響を及ぼすことになるため,事業の初期段階において総合的・俯瞰的に抽出を行うことが重要である。
 

(2)地質リスク現地踏査

現地踏査は,地形解析や文献資料調査等により抽出された地質リスク情報を現地で確認するとともに,事業段階に応じた尺度の地形図を用いた地表地質踏査を実施することで,地形の詳細・地質構成・地質分布・地質構造を把握し,地質リスク情報の精度向を図ることを目的としている。
実施にあたっては,応用地形判読士や技術士など,経験豊富な技術者が中心になって実施する必要がある。
 
なお,地表地質踏査は,地表で観察される地形,地質,表流水・湧水などの面的な情報から,地下の三次元的な地質や地下水分布を推定するための基本となる調査であり,地質リスク調査検討業務においては必須の調査項目である。
成果である地質平面図や地質断面図は,設計や地質リスクに対応するための物理探査やボーリング調査等の後続調査計画を立案する際の基本となる。
 

(3)地質リスク解析

地質リスク解析では,①地質リスクの抽出と②地質リスクの分析・評価を実施する。
 
建設事業における地質リスクの発現事例とその原因となるリスク要因を表-2に示す。
リスク要因の抽出は,計画構造物が要求する地質・地盤性能を整理した上で,抽出されたリスク要因がどのような影響を及ぼすかを考察し整理する必要がある。
 
地質リスクの分析・評価において,まずは抽出されたリスク要因のリスク程度の大きさ(重大さ)を決定し,それらへの対応方針を検討する。
リスク程度の大きさは,一般的なリスクマネジメントの方法を参考に,影響度Eと可能性の高さLの掛け合わせにより算出されるリスクスコアR で評価されることが多い。
 
この考え方に基づいて作成されたリスクスコアRとリスクランク(AA,A,B,C )の設定事例を表-3に示す。表中のRはリスクスコアであり,影響度Eと可能性の高さLにそれぞれ1〜5の5段階の評点を付け,それらを掛け合わせたものであり,リスクマトリックスとも呼ばれる。
この事例では,リスクスコアに基づき,AA,A,B,Cの4段階のリスクランクを設定している。
地質リスクへの対応は,一般に回避,低減,保有に区分されるが,地質リスクランク(AA,A,B,C)の大きさに応じて判断される(表-3の脚注参照)。
 

リスクスコアRと地質リスクランク(AA〜C)の設定例2)

表-3 リスクスコアRと地質リスクランク(AA〜C)の設定例2)

 
これらの一連の流れは,リスク対応において極めて重要な判断を伴うので,受発注者間で慎重な協議を行う必要がある。
 
以上の検討結果は,地質リスク管理表(登録表)としてまとめられることが一般的である。表-4に一般的な管理表の例を示すが,より分かりやすくするため,その段階で作成可能な地質平面図や断面図に地質リスクを明示し,区間ごとに表-4の情報を記載するなどの工夫も行われている。
 

(4)地質リスク対応の検討

地質リスク対応の検討では,リスク措置計画,後続調査計画ならびにリスクコミュニケーション計画などが行われる。
 
リスク措置計画は,地質リスクの分析・評価結果(地質リスクランク)に基づき,計画変更(回避),工法変更・対策工事(低減)やモニタリング(保有)などがあげられる。
また,これらを検討するために十分な情報がない場合には追加の地質調査等の対応も必要となる。表-5に地質リスク管理表(措置計画表)の例を示す。
 
後続調査計画の立案は,土工・構造物の設計に必要な通常の地質調査計画に加え,分析・評価した地質リスク事象に対応した調査計画も提案する。
 

 リスク管理表(登録表)の例(参考文献2)を一部改変

表-4 リスク管理表(登録表)の例(参考文献2)を一部改変)

 

リスク管理表(措置計画表)の例2)

表-5 リスク管理表(措置計画表)の例2)

 
リスクコミュニケーション計画は,発注されている関連業務など事業関係者間の連絡・調整,情報共有のための三者会議(合同調整会議)を活用する。
 
 

3. 発注方式

地質リスク調査検討業務の実施には,地質・地盤に関する専門的な知識が必要であることに加えて,事業者,設計技術者,施工技
術者等と連携して,地質リスクを的確に特定・分析・評価し,最適なリスク対応を導き出す高度なマネジメント力が求められる。そのため,発注に際しては「プロポーザル方式」として発注されることが一般である3)。
 
 

4. 地質リスクアセスメントのための地質調査技術

地質リスクアセスメント(特定・分析・評価)に適用される地質調査方法として,従来の技術に加えて,近年では幅広い分野で新たな調査・解析技術が実用化されている。
 
表-6は地質リスクアセスメントに有効な新技術の代表例と事業段階別の有効性を示したものである。
道路事業の構想計画段階においては,現地立入が困難または制限される中で,リスクランクAAに相当する重大リスク(大規模地すべりなど)の見逃しを防止しなければならない。
このためには,現地へ直接立ち入ることなく,非接触,非破壊で内在するリスクをマクロ的に抽出できる①②③などの技術の適用が有効となる。
 

地質リスクアセスメントに有効な新技術と事業段階別の適用性2)

表-6 地質リスクアセスメントに有効な新技術と事業段階別の適用性2)

 

おわりに

地質リスク調査検討業務の主眼は,各建設段階において地質リスクを抽出・分析・評価し,対応を検討することにあり,建設生産システムにおける一気通貫のリスクマネジメントの一部として極めて重要なものである。
この業務が適切に発注・実施されるよう,本手引きを有効に活用して頂ければ幸いである。
 
参考文献
1) 国土交通省大臣官房技術調査課・国立開発研究機構土木研究所:
土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン,
2020.3
 
2)( 一社)全国地質調査業協会連合会:「地質リスク調査検討業務」
の手引き,2021.7(下記よりダウンロード可)
https://www.zenchiren.or.jp/geocenter/
 
3) 国土交通省:建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方
式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン,2016.11
 
 
 

一般社団法人 全国地質調査業協会連合会 技術参与 
岩﨑 公俊

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年10月号
積算資料公表価格版

 

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