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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 草の根インフラ整備と貧困削減 ─開発途上国での道普請の啓発,現地調査と対話で決まる設計─

1. 建設分野における日本発の国際NGO

道普請人(みちぶしんびと)は,「道普請」のこころを持った「人」の集まりで,世界の貧困削減を目指してその輪を広げる事業を実践する特定非営利活動法人(NPO法人)である。
「自分たちの道は自分たちで直す」という意識を広め,人々の生計向上に向けた自信とやる気を引き出す事業を行っている。
 
2007年に京都大学大学院工学研究科の木村亮教授を理事長として,道普請人は設立された。
現在,建設分野の大学と民間企業の関係者9名が理事となっている。
2021年度の個人会員と寄付者数が約200名,団体会員数25団体である。
過去5年間の単年度当たり経常収入の平均は約1億円である。
その約84%が日本政府外務省の日本NGO連携無償資金協力事業による助成金,7%が民間団体からの助成金,残りの9%が会費寄付金収入である。
日本人の常勤職員が2名(ウガンダ,ルワンダに駐在),非常勤職員が4名,非常勤の理事2名が中心となり,団体が運営されている。
 
また,2008年にケニア,2016年にルワンダ,2018年にはウガンダでNGO登録を完了させ,各地で現地スタッフを雇用して事業を進めている。
この3カ国の現地スタッフの合計人数は14名である。
当初は,日本で申請し獲得した助成金事業を実施するのみであった。
この間に現地スタッフへの技術移転が進み,また現地での活動実績から,2021年度にはケニアとウガンダで設立したNGOが,国際労働機関(ILO),国連開発計画(UNDP),世界銀行から事業を受託するに至った。
その総額は約2億円である。
 
このように建設分野における日本発の国際NGOとして,国際社会に認知され活動を広げている。

 
 

2. 「道直し」から世界の貧困削減

開発途上国の農道や人々の生活道路は,1日当たりの通行量は100台程度と少ないが,沿線住民にとってはライフラインである。
その多くはいまだに未舗装で,雨季には通行不能となる箇所が生じ,学校,病院,市場へのアクセスが困難となる(図-1)。
そこで,道普請人は,地域住民が自分たちで,身の回りの材料と人力で道路を整備できるように,技術移転活動を行っている。
住民らと一緒に整備方法を計画し,資機材を調達し,作業を通して技術指導する(図-2)。
主な手法の一つに,人力での土の締固めを効果的にする“土のう”の利用がある(図-3)。
この道路整備は,市場で作物を販売したい農家グループに対し農道整備のための技術支援に始まり,学校関係者による通学路整備,保健所関係者による診療所へのアクセス道路の補修,難民キャンプ内での道路整備など,多様な分野と世界各地(30カ国)で展開されている(図-4)。
また,雇用機会に恵まれない若者に対して,土のう工法を含む基礎的な道路整備技能の実地研修も行っている。
この研修をきっかけに若者がビジネスへの関心を持ち起業し,事業を通してインフラ整備に貢献する事例に発展している。
このように「道直し」が,建設分野にとどまらず,教育・保健・雇用対策など社会経済分野の課題解決に役立っており,世界の貧困削減に寄与している。

4輪駆動の救急車も立ち往生

【図-1 4輪駆動の救急車も立ち往生】

道路整備の技術指導の様子

【図-2 道路整備の技術指導の様子】


土のうを締固める様子

【図-3 土のうを締固める様子】


これまでの「道直し」を行ってきた国と整備道路の延長と参加者数

【図-4 これまでの「道直し」を行ってきた国と整備道路の延長と参加者数】



 

3. “土のう”から“Do-nou technology”

道普請人が道路整備の対象とするのは生活道路である。
設計交通荷重は小規模で利用者も限定的である。
私たちは,事業対象地域の住民を中心に,その地域を管轄する地方行政官らとも協議して,道路の重要度や経済性等から現況に見合う安全性と機能性を保有する出来形を提案する。
この時,先進国や幹線道路施工で利用される手法を持ち込むのではなく,現地で調達可能な資機材の利用と,地域住民らが実施可能な施工方法を採用する。
道路を整備する主体が,外部の私たちとなるのではなく,そこに住む人々自身とするためである。
そのために,道路整備を進めながら,地域住民への技術移転を行っている。
整備後の車両の通行や気象条件により,道路が損傷することは避けられないが,たとえ傷んでも地域住民が自分たちで補修し持続的に維持管理できることを主眼としている。
 
この事業には,開発途上国の住民や行政官とのコミュニケーションや,25人から多いときには100人以上となるグループによる道路整備活動を,効率的かつ効果的に遂行する調整力とリーダーシップが求められる。
また,現地を視察し利用可能な材料や工法を同定し,適切な出来形を提供しうる柔軟な発想と技術力が必要である。
 
道路整備で重要な工程は,主に排水整備とタイヤ通行部に交通荷重に対する耐力を保有させることである。
現地で入手可能な地盤材料を利用し人力での締固めで,車両走行時の路面沈下を抑制する工夫の一つとして,土のうを用いて路盤を構築している。
現地でも普及している25kgの穀物や肥料等を入れるプラスチック繊維で編まれた袋を土のう袋として利用している。
小規模道路の整備の必要性を認識しつつ予算を確保できずに手をこまねいてきた現地道路技術者も,土のうを利用した路盤構築手法に高い関心を示している。
そのため,ケニア,ウガンダ,ルワンダ,ブルキナファソ等では,中央道路行政機関との土のう工法の標準化に向けた打合せを重ねている(図-5)。
ここでは,「Soilbag」としてではなく,「Do-nou」工法として認知されている。

運輸インフラ省長官(ケニア)への「Do-nou」工法の説明

【図-5 運輸インフラ省長官(ケニア)への「Do-nou」工法の説明】



 

4. 若者雇用促進に向けた政策提言

ケニアでは2012年に,ILOと協働し,職を持たない若者たちに,土のう工法を中心とした道路整備手法の技能研修を行った。
昼間も何もすることがなくたむろしていた若者たちが,地域で行われる研修に参加し通行困難であった道路を補修したことで,地域から感謝される経験をした(図-6)。
さらに,公的な建設技能研修所のコースを修了し資格を得たことで,仲間たちと建設会社を立ち上げ事業を拡大する事例も生まれた(図-7)。
 
そこで道普請人は,若者の非雇用率が高いケニア政府が抱える課題への解決に向けて,若者に対して土のう工法を含む建設技能の研修機会を提供することを政策提言した。
その結果,2014年には運輸インフラ省が今後,96万ドルを割り当て500人の若者に研修機会を与えることを決定。
翌2015年から2018年にかけて約60万ドルが拠出された。
なおこの若者の起業事例は,安倍元総理による『「一人,ひとり」を強くする日本のアフリカ外交』と題する政策スピーチ(2014年1月)でも紹介されている。
 
2021年からケニア政府は世界銀行からの資金援助を得て,ある県を中心に小規模道路の整備と若者への建設技能の研修に関する事業を進めている。
この事業の実施機関は,道普請人がケニアで登録したNGOである。

若者への道路整備研修

【図-6 若者への道路整備研修】


研修後に建設会社を立ち上げたサイモン・ジュグナ氏(写真左)

【図-7 研修後に建設会社を立ち上げたサイモン・ジュグナ氏(写真左)】



 

5. 生活道路整備の事例

2021年10月にはウガンダ東部のマユゲ県にて両側を水田に囲まれた沼地の道路(図-8)を補修した。
参集した50名の地元の若者たちは「長年通れなかったこの道が,土のう袋を敷いて直るわけがない」とはじめは懐疑的であった。
しかし,砕石,土のう,カルバートを用いた10日間の実地訓練を経て(図-9),彼らは,通年通行可能な素晴らしい道に整備した(図-10,11)。
このことで,住民たちに感謝の気持ちがあふれ,地区のお年寄りたちは,「自分たちが生きている間にこの道が直るとは思わなかった」と,涙ながらに「ありがとう」を伝えてくれた。
地区のリーダーたちは魔法のようにも思えた「土のう工法」に感激し,「今後は隣の沼地も直してくれ」と,早くも若者たちにお願いするほどであった。
 
道路補修後は,これまで遠回りを強いられてきた周辺サトウキビ農家の重量トラックは,補修した道を次々と利用するようになった。
もちろん道路整備の効果ではあるが,幹線道路仕様ではないため負荷過多で,そのままでは新たな工事が必要になる。
そこで,行政や地域住民とも話し合いをし,「10t以上のトラックの通行お断り」の看板を立て重量交通の走行を制限した。
道を直して終わりではなく,その後の道路や利用状況をフォローアップして,適切に維持管理されていくよう指導している。

整備前

【図-8 整備前】

整備後

【図-10 整備後】


道路補修作業の様子

【図-9 道路補修作業の様子】

道路開通式

【図-11 道路開通式】



 

6. 質の高いインフラ整備の展開

道普請人は,第5回JAPANコンストラクション国際賞特別賞(国土交通大臣表彰)を受賞した。
また,これまでのNGOとしての活動について,2022年度京都ヒューマン賞(公益財団法人京都オムロン地域協力基金表彰)を受賞した。
道直しからの貧困削減に向けた特定非営利活動も,日本の質の高いインフラ整備の一つとして評価いただいたことをうれしく思う。
 
簡便道路整備を進めているが,この活動には与えられた設計図はない。
現地調査を通して利用可能な資機材の決定や出来形を設定し,その実現に向け地域住民へ施工指導を行う,確かな技術力が必要である。
そこで,日本の建設会社を定年退職されたシニア技術者らの協力を得ている(図-12)。
 
シニア技術者の方々は,開発途上国の環境下で寝泊まりしつつ,持てる技術力を最大限に発揮して,すれ違う人々に感謝されながら道普請人の活動を支えていただいている。
現地の人々の中に自信とやる気が芽生える道路整備の経験は,建設業の新たな魅力の発見と国際感覚の醸成にもつながる。
また,日系企業の若手職員や大学生を研修やインターンとして受け入れるなど,幅広い世代が参画しうる事業体制に取り組んでいる(図-13)。

現地測量を行うシニア技術者(写真中央)

【図-12 現地測量を行うシニア技術者(写真中央)】

作業に参加するインターン生(左から2人目)

【図-13 作業に参加するインターン生(左から2人目)】



 

7. おわりに

2016年に道普請人は,京都市より認定を得た認定特定非営利活動法人となっている。
道普請人への寄付金は税制控除の対象となっている。
ぜひ,多くの方に道普請人の活動を知っていただき,今後の活動に期待をしていただきたい。

 
 
 

認定特定非営利活動法人 道普請人
福林 良典(ふくばやし よしのり)/岩村 由香(いわむら ゆか)

 
 
【出典】


積算資料2022年10月号


最終更新日:2023-02-16

 

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