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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 関東地方整備局における建設現場の遠隔臨場の取組状況

1. はじめに

人口減少社会を迎えた現在,建設産業は働き手の減少等による担い手不足や建設業就業者の高齢化が進行するなど多くの課題を抱えている。
 
このような現状を打破するために,国土交通省では,平成28年より「建設現場の生産性革命」に向け,i-Constructionを推進しており,ICTの活用やコンクリート工の規格の標準化等,施工時期の平準化をトップランナー施策として位置付けている。
また令和元年6月に改正された公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)により情報通信技術の活用等による生産性向上への取組や働き方改革の推進が位置付けられ,発注者の責務として,より良い品質のインフラを国民に提供するため監督・検査内容の充実,体制の確保と生産性向上が必要とされている。
 
また,新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的とし,建設現場においても人が密になる環境を避けるための非接触・リモート化を推進しているところである。
 
ICT技術の活用は,建設現場の生産性向上とともに,公共工事の品質確保,品質確保の高度化の取組であり,また非接触・リモート化の促進が期待される施策の一つである建設現場の遠隔臨場は,施工のプロセスを変革し,建設業に携わる方々の安全性や作業環境の改善につながり,建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し,安全・安心で豊かな生活の実現に資するものである。

 
 

2. 遠隔臨場の取組概要

建設現場の遠隔臨場とは,従来,工事における段階確認・材料確認を受発注者が現場での立会により監督を実施していたものを,ウェアラブルカメラ等による映像と音声の双方向通信を活用し,リモートでの現場監督を実施するものであり,働き方改革,生産性向上が期待されるものである。
遠隔臨場の実施イメージを図-1に示す。

建設現場の遠隔臨場の実施イメージ

【図-1 建設現場の遠隔臨場の実施イメージ】



 

3. 関東での取組

関東地方整備局では,令和2年度から建設現場の遠隔臨場の試行に取り組んでおり,令和2年度は166工事で試行した。
 
令和3年度においても,遠隔臨場の実装化を見据え,更なる試行の拡大に向けた試行方針の策定等の環境整備や,受発注者への啓発活動を行うなど,活用拡大に取り組み,遠隔臨場の試行件数は,図-2のとおり,令和4年3月末時点で514工事に達している。
 
これは関東地方整備局全体の工事(営繕・港湾関係除く)の約半数を占めている。
令和2年度の試行件数(166件)と比べ,約3倍と大幅に増加しており,着実に活用拡大が進んでいるところである。
 
図-3に遠隔臨場の試行区分を示す。
令和3年度は,試行を行った全ての工事において,試行に掛かる必要な費用の全てを発注者が負担する発注者指定型とする方針で実施した。
注目すべきは,その約5割もの工事で発注後協議により受注者自らの意向で試行が実施されており,受注者の遠隔臨場に対する関心の高さ,導入意欲の高まりがうかがえる。

遠隔臨場の試行件数

【図-2 遠隔臨場の試行件数(R4.3末時点)】

遠隔臨場の試行区分

【図-3 遠隔臨場の試行区分(R4.3末時点)】



 

4. 取組現場の事例

関東地方整備局荒川下流河川事務所が担当するR1荒川下流右岸浮間地区下流低水護岸災害復旧工事では,建設現場の遠隔臨場の試行に取り組んでいる。
 
工事内容は護岸工や根固め・水制工等であり,遠隔臨場に適用した確認行為として,主に「材料確認」では矢板工における鋼矢板材料の寸法確認,「段階確認」では矢板工における打込状況,「立会」では根固め工における根固めブロック型枠の寸法確認において,遠隔臨場を実施しており,現場の声を聞いた(写真-1,表-1)。
 

立会状況(現場側)

立会状況(現場側)

ウェアラブルカメラ(音声機能付き)

ウェアラブルカメラ(音声機能付き)


立会状況(監督側)

立会状況(監督側)
        【写真-1 施工事例での状況】

ウェアラブルカメラ(音声機能付き)

確認画面(音声も同時配信)


使用した機器・配信システム

【表-1 使用した機器・配信システム】


(1)受注者の感想

〈効果〉
●ウェアラブルカメラが,音声操作による機能を有しているため,操作がハンズフリーででき,別途,携帯電話等を持つ必要が無いことから,転倒などの危険性への対応ができ,スタッフや標尺を自分で持ちながら作業することができた。
 
●生コン現場試験の頻度が多く,遠隔臨場による
コロナ感染リスクの低減,監督職員の待ち時間削減に寄与した。

 
 

〈課題〉
●今回,材料検査や出来形検査に遠隔臨場を活用できたが,全体を確認する護岸法線確認やレベルによる高さ測定等測量機器を用いての立会は,従来どおり現場臨場での立会となったので,それらも遠隔臨場で実施することができるよう改善されれば,更に時間の削減,新型コロナウイルスの感染防止対策に寄与できる。

 

(2)監督職員の感想

〈効果〉
●ウェアラブルカメラが,音声操作による機能を有しているため,監督側が確認したい箇所等をリアルタイムで撮影者に伝えることができるため,立会確認がスムーズになった。
 
●新型コロナウイルスの感染防止対策として有効である。
 
●現場への移動時間が省ける。
 
●受注者の希望どおりの時間帯で立会が可能となる。
 
●大画面に接続することにより,複数人での立会が可能となる。

 
 

〈課題〉
●通信環境により映像や音声が中断する時が多々ある。

 
 
 

5. 試行で得られた効果

遠隔臨場の取組実態や課題を把握することを目的に令和3年10月に国土交通省では全国的なアンケート調査を実施した。
 
そのうち,関東地方整備局においては令和3年9月までに完成した工事80件を対象とし,40件から回答を得た。
 
図-4に,受注者が効果を実感した項目の結果を示す。
 
時間に関する効率化(監督職員の待ち時間の削減等)や新型コロナウイルスの感染防止対策に効果を実感したとの回答が多く,また,遠方での工場検査(材料検査)で大いに有効,現場までの移動時間が無いため監督職員との日程調整が容易であるとの回答もあり,遠隔臨場の期待する効果を受注者が実際に享受していることを確認した。
 
図-5は,来年度以降の実施の意向についての回答結果である。
97%もの受注者が来年度以降も実施を希望しており,遠隔臨場の有効性が認められ,かつ,持続的な活用のニーズが高まっていることも確認した。
 
一方,配筋の出来型確認,掘削工の土質変化の段階確認等の一部はカメラ映像での確認が困難なため,従来どおり現地立会による確認が必要な工種も存在することが判明した。
 
これが,受注者が遠隔臨場を活用する上での戸惑いや導入にあたっての躊躇となっており,今後,遠隔臨場の更なる推進に向けて,遠隔臨場に適する工種,適さない工種を分析し,受注者に明確に示すことが必要である。

アンケート結果

【図-4 アンケート結果(効果を実感した項目)】


アンケート結果

【図-5 アンケート結果(来年度以降の遠隔臨場の実施意向)】



 

6. 試行で得られた効果

建設現場の遠隔臨場を推進するにあたっては以下の課題がある。

(1)遠隔臨場に要する費用のばらつき

受注者アンケートや事務所への試行状況調査,メーカーへのヒアリングにより,遠隔臨場に掛かる費用にかなりのばらつきがあることが判明した。
 
費用のばらつきの要因の一つは,遠隔臨場の機器メーカーごとで国土交通省側PCでのセキュリティ上の通信可否の相違が生じていることである。
通信不可の機器メーカーを導入した受注者は,別途,監督職員用に国土交通省ネットワークに接続されていないノートPC等をレンタルし,監督官詰所等に配置する必要があり,その分の費用が掛かってしまう。
 
費用のばらつきをなくすためには,一定の条件(仕様)を満たす機器は国土交通省PCにおいてセキュリティ上,通信が可能となることが必要である。
 
そこで,令和4年3月29日に国土交通省大臣官房技術調査課が,「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領(案)」(以下,「本省要領」という)を策定し,セキュリティ上,国土交通省ネットワークと通信が可能となる標準的な仕様が記載された。

(2)現場条件の違いによる通信環境について

トンネル内,地下空間内等の工事や山間部での工事,上空に高圧電線ケーブルが走っている場所での工事など,施工条件や地理的条件により遠隔臨場において通信不可や不安定になる箇所が存在する。
 
そこで通信環境について,発注者と通信事業者との協議結果を発注前の条件明示リストに加えるなど,発注時におけるルール化について検討していく。
 
また,山間部など通信環境が悪い地域では一部現場において,発注者による通信インフラ整備を試行している。
今後,通信環境整備を発注者側で行うことも,遠隔臨場の重要な課題の一つとして検討していく。

 
 
 

7. 関東地方整備局における建設現場の遠隔臨場の実施方針

令和4年3月29日の本省要領により,令和4年度から本格的な実施に移行することが示された。
関東地方整備局においては「令和4年関東地方整備局における建設現場の遠隔臨場の試行方針」を先行して本年1月に策定し,公表したところだが,本省要領を踏まえ,新たに「関東地方整備局における建設現場の遠隔臨場の実施方針」を令和4年5月25日に策定した。
 
主な内容は,以下のとおり。
 
◇令和4年6月より全ての工事を対象に本格的な実施に移行する。
 ただし,規模の小さい工事は工事内容を踏まえ遠隔臨場の実施を判断。
 
①工事発注規模が1億円以上の工事は,「発注者指定型」により全て実施。
 
②工事発注規模が1億円未満の工事は,立会頻度が多いなど遠隔臨場の効果が期待できる工事を,「発注者指定型」により実施。
 なお,②以外の工事においても契約後に受注者に意向確認し協議の上,「発注者指定型」により実施することが可能。
 
◇使用する機器メーカーにより,発注者側のセキュリティ上の関係で監督職員のパソコンに通信ができない場合は受注者が別途パソコンを準備している実態から,発注者側の標準的な通信環境の仕様を参考とすることで,通信接続問題の解消の一助となり,また民間の技術開発の発展・促進につながることに期待する。

 
 
 

8. おわりに

関東地方整備局では,令和2年度から遠隔臨場の活用拡大に積極的に取り組んできた。
試行件数の増加および受注者アンケートやヒアリングの結果から,その有効性は着実に認識されている。
 
一方で,遠隔臨場をより推進するために解決しなければならない課題もあり,遠隔臨場が効果的に実施可能な工種・項目と困難な工種・項目を明らかにすることなどがあげられる。
 
また,国土交通省側PCでのセキュリティ上の通信可否の相違についても,本省から示された通信仕様により,各機器メーカーが通信可能となったのかフォローアップを行い,把握していかなければならない。
 
遠隔臨場が今後の工事における施工管理において,有効な手段であることは明らかになったことから,引き続き,フォローアップ調査等を通じた課題の把握および解決に向けた取組を行い,遠隔臨場の更なる活用を展開していきたい。

 
 
 

国土交通省 関東地方整備局 企画部 技術調査課

 
 
【出典】


積算資料2022年11月号


最終更新日:2023-03-13

 

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