• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 災害時のトイレ環境をより良いものに~災害・仮設トイレ研究会の活動~

1.災害時のトイレ問題

一般社団法人日本トイレ協会内に2019年に発足した「災害・仮設トイレ研究会」は、災害時のトイレ問題改善を目指してさまざまな活動を行っている。
 
災害時のトイレ問題は主に、在宅避難を行う場合、避難所に避難する場合の二つのケースに分けられる。
在宅避難の際は、被災によって上下水道などライフラインが遮断されても使用可能な「携帯トイレ」等の備蓄が重要である。
当研究会の調査によると、携帯トイレ等の備蓄率は19.5%と水や食料に比べて低く、この割合を上げていくことが大切である。
避難所では、既設のトイレの上下水道等が遮断されている場合は携帯トイレ・簡易トイレ等を活用するほか、敷地内に仮設トイレが設置されることも多い。
 
しかし、これまでの災害を振り返ると、避難所への仮設トイレの設置には改善すべき問題点がいくつか存在する。
 
一つは発災後、避難所に十分な数の仮設トイレが届くまでには時間が掛かることである。
国土交通省が作成した「トイレの充足度のイメージ図」(図-1)では、仮設トイレが避難所に届くまでには少なくとも3日以上掛かると想定されている。
これは仮設トイレの在庫の数に起因する。
災害の被災地には、建設現場で普段、使用されているトイレの余剰在庫が運ばれるが、この在庫には限りがある。
2020年に当研究会が行った調査では、首都直下地震・南海トラフ地震の被害が想定される地域での余剰在庫は8,000棟程度である。
そのうち和式トイレは74%、洋式トイレは26%であり、大規模災害になるほど避難所が希望する機種と数が届けられない可能性がある。
 
もう一つは輸送手配が難しいことである。
走行距離500km超の輸送を担う長距離トラックドライバーが特に不足していると言われており、こちらも大規模災害になるほど被害の少ない地域からの長距離輸送が必要になるため、平常時以上にドライバーの確保が困難になると考えられる。
 
このほかにトラックの不足も懸念される。
仮設トイレの輸送には平ボデー車が多用される傾向にあるが、現在、日本国内では雨などによる荷物の濡れを防ぐことのできるウイングボデー車の台数が増加している。
ウイングボデー車をトイレの輸送に使用できればよいのだが、ウイングボデー車のサイズによっては、最低でも高さが2m以上ある仮設トイレを積載できない場合がある。
また、前述のように、避難所に届けられる仮設トイレは、普段、建設現場で使用されているもの、つまりレンタル商品である。
洗浄等の整備がされているとはいえ、新品ではない仮設トイレを食材等を運ぶ可能性のあるウイングボデー車で輸送することは、臭いが付かないか、水漏れはしないか等の不安から敬遠されることも多い。
 

図-1 トイレの充足度のイメージ図

図-1 トイレの充足度のイメージ図


 
 

2.課題解決のために

これらの課題を解決するには、全国的に洋式トイレ、そして国土交通省が原則化している「快適トイレ」の数を増やし、長距離輸送をしなくても避難所に十分な数の仮設トイレが届く状況にすることが重要である。
と同時に、ウイングボデー車でも仮設トイレの輸送が懸念なく行えるよう、便槽とトイレ本体を分けて積み込む、臭いが付くことや水漏れを防ぐためにトイレをシート等で被う、といった対策を講じることも検討したい。
 
加えて、避難所に仮設トイレを手配する際に間違いが生じないよう、自治体担当者などが①どの避難所に②どのような機種を③どのくらいの数④どの位置に設置するのか、について事前にある程度、シミュレーションしておくことも大切である。
そのためには以下について把握しておくことを推奨する。
 

●各避難所の既設のトイレの位置、数、種類
(発災直後に携帯トイレ等を使用する場合は、既設トイレの個室を活用するため、和式トイレ、洋式トイレ、多目的トイレのそれぞれの室数とその位置)
●上下水道が使用できなくなった場合の仮設トイレ設置数
●手配する仮設トイレの種類
●仮設トイレの予定設置場所
●設置のレイアウト
(男性用、女性用を離す、雨に濡れない場所にする、防犯上安全な場所にする等)

 
特に仮設トイレの種類については、一般にはあまりなじみのないものであるため、選定の際に間違いが生じないよう、当研究会のホームページに掲載している「仮設トイレの分類」を参考にしてほしい。
「大きさ」「洗浄方式」「処理方式」「手洗器」についてまとめている(表-1、図-2)。
 

表-1 仮設トイレの「大きさでのカテゴライズ」

表-1 仮設トイレの「大きさでのカテゴライズ」

図-2 仮設トイレの分類 QRコード

図-2 仮設トイレの分類 QRコード

 
仮設トイレのレンタル企業と協定を結ぶことも有効である。
例えば、自治体・企業それぞれの担当者、手配方法、車両通行許可、レンタル料の決定方法等について協定で取りまとめておけば、いざというときに素早く行動することができる。
当研究会では今後、どのような協定が適しているかについて精査する予定である。
 
また、避難所に仮設トイレが設置された後は、快適性を継続させることが大切である。
適切な管理とトイレの周辺備品を用意することが必要となる。
 
管理面では、不特定多数の避難者が共同で使用するため、使用者が清掃の役割分担を行う等としておくと良い。
また、周辺備品として以下のようなものがトイレ設置時点で揃っていることが望ましい。
 
 

●トイレットペーパー
●生理用品
●大人用おむつ
●サニタリーボックス
●手洗い用水、石けん類
●ウェットティッシュ
(手洗い用水が無い場合)
●アルコール等手指の消毒剤
●ペーパータオル
●ゴミ箱、またはゴミ袋
●防臭剤、消臭剤等、し尿の臭い対策のための薬剤
●防虫剤、殺虫剤等虫対策のための薬剤
●掃除用の装備、洗剤等
●照明器具
(仮設トイレに付属していることもある)
●照明器具用の電池等
 

【出典】『災害とトイレ緊急事態に備えた対応』日本トイレ協会編

 
 

3.よりよいトイレ環境を目指して

当研究会では、携帯トイレの備蓄率アップや避難所のトイレ環境の改善について、まずは前述した内容をしっかりと周知していくことが重要だと考えている。
2022年は防災イベントへの参加やWEBやリアルでの講演等で会の活動をPRするなど積極的に活動した(写真-1)。
 

写真-1 防災イベント出展の様子

写真-1 防災イベント出展の様子


 
書籍を出版したほか、FacebookとInstagramの公式アカウントを開設し、タイムリーな発信を続けている。
 
また、「災害時のトイレに関する備蓄調査」(3年に1回)や「単体仮設トイレ大室の、総出荷棟数における各種トイレ出荷比率の調査」(年1回)を継続的に行っている。
トイレの出荷比率の調査では、仮設トイレの製造を行うメーカーに対しては種別製造比率(和式トイレ・洋式トイレ・快適トイレのそれぞれの水洗式・簡易水洗式の割合)を、レンタル機として保有するレンタル会社に対しては保有するトイレの種別の比率を質問している。
2022年10月現在、和式トイレの比率は製造・保有共に減少傾向にあり、洋式トイレ・快適トイレの数が少しずつ増加していることが分かっている(図-4)。
 
研究会の会員数も発足当初の14社から2023年1月時点で17社に増加しており、今後も企業の枠を超えた知見や経験を活かし、災害時のトイレ問題に積極的に取り組んでいく。
 
図-4 単体仮設トイレ大室の,総出荷棟数における各種トイレ出荷比率(2022年)

図-4 単体仮設トイレ大室の,総出荷棟数における各種トイレ出荷比率(2022年)


 
 
 

一般社団法人日本トイレ協会災害・仮設トイレ研究会 

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年3月号

公表価格版3月号

最終更新日:2023-06-23

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品