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ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > コンクリート構造物の非破壊試験の最新動向

 

国立研究開発法人 土木研究所
森濱 和正

 

1.はじめに

高度経済成長時代に建設された社会資本が高齢化を迎えており,適切な維持管理が求められている。ここではコンクリート(RC)構造物を対象に,新設時の初期性能と,鉄筋腐食,凍害,アルカリシリカ反応など多くの耐久性能のうち鉄筋腐食に関して整理し,新設構造物の竣工検査と,鉄筋腐食に関する点検のための主要な非破壊試験方法について紹介する。
 
 

2.RC構造物に要求される性能と非破壊試験

表- 1にRC 構造物に要求される主な性能と,それらを確認するための非破壊・微破壊試験方法,最近の関連する文献を示す。
 

【表-1 RC構造物に要求される性能,劣化と非破壊・微破壊試験方法】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
主要な要求性能は耐荷力と耐久性である。耐荷力は,コンクリート強度,鉄筋量が確保されていることが必要である。鉄筋腐食に関する劣化要因,損傷の確認対象は,新設時には,鉄筋腐食の主原因であるコンクリートの中性化,塩化物イオン浸透に対する抵抗性が求められる。この性能を,ここでは緻密性と呼ぶこととすると,竣工検査においてコンクリートの緻密性の確認が重要となる。また,中性化,塩化物イオンが鉄筋に達するまでの時間が設計期間以上となるように設計された鉄筋のかぶり厚さが確保されていることを確認することが重要である。
 
点検時には,鉄筋腐食までは,まず腐食原因(中性化深さ,塩化物イオンの浸透深さと量)が鉄筋まで達しているかどうかを確認することが重要となる。中性化,塩化物イオンが鉄筋まで達し腐食の条件が整えば,次に腐食状況の確認となる。腐食が進行すれば,ひび割れ,はく離・はく落を生じる。はく落は第三者に危害を加える恐れがあるため,はく離の検出が極めて重要である。
 
鉄筋の腐食,それに伴うコンクリートの劣化は,以上のように推移し,それぞれの状態における主な非破壊試験も表- 1に示している。これらの試験方法を概観した上で,太字の試験方法について紹介することとする。
 
 

3.コンクリート強度※1)

3.1 非破壊・微破壊試験による強度試験の概要

コンクリート強度に関しては,以前よりシュミットハンマ(JIS A 1155ではリバウンドハンマと呼ばれている)が使用されているが,推定精度がやや低いといわれている。また,超音波も以前より多くの研究例があるが,そのほとんどは円柱供試体の弾性波伝搬速度と強度の関係を求めたものであり,構造体コンクリートの弾性波伝搬速度の測定方法が確立されていなかったため,実用化には至っていなかった。
 
最近はさまざまな方法が研究開発されており,非破壊試験と微破壊試験に大別することができる。
 
非破壊試験は,超音波法と,最近,鋼球・ハンマなどで打撃する衝撃弾性波法の研究が盛んであり,上記の懸案事項も解決され,国土交通省の橋梁の管理・検査に適用されている※2)。新しい方法として機械インピーダンス法について3.2で紹介する。
 
微破壊試験の代表格は小径コアとボス供試体である。小径コアは文字どおり小さいコアによる強度試験である。JISによる通常のコア強度試験は,直径100×長200mmのコアが用いられる。小径コアは直径25×長50mmがよく用いられている。ボス供試体については,3.3で紹介する。
 

3.2 機械インピーダンス法による強度試験

機械インピーダンスは,写真- 1のように加速度計を内蔵したハンマによってコンクリート表面を打撃すると,図- 1のような打撃波形が得られる。その打撃波形から打撃力と打撃速度を求め,打撃力を打撃速度で除した値である。
 

【写真-1 機械インピーダンス測定装置】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【図-1 打撃による加速度波形】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図- 1のような打撃波形は,最大値に対して前半と後半に分けられる。前半はコンクリート表層の品質変化の影響を受けるのに対して,後半はコンクリートの弾性反発により得られたものであり,後半の波形から求めた機械インピーダンスによって強度を推定する。図- 2に機械インピーダンス法によって強度を推定した結果を示す。
 

【図-2 機械インピーダンス法による圧縮強度推定結果】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
機械インピーダンス法による強度推定の特徴は,リバウンドハンマと同じく打撃する方法であり非常に簡易な方法である。また,リバウンドハンマは反発度から強度を推定するが,機械インピーダンスは強度と相関関係が高いコンクリートの弾性係数に関連する指標が用いられており,原理的に明確である。
 

3.3 ボス供試体による強度試験

ボス供試体の作製手順を写真- 2に示す。
 

【写真-2 ボス供試体の作製から強度試験】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(a)ボス型枠と呼ばれる直方体の型枠を,(b)通常の型枠(以下,構造体型枠と呼ぶ)に開口部を設け,ボス型枠を取り付ける。(c)ボス型枠の上面に空気抜き穴を設けており,コンクリートが充填されるとその穴からブリーディング水が出て充填状況を確認することができる。養生後,構造体型枠は脱型されるが,(d)ボス型枠は存置しておき,封かん養生できるようになっている。所定の材齢(通常28日)に達すると(e)ボス供試体を割り取り,(f)脱型して(g)ボス供試体を取り出し,(h)圧縮強度試験を行う。強度試験結果は図- 3に示すとおり,コア強度と非常に良い相関関係がある。
 

【図-3 ボス供試体と直径 100mmコアの強度比較】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ボス供試体による強度試験の特徴は,構造体コンクリートと同時にボス供試体を作製しておかなければならないが,その後,ボス供試体を写真- 2(e)のようにボルトを交互にねじ込むことによって簡単に割り取ることができる。コア採取のように現場における煩わしい作業はなく,構造体内部を損傷することもない。ボス型枠も精度良く製作されているので,コアのような両端面の整形の必要がなく,脱型後直ちに強度試験ができる。
 
 

4.鉄筋量,かぶり厚さ※3),4)

鉄筋量,かぶり厚さは,耐荷力,耐久性にとって重要であることは前述した。耐荷力は,鉄筋の種類,断面積(径)と本数(間隔)の積である。鉄筋の種類を非破壊で推定することはできない。鉄筋径も現状では精度良く推定することは難しいため,これらはコンクリート打設前に確認しておく必要がある。
 
鉄筋の間隔,かぶり厚さは,表- 1に示す3種類の方法が適用可能であり,主な発注機関の管理・検査にすでに取り入れられており2),これ以上の説明は割愛する。
 
 

5.コンクリートの表層品質(緻密性)※4),6)

5.1 表層の緻密性試験の概要

コンクリートの緻密性に関する試験を大別すると,直接的な方法と間接的な方法に分類される。直接的な方法は,塩化物イオン,二酸化炭素のコンクリート中への浸透を考慮して,表層の透気・透水試験が盛んに研究されている。間接的な方法は,弾性波を利用した方法であり,鋼球を打撃することによる接触時間と,超音波法を用いた音速分布によって表層の品質を評価することが検討されている。それらの内,接触時間について次に説明する。
 

5.2 接触時間による表層品質の試験

接触時間は,写真- 3のように加速度計を内蔵した鋼球で打撃して,図- 4のような打撃波形から鋼球がコンクリートに接触した時から離れるまでの時間Tc である。
 

【写真-3 接触時間測定状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【図-4 打撃力波形と接触時間】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
図- 5に接触時間と中性化速度係数の関係を示す。中性化速度係数は,中性化抵抗性を表す指標であり,値が小さいほど中性化しにくいことを示している。図- 5は,水セメント比40,50,60%の3種類について,養生を1日,7または9 日,28日まで行なったコンクリートの結果であり,上の図は普通ポルトランドセメント(N),下の図は高炉セメントB種(BB)の結果である。接触時間が短いほど中性化速度係数は小さくなっており,緻密で中性化抵抗性が高いことを示している。このように接触時間を測定することによって簡単に緻密性を評価することが可能である。
 

【図-5 接触時間と中性化速度係数の関係】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

6.中性化深さ,塩化物イオン量・深さ※4),8)

6.1 中性化深さ,塩化物イオン量・深さ試験の概要

中性化深さ,塩化物イオン量・深さに関しては,現在のところ非破壊による試験方法はなく,いずれの試験方法も部分的にコンクリート試料を採取して試験する方法である。それらの内,構造体内部を損傷することなく,強度試験後の供試体を用いて中性化深さ,塩化物イオン量・深さとも試験できるボス供試体について次に説明する。
 

6.2 ボス供試体による中性化深さ,塩化物イオン量・深さ試験

ボス供試体による中性化深さ,塩化物イオン量・深さ試験は,事前に計画的に点検計画を作成しておき,構造物建設時にボス供試体も作製しておかなければならない。例えば,10 年,20年,30年の強度,中性化深さ,塩化物イオン量・深さの試験を計画した場合,3個のボス供試体を作製しておく。
 
作製したボス供試体は,3.3の写真- 2 の(d)の封かん養生終了後,ボス供試体を構造体に取り付けた状態でボス型枠を脱型し,暴露しておく。所定の年数に達すると,ボス供試体を1個割り取り,強度試験を行なった後,供試体断面を切断し中性化深さ,塩化物イオン量・深さ試験を実施する。
 
中性化深さの実験結果を図- 6に,塩化物イオン量の結果を図- 7に示すとおり,コア供試体結果とほぼ同等の結果が得られている。また,写真- 4は実大の柱試験体の15年後の中性化深さ試験結果である。これもコアと同等の結果が得られている。
 

【図-6 中性化深さの結果】

 

【図-7 塩化物イオン量の結果】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真-4 ボス供試体の15年後の中性化深さ試験結果】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

7.鉄筋の腐食状態※4)

7.1 鉄筋腐食試験の概要

鉄筋の腐食状態を試験する方法は,鉄筋をはつり出して直接観察する方法が確実であるが,はつり出した部分しか分からないし,破壊を伴うことになる。以前より自然電位と分極抵抗の測定が行われているが,これらの方法は電極を鉄筋に結束するため,部分的な破壊を伴うなどの問題がある。最近は非破壊試験として赤外線サーモグラフィ,電磁パルスを用いた方法,腐食環境条件のモニタリングなどが検討されている。電磁パルス法について次に説明する。
 

7.2 電磁パルス法による鉄筋腐食の確認試験

鉄筋が腐食すると表面に腐食生成物が形成され,体積が増えるためにコンクリートにひび割れやはく離を生じ,鉄筋とコンクリートの付着が低下する。この付着の低下を検出することによって鉄筋の腐食を検出しようとする方法が電磁パルス法である。
 
電磁パルス装置の構成および装置の例を図- 8,写真- 5に示す。
 

【図-8 電磁パルス装置の構成】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真-5 電磁パルス装置の例】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
電磁パルス法は,コイルにパルス状の大電流を流すことによって磁場を発生させ,この電磁力によりコンクリート内の鉄筋を非接触で振動させる。その振動はコンクリートを伝搬し,表面に設置したセンサで受信する。鉄筋が腐食していなければコンクリートとの付着が良好であり強い振動が受信される(図- 9(a))が,腐食が始まり付着が低下すると受信波形が小さくなる(図- 9(b))。このような比較によって鉄筋が腐食しているかどうかを判断する方法である。
 

【図-9 電磁パルス法の受信波形】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この方法は,非破壊で,比較的簡単に鉄筋が腐食しているかどうかを判定できるという特徴がある。
 
 

8.はく離※4),5),7)

8.1 はく離試験の概要

鉄筋が腐食すると,コンクリートにはひび割れ,はく離・はく落などを生じる。これらの変状を生じているときは,すでに腐食がかなり進行している段階である。はく落すると第三者に危害を及ぼす恐れがあることから,はく離を早期に検出することが求められている。これまでは打音によって検出していたが,構造体表面に近接しなければならないため,足場などが必要となる。そのため,非接触で広範囲に調査できる赤外線サーモグラフィの適用が期待されている。しかし,トンネルや橋梁の桁下などは温度の変化が小さい,汚れとの判別が難しいなどの問題があり,赤外線サーモグラフィの適用が難しい場所があることから,最近は温度の影響などを受けることがない空中放射音やレーザーを用いてコンクリート表面に振動を与える方法が検討されている。
 

8.2 空中放射音による非接触はく離検出試験

この方法は,音波でコンクリート表面に振動を与え,その振動をレーザードップラーで受信することにより,はく離や内部の変状を検出するものである。非接触でコンクリート表面に振動を与えるため,音源は長距離音響発生装置(LRAD:Long Range Acoustic Device)が用いられており,装置の構成は図- 10 のようになっている。
 

【図-10 空中放射音とレーザ -ドップラーの配置状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真- 6に内部欠陥の検出実験の状況と,右上の検出結果を示す。右上の赤い部分が欠陥を検出していることを示している。
 

【写真-6 空中放射音による内部欠陥の検出状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

9.おわりに

コンクリート構造物の検査・点検項目は多く,それぞれの項目について試験条件などに応じて多くの非破壊・微破壊試験方法が研究開発されている。今回は竣工検査に重要と考えられるコンクリートの強度と鉄筋のかぶり厚さと間隔,点検については,鉄筋腐食に関する各段階(表層の緻密性,中性化深さ,塩化物イオン量・深さ,鉄筋腐食,はく離)における非破壊試験の概要と,特徴的な試験方法について紹介した。紙数の都合でかなり絞り込まなければならなかったため,詳細な内容や,そのほかの試験方法についても興味のある方は,参考文献などを参照いただきたい。
 
 
 


参考文献
1) 森濱和正:構造体コンクリート強度に関する非破壊・微破壊試験方法と規格,非破壊検査,Vol.64,No.9,pp.444-450,2015.9
2) 例えば,国土交通省:非破壊試験等によるコンクリートの品質管理について,    
  2012(H24).3(http://www.mlit.go.jp/tec/sekisan/sekou/pdf/240328hihakaihonbun.pdf)
3) 前掲書1)濱崎仁:配筋調査に関する試験方法と規格,pp.438-443
4) 森濱和正:コンクリート構造物の点検における評価対象別の非破壊試験 ②鉄筋腐食評価の試験方法,コンクリート工学,
  Vol.53,No.7,pp.641-647,2015.7
5) 前掲書1)小林幸一ほか:外観調査に関する試験方法と規格,pp.432-437
6) 渡辺健ほか:コンクリート表層品質に関する試験方法と規格,pp.451-456
7) 内田慎哉ほか:コンクリートのひび割れ・空隙・はく離調査に関する試験方法と規格,p.457-465
8) 湯浅昇:コンクリートの微破壊試験と化学分析,pp.466-472
 
 
 
【出典】


土木施工単価2016冬号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2016-09-27

 

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