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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 施工BIMの今 -竹中工務店における設計施工のメリットを生かした施工BIM-

 

はじめに

竹中工務店における施工BIM事例の第1号は、1988 年竣工のドーム建築であり、大規模な屋根を精緻に施工するため、3次元データで光波測量機を制御した事例である。当初は、このように特殊な施工条件へ対応する手段としての活用が主であったが、近年は、条件に関わらず広く施工BIMに取り組んでいる。特に設計施工案件のメリットをより生かす手段として、施工段階におけるゼネコン・専門工事会社の調整等での活用が進んでおり、本報では事例と、実施するための基盤整備状況を紹介する。
 
 

施工BI Mの事例(1)専門工事会社連携によるBIMモデル合意

当社では、「BIMモデル合意」と呼ばれる手法を活用した事例が多い。BIMモデル合意とは、日建連「施工BIMのスタイル」1)で定義された表現で、異工種間調整をゼネコンと専門工事会社がそれぞれ作成したBIMモデルの重ね合せによって実施することである。従来、打合せのためだけに作成していた2次元図面の削減や、課題の早期解決といった効果が期待できる。
 
当社におけるBIMモデル合意の運用としては、作業所に社内外関係者が集まり、重ね合せたBIMモデルをプロジェクター等で表示しながら、その場で課題解決する、もしくはビューア上で記録する打合せ(以下、重ね合せ会という)を定期的に開催する方法が多い。特に、設計施工案件では、設計段階から施工関係者を交えた重ね合せ会を実施し、生産情報を早期に反映させていくことで、課題解決の効率化を図っている。重ね合せ会の様子を図-1に、レポートの例を図-2に示す。
 

図-1 作業所における重ね合せ会の様子




 
 

図-2 ビューア上で作成する課題レポート




 
 
現状、BIM対応が可能な専門工事会社は鉄骨・設備・鉄骨階段・ELV・外部建具が主であり、その他の工種については当社が2次元の製作図を取りまとめ、適切にBIMモデルへ反映していく。重ね合せ会では、データマネジメントを行う担当者自身が課題抽出・解決を行う必要があるため、作業所の施工図担当者が務めると、うまく運用できているケースが多い。活用事例では、躯体と空調設備との重ね合せによるスリーブ調整における事例が多く、関係者全てでメリットが得られている取り組みである。例えば図-3のように、RCモデル上で梁貫通可能な範囲を視覚的に自動表示させることで、調整作業が大幅に効率化されている。
 

図-3 RC梁貫通箇所の検討例




 
 
さらに、自社開発の鉄筋BI Mツール「RCS」を活用し、鉄筋専門工事会社と連携した加工図・加工帳作成の取り組みも始まっている(図-4)。
 

図-4 自社開発の鉄筋BIM ツール「RCS」を活用した施工BIM




 
 

施工BIMの事例(2)BIMモデル承認の取り組み

先端的な取り組みとしては、合意だけでなく、承認までBIMモデル上で行う「BIMモデル承認」にも取り組んでいる。対象は鉄骨承認が多く、鉄骨モデルのプロパティに確認記録を残すツールを活用する等、エビデンスの残し方に工夫をしている。BIMモデル承認を実施することで、体裁が細かく決められている2次元承認図が不要となり、ファブの作図労力・ゼネコンのチェック工数が削減される。ただし、関係者間での確認や、工場における鉄骨製作、現場での施工では2次元図面が必要となる。それらでは、鉄骨製作のために工場で必ず作成される単品図を使っている。省略した承認用の詳細図と、製作用の単品図の違いは、図-5に示す通り、通り心や寄り・下がり寸法の記載有無等が主である。これらは製作上必要ないが、ゼネコン承認のためだけにファブが手間をかけて作成しているものである。
 

図-5 省略する承認用詳細図と、必ず作成される製作用単品図の違い




 
 
このように、BIMによって省略できるもの、できないものを事前に仕分けすることで、施工BIMによる効果をより享受できる。
 
なお、BIMモデル合意・承認におけるポイントは、BIMモデルの信頼性に尽きる。2次元図面が正になってしまうと、BIMモデルでの合意内容に意味がなくなってしまうためである。信頼性確保のためには、作業所長のリーダーシップが不可欠となる。途中で2次元図面を作成せず、プロジェクトとしてBIMモデル合意に取り組む体制、雰囲気作りが重要である。
 
 

施工BIMの事例(3)図面・モデル支給を実現する施工BIM

設計施工のメリットのひとつは、先述した通り、設計段階から早期に生産情報を盛り込むことができる点である。また、BIMモデル合意の効果として、2次元よりも早期に課題抽出・解決が可能となる点がある。この2点が組み合さることで、納まり調整のみに留まらず、ゼネコン・専門工事会社の作業範囲・責任範囲を、より合理的に変革することが可能となってきている。具体的な例として、他製作物との取り合いまで調整した製作図基図、もしくはそのまま製作可能なレベルのBIMモデルまでを当社が責任を負って作成し、工場へ支給する取り組みを始めている。
 
図-6に、鉄骨製作を題材に、従来と新手法の違いを示す。
 

図-6 従来手法と新手法の責任範囲の違い




 
 
従来は、製作図作成と他製作物調整が並行して発生するため、ファブがモデル・図面の変更修正作業で多大な工数を要していた。そこで、当社ではBIMモデル合意によって早期に附帯鉄骨との取り合いを確定させることで、ファブへ変更のないモデル・図面を支給する取り組みを始めている。
 
適用対象として、S造の大規模曲面屋根、および「燃エンウッド」という木材の柱部材で実施した際に支給したBIMモデルと製作図の例を図-7、8に示す。
 

図-7 屋根鉄骨部材の支給モデルとパネル図

図-8 燃エンウッド部材の支給モデルと加工図




 
 
特に、S造の大規模曲面屋根の事例では、BIMモデルからのCAM連動が可能な鋼材メーカーと連携することで、1次加工までの作図手間を最小限に削減した鋼材を、当社からファブに支給する取り組みまで実施している。
 
 

推進体制と基盤整備

先述のような施工BIMの取り組みを始め、当社では全社的にBIMを推進していく方針である。2015 年7月に「BI M 推進チーム」(2016 年12 月現在)という本社の推進組織が発足するとともに、設計・施工両職能の専任社員も配備した。具体的な基盤整備施策として、(1)ハード(2)ソフト(3)教育の3点を挙げる。(1)(2)では作業所への64bitPC配備、作業所ファイルサーバーのクラウド化、BIMモデルの部品整備、ソフトウェア開発等を実施している。(3)では施工BIMで先進的に取り組んでいる全国の作業所長同士の交流会を企画するなど、プロジェクトをマネジメントする人材の育成、ノウハウの展開を図っている。
 
 

今後の展開と期待

本報ではゼネコン・専門工事会社の調整における施工BIMを中心に、設計施工のメリットを生かした事例を紹介した。今後は、施工BIMの効果をさらに享受するためにも、業界全体へ施工BIMを広めるためにも、BIM対応が可能な専門工事会社・工種が増加することに期待している。
 
他産業では、製造業を中心にICT技術が鍵となってIoT・Industry4.0と言われるものづくり革新が進んでいる。同じように、建設業ではBIMが鍵となり、ものづくりの仕組み自体を変革する、産業革命につながる可能性を秘めていると言っても過言ではないだろう。当社の施工BIMが、その一助となれば幸いである。
 
参考文献
1)日本建設業連合会:「施工BIMのスタイル施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き2014」、2014.1
 
 
 

株式会社 竹中工務店 BIM推進室 主任 生産担当 染谷 俊介



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 

最終更新日:2017-07-24

 

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