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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > スポーツ施設における天然芝と人工芝の特長と用途別選定条件について

 

はじめに

天然芝は,古来より景観用と保安防災用そしてスポーツ施設用として使われて来た。景観用の芝生は,庭や公園をみどりで飾り憩いの場所を創出し,保安防災用の芝生は,河川,造成地や道路の法面保護,飛行場などに使用されている。そしてスポーツ施設用は,草原の遊び場に始まりレスリング,陸上競技,弓道の矢道,ゴルフコース,サッカー,ラグビーの競技場に使われてきた。今では,整備されたスポーツ施設のサーフェースとして多種に利用されている。
 
近年,人工芝も技術の発展に伴いじゅうたん仕様から天然芝と同様に景観用・保安防災用・スポーツ施設用と多種多様な素材が多くの場所に用いられている。
 
本稿では,スポーツ施設における天然芝と人工芝の特長と用途別選定条件について述べる。
 
 
 

1. 天然芝

天然芝生の特長は,地表面を植物が自然に被うことでプレーの安定性と衝撃吸収の安全性を保持している。環境的には,光合成により二酸化炭素の吸収と酸素の供給を行う。夏場は,温度上昇の抑制にも寄与している。そして何よりもプレーする側も観る側も気持ちがいい。ただ,生き物であるが故,使用頻度で踏圧過多による擦り切れ死滅,病気による成長の変化を起こす。競技性を保つために一定の刈込や,成長を維持するための散水・施肥その他更新作業も必要になる。また,芝生維持のためには使用制限による養生も行う必要がある。
 
 
 

2. 天然芝のハイブリッド化

30年以上前から,天然芝グラウンドやコートの補強を目的としたハイブリッド芝が用いられるようになってきた。
 
天然芝のハイブリッド化は,1986年オランダで開発された。その目的は,天然芝生施設を好条件の状態で長時間使用できるグラウンド・コートにすることであった。現在,世界900箇所以上のグラウンド・コートで実施されているものは,人工繊維の打ち込み式アンカーフィールド仕様(図-1)である。2cmピッチに打ち込まれた人工繊維の補強が,激しいプレーによる芝生のずれと剥離を防ぎ,芝生の生育に欠かせない通気性と透水性を助ける効果がある。すでに数多くの使用が実証されており,条件が揃えば既存の芝生グラウンドでもハイブリッド化の補強が出来る。打ち込み補強施工期間は,サッカーフィールド7,500㎡で7日から10日程度であり,選手らはアウェーでの試合から帰ってきたら,ハイブリッド芝ピッチに蘇っていることが可能だ。
 

図-1 ハイブリッド芝(アンカーフィールド仕様)




第二のハイブリッド芝として2010年頃,根の抜ける基布地のロングパイル人工芝が開発された。ハイブリッド芝用のロングパイル人工芝のパイル間に砂を充填し,播種,撒き芝で天然芝を成育させるシートフィールド仕様(図-2)である。この方法は,専用機械を必要としないため多くの施設での普及が見込まれている。課題は,前述のアンカーフィールド仕様に比べ基布より下部の根張りが少ないことである。耐久性はアンカーフィールド仕様より劣ることから基布の下に根毛をたくさん通す製品と芝種を選定し,工法を確立することが求められる。
 

図-2 ハイブリッド芝(シートフィールド仕様)




 

3. 人工芝

人工芝は,じゅうたんと同様に化学繊維を基布に縫い付け,天然芝に模擬して作られたものである。その種類は,材料と製造方法そして構造により多岐にわたり,更に用途別によって分類される。

3-1 第一世代人工芝(1G人工芝)

じゅうたんから開発されたパイル長が短く密度のあるじゅうたん型人工芝は,野球・テニス・サッカー・景観仕様を中心に使用され,今でも広く普及している。その形態は,ストレートタイプとカールタイプである。パイル長が短いため衝撃を緩和する目的でいろいろなショックパットも開発された。芝高が短く高密度の形状は,パターゴルフ・テニス・ゲートボール・フットサルなどボールの転がりと跳ねを重視する球技と踏み込みのブレが影響する徒競走を主にする学校グラウンドなどの多目的グラウンドに適する。

3-2 第二世代人工芝(2G人工芝)

現在,多数のテニスコートで見られる砂入り人工芝が,第二世代人工芝で日本では非常に多い。
 
砂入り人工芝は,人工芝に砂を入れる構造で約40年前,1980年代に体育競技施設に登場した。テニスブームもあり,瞬く間に普及した。クレーコートを使用していたテニスプレーヤーには芝生のコートは憧れだったが,当時,高密度人工芝は1m2当たり3万円ほどかかり,高コストだった。これに比して1/3から1/5程度のコストで造ることのできた砂入り人工芝は,維持管理費の少ない手ごろな人工芝として受け入れられ,多種競技施設にも普及した。しかし,使い続けていくうちに砂が締まり表面が固くなると,テニスコート以外の施設から消えていった。砂入り人工芝が固くなる原因は,パイルの打ち込み量の少なさから起こる砂の固結であった。
 
現在は,パイル量の多い改良型砂入り人工芝も開発されている。このタイプは,テニスコートも含め学校グラウンドなど多目的グラウンドに最適である。本来充填砂は,人工芝の重みとして考えられるべきであったので多量に砂を充填することはない。

3-3 第三世代人工芝(3G人工芝)

砂入り人工芝があまり普及しなかったアメリカ・ヨーロッパでは洋芝型ロングパイル人工芝が出現した。これは,長いパイル(40~70mm程度)に重みの砂と衝撃吸収用のゴムチップを充填するタイプの人工芝である。サッカー・野球・アメリカンフットボール・ラグビーと転倒衝撃に気を配る競技に受け入れられ,たちまち普及していった。これが第三世代人工芝ロングパイル人工芝となる。国際サッカー連盟(FIFA),ワールドラグビー,日本サッカー協会,日本ラグビー協会が基準を決め推奨したことも普及を後押しした。
 
たくさんのグラウンド・コートに普及したロングパイル人工芝に近年,問題点が指摘された。それは充填されたゴムチップの一部による発がん性問題である。ゴムチップに替わる充填材としてコルクなども利用されているが,この問題は未だ解決されておらず使用者の健康問題であるため速やかな解明が望まれる。ゴムチップ問題は,健康問題以外に汚染問題も起こしており,靴や衣服に着いたゴムチップがグラウンド外の周辺建物や,自宅に持ち込まれることで大きな問題になっている。

3-4 第四世代人工芝(4G人工芝)

2010年頃から2種類のパイル特性を持った二重構造人工芝が開発された。クッション性を持つ捲縮パイルと腰の強い直パイルを織り合わせたセミロングパイル人工芝である。このタイプは,衝撃緩衝用ゴムチップの充填材を必要としないが,利用できる競技種目は,すべてに適すものにはなっていない。
 
このように人工芝の技術開発は進展しているが,現時点ではまだすべての競技に適するものはなく,それぞれの競技特性に合った人工芝のタイプを選定することが重要である。
 
 
 

4. 人工芝の基盤

人工芝にとって基盤は,重要な問題である。基盤選定と状態によりその後の人工芝施設の状況も変わる。
 
基盤構造は,建設予算とも関係する。多くの人工芝基盤は,透水性アスファルト舗装,土の構造を持つ剛弾性舗装(E・レイヤー)での舗装構造が多い。近年,サッカー・ラグビー場・多目的グラウンドの施設で砕石路盤に人工芝を敷設する構造がある。この構造方式の場合は,特に地盤の安定した上に注意して施工する必要がある。
 
 
 

5. 選定の条件(芝生施設と考えた場合)

使用用途,競技特性,予算により芝生の選定をしなければならない。それは,専用施設にするか,多目的に利用するかで選定結果が異なるからである。ボールの跳ね返りを重視する競技施設なのか転倒衝撃に気を配る競技施設なのかでその選定は決まる。その他建設予算も重要である。選定時の参考になればと比較検討表を作成したので紹介することで本稿を終える(表-1)。
 

表-1 グラウンド・コート舗装比較検討表


 
 

株式会社パルカ 代表取締役  石原 俊秀

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年8月号


 
 

最終更新日:2023-07-07

 

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