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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 工芸王国・石川に国立工芸館が開館〜明治時代の洋風建築を移築・活用〜

 

1. はじめに

東京国立近代美術館工芸館は,近現代の工芸およびデザイン作品を幅広く収集・展示する国立美術館です。国の地方創生施策の一環である政府関係機関の地方移転に対して,「工芸王国・石川」とも呼ばれる石川県にふさわしい施設として提案し,移転が決定したものです。
 
移転後の通称を「国立工芸館」と冠し,日本海側初の国立美術館として2020年10月に開館しました。
 
移転先となる建物は石川県と金沢市が協力して整備し,国の登録有形文化財である旧陸軍の「第九師団司令部庁舎」と「金沢偕行社」を移築・活用し,過去に撤去された部分も含めて,かつてあった姿に復元しました。
 
 
 

2. 建物概要

国立工芸館の外観は,2棟並んだ歴史的な建造物をガラス張りのエントランスでつなげています。これらは県立能楽堂の敷地内にあった第九師団司令部庁舎と将校の社交場であった金沢偕行社を解体,移築しています。ともに明治時代に建てられており,明治に導入され始めた西洋建築の特徴や技法が散りばめられた建物で,飾りの付いた上げ下げ窓,天井や柱の装飾,ケヤキ造りの重厚な階段など随所に当時の面影を見ることができます。
 

【国立工芸館 竣工写真】


 

【航空写真(金沢市出羽町)】


 

【復元後 平面図】




 

3. 解体・調査

登録有形文化財の価値を維持するため,移築部分の意匠を保存するとともに,可能な限り軸組を残す必要がありました。解体時には古材を一つひとつ丁寧に取り外しながら,採寸,番付,軸組調査,強度試験,写真撮影を詳細に行い,形状寸法のリスト表を作成した上で復元・補強方法を検討しています。
 
また,調査の結果,2つの建物の窓枠など外観の色が,復元前と明治期の建設当時とは異なっている痕跡が確認されたことから,第九師団司令部庁舎については窓枠などをこげ茶色に,偕行社については緑色に,それぞれ建設当時の姿を再現しています。
 

  • 外観の特徴
    左右対称の構成で,正面中央は付柱(ピラスター),三角形の
    切妻壁(ペディメント)で表現され,2階正面と側面の角の上
    げ下げ窓下には装飾が施されるなど,簡素なルネサンス風の外
    観をしている。
    屋根は瓦葺きで当初は,屋根から突き出した換気のための窓
    (ドーマーウィンドウ)が設けてあった。
    庁舎のため偕行社に比べて質素な外観になっている。

  • 外観の特徴
    明治31 年に建てられた第九師団司令部庁舎に対して,金沢偕
    行社は11年後の明治42年に建てられており,主要な構造は類
    似しているが,外観の意匠に工夫を凝らしている。
    正面にアーチ形玄関,円柱形の付柱(ピラスター),2階上部
    のアーチ窓,三角形のペディメントが付いた上げ下げ窓,横方
    向の部材(コーニス)を多く入れて水平線を強調するなど,バ
    ロック風の技巧的な装飾を用いた華やかな意匠としている。
    屋根は瓦葺きで,中央部は急勾配で上部が水平になっている
    マンサード風屋根になっている。




 

4. 構造計画

【エントランスホール】


失われた第九師団司令部庁舎の両翼部分と金沢偕行社の講堂部分の復元を検討するに当たり,外観上は移築部分と復元部分との境界が分からないように,また,文化財の公開に適した施設として整備するため,耐火・耐震性能を確保する必要がありました。そこで,構造計画は移築部分(木造)と復元部分(鉄筋コンクリート造)の平面混構造を採用しました。(一財)日本建築総合試験所(GBRC)の安全審査委員会,構造計算適合性判定を経て,かつてあった姿への復元を実現しています。


 

5. 設備機器等

【ケヤキ造りの階段(第九師団司令部庁舎1階)】


展示室では温湿度を一定に保つことが重要であり,温度を24℃(±1℃),湿度を50%(±2%)に制御できる空調設備を導入しています。また,展示室は多彩な美術工芸作品が際立つように天井や壁の色を白で統一し,展示ケースは免震構造のものを設置しています。
 
また,収蔵・展示作品に悪影響を与える化学物質(建物から発生するアンモニア,ギ酸等)を低減するために「枯らし期間」を設けた工期設定を行っています。これら美術館用途として必要な機能を備えた建築物として整備しています。


 

6. 夜間景観への工夫

【多目的室(金沢偕行社2階)】


建物の特徴である明治期の洋風建築の意匠を夜間にも堪能していただくため,ライトアップを施しています。外壁をくっきりと浮き上がらせるため,下から上方向に垂直に照明を当てることに加え,外壁を彩る窓枠一つひとつに照明を取り付け,窓枠装飾を強調して照らし出すなど工夫を凝らし,都心部の夜の魅力が高まることを期待しています。


【国立工芸館 竣工写真(夕景)】




 

7. おわりに

工芸館が所蔵する美術工芸作品のうち,人間国宝や日本芸術院会員の全ての作品を含む,約1,900点が東京から移されます。
 
国立工芸館が立地する金沢市の「兼六園周辺文化の森」は,特別名勝兼六園を中心とする半径1kmの範囲(60ha)に,江戸から平成までの各時代の歴史的建造物や文化施設が重層的に集積する文化ゾーンです。開館により,石川県ゆかりの美術工芸品を展示する県立美術館や日常生活での工芸品の活用を提案する生活工芸ミュージアムと合わせて,日本の工芸の全貌を一堂に鑑賞できるエリアが形成されました。国立工芸館の開館を契機として,相乗効果を発揮できるよう周辺文化施設が連携を深めてまいります。
 


─日本工芸の発信拠点として─
国立工芸館では,10月24日に文部科学省および地元関係者,工芸館関係者による開館記念式典を開催し,名誉館長には元サッカー日本代表の中田英寿氏が就任しました。
 
翌25日からは一般公開が始まり,来年度まで開館を記念した特別展が3回開催される予定です。1月30日からは,石川移転開館記念展Ⅱ「うちにこんなのあったら展 気になるデザイン×工芸コレクション」が開催されます。
 

  • 【開館記念式典 テープカットの様子】

  • 【作品を鑑賞する名誉館長・中田英寿氏】


石川移転開館記念展Ⅱ
「うちにこんなのあったら展 気になるデザイン×工芸コレクション」

もしも自分の家に,こんなものがあったらと,想像してみること。それは私たちが日常でふと目にしたものを,使ってみたいと思うきっかけの一つになります。一方でこの想像は,作り手が人々に向けて新しいものを生み出す時の原動力にもなります。自分自身の,あるいは誰かの,より快適で美しく,彩りのある生活を夢みたデザイナーや工芸家たちによって,さまざまな器や家具が作られてきました。
 
本展では,クリストファー・ドレッサー(1834-1904),富本憲吉(1886-1963),ルーシー・リー(1902-1995)を中心に,国立工芸館のコレクションから厳選したデザイン・工芸作品を紹介します。
 
会期:2021年1月30日(土)〜4月15日(木)

※新型コロナウイルス感染症予防対策のため,来館日時を予約する日時指定・定員制を導入予定です。
 詳細は,国立工芸館HPをご覧ください。
 URL:https://www.momat.go.jp/cg/

 


  • クリストファー・ドレッサー《卵立て》
    1878 年頃 東京国立近代美術館蔵
    撮影:斎城卓

  • 富本憲吉《色絵家形筆架》
    1937 年 東京国立近代美術館蔵
    撮影: アローアートワークス

  • ルーシー・リー《 コーヒーセット》
    1960 年頃 東京国立近代美術館蔵
    Estate of the artist
    撮影: エス・アンド・ティ・フォト


 
 
 

石川県 土木部 営繕課

 
 
 
【出典】


建築施工単価2021冬号



 
 
 

最終更新日:2021-06-28

 

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