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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 国土交通省が推進するインフラ分野のDX

 

はじめに

インフラ分野においては、今後深刻な人手不足が進むと懸念される一方で、災害対策やインフラの老朽化対策の必要性は高まっている。こうした課題に対応するため、国土交通省では、ICT技術の活用等による建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionに、2016年度から取り組んできた。
 
加えて、新型コロナウイルス感染症を踏まえ、建設現場においても、3密を避けた新たな働き方へ転換していくことが求められている。
 
このため国土交通省では、データとデジタル技術を活用し、国民のニーズを基に社会資本や公共サービスを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革することで、インフラへの国民理解を促進し、安全・安心で豊かな成果を実現することを目指し、インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進している。
 
本稿では、国土交通省におけるインフラ分野のDXに関する最新の取り組み状況を紹介する。
 
 

Society5.0の実現による新たな日常の構築

新型コロナウイルス感染症の流行は、その中心地を、中国から米国・欧州、中南米・アフリカへと移しながら世界規模に拡大しており、この影響は広範で長期にわたる。感染症が収束したポストコロナの世界は、新たな世界、いわゆる「ニューノーマル」へと移行するとの見方が強い。
 
わが国においても、テレワーク、住まいに関するニーズの変化等、社会経済の変化が発生している。感染症拡大の先行き等が確実でない中、今回の感染症で顕在化した課題を克服した後の経済社会の基本的方向性として、「新たな日常」を通じた「質」の高い経済社会の実現を目指すこととしている。1)
 
また、令和2年9月に発足した菅新内閣において、行政の縦割りを打破し、大胆に規制改革を断行するための政策として、行政のデジタル化を強力に推進するデジタル庁の設置が進められている。菅総理大臣からは、国民が当たり前に望んでいるサービスを実現し、デジタル化の利便性を実感できる社会を作るという方針が示されている。
 
このように政府を挙げ、デジタル化による社会の変革が求められる中、国土交通省においても、国民目線に立ち、インフラ分野のデジタル化・スマート化を、スピード感を持って強力に推進していく必要がある。
 
 

データとデジタル技術を活用したインフラ分野の変革~インフラ分野のDX~

インフラ分野におけるデータとデジタル技術の活用は、2016年度より建設現場の生産性を高めるため、ICT施工やBIM/CIM(Building/Construction Information ModelingManagement)をはじめとする3 次元データの活用等、i-Constructionを推進してきた。将来的には、測量から設計、施工、維持管理に至る建設プロセス全体を3次元データでつなぎ、新技術、新工法、新材料の導入、利活用を加速化することを目指している。さらに、事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより、一連の建設生産システムにおける受発注者双方の業務効率化・高度化が期待される(図-1)。
 

建設生産プロセスを3次元でつなぐ

図-1 建設生産プロセスを3次元でつなぐ




i-Constructionに関する工種拡大

図-2 i-Constructionに関する工種拡大




 

これまでの成果として、例えば、調査・測量、設計、施工、検査等のあらゆる建設生産プロセスにおいてICTを全面的に活用する取り組み(ICT活用工事)では、国土交通省において、図-2のように必要な積算や技術基準等の整備を進めてきた。令和元年度の取り組み状況は、令和元年度末時点において、直轄工事におけるICT活用工事の公告件数2,397件のうち1,890件の、約8割で実施している。ここに、ICT活用工事とは、以下に示すICT活用における施工プロセスの各段階においてICTを全面的に活用する工事である。
 
【施工プロセスの各段階】
①3次元起工測量
②3次元設計データ作成
③ICT建設機械による施工
④3次元出来形管理等の施工管理
⑤3次元データの納品
 
加えて、今般の新型コロナウイルス感染症を踏まえ、感染症リスクに対しても強靱な経済構造の構築を加速することが喫緊の課題である。このため、インフラ分野においても、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の加速化に着手したところである。デジタル・トランスフォーメーションは、単なるデジタル化ではなく、これまでの常識にとらわれることなく、公共サービスの変革や、業務、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革し、国民、業界、職員への貢献を目指す取り組みである。
 
このDXの基盤として、調査・測量・設計から施工、維持管理に至る建設生産プロセスを3 次元データ(BIM/CIM)でつなぐ取り組みを推進する必要がある。BIM/CIMを導入することで、建設生産・管理システム全体を見通した施工計画、管理などのコンカレントエンジニアリング、フロントローディングの考え方を実施していくことが可能となる。国土交通省は、平成24年度から橋梁やダム等を対象に導入し、令和元年度は、大規模構造物の詳細設計において、BIM/CIMを原則適用とする等、適用拡大に取り組んできたところである。こうした中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機として、国土交通省では、強靭な社会経済構造の構築に向け、公共工事の現場のデジタル化を進め、非接触・リモート型の働き方への転換等を強力に推進しており、一つの目標として、2023年度までに小規模なものを除く全ての公共工事でBIM/CIM活用に転換することとしている。
 
インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組みを進めるべく、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を令和2年7月29日に設置したところである。
 
 

インフラ分野のDXの具体的取り組み

去る令和2年10月19日に第2回インフラ分野のDX推進本部を開催し、インフラ分野のDX施策概要を公表した。この中で、大きく4つの方向性で取り組みを推進することとしている(図-3)。
 

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーションで実現するもの

図-3 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーションで実現するもの




1点目は、「行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革」である。
 
これは、デジタル化による行政手続き等の迅速化や、データ活用による各種サービスの向上を図る取り組みである。
 
具体的には、特車通行手続き等の迅速化や港湾関連データ基盤の構築等による行政手続きの迅速化に加え、ITやセンシング技術等を活用したホーム転落防止技術の活用やETCによるタッチレス決済の普及等に取り組むこととしている(図-4)。
 
行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

図-4 行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革




2点目は、「ロボット・AI 等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上」である。
 
これは、ロボットやAI等の活用により危険作業や苦渋作業の減少を図るとともに、経験が浅くても現場で活躍できる環境の構築や、熟練技能の効率的な伝承等に取り組むこととしている。
 
具体的には、無人化・自律施工による安全性・生産性の向上やパワーアシストスーツ等による苦渋作業の減少による安全で快適な労働環境の実現、AI等による点検員の判断支援やCCTVカメラ画像を用いた交通障害自動検知等によるAI等を活用した暮らしの安全確保、人材育成にモーションセンサー等を活用するなど熟練技能をデジタル化した効率的な技能習得等の取り組みである(図-5)。
 
ロボット・AI等活用で人を支援し、現場や暮らしの安全性を向上

図-5 ロボット・AI等活用で人を支援し、現場や暮らしの安全性を向上




3点目は、「デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革」である。
 
これは、調査・監督検査用務における非接触・リモートの働き方の推進や、データや機械の活用により日常管理や点検の効率化・高度化を図る取り組みである。
 
具体的には、衛星を活用した被災状況把握等による調査業務の変革、画像解析や3次元測量等を活用した監督検査の効率化やリモート化に加え、AI活用や技術開発により点検・管理業務の効率化等を図る取り組みである(図-6)。
 
デジタルデータを活用し仕事のプロセスや働き方を変革

図-6 デジタルデータを活用し仕事のプロセスや働き方を変革




4点目は、「DXを支えるデータ活用環境の実現」である。これは、スマートシティ等と連携し、データの活用による社会課題の解決策の具体化に加え、その基盤となる3次元データの活用環境を整備する取り組みである。
 
具体的には、都市の3次元モデルを構築し、各種シミュレーションによるユースケースの開発に加え、データ活用の共通基盤となる位置情報の基盤整備、さらには3次元データの保管・活用や通信環境の整備等を進める取り組みである(図- 7)
 
DXを支えるデータ活用環境の実現

図-7 DXを支えるデータ活用環境の実現




 

おわりに

以上、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXの取り組みについて紹介した。コロナを契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、省横断的に取り組みを進め、社会を変革する先導役となることを目指していきたい。
 
一方、それぞれの取り組みを推進することは重要だが、こうした取り組みで得られたデータ等を連携し、横断的に活用することにより新たな価値を創造していくことも重要な取り組みである。このため、各種データを連携する基盤として、「国土交通データプラットフォーム」の構築にも取り組んでいるところである(図-8)。
 

国土交通データプラットフォームで実現を目指すデータ連携社会

図-8 国土交通データプラットフォームで実現を目指すデータ連携社会




国土交通省における所管分野のDXの推進と合わせて、省内各分野のデータとの連携を進めるとともに、官民からさまざまな提案を募り、利活用方策を具体化して発信を行うことにより、プラットフォームを活用した価値の創造にも取り組んでいきたい。
 
データとデジタル技術の活用により、インフラ分野における変革を加速すべく、部局の垣根を越え、省一丸となり取り組みを進める所存である。
 
 
[参考文献]
1)経済財政運営と改革の基本方針2020
 (令和2年7月17日閣議決定)
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 中西 健一郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 

最終更新日:2021-07-26

 

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