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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > JR東日本における建設DXの取り組み―JRE-BIMの推進―

はじめに

国土交通省では、令和5年度より小規模工事を除く全ての公共工事の詳細設計においてBIM/CIM原則適用となった。
JR東日本においても建設工事の推進において、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理までの一連のフローを「JRE-BIMサイクル」と称し、BIM/CIMを活用することで生産性向上を図る取り組みを各種実施してきている(図-1)。
本稿では、これまでの取り組み内容とともに、今後の方向性について概説する。

図-1 JR東日本におけるBIM CIMの取り組み
図-1 JR東日本におけるBIM/CIMの取り組み

 
 

これまでの取り組み

概要

図-2に、これまでのJR東日本におけるBIM/CIMの取り組みの概要を示す。

図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み
図-2 これまでのJRE-BIMの取り組み

2016年に受発注者相互の共通データ環境となる「BIMクラウド」を試行開始し、2018年には3Dレーザースキャナーによる地形測量の原則化、JRE-BIM研修をスタートした。
2020年には「JRE-BIM」の推進方法をまとめたJRE-BIMガイドラインを制定し、2021年には設計段階におけるBIMモデル作成の原則化などを実施してきた。
最近では、後述する三次元点群クラウド「TRANCITY」の開発と、このサービスを提供する関連会社「CalTa」の設立などを行い、点群とBIMの活用促進を図っている。
 

BIMクラウド(環境)

BIMクラウドの概要を図-3に示す。
受発注者でのデータ共有のほか、ワークフロー機能を備え、電子納品箇所としての活用を行っている。
2016年の試行開始からこれまでに33TBを超える工事関連のデータが蓄積されており、加速度的にデータ登録数も増え活用が加速している。

図-3 BIMクラウド
図-3 BIMクラウド

 

ガイドライン(ルール)

ルール面での整備も進めている。
JRE-BIMの標準的な進め方をまとめたJRE-BIMガイドラインは2020年に初版を制定以降、毎年改訂を重ねている。
2023年度は、動画から生成した三次元データでの工事写真の納品方法や、点群による構造物の計測方法などをとりまとめた施工編の拡充を主に行った(図-4)。
図-4 JRE-BIMガイドライン
図-4 JRE-BIMガイドライン
 

研修(人)

研修による社員のスキル向上も図っている(図-5)。
2018年からスタートし2022年には延べ380名以上の社員が基礎編は受講し、モデリングなどを行う応用編や実務編といったニーズに即した研修なども用意し、受講者も募っている。

図-5 JRE-BIM研修の受講者数
図-5 JRE-BIM研修の受講者数

 

主な活用事例

図-6に土木、建築、電気などの系統をまたがる工事での干渉や整合確認への活用事例を示す。
建築で施工する人工地盤鉄骨と電気で施工する電化柱の離隔の確認や、土木で施工するホーム舗装と建築で施工するエレベーターとの取り合いなどを、BIMモデル上で事前に確認することで、事後の手戻りなどを軽減させた。

図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)
図-6 主な活用事例 (干渉・整合確認)

 
図-7に駅改良工事での駅係員(立ち番)配置位置の検討への活用例を示す。
新設するホーム上で、駅係員(立ち番)からの見え方をVR上に再現し、駅社員などが事前に確認することで、立ち番設置位置の変更に要する合意形成の省力化などを図った。

図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)
図-7 主な活用事例 (合意形成の省力化)

 
図-8に線路近接作業時の安全性・施工性の確認への活用例を示す。
現地を計測した点群に、新設する構造物や重機類のBIMモデルを配置し、事前の施工検討会などで活用することで、工事関係者の理解の促進を図るとともに、安全な工事推進に役立てた。

図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)
図-8 主な活用事例 (安全性・施工性の確認)

 
さらには、線路切換工事など時々刻々変わる施工現場を、時間軸を加えた4Dのモデルで再現・検討することで、施工ステップ資料の作成時間の削減を図った事例もある(図-9)。

図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)
図-9 主な活用事例 (切換工事当夜の施工計画)

 
 

さらなる活用に向けた取り組み(三次元点群クラウドの活用)

これまで述べてきたようにBIMモデルの活用は積極的に進めてきたが、BIMモデル作成費に比して得られる効果が十分とは言い難い。
「3DCAD」としての活用から、「BIM(Building Information Modeling )」へ脱皮すべく、以下の取り組みを推進している。
 

デジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発と活用

さまざまなBIM/CIMの活用を進めていく中で、活用推進を阻害している要因
を分析すると、「高機能なPCでなくても BIMや点群が扱える」「高度なスキルがなくても扱える」「建設関係者でない人にでも閲覧くらいはできる」というソフトウエア環境が求められていることが分かった。
そこで、BIMモデルおよび点群データを簡易に扱えるデジタルツインソフトウエア「TRANCITY」の開発に着手した。
TRANCITYの概要を図-10に示す。
ユーザーはカメラやスマートフォン、ドローンなどのデバイスで撮影した動画をWeb上にアップロードするだけで、点群や3Dメッシュデータが生成される。
Webブラウザーにアクセスできるユーザーであれば、誰でもどこでも閲覧が可能であることから、関係者でのデータ共有を容易に行うことができる。
点群や3Dメッシュと、動画から切り出された静止画が重畳表示させることができるため、画像での確認も可能な上、各箇所の寸法計測も可能である(図-11)。

図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-10 デジタルツインソフトウェア「TRANCITY」の概要
図-11 「TRANCITY」の特徴
図-11 「TRANCITY」の特徴

 
このTRANCITYを用いて目指す工事管理のイメージを図-12に示す。

図-12 目指す姿(TRANCITYによる)
図-12 目指す姿(TRANCITYによる)

工事開始時点で作成したBIMモデルは3D地図上に地理座標を付与して配置し、工事完成時などには地上レーザースキャナーなどで作成した点群データと重ねることで設計情報との乖離箇所を視覚的に把握する。
日々の工事進捗などは、カメラやスマートフォンで撮影した動画から生成された点群と3Dメッシュを記録することで、工事着手前、工事途中などの状況を3D地図上で保存が可能である。
点群などを保持しているため必要な箇所の計測も可能であるため、従来の工事写真撮影時に配置していたメジャーやリボンテープといった計測道具も不要となる。
建設工事の着工から完成までの一連の流れが地理座標とともに保存が可能となるため、竣工後の維持管理場面での利活用にも大きく貢献するものと考えている。
現在は、従来の工事写真の代替の試行を行っているが、検測記録などの帳票類の置き換えなども視野に取り組んでいる(図-13)。
地下に埋設された貯留槽の新設工事、RC高架橋の地中梁の新設工事などに試行しており、各時点では動画の撮影とアップロードのみで従来の写真整理といった内業が軽減するとともに、完成した後でも当該箇所の施工中状況がスケールや座標値を持った高度利活用が可能なデータが蓄積できるようになった(図-14)。

図-13 工事写真の代替の試行
図-13 工事写真の代替の試行
図-14 試行例
図-14 試行例

 

点群による完成検査の推進

BIM/CIMの活用の重点的な取り組みのもう一つとして、点群データによる完成検査記録の置き換えを推進している。
構造物の完成時には、従来は手計測により帳票をまとめ、数回に渡り実施される段階的な検査を実施していた。
検査の都度、計測・確認を要するため、必要な人・時間は多く労力を要していた。
そこで、地上型レーザースキャナーで取得した点群上での計測結果を記録の代替とする取り組みを実施してきた(図-15)。
 
寸法値の確認が必要になるため精度の証明方法が重要になる。
精度については、用いるレーザースキャナー個々の精度の確認とともに、複数回に渡って取得された点群を合成して得られた点群での精度の確認の、2通りで確認することで必要な計測許容誤差内での寸法精度が確保されていることを証明した(図-16)。

図-15 点群を用いた完成検査
図-15 点群を用いた完成検査
図-16 精度の証明方法
図-16 精度の証明方法

 
図-17が、実際の点群データの一例である。
従来、現地で手計測で実施していた箇所を点群上で計測し記録することで、現地での計測や帳票への転記作業などが軽減されるとともに、高所作業や夜間作業などの軽減にもつながっている。
ただ、ここでのやり方はBIMモデルが設計図相当として作成活用できるようになるまでの過渡期の取り扱いと考えており、将来的には設計のBIMモデルと点群を、座標を合わせて重畳することで、許容値を超える箇所について自動で抽出できるような検査方法への転換をしたいと考えている(図-18)。
これによりBIMモデルの設計データとしての活用とともに、計測するという行為から脱却し、本来やりたかった確認方法が実現できるものと考えている。

図-17 実際の点群データ
図-17 実際の点群データ
図-18 点群を使った完成検査のビジョン
図-18 点群を使った完成検査のビジョン

 
 

究極のBIM/CIMの姿の実現に向けて(3Dプリンティング)

BIM/CIMが進んだ究極の姿は、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理の全てのフェーズでBIMモデルデータのみで業務が完結することかと思われる。
せっかくBIMモデルで渡してきたデータを施工のフェーズで二次元の図面を起こし、型枠を作成したりしていてはBIMによる効果を全てのフェーズでの担当者が享受しているとは言い難い。
そこで、BIMモデルをそのまま構造物としてしまう究極の姿として、3Dプリンティングによるコンクリート構造物の構築の実現に向けて取り組みを進めている(図-19)。
3Dプリンティングの技術については、国内においてはまだ事例や技術基準も少なく、課題も多いことから土木学会等と連携しながら取り組んでいる。

図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図
図-19 コンクリート3Dプリンターの取り組み図

 
取り組みの一つとして、土木学会の「3Dプリンティング技術の土木構造物への適用に関する研究小委員会(364委員会)」および東京大学等の学生と連携して、内房線の太海駅の駅舎建て替え工事に合わせて設置されるベンチのデザインからプリント、設置までの一連の流れを「ベンチプロジェクト」として実施した。
図-20は学生が考えたデザイン原案である。
3Dプリンティング技術の特長である自由な造形が可能であることを生かして、人間工学に基づき座り心地を追求した形状にするなど、従来のコンクリート工事では難しかった形状のプリントに挑んだ。
事前に耐荷性のシミュレーションなども実施するとともに、JIS基準に準じた載荷試験なども事前に行い、安全性を確認した(図-21)。
図-22に完成したベンチの設置状況を示す。
デザインから設置までの一連のフローを実施することで、3Dプリンティング技術のみならず、3Dモデルの受け渡しから始まり、寸法や設置位置の確認方法、設置箇所に合わせた形状の微修正、などさまざまは課題が抽出された。
これらは、BIMモデルのみで設計から施工までの一連の流れを実施する際に直面する課題であり、今後、改善に向けて取り組んでいかなければならない課題だと考えている。

図-20 学生のデザイン原案
図-20 学生のデザイン原案
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-21 耐荷性シミュレーションと載荷試験等による確認
図-22 完成したベンチの設置状況
図-22 完成したベンチの設置状況

 
 

おわりに

以上のように、さまざまなBIM/CIMに関する取り組みを実施してきたが、BIM/CIMを活用して効果を享受するためには、プロジェクトの計画段階でどのようにBIMモデルを活用しようとするかを考えて始めるのが重要だと考えている。
活用方法が明確であればBIMモデルの整備方針も明確になり、後工程で失敗を感じるようなことが少なくなる。
また、「人(スキル)」、「モノ(環境)」、「ルール」の3つの要素をバランスよく伸ばすことを心掛ける必要がある。
しかも、計画、設計、施工、維持管理、の全てのフェーズで、である。
どこかの人が頑張る、だけではダメで、全ての関係者の頑張りなくして、BIM/CIMの真の効果を享受することは難しいと考える。
ぜひ、設計者、施工者、受注者、発注者、管理者など、いろいろな立場の関係者で協力しあって推進していけたらと思う。
 
 
 

東日本旅客鉄道株式会社 東京建設プロジェクトマネージメントオフィス
企画戦略ユニット マネージャー 井口 重信

 
 
【出典】


建設ITガイド 2024
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド2024


 

最終更新日:2024-06-17

 

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