はじめに
国土交通省のBIM/CIM原則適用から2年近くが経ち、多くの設計・施工においてBIM/CIM、i-Constructionの考え方による成果が作成されている。
BIM/CIMの目的
ここで改めてBIM/CIMの目的を、開始時にまでさかのぼって考えてみる。
土木学会誌2015年6月号において、「CIMは、計画・調査・設計段階から3次元モデル(Modeling)を導入し、その後の施工、維持管理の各段階においてもそれらの3次元モデルと連携させ、建設事業(Construction)で発生する情報(Information)をライフサイクル全体で共有・活用(Management)して建設生産性を向上させようという考え方である」1)とされている。
これは、従来のように設計、施工、維持管理だけの最適化を図るのではなく、連携して協働していくことで全体の生産性向上を目指すということである。
現状のBIM/CIMによるデータの流れ
原則適用が開始されてから、どのくらいの設計データが施工に連携され、生産性の向上が図られているであろうか。
2024年9月に開催された第79回土木学会年次学術講演会の発表においても、設計と施工の連携に関する発表は、筆者らの発表2)以外には見当たらない。
すなわち、本来の目的に到達せずに、相変わらず、設計データは施工に届いていないと考えられる。
現状のBIM/CIMの課題
現状のコンサルタント業務における詳細設計は「工事発注に必要な平面図、縦横断面図、構造物などの詳細設計図、設計計算書、工種別数量計算書、施工計画書などを作成するもの」3)とされている。
このため、実際どのように施工するかは、施工業者に委ねられている。
従来の2Dの設計図面を用いている段階では検証を含めて、施工側で再検討が行われてきた。
一方、BIM/CIMでは、2Dで設計した図面から3Dモデルが作成され、この3Dモデルが発注者経由で施工側に渡され、そのまま施工されることになる。
積算のための施工検討が、そのまま施工される形になり、かなり無理があるのではないだろうか。
構造物では作成されるものは、ほとんど同じ形状となるので問題は少ないと思われるが、地形が関係するもの、特に排水計画などでは大きく変更しなければならない場合がある。
構造物に関しても、設計側では最終の完成形モデルを作成しているだけで、どのように施工していくかは、施工業者が決定してからではないと分からない。
こうした状況では、当初考えられているライフサイクルをわたった生産性の向上は難しいと思われる。
BIM/CIMデータ活用
BIM/CIMデータの活用は、設計・施工・維持管理までを考えているが、実際に活用されているのは、i-ConstructionにおけるICT活用工事のためのデータとして以下のような場面で利用されている場合が多い。
ICT基礎工
設計の3Dモデルをベースに、構造物基礎を3Dで管理するもので、杭の出来形管理などが策定されている。
ICT構造物工(橋脚・橋台)
設計の3Dモデルをベースに、構造物躯体を3Dで管理するもので、橋脚・橋台の出来形管理などが策定されている。
配筋の確認
設計の3Dモデルを活用し、鉄筋の干渉チェックを行っている。
また、デジタルデータを活用した出来形計測などが策定されている。
対象工事
対象工事の概要
当該工事は、一般国道7号栗ノ木・紫竹山道路事業における立体化事業の一環として、栗ノ木道路の高架橋下部工の橋脚4基を構築する工事である。
詳細設計
詳細設計は、八千代エンジニヤリング株式会社の北陸支店がBIM/CIM受注者希望型業務として図-1に示す区間を担当した。
作成の目的は、事業計画検討のため の形状モデルと施工計画であり、以下のBIM/CIMモデルを作成している。
作成したBIM/CIMモデルは、Autodesk社のdwg形式を用いて、Autodesk Navisworksによって施工計画を構築していた。
- 現況地形と周辺の建築物
- 河川構造物
- 道路土工
- 橋梁構造物
(上部工7連+ランプ2連)×上下線の計18連下部工A1 ~ A2の64基+ランプ6基 - 全体の施工計画
このうち、株式会社 植木組の施工は、PU15、PU16、PU17、OFFP1の4つの橋脚である。
施工上の課題
現場は、国道7号道路に接し、流入交通量約2,700台/12hと非常に交通量が多く、さらに、施工ヤードは国道と栗ノ木川に挟まれた幅約20m程の狭隘な場所の中で、各橋脚の施工を同時に、ほぼ並行して作業する必要がある。
そのため、資機材の搬入・搬出の制約、重機や資材の配置にも工夫した施工計画を立て、施工ステップごとに確認する必要があった。
また、施工管理においてICT基礎工、ICT構造物工(橋脚・橋台)や段階確認の鉄筋出来形検査など従来手法に比べ生産性向上および品質向上につながるような手法にも対応する必要があった。
施工側で必要とするデータ
前述のようなICT施工を行っていくためには、設計側から受領したBIM/CIMモデルに対して、以下のような要望を行った。
下部工のロット割
施工時のコンクリートの打ち込みロットに分割する。
これにより、施工ステップ検討に活用する他、1ロットごとのコンクリート打ち込み量、型枠など数量計算を行う。
配筋モデル
設計時は、全体の景観、形状、施工計画の確認を主な目的とし、配筋モデルを作成していなかったため、配筋モデルを作成する必要があった。
配筋モデルは、現場での組み立てを考慮して、移動が難しい太径鉄筋(D25以上)がある場合、全て干渉がないように作成する。
D25未満のラップなど鉄筋の干渉は無視して構わないが、物理的に配筋不可となる干渉の場合は修正を行う。
配筋モデルを用いて、配筋検査、組立方法の検討など、さまざまな場面で活用する。
仮設計画モデル
設計時の土留・仮締切工は、「標準」的な施工方法で検討しているため、実際の施工現場では、設計変更が多い。
足場、作業土工、工事用道路、建機配置などは、施工を開始しないと分からないため、設計時での作成困難である。
このため、両社で打合せにより、施工方法の検討を実施し、各ステップで作成を行う。
統合モデル
設計は図-1に示した事業全体の統合モデルとして作成されているが、施工範囲の統合モデルを作成する。
このモデルをベースに、施工範囲の施工ステップモデル(4Dモデル)を作成する。
施工のためのBIM/CIMモデル作成
施工側からの要望を受け、地形データの更新、下部工モデル・施工計画の詳細化、重機配置検討を追加することが必要であり、表-1のようなモデルを新規に作成する必要があった。
施工ステップモデル
現況地形モデルは国土地理院の5mメッシュ標高を用いて作成し、このモデルに各工程における掘削モデル、工事用道路工モデルを新規で作成し、これらを元に施工ステップモデルを構築した(図-2)。
詳細設計時に設計範囲全体の施工ステップも作成していたが、工程は1カ月単位で重機の種類、配置場所についても実際の施工計画とは異なることから、対象となる施工範囲の部分の施工ステップの変更を行った。
また、測量データ・航空写真は周辺の道路形態が切り替わるステップごとに施工者より提供され、重機や軌跡図といったモデルを統合モデルへ反映することで、地形の改変も含めた現場状況をリアルタイムで確認・更新することを可能とした。
下部工モデル
施工段階では下部工の配筋モデル生成の他、属性情報の付与が提案されていた。
おのおのの橋脚に対して、鉄筋モデル、ロット割の情報、支承部モデルを新たに追加する必要があることから、パラメトリックなモデル作成が可能で、標準で配筋に対応しているAutodesk Revitにより新たにモデルを作成した(図-3)。
その他のモデル
この他に、図-4に示すような施工時に設計変更が多いモデルに対して、実施工程に合わせて新規にモデルを作成した。
足場・工事用道路・重機配置は施工時に決定されるため、設計時では作成できない。
施工区間外の下部工モデルおよび上部工モデルは詳細設計時に作成したモデルをそのまま活用した。
現場での活用
配筋モデルは、2次元で検討された詳細設計の図面どおりにモデルを作成すると下部工1基につき5,000カ所以上が干渉していた。
これら全ての干渉を回避することは困難であるため、D25以上の主鉄筋については干渉しないように鉄筋位置の変更を行った(図-5)。
これらのモデルは施工現場でARシステムによる検査データとして活用された。
しかしながら、モデル作成者が移動した方向へ施工現場でも鉄筋を組み立てるとは限らないため、鉄筋モデルの位置には相違が生じてしまう。
このため、全ての鉄筋同士が干渉しないモデルを作成する必要性はなく、本数、配筋ピッチ、鉄筋径といった優先度の高い情報を引き継ぐことが重要である。
特に施工上現場での対応が難しい鉄筋径D25以上同士の干渉は避けたモデルの作成が必要であり、どの程度まで干渉しないモデルとして作成し利用するか、今後の議論が待たれる。
施工への適用結果
施工ステップ
早期に、現況地形の3次元起工測量を行い、着手前に現場の担当者を含め、設計者と一緒に施工方法を検討することで、モデルの修正・作成はスムーズに進めることができた(図-6)。
- 工事進捗に伴い変化する、仮設および建機などの配置に活用
- 現場作業員への説明、打合せに活用
- 地元説明に活用
統合モデル
全体の配置などの統合モデルは、工区内の進捗に合わせて更新した(図-7)。
- コンクリート打ち込み時の生コン車の待機位置の検討(大型車の通行想定)
- コンクリート打ち込み時の資材搬入路の検討
- 場内土砂運搬時の10DT運行の検討
ARによる完成形の確認
出来上がった橋脚躯体や鉄筋モデルなどをモニターで閲覧やAR技術にて現場に投影し、作業員へ構築物のイメージの共有に努めた(図-8)。
その結果、作業方法の工夫改善の意見が出てきたことで、安全性と施工性の向上も見られた。
ICT基礎工
地上型レーザースキャナーにより場所打ち杭の位置を計測し、計測結果を3D CADにより基準高・杭芯・杭径を計測して出来形管理を行った(図-9)。
ICT構造物工(橋脚・橋台)
ICT基礎工と同様に、地上型レーザースキャナーによる橋脚の計測を行い、3D CADにより形状の計測、ヒートマップによる出来形の管理を行った(図-10)。
配筋の出来形管理
iPadを活用した鉄筋出来形検査技術の活用とAR技術による従来の人手による計測を自動化して、鉄筋ピッチの自動計測、帳票の自動作成により省力化を図った(図-11、12、13)。
連携の効果
モデル作成期間の2割短縮
モデルの作成・修正に当たり、現場の担当者、設計者と一緒に施工方法を検討ができたため、スムーズに作業が進んだ。
設計を担当した会社は、事業全体を理解、オリジナルのモデルも作成しているので、詳細な作業指示も必要なく、モデル作成期間は、施工者自らが自社で作成した場合に比べて約2割短縮できた。
余裕を持った工程管理
3Dモデルをフル活用することで、手戻りや段取り間違えなどの発生がほとんどなく、計画工程より余裕をもって完了することができた。
施工管理でのメリット
各モデルをモニターで確認したりやAR技術で投影することで、作業員へ構築物のイメージの共有ができ、作業方法の工夫改善の提案があり、安全性と施工性が向上した。
また、ICT基礎工、ICT構造物工(橋脚・橋台)の出来形管理により、
基礎 1基杭9本当たり約20時間
橋脚 1基当たり約56時間
鉄筋出来形検査は、おおむね1回当たり
1.5時間×16回現場職員の作業時間が短縮できた。
まとめ
設計側の成果
施工側との連携により、橋梁下部工施工で活用するために必要となるモデルが明確となった。
施工段階にならないと条件が決まらず、作成できないモデルも多く、事業関係者による情報の修正、変更、更新が適切に引継がれることが必要である。
該当範囲だけでなく、隣接された工区のモデルも重要であり、周囲のモデルがないと施工段階での利活用が制限されてしまうこともある。
真に生産性向上を図るためには、今回のような施工が決まってから改めて別に受注するか、詳細設計付き施工など、工事の発注形式などを業界全体で検討していくことも必要であろう。
施工側の成果
設計と施工が協働することにより、事前に課題を解決することができ、事業全体の効率化につながることが確認できたことから、これからも設計と施工の協働が生産性向上には必要である。
これからに向けて
設計モデルを真に活用するためには、施工時の情報が必要であり、現在の設計・施工分離から、設計・施工協調へと変更することが重要である。
さらには、設計・施工データを維持管理へと引き継いでいくための方策の検討も必要である。
〈参考文献〉
1) 土木学会誌第100巻第6号(2015.6)
2) 土木学会令和6年度土木学会全国大会第79回年次学術講演会VI-76、77
3) 国土交通省 土木設計業務等共通仕様書(案)第1編 共通編
【出典】
建設ITガイド2025

最終更新日:2025-07-16
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