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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 平成27年度決算検査報告における公共工事関係の指摘事例

 
会計検査院は,日本国憲法及び会計検査院法に基づき,国,国が出資している独立行政法人等の法人,国が補助金等を交付している地方公共団体等の会計を検査しています。
 
このたび,その検査の結果を平成27年度決算検査報告として取りまとめて,28年11月7日に内閣に送付しました。平成27年度決算検査報告に掲記された指摘事項等の総件数は455件であり,このうち指摘事項は437件,指摘金額は計1兆2189億4132万円となっています。
 
検査に先立ち27年9月に策定した平成28年次会計検査の基本方針では,重点的な検査項目の一つとして公共事業を挙げるとともに,東日本大震災からの復興に向けた各種の施策について,被災地域における社会経済の再生等に資するものとなっているかなどに留意するなどとしていました。そして,検査の結果として報告された指摘事項には,東日本大震災からの復興に向けた施策等に関するもの,国民生活の安全性の確保に関するもの,資産等のストックに関するもの,事業の有効性に関するものなどが含まれています。
 
指摘事項には,省庁別,事項等別,観点別等,様々な分類があり,公共工事関係の指摘として一意に選別,分類できるわけではありませんが,本稿では筆者の個人的な見解により63件を選別し,このうち47件について,簡単に紹介させていただきます(表-1参照)。 
 
 



 
なお,以下,①「不当事項」は法律,政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項を,②「意見表示・処置要求事項」は会計検査院法第34条又は第36条の規定により関係大臣等に対して会計経理や制度,行政等について意見を表示し又は処置を要求した事項を,③「処置済事項」は検査において指摘したところ当局において改善の処置を講じた事項を,④「特定検査状況」は検査報告に掲記する必要があると認めた特定の検査対象に関する検査の状況を,⑤「随時報告」は会計検査院法第30条の2の規定により国会及び内閣に報告した事項を意味します。
 
また,金額は断りのない限り指摘金額であり,国庫補助事業に係る事案の指摘金額・背景金額は国庫補助金ベースで示しています。
 
 

1 計画に関するもの

これらは,事業の計画が適切でなかったため,設置した設備が地震発生時に有効に機能しない状態になっていたり,施設の老朽化に起因した事故が生ずるおそれがある状況となっていたりなどしていたものです。
 
 
【不当事項】
 
<国土交通省>
 
・都市防災総合推進事業の実施に当たり,防災行政無線の親局の設備を地震時における耐震性が確保されていない市庁舎に設置していたため,地震発生時に防災行政無線として有効に機能しない状態になっていた(4095万余円)。
 
・車道下に埋設された下水道管の更新工事において,既設管の老朽化に起因した道路陥没等の事故の未然防止を図ることを目的としていたのに,著しく劣化した既設管について撤去等の措置を執ることを計画していなかったため,既設管が工事実施後も車道下に残置されていて,道路陥没等の事故が生ずるおそれがある状況となっていた(1363万余円)。
 
 
【意見表示・処置要求事項】
 
<国土交通省>
 
・都市防災総合推進事業における防災情報通信ネットワークの整備について
 
国土交通省は,市街地の防災等の向上を図るために,都市の防災構造化等を総合的に推進する都市防災総合推進事業を実施する地方公共団体に対して,社会資本整備総合交付金を交付している。そして,市区町村が地震防災対策として策定した「地震に強い都市づくり推進五箇年計画」に基づく場合は,交付対象施設の特例として災害時の情報通信を確保するために情報の送受信等を行うのに必要な施設(以下「防災情報通信ネットワーク」という。)を都市防災総合推進事業により整備できるとされている。
 
防災情報通信ネットワークの整備として防災行政無線の設備を建物に設置する場合は,地震発生時に有効に機能するよう,耐震診断により耐震性が確保されていることが確認できているなどの建物に設置する必要がある。
 
しかし,27市区町において,防災無線の設備が,耐震性が確保されていない建物又は耐震診断が行われておらず耐震性が確保されているか確認できない建物に設置されているなどして,地震発生時に有効に機能しないおそれがある事態が見受けられた(指摘金額 2億4046万円,背景金額 11億2550万円:耐震性が確保されていない建物等に設置されている親局から防災情報を受信する屋外拡声子局等の設備に係る交付金等相当額)。
 
 

2 設計に関するもの

 
これらは,構造物に求められる所要の安全度が確保されていない状態になっていた事態や,経済的な設計を行っていなかった事態です。所要の安全度が確保されていない状態になっていた事態の中には,設計業者の成果品に誤りがあるのに,発注者が看過したことが原因となっているものが多く見受けられます。
 
 
【不当事項】
 
< 国土交通省>
 
・既設橋りょうの耐震補強工事の実施に当たり,変位制限構造を設置した橋台及び橋脚において,橋座部の耐力及び縁端距離について検討等が行われず,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されておらず,工事の目的を達していなかった(1579万円)。
 
・既設橋りょうの耐震補強工事の実施に当たり,橋台及び橋脚において,水平力分担構造を設置するために拡幅した橋座部の耐力について適切な検討が行われず,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されておらず,工事の目的を達していなかった(992万余円)。
 
・既設橋りょうの耐震補強工事において,支承又は水平力分担構造等を設置するなどした橋台等の橋座部等の耐力,縁端距離,台座に配置する鉄筋の定着長等について検討を行っていないなど,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されておらず,工事の目的を達していなかった(6件 1億1389万余円)。
 
・切土法面の植生工において,法面が非常に乾燥しやすい条件となっていたのに,法面に吹き付ける植生基材についてより保水力の高い配合とするなどの措置を執らなかったり,植物が生育不良の場合の対応策の検討等を行わなかったりなどして,設計及び管理が適切でなかったため,種子の発芽や生育がほとんど見受けられず,植生基材が流出して地山が露出していて,工事の目的を達していなかった(642万余円)。
 
・下水道事業の実施に当たり,道路に埋設する雨水管の整備において,道路の復旧に係る基準等に基づく舗装厚を確保するように埋設深さを決定しておらず,設計が適切でなかったため,函かん渠きょが舗装の一部である路盤等に入り込んでいて舗装構造が一様でなく,不同沈下に伴う路面の不陸等が生じて路面の機能が損なわれて,安全かつ円滑な交通が確保されていないおそれがある状態になっていた(3件 2763万余円)。
 
・雨水排水管工において,管渠に作用する鉛直土圧を計算する際に誤った計算式を用いて計算していて,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた(434万余円)。
 
・雨水管の整備において,車道下に埋設される函渠に対する自動車による活荷重を考慮せずに,基礎地盤に作用する鉛直荷重を算出するなどしていて,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた(1643万余円)。
 
< 農林水産省>
 
・林道新設工事における残土処理場の選定に当たり,別の森林整備事業で開設する森林作業道の位置等を調整して経済的な設計を行うことについての検討が十分でなく,残土を遠方の残土処理場に運搬することとしたため,契約額が割高となっていた(810万円)。
 
・木造施設の建築において,誤って引抜耐力が不足している金物により柱と梁はり等とを接合することとして設計し,これにより施工するなどしたり,請負人が設計と相違して,梁等との接合箇所の一部に金物を使用せずに施工するなどしたりしていて,設計及び施工が適切でなかったなどのため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた(2件 2206万余円)。
 
・揚水機場における補機計装盤の据付けについて,設備基礎の間にあるピットを考慮せずに設計したことから,アンカーボルトを露出させたままの状態としていて,設計が適切でなかったため,地震時における機能の維持が確保されていない状態となっていた(386万余円)。
 
< 日本スポーツ振興センター>
 
・国立競技場壁画移設工事において,壁画の切断面積の設計数量を誤ったため,契約額が割高となっていた(744万余円)。
 
 
【意見表示・処置要求事項】
 
< 国土交通省>
 
・木造公営住宅等の設計及び施工における事業主体の確認等について
 
国土交通省は,住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸するなどのために,公営住宅等を整備する地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して社会資本整備総合交付金を交付している。
 
柱,土台,筋交い等で骨組みを構成する木造軸組工法により建築する木造公営住宅等は,建築基準法(昭和25年法律第201号)等に基づき,地震等により生ずる水平力に抵抗するために,柱と柱の間に筋交い等が設置された壁(以下「耐力壁」という。)を設計計算上必要な長さ以上,釣合い良く配置しなければならないとなっている。そして,耐力壁を構成する柱は,水平力により生ずる引抜力に抵抗するために,「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」等に基づき,必要な引抜耐力を有する金物等を選定して土台等と接合することとなっている。
 
しかし,建築物の安全を確保する上で重要な建物の外側の隅の柱に取り付けた金物の引抜耐力が不足するなど,設計及び施工が適切でない状態が継続して見受けられているにもかかわらず,国土交通省において,建築技術系の専門知識を有した職員がいない事業主体の実態等を踏まえた実効性のある再発防止策を講じていないなどの事態が見受けられた(1億4365万円)。
 
<環境省>
 
・除染事業等における仮置場の整備について
 
環境省は,国が指定した地域において,除染等の措置等や廃棄物の収集,保管等を実施しており,除染等の措置等に伴い除去した汚染土壌(以下「除去土壌」という。)又は収集した廃棄物をそれぞれの仮置場(以下,それぞれ「除染仮置場」「廃棄物仮置場」という。)に一時保管することとしている。
 
除染仮置場の造成工事においては,除去土壌等をフレキシブルコンテナ等(以下「コンテナ」という。)に詰めて除染仮置場に運搬して,コンテナを台形状に積み上げて,全体を遮水シート等で密閉することとなっており,コンテナが遮水性を有していない場合は,除去土壌等から放射性物質を含む水が浸出して遮水シート内にたまるおそれがあることから,浸出水を集水するために,基礎底面に勾配を設けて集水管及び集水タンクを設置し,浸出水中の放射性物質濃度を測定するなどして,安全に管理されていることを確認することになっている。
 
また,除染仮置場及び廃棄物仮置場において,部外者の立入防止等のために,必要に応じて金属製の目隠しフェンス(以下「囲い柵」という。)を風雨等の影響により転倒等しないように設置することとしている。
 
しかし,除染仮置場の設計に当たり基礎地盤の沈下を考慮せずに集水勾配を決定していて,基礎地盤の沈下量の最大想定値に基づく集水勾配が逆勾配となり浸出水の集水を適切に行えず,浸出水の放射性物質濃度を測定することができなくなるおそれがあるなどの事態,並びに除染仮置場及び廃棄物仮置場の囲い柵の設計について,設計基準がなく,現地の状況を踏まえた設計風速及び安全率を用いて設計を行っていない事態が見受けられた(46億7224万円)。
 
 
【処置済事項】
 
<国土交通省>
 
・炭素繊維シートを用いた橋りょう等の補強等工事の設計について
 
炭素繊維シートを用いた橋りょう等の補強等工事の実施に当たり,設計及び施工の指針等において標準とされているシートの種類,シート1m2当たりの炭素繊維の重量及びシートの接着層数を画一的に用いてシートを選定していたなどのため,経済的なシートの種類等の組合せとなっておらず,シート接着工費の積算額が過大となっていた(6346万円)。
 
・道路の復旧を伴う下水道の函渠埋設工事の設計について
 
道路の復旧を伴う下水道の函渠埋設工事の実施に当たり,開削前と同じ舗装厚又は道路管理者が定めた基準に基づいた舗装厚が確保されない設計を行う場合において,路面の機能を損なわないようにするための措置に関して道路管理者と協議を十分に実施することを明確に示していなかったことなどのため,道路の安全かつ円滑な交通が確保されていないなどのおそれがある状況となっていた(7億0945万円)。
 
< 東日本高速道路株式会社,中日本高速道路株式会社>
 
・フーチングの水平押抜きせん断の照査について
 
橋りょう下部工の場所打ち杭等とフーチングの接合部の設計に当たり,縁端距離が杭径の1.0倍未満となる場合にレベル2地震動時における水平方向の押抜きせん断の照査を行う必要があることが設計要領に明記されていなかったため,当該照査を行っておらず,レベル2地震動に対する所要の安全度が確保されていない状況となっていた(2件 計6255万円)。
 
 

3 積算に関するもの

これは,積算基準等に一般管理費等の調整方法を明記していなかったなどのため工事価格が過大に算定されていたものです。
 
 
【処置済事項】
 
< 東京地下鉄株式会社>
 
・後工事における工事価格の算定について
 
現在履行中の前工事と一体的な工事とならない建築工事及び前工事と異なる種類となる土木工事を,前工事の請負人と別途随意契約を締結して後工事として実施する場合において,一般管理費等の調整方法を積算基準等に明記していなかったため一般管理費等の合算調整を行っていなかったり,工事価格が自動計算により算定されるシステムにおいて,諸経費率が自動計算されない状態となっていることを容易に認識できる仕様となっていなかったため諸経費の算定が適切に行われていなかったりしていて,工事価格が過大に算定されていた(9750万円)。
 
 

4 施工に関するもの

これらはいずれも,工事の施工が設計と相違していて,所要の安全度が確保されていなかったり,工事の目的を達していなかったりしていたものです。原因は,請負人の粗雑な施工や設計図書等についての理解不足,発注者の監督・検査が十分でなかったことなどです。
 
 
【不当事項】
 
<国土交通省>
 
・公営住宅等整備事業の実施に当たり,木造の公営住宅の建築において,柱と厚さ9㎝の筋交いとを接合する際に,誤って厚さ4.5㎝の筋交いに対応した方法により接合するなど,施工が設計と相違していたため,鋼板添え板等の引抜耐力が不足して,引抜力等に対して抵抗できず,所要の安全度が確保されていない状態になっていた(4件 7528万余円)。
 
・都市公園事業の実施に当たり,運動公園の子供広場を整備する園路広場整備工において,弾性ゴム舗装を構成する基層とゴムチップ弾性層とを密着させるプライマーが基層の一部にしか塗布されておらず,施工が著しく粗雑であったため,不陸や段差が生じており,子供広場の安全な利用ができない状況となっていて,工事の目的を達していなかった(662万余円)。
 
<環境省>
 
・中間貯蔵施設予定地内におけるスクリーニング施設等の築造工事の実施に当たり,柱脚部におけるリブ材の接合について,溶接を粗雑に行っていて,施工が設計と相違していたため,工事の目的を達していなかった(5618万余円)。
 
 
【特定検査状況】
 
<国土交通省>
 
・滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の施工不良等の状況について
 
薬液注入による地盤改良工事(以下「薬液注入工」という。)を実施した空港において,施工不良等が判明した5契約(契約額計78億3870万余円)を対象として,薬液注入工の監督及び検査,工法選定,総合評価落札方式における技術提案の履行確認がどのように行われているかに着眼して検査した。
 
検査したところ,①監督及び検査については,受注者の施工管理を踏まえるなどして,平成2年に建設省(当時)が発出した通達に定められた各項目について実施されていたが,薬液の材料の搬入時や注入時の管理は,今回の不正事案に対しては,薬液の注入量を正確に把握するための有効な手段とはなっていないなどの状況となっていた。②工法選定については,受注者による実験結果を踏まえ工法変更を承諾するなどしていたが,これらが虚偽の施工データを用いて改ざんされたものであった。③技術提案の履行確認については,施工状況や報告書類を確認し,技術提案のとおり履行されたとしていたが,実際には提案どおりに履行されておらず,工事品質の確保や向上に寄与していなかったものがあった。
 
 

5 契約等経理に関するもの

これらは,公共事業の実施に伴う移転補償費等の算定が適切でなかったものなどです。
 
 
【不当事項】
 
< 国土交通省>
 
・市街地再開発事業及び道路事業の実施に当たり,建物の移転に係る補償において,店舗等で使用されている機械設備が工作物に該当するのに建築設備に該当するとして移転料を算定するなどしたり,複数の建物を一括して補償する場合に諸経費の算定を誤るなどしたりしていたため,交付金が過大に交付されていた(2件 5660万余円)。
 
・街路事業の実施に当たり,土地開発公社に先行取得させていた事業用地の再取得において,再取得時の時価に土地開発公社の利子支払額を含めるなどして交付対象事業費を算定していたため,交付金が過大に交付されていた(500万余円)。
 
・住宅市街地総合整備事業等の実施に当たり,道路の拡幅等に係る用地の取得において,市道内の民有地の評価に際し誤った減価率を適用して用地費を算定していたなどのため,交付金等が過大に交付されていた(154万余円)。
 
<農林水産省>
 
・国営かんがい排水事業の実施における移設補償費の支払に当たり,移設対象の水道管等に係る財産価値の減耗分を控除せずに移設補償費を算定していたため,支払額が過大となっていた(2 件 585万余円)。
 
 
【意見表示・処置要求事項】
 
<農林水産省>
 
・農業農村整備事業の実施における既存公共施設等の移設補償費の算定について
 
農業農村整備事業の施行により事業地内の水道管,電柱等の既存公共施設等についてその機能の廃止等が必要となる場合であって,公益上,その機能回復を図ることが必要である場合は,「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」及び「公共補償基準要綱の運用申し合せ」(以下,これらを合わせて「公共補償基準」という。)並びに「既存公共施設等の機能回復補償に係る建設費の細部運用について」(以下「細部運用」という。)に基づき,国,都道府県等の同事業の事業主体がその原因者として既存公共施設等の管理者(以下「被補償者」という。)に対して補償費を支払うこととなっている。
 
公共補償基準及び細部運用によれば,代替施設の建設による場合の補償費(以下「移設補償費」という。)は,代替施設を建設するために必要な費用から既存公共施設等の機能の廃止の時までの財産価値の減耗分(以下「減耗分」という。)を控除するなどして算定することとされている。ただし,国,地方公共団体等が管理している既存公共施設等に関しては,被補償者において減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合等やむを得ないと認められるときは,減耗分の全部又は一部を控除しないことができることとされている。
 
しかし,一部の事業主体において,被補償者において減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合に該当しないにもかかわらず,減耗分を控除せずに移設補償費を算定したため,移設補償費の支払額が過大となっている事態が見受けられた(2445万円)。
 
 

6 維持管理等に関するもの

これらは,施設の維持管理が適切でなかったものや,事業の効果が十分に発現していなかったものです。
 

(1) 施設の維持管理に関するもの

 
【意見表示・処置要求事項】
 
< 農林水産省>
 
・機能保全計画に基づく漁港施設の維持管理について
 
水産庁は,平成20年度に水産物供給基盤機能保全事業を創設して,漁港施設の機能保全計画の策定及び同計画に基づく漁港施設等の機能保全対策を実施するための工事(以下「機能保全工事」という。)を行う都道府県又は市町村に対して国庫補助金を交付している。
 
そして,同庁が定めたガイドラインによれば,漁港管理者である地方公共団体において,施設の現況把握,機能診断の実施,機能保全対策の検討等を経て機能保全計画の策定を行い,同計画に定めた日常管理計画に基づく点検を行うとともに,計画的に機能保全対策を実施し,これらを通じて得られた施設情報を蓄積し及び活用して効率的な維持管理を行うなどの取組が重要であるとされている。
 
しかし,機能保全計画に沿って機能保全工事が実施されていない事態,機能保全計画において定めた日常管理計画に基づく点検の結果の記録及び保存が適切に実施されておらず老朽化の進行状況が確認できない事態並びに施設情報が保存されておらず機能保全計画の策定等に活用されていない事態が見受けられた(背景金額 17億8215万円:機能保全計画に沿って機能保全工事が実施されていないなどの事態に係る機能保全計画を策定する事業に対する国庫補助金相当額)。
 
 
【処置済事項】
 
< 農林水産省>
 
・揚排水機場の耐震診断の実施状況等について
 
農業水利施設としての揚排水機場について,施設造成者等において,被災による影響が大きいとする重要度区分とされた揚排水機場の耐震診断を実施していなかったり,耐震診断に用いる設計図書を保管していなかったり,農林水産省において,耐震診断の実施状況等を把握しておらず耐震診断の実施を推進するための助言や検討を十分に行っていなかったりしていた(背景金額 5265億8420万円:耐震診断を実施する必要があるのに実施していなかった揚排水機場,重要度区分を設定するなどした上で耐震診断を実施する必要がある揚排水機場及び設計図書が保管されていなかった揚排水機場の整備に要した事業費)。
 
 

(2) 事業効果に関するもの

 
【意見表示・処置要求事項】
 
<国土交通省>
 
・新重点密集市街地の解消に向けた事業の実施等について
 
土交通省は,平成32年度末までに地震時等に著しく危険な密集市街地である新重点密集市街地の延焼危険性等を改善し最低限の安全性を確保して,新重点密集市街地をおおむね解消するため,新重点密集市街地等において延焼危険性等の改善に向けて実施する事業に交付金等を交付している。そして,市区町は,交付金等の交付を受けて延焼危険性等の改善に向けて事業を実施している。
 
しかし,①新重点密集市街地の地区内に一時避難場所等が指定されているのに最低限の安全性を確保しておらず新重点密集市街地が解消していない事態,②住宅市街地総合整備事業において,事業計画を作成しておらず事業の進捗状況を確認できなかったり,地域住民等から構成されるまちづくり協議会等を設置していないこと,ハザードマップ等により新重点密集市街地の危険度を公表していないことなどにより事業が進捗していなかったりする事態及び,③新重点密集市街地の設定に当たり,過大な面積を1地区として設定するなどしていて,最低限の安全性が確保されているか適切に判定されず危険な区域が地区内に残存するおそれがある事態が見受けられた(背景金額 781億9360万円:新重点密集市街地等において延焼危険性等の改善に向けて実施した事業に係る交付金等交付額)。
 
 
【処置済事項】
 
< 国土交通省>
 
・重要国際埠頭施設における保安措置等の実施について
 
重要国際埠頭施設の保安措置等について,埠頭保安設備が適確に設置及び維持されていなかったり,保安の確保のために設定する制限区域への立入りにおける本人,所属及び目的の確認が適確に実施されていなかったり,障壁と貨物等との間隔が適確に確保されていなかったりしていて,適確に実施されておらず,補助金の交付等を受けて整備された埠頭保安設備の効果が十分に発現していなかった(背景金額 17億3145万円:効果が十分に発現していなかった施設の埠頭保安設備の整備に要した事業費に係る国庫補助金相当額等の額)。
 
 
以上に紹介した事例のほか,指摘事項等の全文を会計検査院のホームページに掲載していますので,詳しくはこちら(http://www.jbaudit.go.jp/)をご覧ください。
 
今後とも,行政活動に対する国民の理解促進と事態の再発防止のため,検査の結果はできる限り正確に,かつ,わかりやすく公表するとともに,説明会等の機会をとらえて説明してまいります。 最後になりましたが,国や地方公共団体等の職員及びその契約先となる関係者の皆様におかれましては,事業を適正かつ効率的,効果的に実施するために,これらの事態を参考にしていただければ幸いです。
 
 

会計検査院 事務総長官房総務課 渉外広報室長 富澤 秀充

 
 
 
【出典】


積算資料2017年02月号



 

最終更新日:2017-05-08

 

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