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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 生まれ変わった石川県立図書館 ~「文化立県・石川」の新たな“知の殿堂”~

1.はじめに

「石川県立図書館」は、加賀藩所蔵の資料を一部引き継ぎ、明治45年に兼六園内で開館し、100年以上の長きにわたり県民への図書館サービスを担ってきた歴史ある施設です。
旧図書館は、建設から半世紀が経過し、老朽化・狭隘化・書庫の分散・駐車場の不足などさまざまな問題を抱えていたことに加え、耐震性能が不足していたことから、本県の中核図書館として機能の充実を図るため、金沢大学工学部跡地に移転・建て替え整備を行ったものです。
 
平成28年度に基本構想をとりまとめ、コンセプトを県民の多様な文化活動・文化交流の場として、県民に開かれた「文化立県・石川」の新たな“知の殿堂”とし、平成29年度から令和4年度にかけて設計と工事を行い、令和4年7月16日に開館しました
写真-1)。
 

写真-1 正面から外観を望む

写真-1 正面から外観を望む


 
 

2.建物概要

配置計画

敷地の中央に建物を配置し、その周囲三方を緑地で包まれた駐車場が取り囲むことで、周辺の景観に配慮しています。
また、建物正面には桜並木のある屋外広場やバスの乗降も可能なロータリーを設け、賑わいを生むイベントや来館者を出迎える空間としています(写真-2)。
 

写真-2 敷地全景

写真-2 敷地全景


 

外観

外観は、石川の原風景を思わせる色「大地のブラウンと自然の落ち着いたグリーン」を用い、伝統的な市松模様タイルを張った外壁パネルとガラスとが交互に折り重なり、「本のページをめくる」イメージとしています。
 

内部

中央部に天井高さ約15mの大きな吹抜けを囲むように円形劇場のような閲覧空間を配置し、段状の通路とスロープに沿って書架が立ち並ぶダイナミックな空間としています。
この円形閲覧空間では利用者の関心の高い12のテーマごとに図書を配架し、多くの書物に囲まれながら、館内を「めぐり歩き」、思いがけない本との出会いを楽しむことができるよう設えています。
 

色彩計画

建物内部は金沢の伝統的な色彩である弁柄と群青をイメージした色を基調として柱や梁などの構造部材や中央吹抜け上部に効果的に用いています(写真-3)。
また、館内は方角ごとに加賀五彩によるエリアカラーでゾーン分けし来館者を案内しています(写真-4)。
 

写真-3 弁柄と群青の色をイメージした内部
写真-3 弁柄と群青の色をイメージした内部
写真-4 色分けによる館内誘導表示
写真-4 色分けによる館内誘導表示

 

こどもエリア

旧図書館の約10倍のスペース(屋外を含む)を確保した子どもエリアは、乳幼児から低学年、高学年までのスペースを緩やかにゾーン分けし、高さの変化を持たせアスレチックのようなネットや大型家具などを設け、子どもたちの好奇心を刺激するとともに、地域の風土と文化に触れ、創造力豊かな子供たちを育む閲覧エリアとして整備しました。
「本のある居場所」として、親子や子どもたち同士で本を一緒に読んだり、一人で本に没頭したり、子どもたちが集中、夢中、熱中できる場として計画しています(写真-5、6)。
 
また隣接する屋外空間「おはなしの森」は石川の里山をイメージしており、子どもたちが体験をとおして学習できる場としています。
 

写真-5 こどもエリア(えほんエリア)
写真-5 こどもエリア(えほんエリア)
写真-6 こどもエリア(高学年エリア)
写真-6 こどもエリア(高学年エリア)

 

文化交流エリア

図書エリア以外に1、2階の正面側半分には文化交流エリアを設けています。
そのエリアにはイベント等に活用できる「屋内広場」、講演会などにも利用でき、通常時は休憩や読書の場として自由に使用できる「だんだん広場」、そのほか、モノづくりや食の体験学習スペース、自習や打合せなどに使えるラーニングラウンジ、カフェなどを配置し、訪れた人が思い思いに過ごすことができる場所です(写真-7)。
 

写真-7 文化交流エリア(だんだん広場)

写真-7 文化交流エリア(だんだん広場)


 

県産材の活用

内装には、床フローリングや天井ルーバー、書架などに能登ヒバや杉などの県産木材を多く使用し、木の温かな雰囲気に包まれた落ち着きのある閲覧空間を形成しています。
なお、「全館避難安全検証」における前提条件として内装に不燃材料を用いることとしているため、天井ルーバーには不燃処理を施しています。
 

閉架書庫(収蔵庫)

地下階には200万冊の閉架書庫スペースがあります。
一般書庫は電動集密書架とし、貴重書庫や公文書保管庫は、調湿性に優れ、資料に影響を及ぼす有害な物質を含まない特殊内装とし、温湿度を一定に保った収蔵庫となっています(温度20~22℃、湿度50~55%)。
 
 

3.照明計画

閲覧エリアの照明計画については、反射拡散光で空間全体に落ち着いた明るさ感を演出する「アンビエント光」と、利用者に近い位置で読書、学習、資料探索等に十分な明るさを供給する「タスク照明」の2つの要素をバランスよく組み合わせる計画とし、不要なまぶしさ(グレア)の排除や適切な色温度の光の採用などにも留意しました(写真-8)。
 
閲覧エリアは、天井照明等によるアンビエント照明で300lx程度の照度を確保し、机上ではスタンド照明を点灯することで、閲覧に必要な500lx以上を確保しています。
色温度は、閲覧エリア内の天井照明やスタンド照明は図書閲覧の視認性を考慮して4,000Kとし、天井面・壁面を照らす間接照明や書架上部に設けた照明は空間全体に落ち着いた雰囲気が得られるよう3,000Kを採用しました。
地下書庫は作業性を考慮して5,000Kとしています。
屋外照明は夜間景観に配慮して3,000Kを採用しています。
建物の正面側は、樹木のライトアップを多用することで、立面的に効果的な明るさ感を作り出し、来館者を温かく迎え入れる夜間景観を演出しました。
 

写真-8 照明に配慮した多様な閲覧席

写真-8 照明に配慮した多様な閲覧席


 
 

4.空調計画

大きな吹抜け空間を有する閲覧エリアでは、空調の効率化を考慮した居住域空調として床吹出方式を採用しています。
床面に設置した吹出口だけでなく、書架下部に設けたスリット状の幕板からも吹き出すようにしました。
外壁側サッシ下部にも床吹出口を設置して冬季におけるサッシ部の結露防止も兼用しています。
また、閲覧エリア以外の各居室は天井吹出しとしています。
吹抜け最上部には気流を攪拌する誘引ファンを設置し、吹抜け空間の温度分布ができるだけ均一になるようにしています。
 
 

5.外構整備

建物周囲には400台分の駐車場を整備し、キャノピー(屋根付きの連絡通路)を設け、雨の日でも容易に建物にアプローチできるように配慮しています。
植栽は、季節の移ろいを感じながらさまざまな活用ができる屋外の読書空間となるよう、四季折々に楽しむことができる樹木や植物を配置しています。
建物正面の屋外広場の桜並木のほか、長きにわたり地域に親しまれてきた市道沿いの桜並木やイチョウを保存するとともに、金沢大学工学部のキャンパスだった頃に正門付近にあった樹木を移植し、大学時代の名残りを引き継いでいます。
 
 

6.おわりに

石川の新たな文化拠点として「石川県立図書館」の新たなページがめくられました。
当初の想定を上回り、日々多くの方にご来館いただいております。
今後も多くの方に親しまれ、そして共に成長し、県民の皆さま方の人生に寄り添う図書館となっていくことを願っております。
 

3・4階フロアガイド

【3・4階フロアガイド】


 
 
■建物概要■
所在地:金沢市小立野2丁目43番1号
構造規模:鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造・一部コンクリート充填鋼管構造、地上4階・地下1階
敷地面積:32、878.21m2建築面積:8、055.05m2延床面積:22、720.81m2
最高高さ:14.682m(屋窓部分18.532m)
設計監理:株式会社環境デザイン研究所、石川県土木部営繕課

 
 

ここがポイント!ここがみどころ!

本の並べ方

一人でも多くの来館者が蔵書の魅力に触れ、普段は本を読まない方もふと手に取りたくなる本と出会うきっかけをつくるため、本の並べ方にも工夫を凝らしています。
吹抜けに面した円形書架には、独自に構築された「本と出会う12のテーマ」という身近でなじみ深いテーマに基づき、約7万冊の本が並べられています。
同テーマは、「好奇心を抱く」「世界に飛び出す」
「暮らしを広げる」などで構成され、日々の生活の中で感じている関心事に寄り添うかたちで本が並べられています。
本は面展示を基本としており、表紙を眺めながらウィンドウショッピングのように本との出会いを楽しむことができます。
 

展示

12のテーマの本についてより魅力的な本の展示を行うため、展示工事を別枠で行いました。
司書らと2年以上にわたり検討を重ね、蔵書の魅力を共有し、「思いもよらない本との出会い」をつくる展示を実現しました。
その一つが、1階の中心にある「本との出会いの窓」のコーナーです。
「本と出会う12のテーマ」の各テーマを代表する本が集まり、窓に見立てた大小さまざまな棚が並んでいます。
それぞれの棚が展示される本の世界観を伝えるよう背景画や装飾アイテムで装飾された「本のショーケース」です。
 
ほかにも、「ブックリウム」は、好きな言葉を選ぶと、その言葉に関連する本がプラネタリウムの星団のように浮かび上がるデジタル技術を活用した空間アートです。
「関連した本を瞬時に集めて一覧する」という実際の本棚とは違う出会い方が体験できます。
 

家具

居心地の良い閲覧席をつくるため、家具にも注力しました。
館内にある約500の閲覧席は、100種以上の椅子からなり多種多様です。
約50席ある窓辺の席も書斎のようなパーソナルな空間となり人気を博しています。
一人になりたい時、友人と語りたい時、集中したい時、くつろぎたい時などその日の気分に応じた多彩な椅子がそれらを受けとめます。
 
また、館内の各所に設置された「セルフステーション」(図書検索やセルフ貸出機などの端末台)は、細部の納まりにもこだわり、誰もが使いやすく、かつ意匠的にも品があるオリジナルデザインとしています。
 

本との出会いの窓
本との出会いの窓
窓辺の閲覧席
窓辺の閲覧席
ブックリウム
ブックリウム
セルフステーション
セルフステーション

 
■石川県立図書館(愛称「百万石ビブリオバウム」)
・開館時間[閲覧エリア]平日9:00~19:00(土日祝は18:00まで)
 [文化交流エリア]平日9:00~21:00(土日祝は18:00まで)
・休館日月曜日(祝日の場合は火曜日)、年末年始、特別整理期間
・開架冊数約30万冊
・閉架書庫約200万冊(最大収蔵量)
・閲覧席数約500席
・駐車台数400台
 
 
 

石川県土木部営繕課 

 
 
【出典】


積算資料2022年12月号

積算資料2022年12月号

最終更新日:2024-03-25

 

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